不思議な空間が、広がっていた。
光る壁に突っ込んでいったと思えば、消えていく人影。
がやがやと人が集まっているところでは、物を売っていたり、なにか生き物同士を戦わせていたり、なにやらタマゴを持っていたり、交渉をしていたり、さまざまだ。
しかしそれだけ人がいるのに建物は一切なく、美しい自然がそのままの形を保っている。
不思議に思ってきょろきょろしていれば、たまたまこちらを見たらしい男性が、近づいてきて「新入りさんか?」と尋ねてきた。なんのことだか分からず首を傾げれば、「やっぱり新入りさんだ」とため息をついた。なにかを言い返す暇もないまま、「ついてきて」と腕を引かれる。抵抗してもよかったが、とりあえず大人しくついていくことにした。
少し歩くと、銀色の毛皮が見えた。とてもふわふわもこもこのもふもふした気持ちよさそうな毛皮だった。男性は迷わずそこに歩いていくと、よく見ればあった人影を揺らし始めた。
「起きてくださいよ、ほらおーきーてー」
「うぐう……あと300秒…」
「何故秒で言ったし。ほらほら、新入りさんですよリオさん!ちゃんと説明してあげないと可哀そうでしょう。なにがなんだか分かってませんよこの子」
もふもふした狐のような生き物の毛皮にくるまって、さらに別のもふもふした生き物を抱きしめて、彼女はいた。女性と呼ぶには幼く、少女と呼ぶには育ちすぎている。目はまだとろんとしていて、舌足らずな口調も合わせ、まだあまり頭が働いていないようだ。
「ちょっと、まって」
言われて大人しく黙って待つ。ここまで連れてきてくれた男性が「ごめんねー、もうちょっとしたら起動すると思うから」と言った。こくり、と頷きを返す。
「おしごと、」と呟きが聞こえた。彼女が呟いたようだった。「おしごと、おしごと、おしごと、おしごと、」ぶつぶつと何回も呟いたかと思うと、一度目を閉じてかっと目を見開く。びびって後ずさった。しかし彼女はそんなことは気にもしないといった体でさきほどのとろんとした表情とは全く異なるきりりとした迫力のある表情をしていた。
「やあ、失礼。私は寝起きが悪くてね!いつもなら公私の切り替えもぱっとできるのだが寝ぼけていると数十秒かかってしまう。忌々しきことだがまあ仕方あるまい。さてさて、訊きたいことは多数あるだろうが、私がまず君に言うべき言葉はただひとつだ」
ぱちん、と指を鳴らすとともにどこからともなく駅員のような帽子を取り出した彼女は、それをかぶるとまさにアルカイックスマイルと呼ぶに相応しい、ぎこちなくはあるものの、味のある笑みを浮かべて、電車を見送るように私に向かって敬礼してみせた。
「VRMMORPG「ポケットモンスター」へようこそ!君の世界の我らが友が君のことを歓迎してくれるよう願っているよ!」