ニート手前な駅長さん   作:いろは

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レッド②

「それではルールの確認といこうか。レベルは50フラットでの3対3、トレーナーがポケモンに道具を使うのは不可だがポケモンには1つだけ持たせてよいことする。勝ち抜き戦で入れ替えはなし。また、66の見せ合いもなし。ああ、あとはそうだな。技は制限をかけるかい?」

「別に」

「かけないということでいいのかな。ではフリースキルでいくとしよう」

 

 ポケモンが持つ道具というのはよくわからないが、まあ些細なことだ。なんとかなるだろう。

 1体目のモンスターボールを手に取り大きくすると、少女に改めて視線を向ける。彼女もぼくと同じ行動をとっているかと思いきや、キュウコンをボールに戻すと何事かを小さくつぶやいてから別のモンスターボールを手にとった。どうやら1番手はキュウコンではないようだ。

 

「それではチャレンジャー。ルールの確認も済んだことだ、バトルを始めるとしよう。安全運転、ダイヤを守って確認……なんだったかな。忘れてしまった。まあ細かいことは気にしないでくれ、なにはともあれ目的は1つ。目指すは勝利だ、出発進行!」

 

 前口上じみた長い台詞を口にすると、彼女は手に持ったボールを高く放り投げた。耳慣れたボールが開く音と共に姿を現したのは、ふわふわしたシルエットの女の子が好きそうな、可愛らしいイッシュ地方のポケモンだった。彼女も女の子だということだろう。綿みたいな見た目から、たぶん草タイプ。とはいってもチルタリスのような例もあるから断定はできない。

 それに先に誰を最初に出すかはもう決めていた。草に有利な炎や飛行タイプではないが、不利になることもないだろう。

 

「頼んだ、カビゴン」

 

 ボールから出てきたカビゴンは任せろというように胸を張り、相手と向かい合った。こうして見ると体の大きさが全然違って、ちょっと可哀そうな気もしたが、相手のポケモンの表情を見て気を引き締めた。

 ぼくのポケモンたちは今までずっと一緒に戦ってきたせいか「威圧感がすごい」「迫力が違う」なんてコトネやゴールドたちには言われてる。グリーンには言われたことないけど。

 それに加えてこれだけの体格差があるのに、かわいい見た目のポケモンは全く怯んでいない。むしろやる気満々の表情だ。

 油断しない方がいいかもしれない。それに、小さい体はそれだけ攻撃を躱しやすいということでもある。ただでさえスピードが遅いカビゴンなら尚更だろう。なら一撃目で動きを封じる!

 

「のしかかりで押しつぶせ。身動きをとらせるな!」

「くさむすびで留めろ!」

 

 指示通りに小さな体を自分の大きな体躯の下敷きにしようと動いたカビゴンは、なにかに足をとられて床に倒れ込んだ。重いぶん、くらった衝撃も大きかったのか、カビゴンは苦しそうな声をあげた。

 

「カビゴン!――っ今のは、」

「【くさむすび】という技だよ。もしかして、カントーではあまり馴染みがないのかな?体重が重ければ重いほどダメージが増える、という技だ」

「……っ」

 

 カビゴンの体重は考えるまでもなく重い部類に入る。かなりのダメージを負ったとみていいだろう。迂闊に動くべきじゃなかった。情報収集を怠っていたツケがここできた。これは完全にぼくの判断ミスだ。

 普段ならかなりの大技、しかも連続でない限りは耐えきれるだろうとふんでねむらせるところだった。でも今回はねむったカビゴンを何かのアイテムで起こすことはできないし、ねむったところに入った追撃でダウンしてしまうかもしれない、という考えがどうしても拭えない。なら、と起き上がったカビゴンと顔を見合わせた。いちかばちか。

 

「カビゴン、ふぶき!」

「コットンガードで防ぐんだ!」

 

 弱点とはいえ、ふぶきは威力が高い代わりに当たりにくいのが難点だ。いつもいるシロガネ山なら元の天気の影響もあってほぼ確実に当てられるけど、今いるのはトレインの中。なんとか届いたふぶきの攻撃も、増えたもこもこの綿で防がれてしまった。けれど、これでいい。目的は当てることじゃない。

 

「今だ!ギガインパクト!」

「かぁあああああびぃいぃいいいい!」

「えっ」

 

 気合いの入った声と共に、カビゴンは相手が防御の姿勢を取っているところに突撃していく。今なら防御を解けばふぶきが当たってしまうし、その隙に攻撃を通せるはず。そしてカビゴンのパワーならそのまま防御されたところで当たりさえすれば――「【みがわり】」――っ!!?

 

 カビゴンの攻撃が当たった瞬間、ぼふんとその姿が消えた。技の発動が速い…!?

 

「!!カビゴン後ろだ!」

「しかし残念。反動で動けない」

「っ!」

 

 彼女が言うとおり、ギガインパクトは威力が絶大な代わりに反動でしばらく身動きが取れなくなる。言葉に詰まったぼくを見て彼女は楽しそうに唇をつり上げると、彼女の手持ちに向かって指示を出した。

 

「【やどりぎのタネ】【どくどく】それからもう一度【くさむすび】だ」

「えーりゅ!るーるーりゅうううううう!!」

 

 指示を貰ったポケモンは楽しそうに軽い身のこなしで技を繰り出す。最期の【くさむすび】をくらうまでもなく、ただでさえ大きなダメージを負っていたカビゴンはやどりぎのタネとどくどくのダメージで戦闘不能に陥った。

ふう、と息をついて、カビゴンをボールに戻す。

 

「お疲れ様、カビゴン。―――ずいぶん速いんだね、そのポケモン」

「エルフーンというんだ。この子が素早いというより、特性の問題かな。【いたずらごころ】と言ってね、補助技に限ってはほぼ確実に先制できる」

「いたずらごころ…」

 

 初めて聞いた特性だ。でもイッシュのトレーナーならきっと当たり前に知っているんだろう。【くさむすび】のときにも思ったけど、悪いのはぼくのポケモンじゃない。初めてくる地方なのに碌に下調べもしていなかったぼくの自己責任だ。

 

 でも、―――負ける気なんて、ない。

 まともに攻撃は入らなかったけど、繰り出す技からあのエルフーンが草タイプなんだろうことはわかった。なら、次のこいつでいける。

 

 それに、と改めて目の前の彼女を見る。

彼女は余裕すら窺わせる様子で悠然と立っていた。彼女は「ぼく」を知ってその上で、レベルフラットとはいえ、この結果を当たり前だと思っている。

 

 微かに水音がして、そこでようやくぼくは自分が舌なめずりをしていたことに気が付いた。

 かつてない手ごたえにざわざわと胸の中の獣が騒いでいるのだ。次に喰らうべき獲物はあいつだと。引きずりおろすに相応しい相手だと。

 

「行くよ、ラプラス」

「きゅうぅぅぅううん!」

 

 さあ、その余裕の微笑みを、どうやって崩してあげようか。

 

 

 




ほんとはコットンガードってぼうぎょを上げるわざなので、ゲーム準拠だと特殊攻撃のふぶきは防げないと思うのですが、なんかアニメのコットンガードみてたらいけそうな気がしたので。
まともに当たったら多分防げないけど、ちょっと掠めたくらいならおkですよってことにしといてください。
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