俺達が正式に夫婦になった――籍はいれていないが、お互いの気持ち的に――その日の夜。
俺は緊張でがちがちになって、ベッドに腰掛けていた。
出入り口へ視線を向け、扉の上の動いていない時計を見上げて時間を確かめ、いやいや意味ないなと首を振り、とにかく落ち着かずにそわそわとしていた。
式場から帰って来てしばらくゆっくりして疲れを癒し、教会での雰囲気が抜け切らないまま夕食を
入れ替わりで入ろうとした吹雪が俺の横で止まった気がしたから振り返れば、ちょうど彼女も振り返り、俺を見上げていた。まだ湯に浸かっていないのに熱っぽい表情は、俺に何かを求めているような気がして、ひょっとしてキスをすればいいのかとドギマギしていれば、彼女は非常に小さな声でこう問いかけてきた。
「司令官……あの……よ、夜に……私達、するん、ですよね……?」
「ああ、する」
即答してしまった。
俺は、それがどういう意味か一瞬わからなかった癖に、脳裏に閃いた『する』の意味に反応して口が動いていた。我ながら凄まじいがっつきっぷりであったが、彼女の方からそういう話を振ってこられちゃ、とてもではないが否とは言えない。
……しかし、どこでそんな知識を得たのだろうか。趣味の読書で? それとも朝姫ちゃんの入れ知恵だろうか。なんか、俺の中で朝姫ちゃんが諸悪の根源になりつつあるな。最初からか?
そうして俺は、吹雪が風呂から上がってくるのを自室で待っているのだった。
時刻は午後八時頃。初夜、という単語が頭を過り、ああ、確かにそうだと頷いた。
とにかく動いていないと落ち着かず、壊れたロボットみたいに同じ動作をし続けて気を紛らわせていれば、階段を上る音が聞こえてきた。トン、トン、トン。軽い足取り。やがて扉が開き、まだ熱の冷め止まぬ吹雪が姿を現した。ピンクのパジャマに茶色のタオルを肩にかけて湯冷めを防いでいる。ドライヤーで乾かしたのだろう髪はサラサラで、電灯の光で少し照っていた。風呂上りはそのままにしてある髪は、今日に限って後ろで縛られ、見慣れた吹雪になっていた。
「ぉ、お待たせ、しました、司令官」
「あ、い、いや、別に、今来たところだから」
「はい! はい、そう、そうですね、はい」
言動がおかしい。上擦った声に引き攣ったような声が飛び交って、やがて吹雪は下を向きながら歩いてきて、俺の隣に座った。ギシ、とベッドが鳴り、一人分の重みで歪む。
それだけで心臓が跳ね上がった。
内心自分の初心さ加減にかなりうんざりしているのだが、こればっかりはどうしようもなく、感覚の変な腕を伸ばして吹雪の腰を抱き寄せた。されるがままに俺の膝に手を置いて体を支えた吹雪が、ぴったりと体を預けてくる。
風呂上がりで温まった体は、そこにある熱を認識するといっそう体の柔らかさを際立たせていた。それに、良い香りがした。コンディショナーかシャンプーの匂い。同じ物を使っているはずなのに、俺と吹雪でどうしてこうも印象が違うのだろう。湯だってしまいそうな頭でそれだけ考えて、ふと吹雪が自分の腰に添えられている俺の手に、小さな手を重ねてきた。膝に乗せられていた方は弱く布を握っていて、俺はもう耐えられずに彼女を持ち上げ、ベッドの上へ乗せた。
歪んだベッドが跳ね返り、吹雪の体も上下に揺れる。「きゃっ」という小さな悲鳴は軋む音に隠れた。
そのまま寝かせようとしたのだけど、慌てた様子で手を動かしていた――押し返そうとする動きに近い――ので、気持ちに急制動をかけて肩に手を当てるに抑えた。
「じ、自分で、寝ます」
はぁはぁと息を荒げてそう言った吹雪は、握った拳を胸元に当てながらずりずりと枕の方へ移動して、布団を捲って足を潜り込ませた。横になって肩まで布団を引き上げ、仰向けになった。……結構自然に布団に入って行ったのでそのまま寝ちゃうんじゃないかと思ったけど、じっと俺を見つめる様子を見るに、嫌がったりはしていないようで安心した。
俺も彼女の隣へ潜り込んだ。布団の中は閉鎖的な空間だ。直接体が触れていなくとも、僅かな動きが余す事無く伝わってくるし、息遣いはいつもより大きく聞こえている。
彼女の隣に寝そべると、こちらを窺う気配があった。天井を眺めながら、しばらくは心を落ち着ける事に尽力する。あんまり逸った気持ちで何かして、吹雪を傷つけたくなかった。
「吹雪」
「はい……」
気持ちが整ってきた頃に短く呼びかけて、それから布団の中で彼女の手を取り、握る。彼女が握り返してくれるのが、今からする質問の答えに既になっている気がして、鼓動が早まった。
「本当に、していいのか」
「……はい」
少し間をあけてからの返事には、嘘や迷いなどは含まれていないようだった。
彼女がそう言うなら、遠慮する方が失礼になるだろう。腕をついて上体を起こし、彼女に覆いかぶさる。広げた両の太ももとついた両腕の間に小柄な体はすっぽりと収まって、背にかかっていた布団がずり落ちていった。
吹雪の体に影がかかると、彼女は身を縮こまらせて、緩く口を結んでいた。顔の両側についた自分の手と彼女の顔の大きさの対比が体格差を突き付けてくる。ベッドを軋ませて頬に触れ、撫でれば、先程と同じように彼女は俺の手に自分の手を重ねて、少しだけ目を細めた。
体を落とす。口と口を合わせる軽めのキス。
今までだってそれはとても特別な行為で、だからそうするたびに体の中の熱が一瞬ものすごく高い温度まで上がるのだけど、このシチュエーションで、そんななんの警戒もない、俺を受け入れてくれる表情でなんてしたものだから、頭がくらくらするくらい効いてしまった。その先にいきたい。もう少し体を沈め、唇を押し当てて、舌先でちろりと彼女の口を舐めてみた。
わかるだろうか。彼女は、いわゆる大人のキスを知っているだろうか。
薄く目を開いて彼女の表情を浮かべれば……あ、動揺してる。めっちゃ目を白黒させて、細かに震えるように身動ぎしている。
一度口を離して体を起こすと、彼女ははぁっと息を吐いて、それから、ふぅふぅと静かな呼吸をしながら困惑気味の眼差しを俺に向けた。
「大人の……フレンチキスって知ってるかい」
「フレンチ……? 料理、じゃ、ないですよね」
気を抜けば荒い息に混じって消えてしまいそうな声をなんとか言葉にして問いかけてみたが、反応は芳しくなかった。だがキスって単語で察したのだろう、恥ずかしそうにしている。
「舌をいれるんだけど」
「し、舌、ですか? え、えぇと、それは」
困惑を強めた吹雪は、明確に『嫌です』とは言わないものの、少し顔を背けたり、俺を見上げたりと忙しくして葛藤している。俺の好きにさせるか、拒絶するか。
彼女に選ばせる必要はないだろう。少しでも嫌悪感を示すならやらない方が良い。
「悪かった。じゃあ、続きを……お?」
「え、はい。…………あの、どうしました?」
続きを、というのはキスの続きという意味だったのだが、なんか……それはなんか違う気がした。
というかキスを再開したらそのままずっとちゅっちゅちゅっちゅと飽きる事無く口づけを続けて夜を明かしてしまいそうだ。だから次の段階へ進もうと思ったのだけど……。
吹雪の首元へ手をかけてボタンをつまむと、あっと声を上げた吹雪が納得したように頷いた。
「ふ、服を脱がなくちゃ、駄目なんですね」
「ぬ……脱がせ、ようか? 俺が」
「や、あの、それは恥ずかしいので、じ、自分で……」
たどたどしく、つっかえつっかえの言葉では意思を伝えるのが遅くて、それでもそんな事が気にならないくらい俺は目の前の少女に夢中になっていた。顔も体も頭の中も同じくらいの熱さになって、ふわふわとしているような気分だった。身を起こそうとする彼女の上から退き、女の子座りをするその隣に胡坐を掻いて座って、俺は一気に上をはだけた。挙動不審に俺を見たりベッドを見たりする吹雪は、第一ボタンに手をかけたまま脱がずにいる。そのうち彼女の視線には何かを訴えるものが混じってきて、まあ、何が言いたいのかはわかったから、背中を向けた。
間を置いて衣擦れの音がし出す。全神経を耳に集中させても良かったのだが、その場合リソースの100%をそれに使ってしまいそうだったので、俺もさっさと脱いでしまう事にした。
「司令官、脱いだ服はどこに置いておけば良いですか?」
「床でいいんじゃないか」
トランクス一丁になった俺は、作務衣を無造作に床に落としてから答えた。そうするとベッドが揺れて、硬い物と床とが当たるカツッという音がした。パジャマのボタンでも当たったのだろう。再びギシリとベッドが揺れる。
「良い、ですよ」
「ああ」
振り向いても良いと許可が出たので向きを変えれば……俺と同じように下着を身に着けたままの吹雪がいた。いきなり全裸はお互い無理だよなぁ、と内心で笑う。……ちょっと拍子抜けした。が、だからといってその姿が魅力的ではないって訳でもなければ、情欲を掻きたてないなんて事もない。両腕で胸元をガードしている吹雪に隠さないでと言えば、躊躇いがちに腕を下ろし、光の下に晒してくれた。薄水色のブラはちゃんとある膨らみを包んでそこが胸なのだと強調し、飾り気のない質素なパンツは細い太ももと合わさるとかなり扇情的だった。
「下着をつけたままするのか?」
「ぅ、で、でも、だって」
ぴくぴくと腕が動いて胸を隠そうとしている。ブラを見せる事も相当恥ずかしいんだろう。でも俺達はそれより恥ずかしいって言える事をしようとしているのだから、乗り越えてもらわなければ俺が困ってしまう。嫌がられたら手を出せないし、伸ばした手を跳ね除けられたら三日くらい寝込む自信がある。
何も言わずにじっと見ていれば、潤む瞳で上目遣いをしていた吹雪は、観念したように項垂れて、少し体を前へ傾けると、両手を背中側に回した。パチリと音がして、明らかにブラが緩んだ。
ごくりと喉が鳴る。つばを飲み込んだつもりはなかったが、緊張と羞恥と期待で自然と動いてしまったみたいだった。俺もそれにびっくりしたが、吹雪はそれ以上だっただろう。もう泣きそうな顔をしていて、でもそれは悲しい感じではなく、ただただ恥ずかしさからくるもののようだった。布を退かした傍から腕で覆ってしまい、残念ながら胸を見る事はできなかったが、まるで思春期の中学生男子のような思考回路になっている自分に気付いて、まあまあいいじゃないかと大人の余裕を取り戻そうとした。無理だった。吹雪の魅力が高すぎる。引っ掛かるのが一部の人間だけだろう事は容易に予想がつくが、俺はばっちりその一部の人間だ。
今度は隠さないで見せてなどは言えず(言ったら本当に泣かれそうな気がした)、だから俺は彼女を呼び寄せて、ひとまず抱き合う事にした。互いの体温を交換するのは、きっと大事な事だと思ったのだ。
「し、失礼、します」
横からではなく正面から抱き合うとなると、吹雪の身長は些か低すぎる。なので俺の膝の上に乗って、それから抱き付く事にしたようだ。初めは勇気を出した俺の方から背中に腕を回した。脇の下を通し、気持ち彼女の腕を持ち上げるように。吹雪も片手で胸を隠しながらだったけど、俺の背に手を回してきた。俺の背が高いと言っても、そんなに横に大きかったりはしないので、意外と背の半ば以上まで彼女の手は届いていた。両手を回せば、手首どうしが掴めるか掴めないかってくらい。
俺の腕が邪魔で胸を隠し辛いのと、抱き合っている形なために見られる心配がないからか、吹雪は怖々ともう片方の手も俺の首に回して、ぴったりと体の前面をくっつけてきた。
「んっ……」
まるで一つになったかのような一体感に襲われ、思わず吹雪を抱く腕に力が入ってしまった。苦しげな吐息にすぐ腕を緩め、「大丈夫か?」と問いかけながら顔を見ようとして、ぎゅうと抱き締められる。……あ、見るなって事ね。
しかし、これは……もしかしたら、ただ見るだけよりも恥かしいというか、そういう行いなのではないだろうか。
密着した柔肌からは高い体温が伝わってきて俺の熱と混じり、すべすべとした肌はただくっつけているだけで気持ち良い。女の子的な体のおうとつや、そこにある突起だとか、肌で感じる情報は見て知るものより遥かに多かった。それに気づいていないのだろう吹雪は、今は強張っていた体から力を抜いて俺の肩に顎を乗せている。耳のすぐ近くで聞こえる呼吸音は興奮を誘い、それじゃなくてもいろいろ限界だというのに、我慢しなくて良い環境だから、生理的な欲求には抗えず。
「……?」
ぴくりと吹雪が反応した。
息を潜め、どこか感覚を探るように静かにしている。
やがてその出どころがわかって、しかし正体まではわからなかったのだろう、首に手を回したまま体を離すと、下を見た。吹雪が馬乗りになっている俺の股を。彼女は口を半開きにしたまま顔を上げて、これって、とか細く囁いた。
過剰な反応を期待する訳ではないが、てっきり悲鳴を上げられたり嫌悪される事を覚悟していたので、彼女が特に眉を顰めたりだとかしていない事が意外で仕方なかった。
「が、学校で、習いましたから。実物を見るのは、初めてですけど……」
聞いてみれば、当然のようなそうでないような答えを返された。艦娘も学校に通うのだろうか。今は通っているが……。それと、吹雪。初めてじゃなかったら結構ショックを受けるぞ、俺。もし見た事があるとして、さていったい誰の物かってのには興味が出るけど。
「それで……吹雪。良いのか?」
「え? ええ、良い、ですよ……?」
「あー……その。していいかって意味じゃなくて、見えてるけどいいのかって――」
「へぅっ!?」
びくぅっと体を跳ねさせた吹雪は、しかし俺の首を両手で挟んで肘と肘を合わせようとするみたいにしただけで、直接腕で隠そうとはしなかった。なんだろう、俺の首から手を離したくなかったのだろうか。
あうあう言いながら俺を見上げる吹雪を気にせずじっくり胸を観察していれば――目が離せなかったの間違い――「も、もう良いです! 好きなだけ見ちゃってください!」なんて開き直った。じゃあそうさせてもらおう。
彼女を抱えて一緒になって布団に寝そべる。押し潰してしまわないよう気を付け、手をついて身を起こせば、ちょっと前とほとんど同じ状況だ。広げた俺の体の下に吹雪が収まっている。違いは服があるかないかだけだ。
頬を撫ぜてやるとくすぐったそうに顔を背ける。露わになって首筋に手を這わせ、脇の下の曲線に沿って下へ下へ撫でていく。ざらざらとした手の平でお腹を撫でれば、「ひぅ」と息を吸い込む声がした。
「やっ、ちょ、しれいか……!?」
ここまできたら、さすがにもう止められない。パンツを引き摺り、持ち上がった両足からさっと抜き去って手放す。これで吹雪は生まれたままの姿になった。……艦娘は生まれた時から服を着ていそうだけど、言葉の綾だ。
本格的に『する』にはしっかりと準備をしなければならない。彼女に痛い思いをさせて、せっかくの最初の情事を嫌な思い出にしたくないなら。
「ううぅ……!」
彼女としては恥ずかしいし止めたいのだろう。でもたぶん、これが必要な行いなのはわかってるんだと思う。恨みがましい目をしているし、弱々しいながらも手をつっぱって俺を押し返そうとしている。けど、本気で嫌がってはいない。
「ぅ、ん……」
一度口づけをしてから、俺達は準備を始めた。
◆
「ぃ、ぎっ! ……っ」
「す、すまん。大丈夫か」
ギシリとベッドが鳴る。
吹雪の顔の両側へ押し当てた手は、片方が吹雪の手に掴まれ、力いっぱい握り締められている。彼女の足は宙ぶらりんになって揺れ、時折ぴんと張っていた。体中が強張って苦痛に顔を歪める吹雪に、慌てて引き抜こうとして、しかし「だ、じょぶ、です」と息の混じった声に、続ける事を決意した。
「手を、手を繋いでください……!」
「ああ!」
小さく、切羽詰った声になっていく彼女に合わせて、自然と俺も小声で話すようになっていた。至近で囁き合い、言われた通り、枕の下あたりでシーツを握り締めていた手の指を解き、一本一本を絡めて恋人繋ぎにしてからシーツに押し付けた。「ぐ、んぅ……!」僅かな動きに反応して吹雪が喘ぐ。気持ち良さなどどこにも見当たらない、焼けるような痛みと涙に塗れた声。行為の直前にあった興奮はそのままそっくり彼女を労わる気持ちに変わって、性欲など消え去って、どうにか彼女から痛みを取り除いてやりたいと、それだけ考えていた。
「動いて、ください。私は、吹雪は、大丈夫、ですからっ……!」
だか吹雪はそうは考えていないらしい。ひたすら俺に行為を求め、だから俺もそれに応えて続ける。
いくら彼女が艦娘とはいえ、体は俺の何回りも小さく、だからきっとこういうのは困難だろうと予測していた。だがこれほどまでとは思っていなかった。痛みはこちらにもあって、腰の辺りの筋肉がぎちぎちに詰まっているみたいな鈍痛を発している。
一番奥の、奥の方。
そこまで届かせるのにはとても時間が必要だったし、たくさんの涙が流れた。
幸い事前の準備が良かったのだろう、血が出る事はなく、でもだからと言って痛みが消えた訳でもない。
彼女に包まれている事を感じていると、むくむくと膨れ上がる獣の欲求が俺を動かそうとする。乱暴に、ただ自分の心だけを満たそうとする。
それではいけないとわかっているのに、抗い辛い。抵抗するのが辛い。
彼女への愛が勝っているから、俺は自分を抑えられた。抑えて抑えて、たぶん、もうちょっとしたら、爆発する。
「しれ、かん、ぁ、わた、私達、今、つ、繋がってますか……!?」
「ああ、ちゃんと繋がってるよ。吹雪が頑張ったからだ」
「……ゃっ、たぁ……やっと、やっと、やっと私、家族に……私達、家族だよね……?」
「ああ。俺と君はもう家族だよ。夫婦、なんだ」
一言一言が現実となって重く圧し掛かってくる。体に染み込んでくる。
幸せの原液はこんなにも痛く苦しい。だがきっと、俺達が愛し合えば、良い具合に薄まってくれるだろう。
「動くぞ」
「うん……!」
絡めた手を強く強く握る吹雪に一言投げかけて、なるべく痛くならないように体を動かす。相変わらず彼女の瞳は濡れて、涙は次々に溢れ出ている。
痛いのか。大丈夫なのか。やっぱり一度やめた方が良いんじゃないか。
早口で何度も話しかけても、吹雪は継続を望んで首を振る。
「うれ、しい。うれしいよ……っ! ふ、くっ……!」
喜ぶ声も止まらない。やがてそこに水音と悦びの声も混じるようになって、彼女の笑顔を見れて、俺は安心して吹雪の体を貪る事に集中できた。
◆
唇を重ね、手を繋ぎ合わせ、技術も何もなく本能に動かされるままにまぐわう。
より深く、より、重なり合って、お互いの熱を混ぜ合わせていく。
気づけば舌を絡めていた。気付けばきつく抱き合っていた。
行為は激しさを増す一方で、流れ出た汗が一滴、吹雪の体に落ちて、玉のような汗に混じり、つぅっと落ちていった。
◆
「はっ、は、はっ、ん、」
「はぁっ、はぁっ……」
荒い息遣いが薄明るい部屋に響く。熱がこもっていて、音が反響する。
見つめ合いながらキスをした。とろけるような甘いキスだった。何もかもが一緒になって、一つになって、俺達の行為は、ひとまず終わりを迎えた。
ドクドクと心臓が脈打っている。彼女の胸の鼓動も、なぜだかはっきりと聞こえてきていた。それはきっと、今、俺達が繋がっているから。
持ち上がった手が俺の頬に触れた。いつか、ずっと昔に誰かにされたみたいに、愛おしげに撫でられる。
「すき……」
たしかな熱を孕んだ吐息。
囁く吹雪に、一気に情欲が再燃した。
◆
終わってもまた始めて、終わって、始めて、繰り返して繰り返して何度目か。
散々に乱れた吹雪は色っぽい肌を晒したまま、ぐったりとして横たわっている。
その隣に座り、汗や涙や何かに濡れたその体を……お互いの汚れを落とすのも後にして、行為の後の会話も抜きにして――そんな体力は彼女にはなかった――、ただ、何度も黒髪に指を通し、さらさらと梳いて、愛でていた。
「愛してる」
行為中、うわ言のように言い続けた言葉。紛れもない本心を包み隠さず伝えるたび、彼女は嬉しそうに微笑んで、愛を受け入れた。幸せそうな寝顔がその証拠。
「愛してるよ」
「ん、ん……」
穏やかな寝息の中に紛れた声は、きっと肯定そのもので。
ずり下がった掛布団を肩までかけてやってから、天井を見上げた。
完全に夜が明け、昼になって、慌てて寝坊助が起きだす頃まで、俺はそうしてぼうっとしていた。