おや、と彼女は不思議そうに目を瞠った。
「ラプラスか…リザードンあたりで来るかと思ったのだがね」
「氷は草の弱点」
「しかし水の弱点もまた草だ。弱点+タイプ一致でおいしくいただけそうだね。まずは【やどりぎのタネ】」
「下に向かってフィールド全体に【サイコキネシス】!」
青い光を纏った力がエルフーンをべしゃりと床に縫い付ける。飛ばされた種もラプラスに届く直前で地面に叩きつけられた。
「うわ、そんなのアリかい!?何この重力操作的なサイコキネシスかっこいい!
――ってそうじゃなかった、動けるかいまくら?いけるなら【みがわり】でそこから逃げてくれ」
「逃がさない」
ぼくの言葉に呼応するように青い光は強さを増し、より一層エルフーンを床へと押し付ける。エルフーンも苦しそうな声を漏らしながらなんとか技を出そうと身をよじるけれど、そんなことはさせない。
あまりの容赦のなさにか、「うわあ」と声を漏らして彼女は若干引き攣ったような笑みを浮かべた。それを見ながらぼくも口元に笑みを浮かべた。まだまだこれからなのだから。
「【ふぶき】からすぐまた【サイコキネシス】!エルフーンを抑えたまま【ふぶき】を操作して確実に当てに行け」
「どれだけ器用なラプラスなんだい!?」
見ての通りだけど、と今度はぼくが余裕を見せつけてやる。
エスパー・氷と連続で弱点、しかも威力の大きい大技をぶつけられたエルフーンは、当然みがわりを出す間も体力もなく戦闘不能。
いいぞ、とラプラスを褒めてやると嬉しそうにきゅおおんと声が返ってくる。
一方で動けなくなったエルフーンをボールに戻した彼女はさっきのぼくのようにため息をついた。それを見て、胸が以前感じてからひどく久しい達成感で満たされていく。
しかしさっきとは逆にこちらが一撃もまともにくらうことなく終わってしまった。
もしかすると最初だけだったのかな、と思うと少し肩すかしというか、残念ではある。
「くーちゃん、出番だよ」
次に彼女が繰り出したのは彼女の布団代わりを務めていたキュウコンだった。イッシュの知らないポケモンが出てくるとばかり思っていたので、さらに拍子抜けする。しかも水タイプでもあるラプラスに対して炎タイプのキュウコン…彼女は勝負を捨てたのだろうか?
――まあいい。そのつもりなら30BP、ありがたく貰うことにしよう。
相手が炎タイプなら出すべき技の系統なんて決まっている。威力が高いハイドロポンプと迷ったが、弱点の系統であるなら、ある程度の威力さえあれば一撃でいけるはず。なら威力よりも確実に当たる命中率をとるべきだ。
「ラプラス、【しおみず】」
「【ソーラービーム】」
「っ!!構わずそのまま仕留めるんだ!」
キュウコンがソーラービームを覚えていることに驚いたが、ソーラービームは威力は高いものの、放つまでの溜めに時間がかかる。
当たればかなりのダメージを負うけど、こちらの攻撃の方が早いはず。だからこそ避ける指示を出さず、当てにいく!
「惜しいね。この子が普通のキュウコンなら正しい選択だっただろうに」
やれやれと肩を竦める彼女には、さっきまでぼくが持っていたはずの余裕が移っている。
―――上がった悲鳴は、ラプラスのものだった。
「~~~~っなんで!」
「日差しが強くなったの、分からなかったかい?この子の特性は【ひでり】でね。この子がフィールドに出たとき、自動的に天気はよくなるんだ」
ひざしがつよい。
その状態がこのバトルにおいてどういった影響を及ぼしているのか。さすがにぼくだって知っていた。
「ッ【ハイドロポンプ】!!」「【だいもんじ】で迎え討て」
心なしか焦ったぼくのものとは対照的に彼女は冷静に指示を告げる。
ふたつの威力は同じくらいだけど、相性としては有利なこちらの攻撃が押して相手のキュウコンにまで届く―――本来なら。
ぶつかると同時にじゅわりと瞬時に蒸発させられ相殺された技に、薄々予想してたとはいえ舌打ちをした。
日差しが強い状態において、水タイプの技の威力は0.5倍、逆に炎タイプの技の威力は1.5倍。結局水タイプの技が弱点であって弱点でないようなものじゃないか。
こうなったら、さっきと同様、体の自由を奪って無理やり高い威力の技を当てに――
「【サイコキネシ「悪いね!【ソーラービーム】」っ避け――!」
強い日差しの影響でソーラービームも溜める必要なくすぐさま撃てるようになる。
ラプラスは1度目はなんとか持ちこたえたものの、さすがに2度目は耐え切れなかったようだ。
というか、避けろとか馬鹿なことを言いかけてちょ、ぼくうわあああああな状態なんだけどどうしよう。
この狭いトレインのなかで身体の大きなラプラスがろくな回避行動取れるわけがないじゃないかぼくの馬鹿。というかぼくの手持ちで小さいのはピカチュウくらいであとは大概同じくらい大きいんだけどさ!バトルサブウェイに来る前にそのあたりも考えればよかったのに!!いやでもそれでもここまで普通にこのメンバーで来れたんだから仕方ないじゃないか……!
もうぐるぐるしちゃって思考がまとまらない。というより誰に言い訳してるんだよもう…
「お疲れラプラス…ありがとう」
とりあえず頑張ってくれたラプラスをボールに戻す。
なんていうか、油断してたところを思い切り足元掬われてしまった。
最初だけ?肩すかし?たった一体倒した程度で、何を慢心していたんだ。
目の前にいるのはただ喰われるだけの草食動物じゃない。簡単に仕留められる獲物なんかじゃない。
全力で挑んでなお、勝てるかどうかわからない強敵だ。
なら、次に出すべきポケモンなんて決まってる。
「頼んでいいかい、ピカチュウ」
「ピカピッカ!ぴぃか、ピカッチュ!」
任せろと言わんばかりの力強い返事を返してくれた、頼もしいぼくの最強の相棒。
かわいらしいその姿を見て彼女はつと目を細めた。
「……そう来るとは思わなかったかな」
「見た目で判断すると、痛い目みるよ」
「ピカチュ!」
「いやいや、そういう意味ではないさ。むしろたかだかバトルサブウェイのノーマルトレインごときに噂の黄色い悪魔が参戦するとは思わなかったというか。それだけ私が評価していただけたということだと思えば光栄だがね」
「こーん…」
「おや、どうかしたのかいくーちゃん?……ああなるほど、そうだね。覚えていれば職員を庇ってあげる必要がありそうだ。50フラットとはいえノーマルで赤様の黄色い悪魔なんて止められるはずもあるまいよ。さて、相手にとっては不足なし、存分に暴れたまえ」
相変わらずの余裕を見せるものの、彼女の目をよく見てみれば油断も隙も見当たらない。ぼくもそういうところは見習うべきなのかもしれない、とちょっとだけ思った。見習うかどうかは、このバトルの勝敗で決めさせてもらおう。
――本人の知らないところで、これからのグリーン・コトネその他暫定レッドのライバルたち諸君の待遇が賭けられた瞬間だった。