最近変な夢を見る。
まだ記憶が混乱しているせいかもしれない。
僕はしらない女の子を
きっと、会ったこともない女の子。
だけど、僕はその女の子にとても不思議な感覚を覚えた。
綺麗な女の子なのだが、どこか自分に似ている気がしたのだ。
彼女はとても
誰かの成功が許せない。
いつもそんな目をしていた。
彼女はよく歌をうたっていた。
拾い広場の噴水の前でうたっていた。
僕は能力者から能力を奪うために世界各国を巡ったわけだけど、その場所に心あたりがない。ヨーロッパあたりだろうか、外国の街並みらしい。写真から切り取られたような景色だった。
歌声が響く。声も彼女の容姿に似て綺麗な歌声だった。
でも、音感はないらしい。素人の僕でもわかるほどその音程がずれていて、不器用な感じだった。
僕は素直にもったいないな、と思った。
誰も彼女の歌に立ち止まらない。
誰にも彼女の歌が聞こえていない。
それでも彼女はうたっていた。
◆ ◆ ◆
僕が退院してから一週間後。
退院祝いで、予定通りバーベキューだ。
バーベキューの場所は前回と同じ近場である、あの場所に決まった。
もちろん私有地だから、今度こそはちゃんと土地管理者の承諾をもらった。
しかし、それにしても――
「あっついな……」
今日は晴れで猛暑日だ。
ずっと病院にいたせいもあってか日差しがつらい。
到着そうそう僕は帰りたくなった。
「あっ
「おう」ボウッ
「あっ
「おう」スパパパパパパ
「あっ
「おう」キンッキンッキンッ
「さすがゴトゥー
「だから、そのあだ名やめろ」
てか、こいつらいろいろと忘れすぎだろ……僕は便利屋かよ。まったく……準備にあれだけ時間をかけたのに。
行きにバタバタしたこともあって、もう昼飯を食べる時間からは遅めの時刻になっていた。
「あっ
「――嫌だ」
「ええっ――! どうして
「意地悪じゃない。あんまり強力な特殊能力を使うなと医者に言われているんだ。ドクターストップだ、不可抗力なんだ」
僕は手のひらをつきだして
「それに僕は病院でピザソースの入った料理ばかり食べてたからな。たまには普通のがいいんだよ」
「む――ッ!」
ところでバーベキューにピザソースをどう使うつもりだったんだ。ぜひ用途がしりたいところだ。
(帰ったら、
……帰りたくなくなった。
それはもはや食べ物じゃない。
我が妹ながら恐ろしいことを考えてるもんだ。なにが「食べさせるのですー」だ。
――そういえば、
来年からもう高校生になる。
天然モノだとしても僕が
そうなれば陰口を叩かれて、いじめられてしまうかもしれない。兄といては少し心配だ。
……ん? でも
――いや待てよ、
ああっ! だんだんと心配になってきたぞ……
ここは
よし、これも
「なあ、
「なんでしょうかー?
「そのなんだ……。その『◯◯なのですかー』とか『◯◯でござる』みたいな口癖やめないか」
「どうしてでしょうかー?」
いつものように首をかしげられる。我が妹ながら、かわいい。
これでは、やっぱり心配だ。
「えっとだからさ……。
同じ
それに前の世界のこともあるしな。
「嫌でござるっ!」
クッ……まあ
だが、ここは兄として心を鬼にしなければなるまい。
「どうしてだっ!」
「
「それじゃダメだ! ただでさえ、
「――引くな!」
横から
しかし、シスコンと思われても構わない。
僕は拳を強く握りしめる。
これも
「邪魔するなっ
「――そういえば
なっ――
「ええええええええええっ――――――!!」
僕はただ叫ぶ。
「あーもう言わないでくださいよぅ。恥ずかしいのですー」
照れくさそうに
う……そ、だ……ろ?
「ああっ――!
「おっ! これはいい絵が取れました」
カメラを向けられる。
だが、そんなこと、もうどうでもいい。
「うわああああああ!」
僕は駆け出した。
なんと言う裏切り、罪深い所業だ!
もうシスコンなんてやめてやるっ!
「あっ!
「――え?」
僕は井戸に落ちた。
◆ ◆ ◆
「頭冷えましたかー?」
びしょぬれだ。
なんとか無傷だったものの、井戸に水が溜まっており体がすっかり冷えてしまった。
もう日が落ちかけている。昼が暑かった分、夕方は寒く感じた。
てか、この井戸まだあったんだな。危ないからあとでちゃんと治すよう土地管理者へ報告しておこう。
「………………」
僕は
横目で見ていると、目があってしまった。
「あなたがいない二年間。
「………………」
「もう子供じゃないんです。今度はあなたが妹離れしないといけませんね」
「そう、だな……」
思い返せば、昔、星の話ばかりする
『――お前、学校でも星の話ばっかしてるとハブられるぞ』
『――どうしてでしょうかー?』
あの時も同じ言葉を返された。
僕の
僕がいない二年間、性格が変わっていなくても、うまく乗り越えてきたのだ。
「しかし傑作ですね、この写真……ぷぷぷ、あなたの顔。本当にこの世の終わりみたいな顔してますよ」
(ちょっと嫉妬しちゃうな……)
「――!」
今のは聞いてはいけない気がした。
……本当に妹離れしないとな。
いまの僕は
「……消してくれよ、それ」
僕はカメラを指差して言う。
「嫌です。これも思い出じゃないですか。言ったっしょ? これからは楽しい思い出を撮るって」
「僕は楽しくない」
「わたしは楽しいですよ」
「……なら、いいか」
「
程よい脂の香りが食欲をそそる。うまそうだ。赤くないだけで、僕にとっては感動ものでもある。
「おっ! カルビじゃないっすか! うまそー」
「……ちゃんと野菜も食べろよ」
僕の苦言を聞いて
「しってますか?
そう、したり顔で言う。セリフがどこか芝居がかっていたから、きっとドラマか小説かの受け売りだろう。
「あっそ。ビートルズはしらないが少なくとも、お前が好きな
お好み焼きだけどな。
「えー? しりませーん。私は
「お前からメンバーの話を振ったんだろうが……」
僕の言葉を無視して肉にガッツク
早くしないと無くなりそうな勢いだ。
僕も
「
「まあな、僕にはまだ特殊能力があるからな。……でも、気をつけないとな」
特殊能力は思春期を過ぎると消えてしまう。
この能力に頼りすぎてはいけない。
当たり前にしてはいけない。
そんな気がする。
「危ないところでしたね。近くにいたのに助けれなくて申し訳ありません。わたしは井戸を見ただけで足がすくんでしまって……」
「あれ? お前高いところ苦手だったか?」
「はい……いろいろありまして」
話していると
「いつからでしょうか……。ちょうど
「………………」
瞬間的に僕の中で
「まさか……また、
「すごい!
あたっちゃったよ!
兄さんが言っていたことだが
……なんていやな収束だ。
「あー……なんだ。
(さすがにあの時はちょっとやり過ぎたな)
「その……なんだ……ごめんなさい」
「いえ、気にしないでください……僕はまったく全然気にしてませんので」
「……め、目が笑ってないっすよ。
「さすがに僕もつき落とすのは、やり過ぎだと思うぞ」
「ま、まあ、プロテクターつけてたし頭から落ちなけりゃたいしたことありませんって」
「頭から落ちたのですが……」
そんな雑談をしている時だった。
他愛のない戯言。
そんな益体のない日常。
なにかの終わりを告げるように突然焚き火が消えた。
僕には何かがやってくる音が聞こえた。
「――――う、つ……」
痛い。
頭が痛い。
痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたい居たい。
突然全身から汗がドッと噴き出した。
ずぶ濡れになるように額から脂汗をかく。
額だけじゃなく頭の中に水が溜まっていくようだ。
かゆいかゆい痒い痒い痒い痒い。
頭を
「乙坂さん?」
ぐわんぐわんと
気持ちが悪い。乗り物酔いに似た感覚が身体を突き抜ける。
脳裏に膨大な情報が入り込んできた。
これは未来予知の特殊能力の発動と同じだ。
頭の中に溢れこんで、バチリバチリと音声が砂嵐のように途切れた。
『――続いてのニュースです。◯◯で、航空飛行機が墜落した事件で――』
「な、なんだこれ」
目の前が真っ白になって、頭のなかで火花が散る。
勝手に能力が発動した。
無意識に本能的に。
僕の特殊能力――未来予知が発動した。
鮮明に映像が、戦慄が、再生される。
無数のしらない男たちが僕たちの周りに立っているのが見えた。
男たちは一様に物騒な格好をしていて、僕を指差した。
僕は男たちの手に持っていたものに見覚えがあった。
あまり目にしたくないものだった。
日本では見ないけど、世界ではありふれたもの。
それが赤く光った。
思考がぶれて、ゆっくり、ゆっくり、時間が流れる。
受け身もとらず、頭から
もう動かない。
今度は
また、頭から人形のように崩れ落ちる。
「あっ、ああ、あ……」
非常事態、警告、そんな単語が思考を飛び交う。
嫌だ。嘘だ。嘘だ。
やめてくれ。
こんなもの見せないでくれ。
バチリと世界が暗転する。
『――武装した△△教の過激派集団が日本に密入国――』
次は☓利と歩△が――
やめろやめろやめろやめろやめろ。
「お、
その言葉が現実を引き戻す。
それでも僕は瞳孔が開いて、視点が定まらない。
「お、おえ……」
思わずその場にくずれて吐いた。
「ほ、本当に大丈夫ですか!」
――早くここから移動しないと。
僕はよろけながらも、立ち上がった。
膝が笑う。真っ直ぐ歩くことすらできない。
「――に、逃げるぞ」
「え?」
「いいから! 今すぐみんなを集めろ! 逃げるぞ!」
ごめん。今は黙って言うことを聞いてくれ。
頭の中にあふれた情報。
銃をもった武装集団。
数分後――
――ここにいるみんなが死ぬ。