「てーりゃああああああ!」
ぼふん!という音と共に現れる人形。同時に、しゅるりと何かが体に根を張って、吸い取られる感覚。
しかし彼は慌てず騒がず口から青い炎の「かえんほうしゃ」を人形に向かって放つ。その威力に耐えきれず消え失せた人形には見向きもせず、その後背後に回っていた本体のエルフーンに「おにび」をぶつけた。
「ぎゃふっ」
「懲りないな、お前も」
呆れたように呟いたキュウコンは、軽く「ひのこ」を放って自分の体に植え付けられた「やどりぎのタネ」を燃やす。大した威力でもない炎は自らのタイプも相まって効果はさらに二分の一。さしたるダメージにはならない。しかしタネを焼かれてしまったエルフーンは「ああああああああああああ!」とこの世の終わりのような悲鳴を上げた。
「ひどいっす!超ひどいっす!マジ鬼畜!!俺の回復ライン断つとかひどい!ついでにおにびぶつけてくるし!やけどとかマジ勘弁してほしいんスけど、やどりぎあっても回復あってないようなものじゃないすか!しかもライン断つし!大事なことだから2回言いましたあ!」
「いきなりこっちにちょっかい出してくるお前が悪いだろうに」
正直「ほのおのうず」で身動き封じてじわじわ体力を削ろうかとも考えたのだ、むしろ実行しなかった自分に感謝してほしい、とキュウコンは思う。
「オレもっと強くなりたいんすよー!いーじゃないすかちょっと倒されるくらいーー」
「相手を選べ。相性が悪いだろうが」
経験値ー経験値ーとぼやくエルフーンにチーゴの実を渡してやりつつ、キュウコンは馬鹿なんだろうかこいつというような目で見た。
この間はエーフィやサーナイトにも同様にバトルを挑んでこてんぱんにのされていた。うん、やっぱり馬鹿だ。草はエスパーと相性最悪だから当然の顛末である。
「マスターと一緒にバトルしてたときは大体タイプ相性悪くても勝てましたもん!やどみがコンボ最高っすね!マスターも最高!大好き!オレいつか草ポケモンの頂点に立てるかもしんね!」
「阿呆か」
やどみがコンボとは、やどりぎのタネ+みがわりという技の組み合わせである。やどりぎのタネは相手にタネを植え付けて、じわじわとHPを吸い取る技、みがわりはHPの四分の一を削って身代わりを作りだすわざである。身代わりは一定以上のダメージを加えると消え去るが、逆に言えば一定以下であればずっとホンモノの代わりにダメージを受け、しかも補助技も無効となる。ついでに身代わりは消えてもホンモノにダメージは通らない。上手く起動すれば、ダメージを喰らわず相手をじわじわ甚振り、一方で自分は完全回復というかなりの鬼畜コンボとなることが可能だ。
「やってみなきゃわかんないっしょ!?手始めにあのエーフィはボコる、絶対いつかボコる。諦めなければ夢はきっと叶うってギアステーションで誰かが言ってたっすよ!」
「あーうん、諦めろ」
「一刀両断!?」
「だから、相性が悪すぎる」
「タイプ程度でオレが負けるって決められるんすか!オレ、ブラックシティにいるビジネスマンのフーディンなら余裕で伸せるのに!」
「いや、特性の問題だ」
「うえ?」
ぽかーんと間抜け面を晒したエルフーンにもういいだろうとそっぽを向いて丸くなるキュウコン。しかしエルフーンはそれを許さず、鼻先に潜り込んで呼びかける。
「え、そこでやめるとかなんて放置プレイ!?すげー気になるじゃないすか!続き!続き!!」
「うるさい。あとお前綿だからあんまりくっつくな静電気でぱちぱちして鬱陶しい」
「お、オレ電気わざも使えたりするんすかね?ひこう技は使えるんすけど。ぼうふう超便利。虫とか草とか一撃っすもん。なかなかあたんねーけど」
「あーはいはい、使えたらいいなー」
「超適当にあしらってる!だがオレ様は諦めないっすよお!ことあるごとに突っかかってくるあのエーフィの野郎伸す手がかり探すまではああああああああ!」
「喧しい…仕方ないだろう、お前『まくら』なんだから」
「理由になってないっす!元はマスターの抱き枕だったのがあいつだったってのは聞いたけど!つかそんなに嫌なら進化しなきゃよかったっしょ!!?」
「主も予想外だったんだろう、まさか『かわらずのいし』から持ち替えてるときにレベルが上がって進化するなんて」
進化してから何日かして、「もふもふ具合が足りない」とか言い出した主が図鑑を見だしたときにエーフィのショックの受け具合はすごかったとキュウコンは思う。ついでにモンメンが孵化した日の機嫌もすごかった。嫉妬の余波でめいそうを限界まで積んだサイコキネシスをお見舞いされるんじゃないかと身構えた。抱き枕ではないものの、主がエーフィと一緒に寝るのをやめなくてよかった。本気で。
「世の中の不条理さを味わってる気分っすー。でもなんでオレあのエーフィに勝てないんすかあ」
「あいつは特性がマジックミラーだからな。やどりぎのタネが跳ね返されて効果がない」
「なにそれチートじゃないすか!」
ついでに言うとやどりぎのタネが発動しなければやどみがコンボはほぼ成り立たない。回復手段もなくみがわりを連発すればHPが減ってジリ貧になるだけだからだ。
「もらいび持ちがおにびしたりすれば逆効果だけどな。あとはちくでんか」
「オレ違いますもん!いたずらごころってマスター言ってましたー」
「知ってるに決まってるだろう。そうじゃないと自分の攻撃よりお前のみがわりが早い説明がつかない」
特性:いたずらごころは、補助技限定ですばやさに関係なく先に技を出させるという性質である。この特性によって、エルフーンはみがわりを出す前に一撃でダウン、という展開を避けられる、のだが――
「ついでにマーマレイドの特性はトレースだ。トレースされて同じいたずらごころ持ちになればそりゃあマーマレイドの方が早くて当然だ」
「さいみんじゅつ喰らって気が付いたら夕飯の時間だったっす…」
「ま、先手を取れない以上マーマレイドを倒すのは諦めるんだな」
「ううう、ママ先輩つええ…」
マーマレイド、とはサーナイトの名前である。よく主人であるリオにはママとかママンとか呼ばれている。…非常に彼女の立ち位置が分かる愛称である。
「うぐう…じゃあせめてエーフィの野郎を伸す方法はないんすかあ、くーちゃん先輩ぃ」
「お前がくーちゃん言うな、気持ち悪い」
「うええ、マスターはそう呼んでるのにぃ」
「久遠と呼べ、久遠と。…まさかお前そのノリであいつのことちぃくんとか呼んでないだろうな?」
「ちぃくんとかあの性悪エーフィにそんな可愛い呼び名不必要っすよ!あいつはエーフィで十分っす!固有名詞で呼ぶ必要性感じねえ!!あいつ何しでかしたかわかってます?殺人ならぬ殺ポケ未遂っすよ!まじ信じらんねえ!!」
「……はあ。ま、お前が勝つとしたら、レベルを上げてから威力の高いワザでゴリ押しくらいしか思いつかんな。自分がいるとき選んでタメなしでソーラービーム連発でもするか?」
「ソーラービーム連発って無茶言わないで欲しいっす先輩。アレ結構溜めるの時間かかるのにぃ」
「だから自分がいるときと言っているだろうが。主が言うには自分の特性は『ひでり』らしいから、ソーラービームの溜めの時間がなくなるらしいぞ」
「え」
きらんとエルフーンの瞳が光る。
「ガチっすか」
「ま、嘘ではなかろうな」
昔は自分が呪われているのだと思っていたものだが、今となってはもはや懐かしい。生命に恵みをもたらす雨を完全に遠ざける黄色いロコンであった自分を嬉々として拾うような変わり者の主と出会えたことは、なによりの僥倖であるとキュウコンは思っている。野生の仲間たちから爪弾きにされたり、人間からは石をぶつけられる等の暴行を加えられ土地を追い出されたりしたものだった。
今、主が住んでいる部屋はそこそこ深い地下にあるため、キュウコンの特性である日照りの影響がライモンシティにまでは届かない。最悪、もしその特性が遮られることがなければ、一緒にずっと旅しようか?と問いかけてくれた主には心から感謝しているのだ。稀に主が地上をうろつくときも、傘が絶対にいらないから助かるねと笑いかけてくれるおかげで、現在ではあまり自分の呪われたような性質も気にならなくなった。
まあ、特性がもらいびだったら最初のやどりぎのタネ、思いっきりかえんほうしゃで自分の体から焼き払えたんだがなあ、と考えはしたが。
なんて、思いっきり思考に浸っていたら、突然エルフーンが「先輩さいこおおおおおおおお!」と奇声を上げたので、思わずびくっと体を震わせてしまった。
「おっしゃ、じゃああとはレベル上げるだけっすね!クオン先輩倒されてくださいよお」
「嫌だ」
「そんなこと言わずに!可愛い後輩のためっしょ!!?」
「黙れ」
「だってレベル足りないんだもん!」
「可愛い子ぶるな。他のを狙えばよかろうに」
「えーだってわたあめ先輩狩るわけにもいかないっしょー?癒しっすよ?むしろ先輩攻撃したら誰がオレの回復してくれんすか?」
タブンネのわたあめ(←名前)は性質含め、HPの回復から状態異常回復までなんでもござれな回復のエキスパート的存在である。トレーナーの指示下以外でエルフーンが何度も他のポケモンに喧嘩売っても生きているのは彼女のおかげ以外の何物でもない。
「あとは、えーとあと一匹いたっすよねー。確かミロカロスとかいう水ポケのー…」
時が止まった。
エルフーンは、見た目の可愛らしさにそぐわない、あくどい笑みを浮かべた。
「あー、いたっすねえ。水ポケ。カモ。ふひっ、経験値ウマー」
ついでに言っておくとこのエルフーンのまくらの努力値は防御252特防252素早さ6と受け型に振ってある。つまり守りが固く、効果抜群の技でもないとそうそうHPは削れない。
そんなエルフーンに、特に有効な攻撃手段を持たない水ポケモンとか。
流石にキュウコンも(あ、やべ)と危機感を覚えた。
だがしかし、エルフーンは止まらない。
にっこりスマイルを浮かべて敬礼すると、ミロカロスのいた方にあっという間に飛んでいく。(誤字ではない)
「せーんーぱああい!!あっそびましょーーーー!」
「え、な、なんです、や、やめ、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
響き渡ったミロカロスの悲鳴に、キュウコンは黙ってタブンネを誘導しつつ、エーフィがステーション内の散策から戻ることを祈ったのであった。