「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」
ライダーの叫びが倉庫街に響き、ライダーのマスターは逆に顔を青ざめた。
(真名を暴露し、敵サーヴァントを勧誘したあとは挑発ですか!?ただでさえセイバーとランサーが戦いに水を刺された事で機嫌が悪そうなのに(しかもランサーのマスターはよりにもよってケイネス先生だ!)これ以上敵を増やしてどうするんですかこのバカサーヴァントはっ!?)
どうかこの挑発にのる英霊がいない事を必死に祈るウェイバー。しかし無情にもその希望を打ち砕く声がコンテナ群からとんできた。
「それでスゥームのつもりか?路地裏のスキーヴァーでもお前より上手く鳴くぞ」
視線をそちらに向けるとそこには奇妙な出で立ちのサーヴァントがいた。黒いローブにタコを模したような何やら禍々しいお面___いや、兜か。
だがそれは可笑しな話だ。ローブを好んで使用する後衛職なら兜を被る必要はないし、逆に兜が使われる前衛職なら鎧ではなくローブを着るのは自分に自信がある者か馬鹿だけだ。
しかしそんなちぐはぐな格好にも関わらず、そのサーヴァントは違和感なく、それこそが正しいと言わんばかりに着こなしていた___まるで邪神の司祭か何かのように。
「ほう、スゥームとやらは知らんが御主、その珍妙な姿から察するにキャスターか?こちらから誘っておいてなんだが、勇猛な魔術師もおるものだな!」
そう、他のサーヴァントと違いキャスターは魔術師であり、前線での戦闘では他のサーヴァントに遅れをとる場合が多い。そのためキャスターは拠点を工房にして、自分に有利なフィールドで戦うのが定石とされている。
それをせずこのキャスターと思わしきサーヴァントはライダーの挑発に応じたのである。己への自信と何かしらの策があるのだろう。
(・・・案外挑発に釣られただけだったりして)
あまりにも破天荒な自身のサーヴァントを見て、そんな考えが浮かぶウェイバーであった。
「ところで、貴様はわが軍門に入る気はあるか?」
「まだそんな事言ってるんですかあんたはー!?」
「おいおい、何もそんなに怒鳴らんでもよかろう?当たって砕けろとかいう言葉もあるだろうに」
相も変わらす勧誘を続けるライダーにウェイバーが突っ込むが、まるで全然効果が無いようだ。そのような光景を見つめつつ、件のキャスターは呆れた様に口を開いた。
「まったく、貴様の勧誘はまるで下手だな。私が見本とやらを見せてやろう」
「なに、見本だと?」
「そうだ。人を従わせるにはこうするのだ・・・Wuld_Nah_ Kest!」
キャスターが何やら叫んだ瞬間、キャスターが凄まじい速度でランサーに突っ込んだ。それまで成り行きを見守っていたランサーにキャスターが向かって行ったのは、その場の全員にとって意外だった。
「何っ!?」
しかし流石は最速のクラスであるランサー、キャスターの動きにすぐさま反応した。だがその対処が悪かった。キャスターがランサーを選んだのも意外だが、"キャスターが突っ込んでくる"事自体が異常なのだ。もし仮に突っ込んできたのがセイバーやライダーなら、ランサーも槍で打ち合っただろう。
しかし突っ込んできたのは"キャスター"だった。ランサーは咄嗟にキャスターの何らかの策であると判断し、キャスターに攻撃はせずに逆に間合いをとるように後ろへ跳んだ。
一瞬で数メートル広がった両者の距離。それは剣や槍では届かない間合いだったが、魔術を扱う"キャスター"にとっては意味の無いものだった。
「Gol_Hah_Dov!」
キャスターがまた叫ぶと、今度は"魔力の波の様なもの"がランサーに叩きつけられた。
「しまった!・・・ッ!?」
『何!?これはッ!?』
ランサーはキャスターの魔術を喰らうと、身体の自由を失った様に膝を着いた。何処からかランサーのマスターの驚きの声も聞こえる。
「セイバー、今の魔術は一体・・・!?」
「・・・すいませんアイリスフィール、私も見た事がありません」
(魔術を使用する際に呪文詠唱する事はよくあるがそれとは何か違う。まるで呪文自体をぶつけた様な・・・。それに、先程から何故か私の中で何かが疼く・・・一体何なのだ?)
「む、抵抗するか。サーヴァントはマスターと繋がっているから、その影響か?」
周囲の者はランサーを一瞬で無力化した事に驚いたが、キャスターはランサーの状態に満足出来ないようだ。
「まぁいい。マスターさえ従えればいくらでもやりようはある」
そう言うとキャスターはチラリとこの場にいるマスター___アイリスフィールとウェイバーに視線を向けた。
「こりゃいかん。坊主、しっかり捕まっておれよ?」
「元はと言えば、お前のせいだからな!」
流石のライダーも、キャスターの手並みを見て気を引き締めた。ウェイバーはさっきよりも状況が悪くなったと青ざめる。何せキャスターの発言から察するに、次の標的は自分かセイバーのマスターなのだ。
(・・・何故キャスターはランサーに止めを刺さない?何か別の目的があるのか?)
遠くから現場を観察していた切嗣は困惑していた。セイバーはランサーに治癒が不可能の傷を負っており、この聖杯戦争で勝利するためには早期にランサーを倒す必要があったのだ。
そこにきてランサーがキャスターに襲われた。思わぬ幸運に切嗣もほんの少し喜んだ。ランサーが倒れる事によってセイバーは全快になり、セイバーには対魔力のスキルによってキャスターに有利だ。それにキャスターが自分の工房から出ているうちに勝負を挑める。
しかしキャスターは無力化したランサーを仕留めるのではなく、アイリやライダーのマスターを狙っているようだ___今確実に一騎落とせるのにも関わらず。
『アイリ、ライダーと共闘を持ち掛けてキャスターの気をそらさせるんだ。その隙にセイバーにランサーを仕留めさせる』
『・・・ええ、分かったわキリツグ』
ともあれ、ランサーを倒すには今がチャンスだ。
切嗣はアイリスフィールに指示を送り、今一度アサシンの位置をチェックしてから現場に視線を戻した。
「貴方達の臣下にはならないけど、ここは共闘と__」
「アイリスフィール!」
ライダー陣営に共闘の申込みをしようとした瞬間、アイリスフィールに向けてキャスターが巨大な氷柱を放った。すかさずセイバーが間に入り、不可視の剣で氷柱を打ち払った。
「相分かった!後詰めは頼んだぞセイバー!」
「な、ライダー!?」
しかしそれでも充分に意趣は伝わったらしく、ライダーはマスターの許可もセイバーの返事も聞かずに神威の車輪を走り出させた。あまりの豪胆さに一瞬戸惑ったが、セイバーも遅れてはならずと走り出した。
『令呪をもって命令する、帰還せよランサー!』
アイリスフィールがセイバーに切嗣の指示を伝えようとするが、その前にケイネスの声が響いてランサーの姿が消えた。ケイネスはそれまでランサーの束縛を自らの魔術で解除しようと悪戦苦闘していたが、このままではライダーの戦車に轢き殺されると判断して令呪を切ったのである。
神威の車輪は速度を上げてキャスターに迫る。仮に先程のランサーの様に束縛の魔術を掛けられても、そのスピードと質量をもってキャスターを打ち倒す勢いである。この戦車を止めるのはセイバーやバーサーカーでも難しいだろう。ましては今の相手はキャスター、避けるしかほかは無い。
(右に避けるか、左に避けるか・・・たとえ宙に浮いても余の神威の車輪は空をも駆けるぞ!)
しかしキャスターは全く焦る様子を見せなかった。それどころか、右にも左にも、宙にも避けなかった。キャスターはまたしても"叫んだ"のだ。
「Feim_Zii_Gron!」
キャスターの身体はたちまち半透明になり、神威の車輪はキャスターを"通過"した。
「えっ!?い、今のは霊体化なのか!?」
キャスターが避ける様子が無かったため、交通事故よろしく凄惨な光景が広がると思っていたウェイバーは驚きの声を上げた。
サーヴァントにはある程度の物質の影響を受けない霊体化というものがあるが、先程キャスターが行ったのは少々おかしなものだった。通常、霊体化には時間が掛かってしまい、戦闘中に使用するには問題があるが不可能ではない。マスターが令呪を使用すれば、戦闘中でも霊体化は出来る(令呪がもったいないが)しかしその場合サーヴァントは完全に見えなくなり、半透明になったりはしないのだ。
「な、なぁライダー。今はセイバーと共闘してるんだろ?戻らなくていいのか?」
神威の車輪はキャスターを通過しても速度を落とす事なく、倉庫街からどんどんと離れていった。サーヴァントが勝手に決めたとはいえ、共闘を請け負ったにも関わらずさっさと戦場から離脱することにウェイバーは後ろめたさを感じていた。
「なに、問題あるまい。向こうは我らをけしかけたその隙にキャスターないしランサーでも仕留めるつもりだろうて。ならばこちらもセイバーをキャスターの足止めに利用して退くのみよ。それに我らは約定通りキャスターを攻撃したしの」
「そ、そんな事考えてたのか・・・」
自分の気付かないところで頭脳戦が繰り広げられていたと知ってウェイバーは軽くショックを受けた。
「しかしあのキャスターは余と相性が悪いでな。何らかの対策を練らんとおかんぞ?」
「そ、それぐらい分かってるよ!」
ただでさえランサーを無力化した魔術が厄介なのにも関わらず、ライダーの強みである戦車まで簡単にいなしてしまったのだ。このまま聖杯戦争を続けてもキャスターに負けるのは目に見えている。ウェイバー達は頭を悩ませながら拠点へと戻っていった。
時は戻って倉庫街。ライダーがキャスターを通過した事にセイバーは驚いた。
(これでは私の剣も通じるかどうか・・・。攻撃時に元に戻る事に賭ける!)
サーヴァントは攻撃をする際に霊体化を解く。キャスターのこの魔術は通常の霊体化とは少々異なる様だが、ランサーを襲った時は実体化した事を鑑みるにそこは変わらないようだ。
セイバーは自らを囮にしてキャスターに接近した。
「お前は先程のサーヴァントから何も学ばなかったのか?・・・Gol_Hah_Dov!」
対するキャスターはただ突っ込んでくるだけのセイバーを嘲笑いながら魔術を叫んだ。
セイバーを服従の魔術が包み込んだが、サーヴァントとマスターの契約パスのシステムやセイバーの高い対魔力によって魔術の効力が弱まった。その結果、セイバーの動きは鈍くなりつつも、キャスターに依然として突っ込んでいった。そしてセイバーの予想通り、キャスターは攻撃した事によって実体化していた。
「何っ!?」
「キャスター、覚悟!」
ついにキャスターを射程内に収めたセイバーが、一撃で仕留めんと剣を振るう。しかしキャスターもただやられる訳ではなかった。
「Fus_Ro_Dah!」
今度の魔術は純粋なエネルギー波としてぶつけられた。セイバーの対魔力スキルによって減衰されたがその威力は凄まじく、セイバーを吹き飛ばした。
セイバーは空中で体勢を立て直して着地すると、両者は距離を空けて睨み合った。
「この感覚はドヴァーキン・・・いや、ドヴァーか」
キャスターは先程の急接近で感じるものがあったのか、小さく呟いた。
一方でセイバーは、キャスターの束縛の魔術を無効に出来た事でほぼ勝利を確信していた。
「何やら秘策があって工房から出てきたようですが、対魔力に優れるセイバーに出会ったのが運の尽きですねキャスター!」
この場でキャスターを逃がさないために挑発をするセイバー。ライダーの挑発で姿を現したキャスターの性格から、躍起になってかかってくるとセイバーは予想した。
しかしキャスターは逆に可笑しいものを見たと言わんばかりにくつくつと笑っていた。
「何が可笑しい!!」
「先程の言葉をそのまま返すぞ、セイバー・・・Mul_Quh_Wyrm!」
キャスターが魔術を叫ぶと、たちまちオーラが身体を包み込み、鎧を形成した。その鎧は雄々しく、猛々しく、それでいてどこか破滅的なものを感じさせた。
「ドラゴンボーンに出会ったのが運の尽きだな、ドラゴンよ」
遠坂邸___冬木市の管理地にして自らの工房で、遠坂時臣は圧倒的強者の存在に身を震わせていた。
周りには時臣のサーヴァントであるギルガメッシュの宝具が射出されんと波紋が波打っていた。しかしその数が尋常ではない。波紋の数は10や20ではなく、まさしく部屋を埋め尽くさんばかりに広がっており、その黄金の輝きで部屋は昼間のように明るかった。さらにはギルガメッシュ自身も得物を手にしており、ここまでやる気のある王を時臣は初めて見た。
何故ギルガメッシュがここまで臨戦体勢なのかと思われるが、時臣が王の逆鱗に触れた訳ではない。そもそも王の財宝もギルガメッシュも時臣の方を向いていない。ではどちらを向いているのか?
ギルガメッシュの視線の先___いつも通りなら優雅な内装の普通の部屋だがこの時は違った。
無数の黒い触手とこちらを不気味に見つめる幾つもの目玉が"何もない空中から生えていた"。それは見るもおぞましく、長時間見てしまうと正気を失いそうな気持ち悪い存在だった。
『そう焦るなウルクの王よ。用があるのはお主ではない』
このなんとも形容しがたい存在は、今にも滅しようとしてるギルガメッシュを宥めると、時臣に無数の目玉を向けると告げた。
『我が名はハルメアス・モラ。知識の記憶を司るデイドラロードだ。遠坂時臣、世界を越える秘術が欲しいか?』
それはまさしく悪魔の誘惑だった。
つづかない。
ギルガメッシュとミラークのどちらの方が古代の人か分からない脳筋ノルドには無理だったんや!
というかミラークの強さ加減が難しい。
シャウトはマジカ使わないし、対魔力で防げないよ!→服従のシャウトでミラーク大勝利!
シャウトはシールドスペルで防げたから対魔力で防げるよ!→セイバーに打つ手無し。宝具としてドラゴン呼んでもドラゴンブレス=シャウトなので防がれるって事だし・・・
あとミラークのマスターはハルメアス・モラではなく龍之介です。速攻で服従のシャウト使われてミラークの操り人形だけど。