【第一艦隊 編成/情報】
クマノ :練度152 :南西諸島任務の常連。コンビニの新スイーツが好き
マイカゼ:練度78 :初出撃。踊ったり体を動かすのが好き
アガノ :練度88 :初南西諸島任務。甘い物は何でも好き
キソ :練度98 :南西諸島任務の常連。煙草とコーヒーの組み合わせが好き
ツェペ :練度90 :南西諸島任務の常連。日本に来て日本映画が好きになった
ズイカク:練度149 :南西諸島任務の常連。アウトレンジと可愛い洋服が好き
◇◇◇
高度49,800m。成層圏。
雲すら無く、濃紺の景色が果てなく広がるばかりの高高度。
何も無い、何者も存在できない空間にじっと目を凝らす。
と、僅かに一つ。動いている物体の姿が確認できる。
それは、奇妙な形状をしていた。
近い例を挙げるならば、「アイスクリームを食べる時に使用する木のヘラ」だろうか。
ヘラは先端から中央にかけてのっぺりと盛り上がった流線型で、
黒一色の塗装が施されている。横っ腹に付いている二つのエンジンは
重い唸り声を上げつつ、後方から3ヶ所飛び出ている鋭い尾翼が、
音速を超える速度で極薄の大気を真っ直ぐに切り裂いていく。
”艦載機”。
正規空母「ズイカク」が海上から放ち、弓矢形態から高度1000mで具現化した
精密偵察爆撃機"スケアクロウ"の姿であった。
最もその冗談としか思えない大きさは、"艦載機"とは到底言えない代物ではあったが。
搭乗員2名が機内で会話を交わしている。
「――機長、概念探知レーダーが敵艦隊を補足。戦艦10・空母20・駆逐30です」
赤地に「ふ」と白文字で書かれたヘルメットを被った少女が、偵察報告を”機長”へと告げる。
「・・・ふう。いつも通りね、副長」
”副長”の報告に対し、白地に「き」と赤文字で書かれたヘルメットを被った”機長”の少女は、
やや億劫気味に返す。
ヘルメットこそ被ってはいるが、彼女達は酸素マスクも減圧スーツも何も装備していない。
加えて、通常・・・人間の少女の身長と比べても、彼女達は圧倒的に小さすぎた。
艦載機を操縦する”妖精”である事が伺える。
「ええ、全くもって。いつもの海域、いつもの時間に」
「隊列組んでご苦労様、ね。じゃあ、こっちも仕事を始めましょうか・・・
500mm対棲拡散榴弾砲を準備」
機長が指示を出す。
「了解。下部ハッチ解放、500mm砲展開準備」
副長は、コクピットの武装パネルを素早く操作しながら報告する。
と、スケアクロウの下腹部がゆっくりと四角に開いてゆく。
そこから砲塔が、指示棒を広げる様に展開されてゆく。
そして、ガシンという重い音と共に砲塔が完全に固定された。
「武装の展開、及び榴弾の装填を確認しました」
「了解。爆撃対象をモニタで目視確認。味方のマーカーに注意してね」
コクピット上部のモニタ映像が、約5万m下の戦闘海域を俯瞰視点で鮮明に示している。
味方を囲む僅か3つの緑マーカーと、深海棲艦を囲む大量の赤マーカーの距離は極僅かしかない。
副長はモニタに表示された彼我距離を示す「1,5」という数値を見て、軽く笑った。
「はは、あんな至近距離で当てるなっていう方が無茶ですよ」
「そうね。・・・まあ、一応言ってみただけよ」
「マイカゼさんにアガノさん、か…大丈夫かなぁ」
母艦のズイカクから、今日初めて南西諸島任務に就く子がいる事は軽く聞いていた。
これから始まる爆撃を「体感」するのは初めてだろう。
ズイカクの事だから、攻撃する事を事前に伝えているかは非常に怪しい。
副長は、その旨をズイカクへ質問するか少しだけ躊躇った。
「うーん、まあいいか。爆撃対象、全て射程距離内です」
躊躇ったが、面倒なのでやめた。
妖精の性格は、母艦のカンムスの性格が色濃く反映されるのである。
「了解。じゃあ・・・始めましょうか」
報告を受けた機長が、攻撃準備の完了を概念直通無線でズイカクへ連絡する。
『こちらクロウ1。ズイカクさん、いつでも行けます。攻撃の許可を』
概念直通無線。
通常の無線と異なり、同一概念でリンクされている母艦と艦載機は、距離等を問わずに
スムーズに対話が可能となっている。
遥か下方にいる指揮官から、速攻のGOサインが返ってくる。
<<はい、はいっと。んじゃ、本当にアウトレンジしてあげますか。やっちゃって!>>
『仰せの通りに。通信終了』
無線を終了させ、機長が静かに告げる。
「承認が出たわ。副長、お願いします」
モニタを静止したまま、副長も静かに答える。
「了解」
タイミングを計る。彼我の距離が「1,3」を示す。
ボタンに力を込めながら、呟く。
「―――
瞬間。
大気が震えた。
榴弾の装填数は1発のみ。予備弾も搭載していない。
それはつまり、1発当ててしまえば何もかも「片が付く」事を意味していた。
周囲1000m四方に、決定的な破滅と死をもたらす1撃。
轟爆音を置き去りにする速度でその榴弾が向かう先は、遥か下方の戦闘海域。
発射からきっかり3秒後。
深海棲艦の大艦隊が進軍している丁度中央部分に、1筋の線が引かれる。
直後、モニタ映像一面が爆風と思しき「もや」に覆われ、何も見えなくなった。
一部始終を確認していた副長が、即座に報告を入れる。
「着弾を確認!砲塔冷却システムも正常に作動」
「グッドエフェクト。・・・戦果はどう?」
「コア・サーマルに切替えて確認します」
副長がコクピットのボタンを操作し、モニタの映像モードを切り替える。
「コア」とは、カンムス・深海棲艦共に「”艦の概念”を宿した心臓」の事を指す。
カンムスは、空母や戦艦といった各艦種への適正を見出された少女達が、かつて実在した
それらの艦の「概念」を顕現させ、自身の心臓に融合し「コア」として機能させる事で初めて
「カンムス」になる。それと同時に、艤装の具現化・使用が可能となる。
これに対して深海棲艦は、海上の戦いで沈んでいったあらゆる者の「負の感情」が集まり、
艦種毎に依代無しで顕現する。
両者のコアは、共に艤装を使用する場面において強大なエネルギーを供給する。
それは例えば、遠くの敵に対して精密な砲撃を行ったり、空母の場合は艦載機の発着を
実施したり、戦闘中のダメージを障壁で緩和したり、海の上を航行したり・・・と多岐に渡る。
この様に艤装は攻守で力を発揮するが、その供給元となるコアの効力には残念ながら限界がある。
一撃必死の攻撃を唐突に受けたり、一回の戦闘中に集中砲火を受け「大破」まで被弾した状態で
次の戦いに臨み、そこで致命傷を受けると心臓に宿っている「概念」が消失する。
それと同時に心臓も停止しカンムスは死に至る。
また実在の艦をベースにしている為、「燃料・弾薬」と言った厄介な概念も同時に顕現している。
その為カンムスには適宜補給が必要であり、どちらかが欠けていても戦闘継続は困難となる。
副長が切り替えたのは、そのコアが発する独自の波長を艦種別に投影するモードだった。
これなら爆風の影響を受けない為、戦果が容易に確認できる。
「・・・やっぱり殲滅はできない、か。戦2・空2・駆6が残存です」
「何言ってるの、上出来よ。味方は健在?」
機長の問いに対し、副長がモニタを探す。
小刻みに動いているアガノのマーカーをまず見つけた。案の定、慌てている様に見える。
そのすぐ後ろに、密接したクマノ・マイカゼ両名のマーカーを見つけ、内心ほっとしながら
機長に報告する。
「全マーカーを確認。アガノさん・クマノさん・マイカゼさん、皆さん健在です」
「・・・ふう。いつも通りだったわね、副長」
「ええ、全くもって」
機長と副長は、互いに親指を挙げた。
機内に二人の笑い声が響く。
その少し後、機長が告げる。
「・・・さあて、お仕事は定時に完了。燃料も残り少ないし、打電を飛ばして帰投しましょう」
「了解です!ふー、打電打電、と。ええっと・・・」