南西の夜   作:ひよひよ

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改二前の、瑞鶴の偏りの無い搭載機数が個人的に好きでした。


Act2:”触接”

海抜0m。南西諸島沖合。

戦闘海域から西に3.5km程離れたポイント。

 

 

 

海風は微かにそよぎ、小さな波の音だけが静かに響いている。

キソ・ズイカク・ツェペの3名は、この海域で先程から待機していた。

 

”警戒”という名の、体のいいサボりであった。

 

退屈そうにしていたズイカクの手元から電子音が鳴る。

上空の”スケアクロウ”から送られてきた打電であった。

籠手に装着されたモニターで内容を確認し、キソとツェペに告げる。

 

「カラスさんから打電よ。ゼツ・コウ・チヨウ、と」

 

キソが肩をすくめて答える。

 

「ああ、分かってるよ。ここからでも爆風が見えたしな。やっぱり正規空母様は違うねえ」

 

「いや、あれ程の大きさの機体を正確にコントロールする技量、そして搭乗員の練度・・・

 脱帽ものだな」

 

対するツェペは同じ正規空母として、素直に感心して見せる。

その賛辞を受けて、ズイカクは得意げに小さな胸を張った。

 

「ふっふーん!提督さんとあたしのとっておきよ!・・・まあ、燃費はすっごく悪いんだけどさ」

 

「やれやれ、ご大層なこって。・・・・・・っと、おいアガノ、甲標的そろそろ通過するぞ」

 

手持ちの懐中時計で時間を計っていたキソが、第一線に居るアガノに無線で連絡する。

無線から、爆発によるノイズとアガノの殆ど悲鳴に近い叫び声が聞こえてくる。

 

『あち!あち!!ひのこ、火の粉が服に!!!」

 

「おーいアガノ、聞いてるかー」

 

再度呼びかけるも返事は無く、代わりにアガノの文句が聞こえてくる。

 

『もぉ、やだやだ!だからアガノは行きたくないって言ったのに!あーーもうっ、

 ヤハギのばかあー!』

 

 

軽巡アガノと駆逐艦マイカゼは、今日が初めての南西諸島沖出撃だ。

マイカゼに至っては初めての実戦である。

何も知らされていない状態でいきなりあんな「開幕爆撃」が来たら、確かにパニックに

なるのも無理はない。

キソは先程より大きな声で、端的に要件を告げる。

 

「アガノー。甲標的いくぞー」

 

『・・・へ??』

 

ようやく無線に気が付いたのか、間の抜けた声が聞こえる。

 

「右・注・意。どうぞー」

 

『どうぞー、って・・・わわっ、ひゃあああ!』

 

無線から甲標的の爆発音と、それに負けない程のアガノの悲鳴が聞こえる。

 

『て、敵駆逐3体へのめ、命中確認しましたあ!!』

 

「了解だ」

 

動転しながらも律儀に報告するアガノに少し笑い、キソはそのまま続ける。

 

「増援の警戒は続行しておくから、まあ気楽にな。マイカゼにも伝えておいてくれ」

 

『気楽に、って!っていうか、な、なんなの?さっきの大爆発はぁ!?」

 

「何って・・・あー、ズイカク」

 

「ん?なに?」

 

自分が説明しても混乱を深めるだけだと思い、ズイカクに振る。

 

「アガノがさっきの爆発の説明を求む、だとさ。大層お怒りだぜ」

 

「あー、やっぱり・・・」

 

振られたズイカクは、ばつが悪そうに無線越しのアガノに答える。

 

「あー、えーっと、あれよ・・・艦載?機からの魚雷投下?なんちゃって」

 

『艦載機なんて影も形も見えなかったんですけど!魚雷にあるまじき爆発だったん

 ですけどっ!!』

 

「えへへ、ごめんごめん。説明しないでつい、うっかり」

 

『あんたのうっかりで死ぬところだったんですけど!!せめて説明してから

 やってよお!!!』

 

「うぐっ・・・ごめんなさい」

 

アガノから至極当然の突っ込みが入り、ズイカクは謝るしかなかった。

 

(うーむ・・・)

 

ここは自分が取り持たねばと思い、キソがフォローを入れる。

 

「まあまあ、落ち着けってアガノ。今の一撃のお陰でほぼ壊滅できたんだぞ?」

 

『アガノ達もほぼ壊滅されるとこだったんですけど!?殺す気かあーっ!!!』

 

 

 

完全に逆効果であった。

 

 

 

無線が壊れんばかりの絶叫に、キソは思わず耳を離す。

確かに悪いのは100%自分だったので、ズイカクが謝罪を重ねる。

 

「ごめんっ!本っ当にごめんね?戻ったらアイス奢るからさ!」

 

『うーーーー・・・』

 

「アイス」という単語に反応し、アガノの怒気が少し和らぐのが判った。

 

 

カンムスの精神状態はコアと直結している為、戦闘時においては特に重要である。

例え「大破」状態で残弾が少ない絶望的な状態でも、生きようとする意志が強く働けば

コアが限界を超えて稼働し、通常では考えられない回避性能や攻撃力を見せるケースも

過去には存在した。

 

だが、逆に死への恐怖・絶望といった負の感情に支配されれば、コアの力も弱まりすぐに

被弾・轟沈してしまう。その為、些細な精神の「ゆらぎ」に注意を払う事が、勝利を収める

為の大切な要素となってくる。

 

 

これでいけるか、とズイカクが思っていると、アガノが何かを呟く。

 

『・・・・・・ェも』

 

「え?なに??」

 

『パフェもって言ったの!!!フルーツ特盛ボーキマシマシバケツパフェも!!!!」

 

「えぇーー!!ちょ、あれは高す」

 

『返事はっ!?』

 

「は、はいっ!わかりましたっ!」

 

 

フルーツ特盛バケツパフェ(ボーキマシマシは別料金)。

甘味処・間宮の裏メニュー、その中でも一等お高いスイーツであった。

 

 

これを条件に加えたアガノに対し、ズイカクは不満を言おうとしたが、アガノの殺意すら

こもった言葉に遮られ、条件反射かつ敬礼付きで了承してしまっていた。

 

(ふーむ・・・)

 

やはりここは自分が取り持たねばな、とキソが再度フォローを入れる。

 

「・・・お前、そんなに食っていいのか?腹の肉がこれ以上だらしなく」

 

『う、う、うるっさあーーーいっっっ!!!』

 

 

 

完全に火に油であった。

 

 

 

というより、フォローにすらなっていなかった。

バカッ余計な事言わないでよ!とキソをぎろりと睨み付けながら、ズイカクがとりなす

ように言う。

 

「とっとにかく!パフェでもなんでもご馳走するから!だから後もうちょっとだけ・・・ね?」

 

『むうー・・・』

 

そもそもこの時、アガノの視界には敵艦隊が既に捉えられていた為、戦闘を避けるのは

不可能だった。

が、それを差し引いてもこの状況について文句を言わなければ、アガノはやっていられなかった。

 

『・・・ちょっとって言っても、戦艦もいるし。こっちはたったの3人だし・・・っていうかそもそも

 アガノは対潜海域が専門だし・・・』

 

「相手は形式通りの動きしかできない連中だぜ?お前の練度なら軽くやれるさ」

 

『そもそも今日だってさ、私は提督日誌付けるのに忙しかったのにさ、ヤハギが 「さぼって

 いるくらいなら出撃してきなさい!」って押し付けてくるし・・・ぶつぶつ」

 

関係のない愚痴まで出始めてきたので、煙草に火を付けながらキソが強引に締める。

 

「じゃあ頑張れよ。この一箱が終わるまでには戻ってきてくれよな」

 

『無茶言わないでよお!』

 

アガノの情けない返事。

と、ここで無線に別の声が入ってくる。

 

『あら、舐められた物ですわね?』

 

 

 

第一艦隊旗艦、クマノ。

交戦間近の状況下でも、その声はいつも通り優雅で、余裕すら感じさせた。

 

 

 

『その一本目の灰を三回落とすまでには終わりましてよ?』

 

クマノの軽口を受け、にやりとしながらキソも返す。

 

「そりゃあいいな。練度も上がってお前もハッピー。節煙になって俺もハッピーだ」

 

『ふう。その銘柄、臭いが強くて私はどうも好きになれませんわ。・・・行きますわよ、

 マイカゼさん』

 

『う、うん!』

 

マイカゼの緊張気味な声も聞こえる。

 

『ちょ、アガノもいるんですけど!?』

 

『あら・・・忘れてましたわ』

 

『ばかあーーっ!!!』

 

「やれやれ・・・任せたぜ、お嬢様」

 

溜息をつきながら、無線を切る。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

騒々しい会話が途切れ、辺りは再び静かな波の音に包まれる。

ズイカクとツェペを振り返りながらキソが言う。

 

「さて、暫く暇そうだな・・・トランプでもして待つか?」

 

「私パース。うーん、こっちもかわいいわね・・・」

 

ズイカクは既にリラックスモードで、航行用スラスターを器用に使って寝ころびながら、

持参のファッション誌を読み耽っていた。

肩をすくめるキソに、ツェペが言う。

 

「チェス盤を持ってきている。一局どうだ、キソ?」

 

「おう、いいぜ。確か・・・将棋と似たようなルールだったか?まあ、やりながら教えてくれ」

 

「了解だ。のんびりご教示させて貰うとしよう」

 

「ああ、向こうも時間がかかりそうだしな。それに今晩は久々の――」

 

紫煙を燻らせ灰を落としながら、キソが夜空を見上げ呟く。

 

「―――満月だからな」

 

 

 

第一線の仲間達に少しだけ思いを馳せながら、キソは駒を取り、盤面に向き合った。

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