バトルロワイアル ~Dream and Phantasm~ 作:歩く激戦区
初音えりかは錯乱していた。
彼女は幼い頃にテレビでプログラム優勝者の狂気に溢れた顔を観て底知れぬ恐怖を覚え、更に小学4年生にプログラムというものの存在を教わってから今までずっとプログラムに対して人並み以上の恐怖を覚えながら過ごしてきた。たまにテレビでプログラム優勝者の放送があったときはその晩は全く眠れないほどだった。
そして運悪く恐れていたプログラムへと参加させられ、彼女の精神は最悪な状態だった。燈導に銃を向けられたことである程度冷静さを取り戻してはいたものの、首から剣を生やした深月がまたも運の悪いことにこちらに向かって倒れてきたことによってもう殆ど冷静な判断は出来なくなっていた。彼女は自分の出発する番が来ると兵士からデイパックと荷物をひったくり、走って分校を出て行った。真っ暗な廊下で転んで膝から血が流れていたがそれを気にする様子もなく無我夢中で走った。
なんで?なんで私がプログラムに?なんで?なんで?
走っている間彼女の頭の中ではこの言葉がぐるぐると回っていた。まだ殆ど現実を受け入れられていなかったのだ。永遠に続くかとも思えた廊下を抜け、それでも彼女は走る勢いを緩めなかった。兎に角ここから遠くへと離れなければならないという強迫観念に襲われていたのだ。
そして彼女の3つ目の不運は、つい2分前に七光やよいが逃げ込んだ林の茂みと同じ方向へ逃げたことだった。
茂みの向こう側に月明かりに照らされた徳河の満面の笑みと、明かりを反射して鈍く輝く斧の刃をを見つけ、またも悲鳴をあげた。喉の奥から鉄の味が感じられたが悲鳴をあげるのは止めなかった。いや、止められなかったのだ。プログラムに感じている言いようのない恐怖と同じかそれ以上の恐怖を感じ、遂に狂気に陥った彼女はもうただ悲鳴をあげることしか出来なかった。
徳河は満面の笑みを浮かべたまま茂みに向かって斧を一閃した。茂みから血飛沫が上がり何かがどさりと落ちる音がした後、彼女はやっと現実に気が付いた。これは夢でも幻影でも無い。最も恐ろしく、最も救いようの無い、現実なんだ。
七光を殺害した徳河がゆっくりとこちらに近づいてきた時には、彼女はもう悲鳴をあげるのを止めていた。その代わりに死んだ目をして地面に座り込み、小刻みに震えていた。そんな初音を徳河はつまらなさそうに見下ろし、棒読みで挑発したが、初音はただ震えるだけだった。
「武器取り出せよ。あくしろよ」
そんな彼女に徳河はまたも挑発とも取れる言葉をかけた。彼女はその言葉にハッとし、慌ててデイパックの中を引っ掻き回し始めた。中にあったものは燈導が言っていた水と食料や地図とコンパス、クラスの名簿、時計、懐中電灯、その他に見つかったのは一本の歯ブラシだった。
武器はどこ?武器は?早く出てきてよ。早く出てきてくれないとあいつに殺される。どこ?どこ!?武器!?どこにあるの!?どこ!?武器!?
またも現実を受け入れられなくなっている彼女が歯ブラシを握り締めたままいつまでたってもデイパック中を荒らしている姿を満足そうに眺めた徳河だが、しばらく経つとだんだんと張り付いていた笑顔が歪んできた。そして遂に徳河は七光の血がまだべっとりと付いている斧を振り上げた。
「パパパッと殺って、終わりっ!」
そう呟くと、徳河はまたも何の躊躇いもなく斧を彼女の頭部に振り下ろした。初音の頭部は真夏の砂浜に置かれたスイカが棒で叩き割られるようにバックリと割れた。さらに彼は何度も斧を振り下ろし、初音の頭だったものはグチャグチャになってもう誰だったかが判別できないほどになっていた。近くにあったデイパックと初音の荷物も血塗れになっていて使い物にならなくなってしまっていた。
辺りは教室より濃い血の臭いに溢れていた。2人の返り血を浴びた彼と2人の血を吸った斧は、月の光に照らされて妖しい雰囲気を纏っていた。
そして彼は満足そうに頷いた後、七光のデイパックから食料と水を取り出してこの場を去っていった。
・00時28分 葉山 まりあ (3年2組 32番) が プログラムに参加。
・00時29分 初音 えりか 徳河 瑠々家 によって 斧 で 斬殺 された。
【残り45人】