合成獣は夢路を歩く   作:羊と魚のキメラ

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それは、もっとも根元に近い扉なのかもしれない。


H:320の扉は丘の上

私は夢を見ていた。

 

少し古ぼけた、木製の四角い焦げ茶色の机、白を基調とした四角い部屋、開け放たれた丸い窓で揺れるカーテン。

 

夢の中の私は部屋の中央に置かれた机の上にいる、正確には机の上に置かれた大きな金魚鉢の中で泳いでいる。丸い金魚鉢と同様に丸々とした体に淡い桃色というあまり見かけない種類の魚で、大きさは15㎝程はあり、金魚なのだとしたらかなり大きめの分類に入るだろう。そしてそれが夢の中の私だった。

 

魚の私は窓の方へと視線をめぐらす、机と同様少しばかり年季が入っているらしい、白い縁をした両開きの窓、私がいる位置からは、揺れるカーテンの間で浮かぶ、2つの雲を描いた青い空が見える。私は浮かぶ雲へと目を凝らす、どうやら雲の中で黒い点の様なものが動いているようだ。おそらく鳥だと思われるソレは少しづつであるが真直ぐに飛んでおり、何時かは窓枠を越えて見えなくなるだろう、魚の私はぼんやりとソレが横断して往く様を、そっと見守る事にしたようだった。

 

 暫くして、無事に横断を見届けた魚の私は机の上に視線を移す、机の上にはいくつかの飲みかけのマグカップ、何も乗っていない小皿、3分の1程は残っているだろうインスタントコーヒーの瓶といった物が、さも当然の如く置いてあった。どうやらこの部屋の住人はあまりしっかりとした性格ではないか、慌ただしく部屋を後にしたらしい。珈琲の瓶は斜めに閉めているうえに、マグカップの周りには珈琲の粉が飛散してしまっているし、机に備え付けられていた住人が座っていたのだろう椅子は机からだいぶ離れて置かれている。

 

椅子は他にも3つあり、この部屋の住人が最低でも4人はいる事が窺える、その内の一つには何やら人の様なものが鎮座しているようだった。窓から入る風でなびく癖の強い金色の髪と、小さな赤いリボンを乗せた、机から覗くこれまた小さい頭は微動だにせず、息遣いを感じない所を見るに少なからず生き物ではないらしい。魚の私はその子に声をかける。どうやら夢の中の私はその子とは顔見知りのようで、どこかで聴いたことがある声と、何かの感情が含んだ口調で名前の様な単語を口走る。名前を呼ばれたであろう金色の頭が少し動き、小さく幼い少女の呻き声が頭の方から聴こえてくる。そして少女は夢を覚ます事なく、また自らの世界へとその動きを止めた。その少女の様子に満足したのか魚の私は再び視線を窓へと移し、先ほどとはだいぶ形と大きさの違う雲を眺める作業へと戻ったようだ。

 

 さて、「飽きる」というのは魚類にも起こりうるらしい、そもそも夢の中の私が本当に魚なのかは判らないが、兎にも角にも流れていた雲が消え、ただ青いだけの空を眺める事に嫌気がさした魚であろう私は、部屋であるなら当然存在する扉へと視線をやる。少女が眠る椅子の後ろ側の壁に取りつけられている扉。窓と同じく白く縁どられた、その曇りガラスの扉の向こうに目をやるが、向こう側は暗く、どうやら誰も居ないようだった。暫くその暗闇の中を覗き込むように扉に視線を送り続けていると、暗闇の中で何か動く影の様なものを見つけることができた、影は暫く動き続け、徐々にその形を大きくし、遂には金色のドアノブが回り、影によって扉が開かれた。

 

「ただいま」

 

 扉から現れたのはどこかのインディアンよろしく、4枚の大きな葉っぱを頭に付けた女性だった。身長は160㎝程だろうか、髪は短めで髪留めを使い前髪を二つに分けている、髪留めが付いていない方の前髪が片目を隠してしまっており、染めているのか白と桃色のグラデーションをしていた。水色のエプロンを身に着け、買い物から帰ってきたのだろうビニール袋をぶら下げた女性は、椅子の上で静かに幻想の世界へと眠る少女に一瞥すると。

 

「この子用に椅子も買い換えるか何かしないと駄目ね、今日行ったついでに見てくればよかったわ。」

 

 少女を起こさぬよう小声でつぶやき、忘れていたと言わんばかりの表情を浮かべ、床に落ちていたタオルケットを少女に掛ける。私は女性に「おかえり」と一言声をかけ、他の住人の所在を訪ねる。魚が喋る事に驚くこともなく、声をかけられるのが当たり前といった風に、女性は魚の私を見るとその問いに答えるべく口を開いた。

 

「我らが家政婦様は、私がうっかり買いそびれてしまった10個パックの卵と朝食用の食パンを買いに戻ったため、現在帰路につくのが遅れております。他の者は…その辺で遊んでいると思います。」 

 

 そう言いながら女性は少しオーバーな態度で頭を下げる。家政婦がいるということは、この家はそれなりの広さがあり、金銭的にも余裕があるという事なのだろう。少し間を置いて女性は頭を上げると、自分の失態の理由を説明しながら戦利品を机の上に広げ始めた。女性の話を適当に相槌を打ちながらそれらの戦利品に私は目を向ける。

 

 今回の収穫は大きく分けると夕飯の食材、生活用品、お菓子、金と銀のラメが入った箱らしい。私はその中で一際目を惹くものを2度見し、話し続ける女性を制止して、派手な箱について詳細を聞く事にした。女性は待ってましたとばかりに笑みを浮かべ、これでもかと勿体づけながら、私の見やすい位置にその箱を珈琲の瓶を背にして立て掛ける。黒地に金と銀のラメが入った箱はどうやらレトルトカレーのようで、右上に赤く辛口と書かれていた。問題の商品名に目を移す、「闇夜に光る星々の苦痛」それがこの商品のタイトルらしい、辛口の表記がなくては一体なんの商品なのか一切わからない。でかでかと中央を飾る名前の脇に、何か不穏な文字を見つけ目を凝らすと、小さく「イルカとイノシシの異例のコラボレーション」と書かれているのを見つける。いよいよを持って訳が分からなくなってしまった商品を前にして、大きな不安とそれを上回る期待を感じ、魚の私と女性は目を合わせる。両者はそろって楽しみだと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

そして私は目を覚ます。




 本当にお疲れ様です。

粗茶ですが(´・ω・)っ旦


一応少しづつですが続きは描いていこうと思ってます。

このような道端の砂利みたいな物を読んでいただき、誠にありがとうございました。


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