ふん、ふふーん♪と鼻歌を歌いながら軽い足取りでギアステーションを歩く。
すれ違った職員達がちょっと不思議そうな顔をしてこっちを見て、ぼくの手元を見て納得したような面持ちでまた仕事に戻ってく。
「またバチュルが生まれたのか」「ボスも好きだなァ」なんて声が聞こえてきたけど、ざんねんざんねん!全然違う!
これは前の駅長の娘さんのリオちゃんにあげるモンメンのたまご!ジャッジくんに見てもらったわけじゃないから、強いコなのかはわかんないけど、でもたぶん強いコ!リオちゃん、自分からポケモン欲しいなんて言うの初めて!いっつも部屋の中だから滅多に会わない!そういうのなんていうかぼく知ってる!ニートってテレビで言ってた!
でもニートはよくないこと!だからこのモンメンが強いモンメンになって、リオちゃんがバトル好きになれば解決!お仕事できる!みんな安心!みんなでスマイル!うん、それってとっても素敵!
そろそろたまごが孵りそうだから届けにいかないと、ってノボリが言ってたから、ぼくが引き受けた。ノボリ、お仕事いっぱい。書類もいっぱい。ほんとはぼくも書類いっぱい、だけどぼくが持っていくっていったら、ぼくのぶんの報告書も書いてくれるって言った!だからたまご運ぶだけで1時間休憩できる!トレーナーが来なかったらもっと休める、ぼくも嬉しい、ノボリも嬉しい、リオちゃんも嬉しい、みんなも嬉しい!いいことずくめ!
久しぶりに行くリオちゃんの部屋への道を思い出しながら進んでいくと、キレイな薄紫のポケモンがいた。近くにトレーナーもいないみたい。どこの子かなって思ったけど、思い出した。ノボリが言ってた、リオちゃんのイーブイ進化したって。だからこの子はきっとリオちゃんのエーフィ!
バチュルもかわいいけど、エーフィもすっごくかわいい!だからぼく、にこにこしながらエーフィにたまご見せてあげることにした。
「見てみて!これ、モンメンのたまご!エーフィの弟分!うれしい?」
最初は興味がなさそうにしてたけど、ぼくの言ったことに反応したみたい。じっとたまごを見てると、ふっとエーフィとたまごを不思議な光を取り巻いた。これ、ねんりき?
自分で運びたいのかな、って思ってみてたけど、ぼくの手から浮かんだたまごが急にぼとって床に向かって一直線!すごくびっくりしたけど、なんとかキャッチした。割れてないし、中からもちょっと音が相変わらず聞こえてくる。無事みたい。よかったあ。
「だめ、エーフィ!気を付けないと割れちゃう!」
めって怒ってみたけど、でもエーフィはちょっと体を低く構えて、ぼくのこと睨んでる。ぐるる、って唸ってエーフィの体がまた光る。もしかして、たまご壊すつもり?そんなの絶対だめ!
ぼくはモンスターボールを取り出した。
「アイアント、エーフィ止めて!安全運転一番大事!マナーの悪い子お仕置きタイム!」
「きゅいいいぃいいいぃ!」
苦手な虫タイプのはずなのに、エーフィ全然ひるまない。むしろかかってこいって言ってる気がする。むう、ちょっとリオちゃんに悪いけど、ちょっと懲らしめちゃえアイアント!
アイアントが飛び掛かったそのとき、ついさっきまで迎え討とうと身構えてたエーフィがぱっとそっぽを向いて反対方向に行っちゃった。
えっ?てぼくとアイアントがびっくりしてたら、リオちゃんの足にすり寄りながら、さっき唸ってたのとは全然違う甘えた声だしてる!どういうこと?
困ってアイアントと顔を見合わせてると、エーフィだっこしたリオちゃんがこっちに来た。エーフィはなんか、きゅるんってしてて、さっきまでのすました感じとかがなくなってる。このこ、ほんとにさっきのエーフィ?
「クダリ?なんでアイアント出てるの」
「え」
「別にだめとは言わないけど。なんで?お散歩?」
「違う!ぼく頑張ってたまご守ってたんだよ!エーフィがリオちゃんにあげるモンメンのたまご割ろうとするんだもん!」
え、ってびっくりしてるリオちゃんはエーフィと目を合わせてじっと見つめてた。最初はこっちを睨んでたけど、リオちゃんの視線に耐えきれなくなったのか、エーフィのぴんって立ってたしっぽがだんだんうなだれていって、リオちゃんは困った顔をする。
「…ちぃくん」
「ふぃー…」
ぺたんと耳を伏せて、こころもち身を小さくしたエーフィがリオちゃんの様子を窺ってる。そんなエーフィを見て、リオちゃんは真顔で言った。
「モンメンのたまごは、おいしくないと思うよ…?」
「ぴ!!?」
あんまりにもナナメウエな発言にエーフィもびっくりしてぴんって全身の毛を逆立ててる!ぼくもびっくりであんぐり!でもリオちゃんはそれをエーフィが知らなかったんだと思って、「だって…綿っぽいし、草タイプだし、きっともしゃもしゃするよ。口の中渇きそう。久しぶりにポフィン作ってあげるから、たべちゃだめ」なんて言ってる。
たぶん違うと思うけどなあ、なんて心の中で呟いてると、手にあったたまごからピシ、って罅が入る音がした!あわててたまごをリオちゃんに渡すと、床に下りたエーフィが恨みがましそうにこっち見た。リオちゃんのだっことられちゃったからかな。でも、このままじゃモンメンのおや、ぼくになっちゃうし。
ぴしぴし、ぱりん。
なんとか無事に生まれてきたモンメンにリオちゃんはにっこりして、前から考えてたんだっていう名前を教えてくれた。それを聞きながらエーフィは、イライラして尻尾でべしべし床を叩いてた。
「そうですか、そのようなことが…」
「そう!ぼくびっくりしちゃった!エーフィ、リオちゃん大好き。でもひどい!」
「……私もアイアントを持っておくべきだったんでしょうか…」
ぼそって呟いてノボリはどこか遠くの方を見てる。横でなんでかシャンデラが落ち込んでるけど、どうしたのかな。
「ああ、そういえば、リオさまはなんとモンメンを名づけられたのですか?」
「まくら!」
「…え?」
「だから名前、まくら!だっこして寝るって言ってた!」
「………」
「ノボリ?」
「……いえ、ああ…そういうことですか…」
彼女が部屋から出てくる日は遠そうですね、とノボリはなんだか疲れた顔して言った。
んー、って返事をしながら、ぼくはモンメン鍛えてあげればなんとかなるかなあ、とか考えた。