吹雪ですよ、司令官   作:月日星夜(木端妖精)

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ここから時間が飛び飛びに、一話辺りの文字数が少なくなります。


第十一話 暗黒の聖夜

 

「クリスマスですね、司令官!」

 

 朝からご機嫌の吹雪が、聞き覚えのあるような台詞を言った。

 リビングはスポンジ生地と生クリームの甘い香りに包まれ、テーブルの上にはご馳走がこれでもかと並べられている。本来ならこの半分以下の量しか用意していなかったはずなのだが、先日吹雪の友達になった朝姫ちゃんから大量の食材やらパーティーグッズが送られてきたのだ。好意を無下にする訳にはいかないので今日は気合いを入れて食わねばならない。あれだけ振り回されてうんざりしていたというのに、ちょっと高価なお肉を贈られただけで『良い出会いがあったもんだ』と喜んでいる俺ってかなりチョロいかもしれない。クラッカーやら煌めいたとんがり帽子に、大きなツリーまであって、慎ましやかなイブから一転して今日は華やかで豪華な日を送る事になりそうだ。

 これまた贈られてきた真っ赤な衣服に身を包み、サンタガールと化した吹雪は、那珂ちゃんに負けず劣らず可愛らしい。それを素直に言えるほど俺は女性に慣れていないので、心の中で連呼するに留める。はー、ブッキー可愛い。……この吹雪にブッキーと呼びかけても通じないだろうな。

 あ、アニメの艦これ見せたらどんな反応するだろうか。……いや、やめとこう。わざわざ仲間が沈むのを見せつける必要はない。

 

『今年のクリスマスは素晴らしいホワイトクリスマスとなり――』

 

 せっせと今夜の下拵えをする吹雪を横目に、俺は座椅子にふんぞり返ってテレビなんぞを見ている。

 決して怠けている訳ではなく、むしろ俺は吹雪と一緒に準備をしたいのだが、彼女から家事禁止を言い渡されている。

 ……俺が不器用なためではない。どうやら吹雪は自分の仕事がとられるのを極端に嫌っているようだ。それがなぜかはわからないが、まあ椅子を引いたり物を退けたりだとかはさせてもらえるので、食材と雑貨を分けたりする作業はやらせていただけたのだが、それももう終わった。

 要するに暇なのである。

 暇といっても、一人で暮らしていた時に比べて賑やかで、その上華やかであるから退屈はしない。吹雪を見ているだけで楽しい。手慣れた様子でベラを繰り、クリスマスケーキを作り上げていく吹雪。同時進行でシチューを作っている。中くらいの鍋に所狭しと並んだ肉や野菜は、まだ透明な湯の中に浮かぶばかりだ。じきに真っ白に染められるだろう。

 世間もホワイトになりそうだが、さて、鍋の中と外、どっちが先に白くなるだろうか?

 

「あ、雪降ってきましたね、司令官!」

「ホワイトクリスマスってやつだな」

 

 弾んだ調子で吹雪が報告したのは、ちょうどシチューのルーが投入された時だった。ほとんど同時。

 

「ナイスだ、吹雪」

「へ? ……えへへ」

 

 なんとなく褒めてみれば、彼女は何に対して『ナイス』と言われたのかわからなかったのだろう、頬を掻きながら笑って誤魔化した。

 

 

 聖夜。

 外は暗く、積もり始めているだろう雪の姿はまったく見えない。庭側ならまだ見えたかもしれないが、今は雨戸を閉めきっているため無理だろう。

 空調機がごうごうと唸って暖かい風を吐き出している。室内の気温は20℃以上を保たれている。それでもどこか肌寒く、俺はいつもの寝巻の上に一枚羽織っている。吹雪は良くあんな格好で平気そうにしていられるな。ミニスカートから覗く太ももは肌色を惜しげもなく晒している。『お友達』の指示か、恥ずかしがりながらもあれを着た吹雪は、スマホを巧みに操って自撮りをしていたが、写真の要請でもされたのだろうか。そうそう、写真だ。デジカメやスマホで撮った写真をプリントしておかねば。

 今の時代は便利だ。わざわざ現像しにいかずとも、プリンターと専用の用紙さえあれば昔ながらの写真が出来上がる。

 和室からプリンターを運んでくれば、ちらちらと吹雪がこっちを窺っていた。どうやら俺の抱える黒い機械が何か気になるらしい。説明しなくとも使ってみせれば早いだろう。

 デジカメにコードを繋ぎ、初めて吹雪を撮った写真を、まずはA4の普通紙に印刷する。

 

「あ、写真ですか?」

 

 それを広げて吹雪に見せれば、ああ、と納得したように頷いた。()についてはノーコメントか。自分の写ってる写真を見せられて感想を求められても困るか。

 前に買っておいた専用紙を用意し、最近撮った彼女関連の写真を次々にプリントしていく。それを、真新しいアルバムに差し込んでいく事で素晴らしきメモリーが完成していく。

 一番最後の写真は、今さっき撮ったばかりのサンタ吹雪だ。いざ写真に残すとなると恥ずかしさが勝るのか、帽子を目元にかぶせようと引っ張りながらピースサインをしている。

 

「結構たくさん写真ありますね」

「ああ。しこたま撮ったからな。こうやってどんどん思い出を残していこうって訳だ」

「なんか、恥ずかしいです」

 

 一段落ついての休憩中に、俺の作業を横から覗き込んできた吹雪は、自分ばっかり写っているのを恥ずかしがっているみたいだ。なら俺の写真も……って、それはコンセプトから外れるし、何より俺単体などなんの面白みもない。

 

「じゃ、一緒の写真作るか」

「はい、そうしましょう!」

 

 冗談交じりに問いかけたのだが、彼女は凄く乗り気になって、さっそくデジカメをとって俺に身を寄せた。距離感……!

 まったく、吹雪は俺の心臓を破裂させるつもりなのだろうかなどと思いつつ、彼女が精いっぱい伸ばした腕の先のカメラを見つめる。

 カシャリ。シャッター音が鳴れば、吹雪はすぐ画面を確認して、それから俺にも見せてきた。写りはどうですか、と聞かれても、実は写真に疎い俺は「いんじゃないか?」と返すしかなかったりする。

 両手でカメラを抱えた吹雪はどこか満足気だった。

 

 ……今更気づいたんだが、今みたいな撮り方はスマホとかの方がやりやすかったのでは……。

 

 

「メリークリスマス!」

「いぇーい」

 

 夕飯時を迎えれば、いよいよパーティの始まりだ。たった二人きりだが寂しさは欠片もない。お互い手にしたクラッカーを横向きになって鳴らす。紙ふぶきやら銀紙なんかが飛び出て、まさにお祝いといった雰囲気になった。

 ちなみに、クラッカーの使用は一人一個までとなっている。あんまりやりすぎると掃除が大変になるからな。さ、食べよう。

 

「? あれ?」

「っと、停電か?」

 

 手を合わせていただきますをしようとしたところで、ふっと電灯が消えた。空調機の駆動音も止まれば、換気扇も止まってしまった。

 

「ちょっとブレーカー見てくる」

「お気をつけて」

 

 とりあえずはスマホの明かりを頼りに立ち上がり、脱衣所へ向かう。そこにブレーカーがあるのだ。

 若干足りない背を補うために椅子を用意し、ぐらつきながらも調べてみれば、おかしいな、どれも落ちていない。首を傾げながらスマホを弄り、情報を探ってみる。

 そうすると、この地域一帯が停電してしまっているのがわかった。雪のせいだろうか? それ以外に思いつかない。

 復旧の見通しはまだ立っていないようで、続報が待たれる。

 

「どうでした?」

「うちだけじゃなく他のところも停電してるらしい。しばらく電気は使えないな」

「そうですか……どうしましょう?」

 

 リビングに戻り、吹雪に報告する。困った事になったな。これから食事しようって時に……。

 

「あ、そうだ。じゃあロウソク灯しませんか」

「ロウソク?」

 

 ケーキ用のロウソクか、非常用のどっちかを使おうって?

 あ、今まさに非常時なのか。なら使っても問題ないだろう。

 再び席を立ち、ロウソクを持ってくる。お洒落にキャンドルとでも言おうか。マッチで火をつければ、ぼうっとした火が揺らめいて辺りを照らした。……思っていた以上に光が弱いな。もう一本いっとくか?

 そんな訳でもう一本追加し、机の両端に置く事で、なんとか互いの顔が薄ぼんやりと見える程度にはなっった。

 

「これはこれで雰囲気あるな」

「クリスマスソングが流れていたら完璧ですね」

「では吹雪にリクエストするとしよう」

「ふぇっ? わ、私ですか? 私、歌はあんまり……」

「冗談だ。歌ってたら飯も食えんしな」

「……司令官はいじわるです」

 

 これから食べようって時でも俺の頼みを受けようとするのだから、やっぱり吹雪は真面目だ。

 

「それじゃ……」

「ふふ。乾杯」

 

 シャンメリー入りのコップを手にして、軽く打ち合わせる。チン、と軽い音がした。

 吹雪お手製の料理に手を付ける前に、スマホを弄ってクリスマスソングを流しておく。ほら、もっと雰囲気が出てきただろう。

 

「素敵ですね、司令官……」

「君の……すまん、なんでもない」

 

 君の方が、なんて定番ネタは口にできなかった。不思議そうに俺を見る彼女から逃れようと顔を背け、わざとらしい動作でコップを呷る。

 世間はホワイトクリスマスだが、俺だけホットクリスマスになってしまったな。

 台所側の小さな窓の外は、暗くとも雪が降っているのが雰囲気でわかる。

 しんしんと降り積もる白雪。静かに流れる明るい曲。

 吹雪と一緒に迎えたクリスマスは、これで三度目になる。

 ゲーム内で二回、現実で一回。どれが一番良いかなどは言うまでもない。

 ふっと息を吐き、スプーンを手にする。

 俺もそろそろいただくとしよう。

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