ニート手前な駅長さん   作:いろは

10 / 12
レッド⑤

「残念ながら君のピカチュウに攻撃を当てることはなかなか容易なことではないらしいな。【だいもんじ】も【かえんほうしゃ】もまともにくらってくれないとはなんとチャレンジャー泣かせなチャンピオン殿だ」

 

 くーちゃんだって当たりさえすれば一撃でおとせる自信はあるんだが。

悠然と構え佇んでいる彼女は挑発するようなことを口にしたけれど、多分本人にそんなつもりはないんだろう。これまでのバトルで彼女の実力はぼくだって存分に味わっている。

 つまり、まともに一撃喰らったら負ける。

 それはエーフィ相手でも同じだと考えるのが妥当。いかに攻撃を回避してこちらの攻撃を当てるかがこのバトルの鍵となる。

 

 逆に彼女は一撃当てさえすればいいのだから、どうやって当てるかが問題になってくるだろう。エスパータイプのエーフィだから、さっきぼくがラプラスに使わせた【サイコキネシス】みたいなことをされると非常にまずい。決まってしまえば拘束をどうにかするより前にダウンしてしまう。

 

 幸運なのは、もともとあれはぼくが考えた使い方だから、攻略法もある程度わかっていることだ。

 あの【サイコキネシス】のウィークポイントは、広い範囲を圧す代わりに一部分にかかる負荷が少なくなってしまう点。だから実際は、まず軽く重圧を加えることで動きを遅くさせ、相手のポケモンが戸惑って上手く動けないうちに一部分に力を集中させねじ伏せるという二段階の攻撃になっている。第一段階で動きが止まらなければ、うまくターゲットを絞ることができないところが難点―――そこを逆手にとる。

 ピカチュウのスピードなら、多少の負荷があっても十分動ける。どうにか狙いを定めようと集中するエーフィを速攻で落としにいく!

 

「ピカチュウ!「故に質より量といこう。下手な鉄砲数打ちゃ当たる、つまるところ数こそが強さだとの考え方もある。―――ちぃくん、【シャドーボール】で弾幕を展開」……ぇ、」

 

 道化染みた素振りで彼女が腕を振るうと、動きに合わせるようにシャドーボールが宙に作り出されていく。普段バトルで見ているのに比べれば半分くらいの大きさだけど、数は2倍どころの話じゃない。20を超えた時点で数えるのが馬鹿らしくなった。

 

「―――放て」「ふぃいいいいっ」

「ッ【こうそくいどう】【でんこうせっか】でかわすんだ!」「ぴっ!」

 

 普通の攻撃と違って矢継ぎ早にピカチュウに向かって撃ち出されるシャドーボールはヒュドドドドドド、と床にぶつかっては鼓膜を揺さぶる騒音をたてる。

 躱した先にすかさず撃ちこまれるそれは一瞬でも足を止めたら一つが当たり、一つが当たれば連続ヒットするのが目に見えるようだ。正直、避けるのにいっぱいいっぱいで攻撃するどころじゃない。欲張って攻撃しようとするその瞬間に勝負がつくだろう。

 

「うーん、これでも避けられてしまうとは。足りないのは速さか、それとも数か。『そこ、弾幕薄いよ!』とでも言うべきか?スクライドねたに走るべきか」

 

 やめてほしい。これ以上早かったり数が多かったりすればどう避ければいいんだ。あと後半は意味がわからない。

 ようやく数が尽きてきたシャドーボールに一息つけるかと思いきや、ぱん、と両手を合わせていたずらっぽく目を細めた彼女にぞわりと悪寒が走る。

 

「まあふざけた発言はこのくらいにして。ふふ、この手があった」

 

 妙案だと微笑む彼女はちぃくん、と彼女の相棒の名を呼んだ。

 

「動きながら【スピードスター】を。いいと言うまで続けて」

「? …【でんこうせっか】で間合いに入るんだ」

「かわして【スピードスター】。当たれば連撃がくるだろうから回避を優先に、しかし隙を見てさらに【スピードスター】。狙いは適当でいい」

 

 さっきの【シャドーボール】はエーフィの背後一面に浮かべられた大量のシャドーボールが撃ちだされていたから、数の多さと次の行動地点に撃ちこまれる狙いの正確さに反撃する隙がなかった。けど、スピードスターじゃそんなことはできない。一体何を考えて―――

 

「必中技の必中技たる所以を知っているかい?」

「ひっちゅう…?」

「普通の技との差別化は集中して操作するでもない半自動的なその追尾性、ホーミング機能にある。要は――狙った獲物は逃がさない攻撃だ」

「ピカピッ!?」

 

 気づけばあらゆる方向から【スピードスター】がピカチュウに向かってきている。どういう――まさか、見当違いの方向に撃ったと思っていた攻撃がピカチュウに向かってきているのか!?

 さっきはある程度一度に撃ちこまれる数が決まっていたけど、今度は違う。避けるスペースすらない。

 

 こんなの、躱せない。――かわせない、なら!

 

「―――回転しながら【十万ボルト】!スピードスターを相殺するんだ!」

「! カウンターシールドだと……平行世界の電波でも受信したのか?」

 

 ピカチュウが地面でくるくると回りながら全方位に繰り出した十万ボルトは、電撃で次々にスピードスターを打ち消した。電撃の余波はスピードスターを相殺するだけじゃなく、エーフィにまで届いた。するりと避けられてしまったけど。

 攻撃と防御を同時にできる技、か。使えるかもしれない。

 

「主人公補正もここまでくると本当になんというか……というか十万ボルトの予想外の高威力についてkwsk…AS極振りじゃないのか話が違うっていうかこのピカチュウ510じゃないだろ努力値ェ…」

 

 よくわからないことをぶつぶつ言っているけどひとまず意表をつけた今がチャンス。

 

「一気に決める。【ボルテッカー】!」

「おっと。【フラッシュ】で目くらましだ」「ふぃ」

「ぴかっ!?」

 

 一瞬視界を真っ白に染めた強烈な光に、ピカチュウが戸惑った声を上げる。間近で浴びた光で目がちかちかしてエーフィがよく見えないんだろう。離れていたぼくも少しまだ目がちかちかしてるくらいなんだから。それでも離れていたぶん、ぼくは回復するのが早かった。少なくとも、影くらいははっきりと像を結んだ。

 

「止まるな!真っ直ぐ、そのまま真っ直ぐ行くんだ!!」

「ピカ…ぴかちゅ!ピカ、ピカ、ピカ、ピカ――」

 

 ぼくの言葉を信じてピカチュウは動きを止めることなく、徐々に強さを増していく電流を纏って突進していく。彼女はそれを見て何事かを小さくつぶやいたように見えた。応えるようにエーフィが低く構える。

 

「【まもる】」

「そのまま【ボルテッカー】でぶち抜け!」

「冗談、抜けるとでも―――嘘だろ」

 

 【まもる】でできた壁にぶつかった衝撃に弾き飛ばされることなく、さらに奥のエーフィに向かって足を止めないピカチュウの勢いに耐えかねたのか。ぱき、ぱきと場違いに細く繊細な音が聞こえて、壁に亀裂が奔る。

 まだ壁は壊れたわけじゃないけれど。でも、ぼくはぼくの相棒を信じている。

 

「いける―――いけええええええええええええええええ!!!」

 

 ぼくの声に応えるように、さらに電流が勢いを増す。ピカチュウの声が大きくなる。電気と壁がぶつかる音と光が広がっていく。

 

 そして。

 ぱりぃん、と、ガラスが砕けたような音が聞こえた。

 

「そんなッ――――なんて言うとでも思ったかい?今だ、【あなをほる】」

「なに、」

 

 ちゃあっ!!?と聞こえた悲鳴がピカチュウのものだと認識するのに時間がかかった。そんな、確かに、エーフィに【ボルテッカー】を当てたはずなのに―――!

 

「おやおや、最初に見ただろう?【みがわり】だよ」

「いつの間に……ッ」

「うーむ、戦闘中のネタばらしは負けフラグなんだが。まあ勝ちは確定したようだし言ってもよさそうではあるか」

「…ピカチュウっ!」

「ぴぃ……」

 

 よろよろと起き上がるピカチュウは弱点の攻撃をもろにくらってボロボロだ。それでも、立ち上がってくれた。まだいける。

 

「勝負はまだ、終わってない」

「残念だが、それはない。君は忘れているのか、それとも知らないのかは知らないが―――」

 

 ばちり、と大きな音を立ててピカチュウに電流が奔った。

 

「【ボルテッカー】は相手に与えたダメージの1/3を反動として受ける。ただでさえ体力のないピカチュウに、この反動がいかに致命的か。わかるだろう?」

 

 彼女が言い終わると同時に、立ち上がったピカチュウの体勢がふらりと揺らぐ。

 

「ピカチュウ!!!」

「ピカチュウ戦闘不能。――私の勝ちだ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。