吹雪が食器を洗い終えるのを待ち、改めて向かい合って座ってから今度は俺の聞きたい事を聞く事にした。の、だが……ぶっちゃけまだ内容が纏まってない。質問は断片的には頭の中にあるが、何から聞けば良いのか、どういう風に聞けば良いのかがさっぱりわからない。頭の出来がね、アレだからね。
「ご趣味は……ってのは違うか」
「趣味、ですか? ……読書だと思います」
よくあるお見合いのイメージを浮かべながら冗談交じりに問いかけてみると、曖昧な答えが返ってきた。『だと思います』ってどういう意味だろう。……ああ、単純に「これが私の趣味です」と言えるようなものがなかっただけか?
彼女は艦娘だ。そうなんでもかんでもできる立場ではなかったのだろう。だとしたら、どんな本を好んで読むのかとか突っ込んだ質問はすべきではないかな。答え辛いだろうし。
「ちょっとした興味から聞くが……艦娘ってどこから来たんだ?」
色々考えてるうちに質問の内容が少しずつ纏まってきたので、まず最初にそんな事を聞いた。
艦隊これくしょんというゲームはあまり設定が語られない。アニメでどういう風に戦っているのかが判明したが、それでも不明な点は多い。だが今俺の目の前にはその世界で生きていた少女がいる。なら、わからない事は艦娘本人に直接聞いてしまおう。
そう思ったのだが……。
「それは、すみません。私達にもわかってないんです」
「え、あ、そうなのか」
てっきり明瞭な答えが返ってくるものだと思い込んでいたから、吹雪が申し訳なさそうに言うのにちょっと慌ててしまった。
そうか、そうだよな。そういう可能性もあるよな。彼女が全部知ってるって方がおかしいし。その事に思い至らなかったのは要反省だ。……コミュニケーション力が落ちてるなー。相手の気持ちが上手く考えられない。それに、二年前に比べて口下手になっている気がする。
ちょっと質問の方向性を変えよう。
「差し支えなければだが、どんな風に戦ってきたのかを教えてくれないか」
「どんな、風に……」
『艦娘がどういう存在か』はかつての艦艇の
艦娘とはどういったものか。それについてやはり公式的な答えは用意されておらず、ファンの間では様々な憶測が飛び交った。
人が艦娘になる。戦うべき相手が現れた時、選ばれた女性が変身するという形式。随分とマイナーな説だ。
人を艦娘にする。深海棲艦に対抗するため、適性がある、またはあるなしに関わらず女性を艦娘として改造し、戦わせる形式。これは中々根強い説だが、俺は好きではない。元々が人間であったならば、どうしたって悲劇は免れないからだ。艦娘がどのような存在であれ戦争である以上悲しい事はあるだろうけど、元が人間であるというのはその悲しみをより大きくしてしまうと俺は感じている。
他は、完全な人造人間とか、どこからともなく現れたとかだ。
人造人間は人類が脅威に対抗するために一から生み出した機械であるという説。美女美少女の姿をしているのは誰かの趣味なのだろう。
どこからともなく現れる、は艦娘は完全ファンタジーな存在で、海上を走行する原理もどこから生まれたのかも知るかとぶん投げた説だ。ある意味で潔い。
そんな訳で、吹雪が知らない以上、俺は俺が最も信じている説を彼女に当て嵌める事になる。
では次に、実際彼女達はどのように戦ってきたのか。この吹雪はどんな戦いを経験してきたのかを知りたいと思い、質問した。
「説明が難しいです。……それに、たぶん私の戦いの道筋は、司令官も知ってると思います」
「……それもそうか。俺が君達を指揮していたんだから」
俺のゲーム進行に合わせて彼女も戦ってきたという事は、俺と彼女の歩んだ道筋が同じという事。
初戦の相手は何級か、苦戦したのはどこか、初めて大破してしまったのはどこか。なにぶん結構前の事で思い出すのが難しいが、それでも覚えている。それはきっと吹雪も同じだろう。
だが、俺がこの質問をしたのは彼女と俺の経験が同じかを問うためではない。彼女が感じた生の戦闘というものをその口から話して聞かせて欲しかったのだ。『難しいです』の一言でばっさり切られてしまったが……まあ、ならいいか。強要するもんでもないだろうし。本当に興味本位で聞いただけだ、無理強いしてまで聞きたい訳ではない。
次の質問だ。
「吹雪がいた向こうの世界はどんな感じなんだ?」
「こっちの世界を見て回った訳ではないからあまり断言はできませんが、ほとんどおんなじだと思います」
そういえば吹雪は普通に電話を使おうとしていたし、テレビや何かを見ても驚かなかったし、料理だってこなしていた。文明レベルはあっちもこっちも同じなのだろう。そこに敵がいるかいないかの違いはあれども。
「向こうでは、どうだった。その、生活とか、交友関係とか」
なんだか事情聴取みたいな言い方になってきてしまっているが、吹雪は気にした様子もなく、思い出すように目を細めた。
「ええっと……私達は、お仕事があった時はずっと戦ってました。戦争が終わってからは何もなくて、普通に――」
「何? 戦争が終わってる?」
「ぇ、あ、はい。……おかしいですか?」
「おかしくはないが……あれ、でも君って俺の艦娘なんだろ? 俺まだ中盤に差し掛かったくらいなんだけど」
それで深海棲艦との戦いに決着がついているのは変じゃないか? それとも、俺と彼女の歩んだ道筋は実は違っていたのだろうか。よくわからず首を捻っていると、同じように頭を傾けていた吹雪と目があった。……彼女もよくわかっていなさそうだな。
「もしかしたら吹雪は時間でも越えちゃったのかもしれないな」
「あはは……かも、しれないですね」
ああ、これは確定だ。吹雪もこの矛盾について何もわかっていないようだ。とすると彼女には俺の知らない、俺が辿った道筋を知っているという事になるのだが……聞かなくて良いか。知ってしまったらつまらん。知らなくても死ぬ訳でもないし、この矛盾はスルーして良いだろう。
「お友達は、ええと、姉妹の子は違うよね。そしたら、
睦月? 睦月っていうと、アニメ版のイメージが強い。その理由は、俺が睦月をさほど運用していないからだ。もっぱら遠征要員の彼女と吹雪に繫がりがあるとは思わなかった。指折り数えている彼女にそこんとこどうなってるのか聞こうと思ったが、やたらめったら名前を羅列する彼女を止めた時には、もうタイミングを逸していた。わざわざ掘り返すものでもないので、「友達たくさんだったんだな」と笑いかけておいた。吹雪も笑い返してくれたが、それはどこか寂しげな笑顔だった。
◆
艤装の有無を聞いた。
任意で出し入れできるのか。
できないと答えられた。装着する事で力を引き出す形式だったんだとか。
ではその艤装は、ひょっとして君の私物としてこっちの世界にやってきてたり?
これも否だった。たしかに彼女の所有している物の多くが部屋ごとやってきたようだが、艤装は含まれていなかったらしい。
話の流れで彼女の部屋にお邪魔する事になった。最初に扉にネームプレートを取り付けて、それから、
「いいですか、司令官。良いって言うまで開けちゃ駄目ですよ!」
「わかってるよ。いきなり開けたりはしないから安心してくれ」
俺にもちゃんとデリカシーってもんはある。この佐分テツ、空気の読める男! 忙しないパタパタという足音やごちゃごちゃとした物移動の音、それから「あわーっ!?」なんて悲鳴やバサバサバサッと本が落ちる音がしたとしても、決して扉を開けたりはしない。中の様子は非常に気になるけども。
落とした本やらを戻す時間もあったのだろう、それからたっぷり三十分は待たされてから(明らかに掃除している音もあった)、ようやっと「どうぞ」と入室のお許しが出た。
「お邪魔します」
自分で言っといてなんだが、何か間違っている挨拶をしつつ扉を開ける。最初に感じたのは、光だった。優しい光。それからふわっと持ち上がった香水か何かの匂い。視覚は桃色に埋められ、耳には吹雪の「いらっしゃい……ませ?」という疑問混じりの声が入り込んだ。
すげぇ。ファンタジーだ。
以上、女の子の部屋に入ってすぐ体中で一切を感じた男の感想。
後ろ手に扉を閉め、一歩踏み出せばカーペットに足を包まれた。もさもさ毛が生えたピンク色。子供向けっぽい。
「こちらへどうぞ」
「悪いな」
大きなベッド横に四脚の木机が置かれている。背は低く、俺だと正座したら机を持ち上げてしまいそうなくらいだった。用意された座布団の上に胡坐を掻いて座れば、吹雪も対面に腰を下ろした。
さて、部屋の内装だが、入ってすぐ右側は衣装棚になっている。天井付近まである折り畳み式のスライドドアを開けば、季節の衣服や様々な物が置かれているのが露わになるだろう。入り口からまっすぐの壁際には勉強机があった。スタンドライト付きで、小さな本棚には参考書や辞典などが並んでいた。机とくっつく形でベッドがある。タンスが土台となったベッドには桃色の布に包まれた布団一式があり、頭側には棚を埋め尽くすように枕やクッション、夕立っぽい生物のぬいぐるみがあった。
思わず三度見した。
ベッド側に出窓があり、レースのカーテンがかかっている。ずらっと並んだ妖精さんフィギュアは……なんだあれ、見た事ないな。おそらくこっちの世界では商品などになっていないだろう、生きた質感を持つ手の平サイズの妖精さんがこれでもかってくらいに置かれているのは壮観だった。……ひょっとして吹雪、妖精好き? それでもあれはちょっと怖いくらいだが。
「その、友達に押し付けられちゃいまして……あ、いえ、決して……妖精さん、は嫌いじゃないですよ。本当です」
「それであんなに溜まったのか……」
あわあわと手を振る吹雪を「そこは疑ってないよ」と宥めつつ、再度妖精さん達を見回す。今にも動き出しそうだ。そういえば妖精さんは吹雪と一緒に来ていないのだろうか。
「それは、はい。そうですね……ここに来る事ができたのは私だけです」
「そうか。……寂しくなりそうだな」
「大丈夫ですよ。司令官がいてくれますもん」
おっと、嬉しい事を言ってくれるな。
彼女のお望み通り、俺はできる限り彼女の傍にいるつもりだ。俺は彼女の『司令官』だしな。
見てわかるくらい俺に信頼を寄せている吹雪から少し視線を外し、彼女の背後のカーテンを見上げた。
浅葱色の遮光カーテンと薄布の白いカーテンに隠された窓。そこに俺が映っていたとしたら、いったい今どんな顔をしているのだろうかと気になった。だらしない顔はしていないと思うけど。
「私、そこから出てきたんです」
頬を擦りつつ考えていると、おもむろに吹雪が本棚を指した。吹雪の隣にある、本も衣服もしまえる棚の方ではなく、俺の隣のでかいやつだ。……本から出てきたのか? いや、そうじゃない。たぶんきっと、その向こう側……。彼女が指を向けているのは、俺の部屋だとちょうどパソコンがある場所ではないだろうか。
彼女はそこから出てきたと言っているのだ。しかも部屋ごと。
あー、だから最初、部屋の外から入ってきたのか……。どこか呆然としていたのは、自室から出たら見知らぬ廊下だったからとか? それなら納得だ。
さて、聞きたい事は聞き尽してしまった。……単にこれ以上思いつかないってだけだが……と?
「あ、そうだそうだ」
「な、なんですか?」
壁に下げられている制服を見て気付く。彼女は私物ごとこの世界へやって来たと言ったが、ではなぜこっちの世界の制服を着用していたのだろうか。
「言いませんでしたっけ? どうしてか着ていたんです。たぶんセットになってる鞄もありました」
「へぇ……。なんでベッドの下から出てくるんだ?」
ベッドの方へ体を伸ばし、その下からずりずりと学生鞄を引き出した吹雪にツッコミを入れる。ありました、と言ったという事は一度発見している訳で、改めてベッドの下に入れておく理由が見当たらなかった。
「それはーそのー、ま、まぁいいじゃないですか、なんでも。あはは」
「……それもそうだな」
気にする事でもない。彼女の乾いた笑いが答えになってしまっているが。
部屋の中を片す際に押し込んだりしたんじゃないかな。吹雪はものぐさではなさそうだが、さっきは俺を待たせていた訳だし。
彼女が胸に抱えてみせたそれは、公園で見た女学生が所有していたのと同じ物だった。間違いなく桜ヶ丘中学の物だろう。制服に鞄とくれば、いかに鈍感であろうと気づくだろう。
「吹雪、どうやら君はこの世界での『役割』を与えられているようだ」
「へ? 役割、ですか?」
「そうだ」
「ほら、なんだ。世界には異物を排する機能があるって言うし、自然な形でここに在るためにそういった理由付けがされているんじゃないかな」
「……? よくわかりません……」
「あー。要するにあれだ。何も気にしなくて良いって事だな」
こくこくと頷く吹雪は、やっぱりよくわかっていないようで、頻繁にまばたきをしていた。
◆
少しの間彼女の部屋で雑談に勤しみ(主に夕立っぽい謎の生物について)、21時を回った辺りで彼女がうとうとし始めたので、歯磨きをしに一階に下りた。
洗面所で二人並んで歯ブラシ取り出す訳だが、鏡戸を開けてみてびっくりした。陶器のコップの中に立てられていたのは、俺の歯ブラシともう一つ、見知らぬ歯ブラシだったからだ。それは吹雪の物で、彼女の知らない内にここに差さっていたらしい。まさかとは思うが、他にもいろんなものがこの家の各所に置かれているんじゃないだろうな。それは悪い事ではないが、見知った場所に見知らぬ物が置かれているといちいち驚いてしまいそうだ。あ、ハンドタオルも吹雪のがあった。バスタオルもか……。
「あの、あんまり見ないで……」
「っと、ご、ごめん」
木編みの引き出しを覗いたりしていれば、くいくいと袖を引かれて抗議された。顔を赤くした吹雪が消え入りそうな声で訴えてくるのに、慌てて家探しを打ち切る。タオルとかもアウトなのか。んー、いったい何が彼女の防衛ラインに引っかかるかわからんな。肩にかけてるケープみたいな焦げ茶のタオルは見ていたって怒られないけど……いや、むっとした顔で見上げられた。少し眉を寄せて、いかにも怒ってますよって顔。
……そりゃタオルを見ても怒られないだろうが、同時に見ている彼女自体は怒るよな。しかも見ないでと言った直後である。
悪い悪いと詫びれば、まあ良いですけど、とそっぽを向かれてしまった。歯ブラシを二つ取り出して青い方を俺に渡すと、白いのは自分の手元に残す。
ぶにゅっと歯磨き粉を歯ブラシに乗せている彼女の頭を見下ろしつつ、そういえば、と切り出す。
「君用の新しい歯ブラシを買ってあるんだけど、どうする?」
「どうするって……」
「新しいのに代えるかどうか」
「何を」
持ち上げられた歯ブラシは、吹雪が俺を振り仰いだために首元をさ迷うにとどまった。最初、困惑の光が宿っていたように見えた彼女の目は、今は思案する風に細められている。だんだんと顔の角度も下がっていて顔に影がかかり始めた。
言いかけた言葉もそうだが、彼女のシリアスな表情に不安を掻きたてられる。なんの気なしに提案したつもりだったけど、彼女にとってそれはとても嫌な事なのではないか。そう思い至った。
「吹雪」
だから謝ろう、訂正しようとして呼びかければ、顔を上げた彼女は、俺が話すより速く歯ブラシに視線を移した。
「もう歯磨き粉つけちゃいましたから……次から、司令官に買っていただいたものを使いますね」
言ってすぐ歯ブラシを口に含んでシャコシャコとやりだした彼女に倣い、俺も緩慢な動作で棚から歯磨き粉を取り出した。
すぐの交換に反対しようとしていたっぽい吹雪が何を思って了承したかはわからない。が、俺のための言葉だというのは良くわかった。気を遣ってくれたんだと思う。
歯磨きの間はお互い何も喋らなかった。ただ、俺は彼女がひたすら歯ブラシを動かしているレアな姿に釘付けで、彼女もまた鏡越しに自分を見つめる俺の視線が気になったのだろう、じーっと鏡に映る俺を見上げていた。
◆
就寝前、俺は吹雪をリビングに呼んで、真新しいアルバムを取り出して見せた。
中身は当然空っぽだ。それは彼女もわかったのだろう、俺の言葉を黙って待っている。
「吹雪。君がこの世界へやって来れたのは、俺が言うのもなんだがご褒美みたいなものだと思う」
「ご褒美……ですか?」
「……いや、言葉選びを間違えたな。うーん、だが上手い言葉が見つからん。俺が言いたいのは、君は戦い、平和を勝ち取った。その末に自身の願いで俺の下へ来た。俺は何一つ拒まない。君を歓迎する。だから、君は君のやりたいようにやってくれ。できる限りの事は叶えるし、叶えようと努力する。そう約束する。そう伝えたかったんだ」
「…………」
俺を見上げたままの彼女は言葉を発しなければ、表情も変えなかった。俺が言終えてから少しして、小さく頷いて、『わかりました』と静かに言っただけだった。
……もうちょっと何か反応が欲しいと思うのはわがままだろうか。これでも俺、今の台詞を言うのに結構勇気が必要だったんだが。
しかしもう吹雪の興味はアルバムに移っているようで、それは何かと目で問いかけてきている。しょうがない、さっさと説明してあげよう。
「せっかくだし、これから吹雪を写真に残していこうと思うんだ」
「私ですか?」
「ああ。ここにデジカメがある。とりあえず記念すべき一枚目の撮影といこうじゃないか」
「え、え、今からですか? ちょ、ちょっと待ってください!」
「どうした?」
アルバムと一緒に用意しておいた銀のデジタルカメラを手に持って振ってみせれば、吹雪が待ったをかけてきた。何かと思えば……手櫛で髪を梳いたりパジャマの皺を確認したりしている。……女の子だなあ。
やがて肩掛けを取って洗濯機にシュートしてきた彼女は、やり切った顔で「はいどうぞ!」と腕を広げた。う、今の笑顔めちゃくちゃ良かったんだけど、まだデジカメ起動してなかったから撮れなかった。
「もう一回今の笑顔頼む」
「へ? え、笑顔?」
あー、崩れちゃった。
両頬に手を当ててハテナマークを飛ばしまくる吹雪に「冗談だ」と声をかけ、じゃあ撮るぞと促した。
すると彼女はびっしり気を付けの体勢をとった。
「……いやいや、そんな硬くならなくてもいいんだぞ」
「あ、やっぱりそうですよね。えへへ……」
照れ笑いを浮かべる彼女が肩の力を抜いて自然体になった、その瞬間にシャッターを切る。一瞬遅れてパシャリ。不意打ちされた吹雪はあっと声を上げると、ぷりぷり怒りだしてしまった。
「もぉー、駄目ですよ司令官、いきなり撮っちゃ!」
「ごめんごめん。でも良い写真撮れてるぞ」
「え、そうですか? 見せてください!」
「ほら」
吹雪が体を寄せてデジカメの背面を覗き込もうとするので見やすいようにしてやれば、わ、綺麗に撮れてますねー、と嬉しそうな声。
「私、写真なんて久し振りでしたから……なんだか、すっごく特別な気分です」
「記念にはちょうど良いな。『吹雪来訪記念』ってな。明日は『吹雪お目覚め記念日』にして写真撮ろうか」
「なんですかー、それ」
「明後日は『三の倍数の日付は吹雪記念日』で、
「写真撮りたいだけじゃないですか! 変な記念日なんて作らなくたって、いつでも撮って良いんですよ?」
あ、そうなの?
吹雪は地味といってもやはり容姿が整っていて、控え目に言っても美少女だから、何も理由なしで撮るのは少し気が引けるのだが、本人がOKと言うなら話は別だ。
という訳でぱしゃり。
「あっ、ちょ、今ですか!?」
「いつでも良いんだろ? これからじゃんじゃん撮ってくぞー」
「せ、せめて一言ください! 変な風に写るの嫌ですからね!」
向けたカメラから逃れようと体を動かす吹雪をきっちりフレーム内に収めながらシャッターを切りまくる。何枚ものブレ吹雪が量産されていく。それが愉快でたまらず、この攻防が終息したのは突撃して来た吹雪にデジカメを奪われ、逆に俺が写真に封じられてしまった後だった。
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
動き回ったからか、吹雪の眠気が限界に近いらしく、途中から動きが悪くなっていたので早々に部屋に送り届けた。おやすみの挨拶はしたものの、俺はまだ眠くないので、とりあえずゲームでもやってようかなと考えている。自室の扉を開いた吹雪が、ふと振り返った。ノブに手をかけていた俺も動きを止め、彼女を見下ろす。
「これから、よろしくお願いしますね」
「ああ。こちらこそ」
改まった挨拶を交わし、今度こそ部屋に引っ込む。しばらく閉まった扉を眺めていた俺も、廊下の電気を消してから部屋に戻った。