現実はクソだと思ったら、意外と面白いかもしれない話。 作:しんていしめー
さて、このとある私立高校の二階。二年三組をご覧なさい。取り立てて特筆すべき所がない、何処にでもあるような一般的な授業風景だ。
気だるい午後の国語の授業。窓からは陽気な日差しが差し、生徒達の眠気を誘っている。開け放った窓から、桜の花びらが一枚、女子生徒の机上にヒラリ。外には、散りそうな桜が校舎を囲んでいた。
いきなりだがこの女子生徒、実は魔法使いである。
はたまたいきなりで申し訳ないのだが、女子生徒の斜め後方に座る男子生徒、実は勇者である。
またまたいきなりなのだが、そこの女子生徒は異能力者であそこの男子生徒はギャルゲー的ハーレムに甘んじ…そこの君はヒーローであり…、とにかく紹介しきれない実は〇〇がこのクラスには潜んでいる。
何が何処にでもあるようなだ。こんなクラス何処にでもあってたまるかい。
彼ら彼女らに共通しているのは、自分の境遇を他人に知られず悪魔でも普通の学生で過ごしているということだ。お互いに腹に一物を持って、オレっちはぁ、あたいはぁ、実は〇〇だもんねぇ。特別だもんねぇ。でも内緒だもんねぇ。と、表裏激しく接していたのである。
もちろん、特に何もない普通の生徒も二年三組には在籍している。っていうか普通の生徒の方が多い。全員なんかしら持っていたら愉快な話なのだが、そう都合よくはならないものらしい。
だがこんな物語溢れるような人物が揃っていながら、今作の主人公は特に何も持っていない普通の高校生であったりするのだ。
「風が俺を呼んでるぜ……」
先程の実は魔法使いである女子生徒の上空。天井を越え、上級生の三学年の教室をも越え屋上に……いた。屋上のフェンスにいた。主人公が。
「こいつぁ、一波乱きそうだなぁ……。俺の右腕が風に疼いてやがるぜぇ……!」
屋上で右腕を苦しそうに押さえる男子生徒。こいつが今作の主人公、山田保(たもつ)。あだ名はたもっちゃんであった。
「俺には休息の時間もないってことかよ……」
悟ったようにフェンスの網目をそっと掴む保。
何か台詞的に実はこいつもスゲーやつなのでは?と、思うがビックリするぐらい何もない平凡な奴だ。ただ授業をサボり屋上に来て、昼寝をして先程起きた所である。なにが休息の時間もないだ。ばりばり鼻提灯を作るほど睡眠に浸っていたでわないか。
彼のこの言動。それは、自分に対する重度な凡庸さにコンプレックスを抱かえた反動である。
容姿も普通。学力も普通。運動も普通。家庭はちゃんと父母がいて父はサラリーマン。年収500万の生活はビンボーでも豪華でもない普通の暮らし。彼女はいない。友達数人。たまのゲーセンとコンビニでのコーラで飲みにケーション。もう普通。普通普通普通。普通の高校生。何処にでもいる高校生。歯車の欠片っ。有象無象の一つ! ああ、何てつまらないのだろう我が人生は……!
そんな普通の彼は、自分に嫌気が差して空想の世界に入り浸る事が多くなっていったのである。自分は風の化身、シルフィードうんたらかんたら。それが今の彼の空想設定であった。
ちなみに、彼のために説明しとくが彼は空想との見境がきかない頭のおかしな奴ではない。空想は所詮空想だとはっきり認識している。ただ、ちょっと。つまらない現実を空想でまぎわらせているに過ぎない。でも、こんなつまらない現実に面白そうな、非日常な出来事はあるんじゃないんかと心の隅で思わないでもない彼であった。そこらへんもなんか普通の思春期特有の青年っぽい。自分は何か人とは違う能力、才能を持っている筈とか勘違いしちゃう思春期が通る道。
その道なかばに彼は立っている。それだけだ。
「風よ、俺は次の戦場に戻るとするぜ。もうすぐ五時間目の終戦の鐘がなる時だ。1・2・3、ホラっ!」
キーンコーンカーンコーン-
「んじゃな、風よ。六時間目の開戦の鐘が鳴る前に戦場に急がなくてわっ!待っていろよ、戦友……!」
鐘が校舎に響き渡る。風使いの休息と学生達の五時間目の授業は終わりを告げた。
誰もいなくなる屋上。そのフェンスから一望できるグラウンド。人がいなかったグラウンドはしばらくして、体操服姿の生徒達がバットとグローブを持って賑わいを見せていた。
非日常な事は意外とすぐそばにある。
それに気付くのはまだもう少し先の話。