私は一人、自室のベッドにうずくまり泣いていた。それは私がいつも流す、悔しさの涙ではない。悲しさの涙だった。博麗霊夢が死んだ。私の親友が死んだ。その文字列だけが私の頭をぐるぐると回り続ける。なぜこうなったのか?なぜ霊夢が死んでしまったのか?悲しみにくれる私はふと、突然ある可能性が頭に過った。
「…………もしかして」
鋭い衝撃が私の頭を貫き、一つの考えを浮上させる。それは私が霊夢の所へ持って行った人形。それが一部始終の原因なのではないかと。断定するには早過ぎる。しかし私があの怪しい人形を、霊夢に持っていった次の日に彼女は死んだのだ。しかも明らかな他殺で。
「…………いつまでも泣いてたら、霊夢に笑われちまうな」
私はベッドから這い出て、目元に溜まっていた涙を払う。大きく深呼吸をして肺一杯に空気を取り入れる。私は一つの決意を胸に、部屋の扉を開け放った。
「霊夢、
やることができた。それは
あれから私は自分の家で、一人の人物を待った。それは私が霊夢の死体を見つけてから、すぐに私の側に現れた大妖怪、八雲紫だ。どうやら博麗の巫女の異変に気づいて、急いで飛んできたらしい。しかしその時には既に手遅れだったらしく、気が動転していた私をスキマで家に放り込んだ後、ここで待っていろとそう言ってスキマを閉じて消えていったのだ。本当は今すぐにでも博麗神社に行って調査をしたいのだが、あの紫の言うことには素直に従った方がいいことは、今までの経験で学んでいるので、私は紫がここに来るのを待っていた。
「あら、少しは落ち着いたようね」
それは私が落ち着いてから数分後のこと。目の前にスキマが現れて、そこから私の待っていた人物が現れた。
「泣き虫魔理沙ちゃんを見るのは久しぶりだったから、私は良かったけれど」
本題を話さない紫に業を煮やして、私は口を開いた。
「紫、御託はいい。お前の話も後で聞く。取り敢えずは私の話を聞いてくれ」
紫は目を細めて、私を品定めをするかのように眺めた後、「いいでしょう」とそう言ってスキマの上に腰を下ろした。それから私は昨日あった出来事を全て話した。魔法の森で奇妙な人形を拾った事。その人形の特徴。そして霊夢の行動を一部始終全て。
「なるほど、ご協力感謝するわ。それで、貴方はこれからどうするの?と言っても、どうやらもうやることは決めているみたいだけど」
さすが紫。私の心情などお見通しだったようだ。
「この霊夢の死は奇妙な点が多すぎる。だからそれを明らかにする」
「それが霊夢の死に対する貴方の答え?」
「ああ!」
紫はニヤリと笑ってどこからか取り出した扇子で口元を覆った。
「いいでしょう。確かに今回の事件は『異変』です。それを人間が解決すると言うのは理に叶っています。私も博麗の巫女が殺され、幻想郷の秩序が乱れると言うのは遺憾な事です」
それから紫は口元を覆っていた扇子を閉じて、それをスキマの中にしまった。
「私が調べた結果ですが、霊夢の死因は頭を潰されたことが直接の原因。片足も綺麗に切断されているけれど、それは彼女の動きを封じるためか。現実問題まだ何も分からないわ。あとね霊夢の体内に毒物が入っている事が分かったわ」
「毒物!?」
「ええ。彼女の血を少し舐めたのだけれど、何か違和感があってね。式に調べさせたら、案の定だったわ。結果は
確かに霊夢は強い。強すぎると言ってもいい。たとえ寝込みを襲おうが、彼女なら何の問題もなく対処するだろう。だから毒を使って動きを封じ、そして頭を潰して殺したのか。思い返してみれば、霊夢の部屋は綺麗に整っていた。戦闘した後は全く見受けられない。私がそんな予測をたてていたのだが、ふと忘れていたことを思い出した。
「なぁ紫!人形は!?」
あの人形。もしあの人形が原因ならば、再度紫に調べてもらえればいい。
「それなのだけれど、貴方が言っていた人形は見当たらなかった。どこにも無かったわよ」
「そ、そんな……」
そんなはずはない……とそう思ったが、もしあの人形が霊夢の死に直接関係があるのだとしたら、霊夢を殺した何者かが、証拠を隠すためにどこかへ運び去った可能性は高い。そうなるとますますあの人形が怪しい。
「貴方の考えていることは間違いないと思うわ。どうも貴女が言っていた人形に鍵がありそうね。でもあの人形には何の力も感じられなかったのでしょう?それに人形に張られていた御札にも」
「ああ、そうだ」
魔法使い二人と博麗の巫女が調べても何も感じられなかった。結果はただの人形と言う結論に収まった。御札で人形の力を封印していたわけでもない。本当にただの人形に紙切れが張ってあっただけなのだ。
「………………まだ何とも言えないけど、そうね。その人形も見つかるように探しましょう。だけど、私も博麗の巫女が死んだことでやらなくてはいけない事がたくさん増えたの。それにしばらく追われる形となるから、私は積極的にその人形を探せないわ」
「大丈夫だ。私も粗方調べ終わったら人形を探してみる。まぁもう存在するかは分からないけどな」
もし犯人が人形を持ち去ったのなら、見つけるのは絶望的だ。そんな在るのか分からない物にいつまでも時間を取られているわけにはいかない。私はそう言う意味を込めて、紫に言葉を発した。
「確かに、それもそうね」
紫は私に同意をして、足を組み直す。
「さて、本来ならば私がここでおさらばといきたいのだけれど、実は少し協力してほしい事があるの」
「協力?」
「ええ、私としては『博麗の巫女が殺された』と言う事実をしばらくは隠しておきたいのよ」
「……それは」
なぜそんなことをするのか?瞬時にその答えが出せないで、思考が絡まる。
「博麗の巫女が突然死ぬなんて、少なからず幻想郷に混乱を招く。それにそんな事が公になれば、均衡だったパワーバランスも大きく崩れるわ。いずれは公表しなくてはならない。だけど私がそれらを調整をするまで、できるだけこの事を隠しておきたいのよ」
なるほど。幻想郷の管理者としての対応と言うわけか。
「それにもし幻想郷で混乱を生めば、また霊夢を殺した人物がそれに乗じて行動を起こしやすくなる。犯人の目的が分からない今、派手な行動は避けた方がいいわ」
なるほど。確かになぜ霊夢が殺されたのか。それがはっきりするまでは、下手な動きを見せない方がいいだろう。
「対応としては、しばらくは博麗大結界の調整と銘打って博麗神社の周囲を結界で囲う。貴方も安易に霊夢が死んだことは言わないで欲しいの」
「分かった」
私はこくりと頷く。
「それじゃあね、魔理沙。武運を祈ってるわ」
紫は大きなスキマを開き、その中へと姿を隠す。しかしそのスキマが閉じようとした所で、紫が唐突に私の方へと振り向いた。
「ここ最近、霊夢はおかしな行動が多かった。そこを調べれば、何か分かるかもしれないわ」
紫は一言そう言い残して、スキマの奥へと消えていった。
私は今、紅魔館へと向かっていた。と言うのも、最後に紫が残したあの言葉に従ったからだ。確かに言われてみれば、霊夢はここ最近、奇妙な行動が多かった。と言っても詳しくは知らない。なぜなら博麗神社の屋根をぶっ飛ばしたことで霊夢の怒りを恐れて、ここ二週間は博麗神社に行っていなかったからだ。だからその間、私はいつものように紅魔館へ訪れて本を借りに行っていた。するとよく霊夢と咲夜が二人で話していたのだ。その時の私は、珍しいこともあるもんだ、いったい何を話しているのか?程度にしか思わなかったが、普段パーティでもない限り、紅魔館に行かない霊夢が、わざわざ自分から出向くほどの用。もしかすると、これが何か鍵を握っているかもしれない。そう思って私は紅魔館に向かっていた。
いつものように寝ている門番をスルーして、館内へ入る。しかし今日は図書館に用事があるわけではない。メイド長に用があるのだ。私は無駄に大きい館を歩き回り、友人である咲夜を探した。歩きに歩いて探し始めて二十分程度。そこで私はやっと目当ての後ろ姿を見つけることができた。
「咲夜!」
私は手を挙げて、駆け足ぎみで咲夜に近づく。
「あら魔理沙、貴方また勝手に館に入ったりして。と言うことはあの門番、今居眠りしてるのね」
咲夜は一つ溜め息をついて、私に向き直った。
「それで魔理沙。私に用があるなんて珍しいじゃない」
「あぁ実は一つ聞きたいことがあってな」
私は咲夜の表情の変化を見逃さないように注意して口を開く。
「最近、よく霊夢と話をしてたようだけど、何の話をしてたんだ?」
遠回しなのはなしだ。ストレートに聞く。咲夜ほどの人物なら、私の
「霊夢と?ああ、それは博麗神社の屋根が壊れたから、その骨組みとなる木材を少し分けて欲しいって頼みに来たのよ」
「うっ!……そ、そうか」
「どうしたの?」
「な、なんでもない」
咲夜は博麗神社の屋根を壊したのは私と言うことを知らなかったらしい。しかしなるほど。だから私が博麗神社に来なくなってから、霊夢が紅魔館に訪れるようになったのか。いや、待てよ。
「何でわざわざ、紅魔館から木材を持ってくる必要があったんだ?と言うか紅魔館に建設用の木材なんてあったのか?」
「ええ。この館はお嬢様と妹様の姉妹喧嘩でしょっちゅう壊れるから、パチュリー様の魔法が
紅魔館にはよく通っていたが、そんな秘密があるとは知らなかった。
「だから霊夢も、今度は簡単に壊されないような素材で家を作ろうとして、私の所へ訪ねに来たのよ。それで聞きたいことはそれだけかしら?」
「あ、ああ。ありがとう」
これ以上、咲夜から聞けそうなことは何もない。
「それじゃあ私、食事の準備をしなくちゃいけないから、もう行くわね」
そう言って咲夜は台所のある方角へと歩いて行った。私はその姿が消えるまで、彼女の後ろ姿を眺め続けた。
私は霧の湖のほとりに座り込み、一人考えを纏めていた。頭を整理して一から考え直す。取り敢えず、今の現時点で分かっていることを一つ一つメモに書いてみた。
・霊夢の死因は頭を潰されたことによるもの。
・霊夢の片足は切断されている。
・霊夢の体から体から鈴蘭の毒が見つかった(紫談)。
・霊夢は私が博麗神社を壊してから今に至るまでの二週間、博麗神社の修復に必要な木材を分けてもらうために紅魔館へ頻繁に通っていた(咲夜談)。
・霊夢が死ぬ前日に、私とアリスが霊夢の元に一体の人形を持っていった(金髪で赤服、身体中に博麗神社にまつわる札が張ってある、その札には『私の怒りを忘れるな』と言う意味の文字が書いてある)。
これだけが今、私の手に入れた情報。もしかすると全く関係のないものも混じっているかもしれないが、疑わしきは全て書き記す。それから私はしばらく、メモを見続けた。しかしこれだけでは明らかに常備不足だ。
「か~、流石にこれだけじゃ何にも分からないよなぁ~」
私はそう叫びながら地面に寝転がり、青く澄みわたった空を見上げる。
「もう一回、あの人形が見つかったら徹底的に調べてやるのになぁ~」
私はそこであの人形の姿を思い浮かべた。少しくせのかかったショートカットの金髪。その上に乗っかる真っ赤な帽子と、それにお揃いのドレス。そしてまるで生きているかのような青い目。私の知る限りでは、人形なのにあそこまで生気を感じさせるあんな目は、アリスの作る人形以外知らない。
(生きている人形かぁ…………っ!)
そこで私は思わず起き上がる。呼吸が乱れて息が浅くなる。目が見開き、焦点が定まらない。落ち着け、そんなはずはない。そんな言葉が私の頭に重複する。私は今一度、あの人形の容姿を思い浮かべた。そしてそこで紫のあの言葉を紡ぎ出すーー
『霊夢の体から
呼吸が一瞬止まる。私のたどり着いた結論が、自分の脳を大きく揺らす。そうだ、私はあの人形を見たことがあった。前に何度か、私は見たことがあったのだ。それだけではない。会話さえしたこともある。
そう、あの人形は。私たちが拾った人形はーー
「メディスン・メランコリー!!」
文章が雑いので、魔理沙のメモで補足をしました。こちらでも流れをまとめますね。
魔理沙、アリスの家に行こうとしたところで人形を拾う。
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博麗神社に行って、人形について霊夢に調べて貰う。霊夢が人形を一晩預かる。
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次の日の早朝に、霊夢が死んでいるのを魔理沙が見つける。魔理沙、紫のあの能力で強制的に自宅へ。
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魔理沙、仇をとると決意。紫から霊夢についての情報を貰う。
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紅魔館へ行って、霊夢の行動を調べる。咲夜から、霊夢は木材を貰いに紅魔館へ来たことを教えて貰う。
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魔理沙、拾った人形がメディスン・メランコリーだと気づく。
さぁこの話でちょうど半分ですが、誰が嘘つきか分かりますか?と言っても、登場人物がまだ全員出てきていないので、ここでそう言われても困りますよね。後二話で全員登場します。もちろん、嘘つきは一人ではありませんよ。