★★★注意★★★
「流血描写・及び残酷な描写」が含まれています。
苦手な方はご遠慮頂くか、ご了承頂いた上で閲覧頂けると幸いです。
そういえば野分を全然育てていないなあ、と書きながら思い出しました。
音。
何の音。
風切音。
上。
艦載機。
迎撃。
「ッ!?」
反射的に連鎖した思考から、私は肩の10cm高角砲を直上に撃っていた。
それとほぼ同時に、艤装の右側に衝撃が幾つも走った。
「ぐあ・・・ッ!!!」
障壁がダメージを緩和してくれたが、それでも鈍い痛みが体の上から下へと突き抜ける。
イ級2体に威嚇砲撃をしながら、私は1回転して体制を立て直し、先程攻撃を食らった方向を
見上げた。
月に照らされながら、空母ヲ級の艦載機達が上空へ旋回して行くのが見えた。
(いっつつ・・・。流石に当たらなかったかー。でも、今度は)
今度は、落とす!
イ級達に注意を払いながら、私は胸元の高射装置を起動させた。
キュイ、という小さな起動音と共に、視界が対空迎撃モードに変化する。そのまま視線を
宙にゆっくり走らせると、高射装置が敵艦載機を捉え、マーカーが次々に点灯されていく。
(8機・・・か)
一度に対応できるのは3機が限度。私は艦載機の編隊中央部をじっと見つめる。
距離はまだ少しあるが、敵編隊は旋回を終えて、私目がけて既に向かって来ている。
(落ち着いて・・・)
ピッピッピッピッ・・・と高射装置が鳴り始め、前列3機のマーカーの色が白から黄色に変わる。
(落ち着け・・・もうちょい・・・)
前列の艦載機が魚雷を投下するのが見えた。距離は更に近くなる。
汗が頬を伝うのを感じながら、私はまだ動かず、主砲と高角砲を構えて3機を見つめ続ける。
(もう、ちょい!)
時間の流れがゆっくりに感じ、もどかしい。彼我の距離はもう300mもない。
艦載機達が一斉に機銃を撃ち始め、水柱がどんどん私の方に迫ってくる。
高射装置の音がピーーーという一段高い音に変わり、3機のマーカーが赤くなった。
「いっっけぇ!!!」
叫びながら10cm高角砲を1発と、12.7cm連装砲を2発撃つ。
そして、そのまま全速力で走った。
敵艦載機のいる前方へ。
艦載機最前列は私の砲撃を見て、回避する為に機銃掃射を止め左右へ急旋回した。
3発の砲弾はそのまま真っ直ぐに飛んでいき、外れる。
が、その直後弾道が「直角にその方向を変え」、回避運動中の艦載機に命中した。
高射装置による、砲弾の追尾効果だった。
敵空母の攻撃に対する対空防御要員として、私達が抜擢されている最大の理由。
何度も開発実験を重ねた結果、「高射装置付10cm高角砲」を私達「駆逐艦」が装備した
時のみ、特殊効果として「敵艦載機に限定して主砲弾のロックオン・追尾機能」が発動する
事が最近判ったらしい。それ以降、高射装置と対空砲の装備構成が推薦されている。
・・・まあ、この辺は全部ハツカゼからの受け売りで、私も詳しい原理とかは正直分かっていない。
「艦載機をよーく落ち着いて狙えば、3発までは自動で当たってくれる」程度の理解だ。
炎に巻かれながら艦載機が落ちていくのが見える。
残りの艦載機達は編隊を立て直して再度機銃を放ってくる。
けど、もう遅い!
敵は左列に2機・中央列に3機・右列に3機の編隊だった。前列中央先頭から
一列分の3機を撃墜した事で、中央部分に活路が見えていた。
私はそこに飛び込んでいたのだった。
「装填っ!」
中央を抜けながら、砲弾の装填を宣言する。私の声に反応し、12.7cm連装砲と
10cm高角砲の各予備弾が自動装填されるジャキンという音が響く。
その音を聞きながら、私は前方に高く宙返った。視界の上に、また月が映る。
綺麗だった。
反転する視界の中、両腕で連装砲を構え狙う。
目線は眼前の2機へ据えたまま。高射装置もばっちり起動中だ。
高射装置のロックオン完了音が鳴る。にや、と私の片頬が自然に上がった。
「撃ぇっ!!」
再度連装砲を放つ。
バシバシッという確かな音と共に、艦載機2機への追撃が決まる。残りは3機!
着地すると同時に砲弾を再装填する。
私は更に速度を上げ、ひたすら前へ前へ、ジグザグに航行する。
これ以上弾を使ったら本体が叩けなくなるので、敢えて砲撃は行わない。
艦載機の機銃攻撃が後ろから続いてはいるが、狙いが定まらず、空しく水飛沫を上げただけ
だった。
(見えた!)
最高速度で走り抜けたその先に、空母ヲ級が立っていた。
夜の闇でも煌々と光るその赤色の瞳から、エリート級の個体である事が伺える。
少し遅れて、視界左上に電探からの情報「GRADE:E」の文字が表示されてくる。
(エリート級、か・・・でも!)
艦載機を全て放った空母は置物同然。訓練で何度も言われた、艦隊戦におけるセオリーだ。
動きも素早く、残弾もまだ残っている私の方が有利である事は間違いない。
向こうからすれば不利な状況に思えるけど・・・その冷たい表情は変わらないままだった。
(まぁいいけどね・・・仕留めるだけだから!)
相手がエリート級だろうとフラグシップ級だろうと、私は私の役割を全うすればいい!
速度を落とさずに、私は間合いを詰めようと目一杯高く跳んだ。
「・・・・・」
それを待っていたかのように、ヲ級の目が一際強く、赤く尾を引いて光った。
(・・・何?)
ぞわっ、と私の体が本能的に震えた。
ヲ級の頭部格納庫が開き、そこから直掩装備と思しき無骨な銃の先端部分が見えた。
電探が即座に武装識別情報を視界に送信してくる。その情報を見て、私は目を疑った。
(あ・・・・・・"アヴェンジャー"っ!?)
機関砲GAU-8。攻撃機・または爆撃機搭載用では最大級のサイズ。
「復讐者」の通り名に恥じぬ火力も併せ持つ、対戦車ガトリング砲だった。
(やばい!!!)
空中にいる為、身動きが取れない。それに加えて加速の勢いも殺せない。
私は両手で顔をガードしながら、障壁を前面に最大展開させる。その直後銃口が回り始め、
重低音と共に銃弾が撒き散らかされた。30mm口径弾の雨が、猛烈な勢いで降り注いでくる。
(ぐうっ!重、い・・・!!)
ビシシシシシッッ!と、障壁が連続で銃弾を受け止める嫌な音が響く。
ガラスに罅が入る時のように、障壁がびしり、びきりとひしゃげ始める。
保たない事は明白だった。
障壁はほぼ剥がされ、弾丸が頬を掠め、艤装と体を何ヶ所も貫いてゆく。
「あぎぃッぐあああぁうううゥゥ!!!」
動けない私は、単なる的に過ぎなかった。
艦橋部分のアンテナがへし折れ、吹き飛んで行く。
右脚部のスラスターエンジン部分にも被弾し、爆発する。
その衝撃で右足が本来曲がらない角度に捻れ、骨が折れ砕かれるボギリという音が脳髄にまで
響く。
「ぎがぁぁああああッ!??」
激痛。激痛。激痛。
弾丸が艤装を貫く度に、内臓を鷲掴みにしてぐちゃぐちゃに握り潰される様な感覚が私を襲う。
「ぐごッ!?ふ、うっ・・・ぅごぶッ!!!!」
胃から逆流してきた大量の血が、堪えきれずにビシャビシャと吐き出される。
痛、すぎる・・・!
真っ白に灼け付くような熱さと痛みに、意識が何度も途切れそうになる。
(・・・散っ々、やって、くれちゃって・・・・・・く、そ・・・!!)
今私の意識を辛うじて繋ぎ止めているのは、目の前の敵へ対する「怒り」だけだった。
それだけでヲ級の銃撃に耐えながら、私は止まる事無く全力で
「せええええッのおおおおおおッッ!!!!」
叫びながら、斜め下方へ稼働可能なスラスターを全て出力し、ヲ級に突撃した。
「ッ・・・・?」
私を見上げる鉄面皮が、若干揺らいだように見えた。
「ワン!!」
重力・加速度・意志。それら全てを詰め込んだ左拳が、ヲ級の顔面にめり込んだ。
ゴギッ・・・・・!
「ガッ・・・!?」
物凄い音と共に、ヲ級の体が大きく右に傾ぐ。頸椎部分に過大な衝撃を受けた為か、
その目の焦点は虚ろになり、ガトリング砲もその動きを一時停止する。
絶好のチャンスだった。
着地と同時に私は左足を軸にし、右足を下げて右拳を大きく後ろに降りかぶった。
拳と右足に力を込めると、気絶しそうな程の痛みが全身を襲う。けれど、
(最低3倍にして、返す!!!)
もう、止まれなかった。そのまま渾身の威力で
「ツッ!!!!」
右拳を再度顔に叩き付け、
「スリーッ!!!!!!」
12.7cm連装砲を全弾放った。ヲ級の体がパンチの衝撃で大きく吹き飛び、
砲弾を喰らった事で更に少しだけ飛び、そして爆発した。