世界中の能力者から能力を奪って帰ってきた
入院当初に見られた記憶の混濁も無事解消し、退院祝いに生徒会のメンバーでバーベキューに行くことになったのだが、事態は一変する。
しかし、
自分の知っている過去との食い違いに
星ノ海学園が存在しないことに
なんで
――いや、それより、
ありえない。
この特殊能力は、シャーロット彗星の粒子によるもののはずだ。
前の世界では、何の能力も持っていなかったはずだ。
「皆さんで集まって、なにしてるんですか?」
「あっ
僕を除いて、みんながこの状況を受け入れていた。
僕は
能力は『占領』。
僕は別の能力を使って、能力の内容を特定した。
『対象の相手に目を凝らすことで5秒間身体に乗り移ることができる』
「――――――」
頭がまっしろになった。
記憶がフラッシュバックする。
前の世界で
その時
そして、今。
僕の『
だから、つまり――
僕が知らない世界で僕は
ずっと5秒間他人の乗り移る能力と、他人の能力を奪う、その二つが
だけど、違ったんだ。
思えば、
熊耳さんが僕の能力を特定した時、確かに『
熊耳さんが
はじめから
発動条件が同じだっただけで、僕が勘違いしていたんだ。
「
僕がなんのことだと
「もう! 忘れたんですか? 今日は委員会の日ですよ」
委員会?
僕が
「そう言えば、そうでした。今日は委員会の日で一年生の各クラスの学級委員長は放課後、学校の日用雑費を買いに行くんでしたね」
「は、はあ? なんだよそれ?」
「学校の決まりです。
僕は委員会なんて、面倒くさそうなことをやっていたのか……。
「結構買うものあるんですよね。ああ、そうだ。四人で協力しましょう。それがいい。ですよね
棒読みで、
「は、はい。私は構わないですけど……」
と、僕に不満気に目配せする。
お、おい
僕が目線で促すと、
クソッ……
「……僕も別に構わないよ。でも、
「私もいいですよ。断る理由がありませんし」
「もちろん。男子が荷物持ちですけどね」
いたずらっぽく指を立てて、
◆ ◆ ◆
放課後、学校近くの駅前にある大型ショッピングセンターに僕たちは買い出しに出かけた。
あいにく天候は雨だったが、生徒会の活動はともかくとして、制服の姿で(星ノ海学園の制服ではないが)みんなと買い物に出かけるのは、はじめての経験だった。
学校の買い出しは案外手早く済んだ。
と、言うのも本屋とCDショップとスタバが一緒のフロアにあって、ものすごく人が多かった。本屋を見かけると
それで、
急に眼を光らせて、
「ううっ……急にお腹が……」
と棒読みで言って、壁に持たれかけたと思ったら、貼ってあった明らかにカップル向けの恋愛映画の広告を見て、
「おおっと! 急に一人映画がしたくなりました! すみません、先に帰っててください!」
と、言って
「
「……ミーハーなんだよ。あいつは」
なんかすまない。
僕と
「
「そうですね」
洋楽の棚で立ち止まって、CDの棚を見はじめる。
「なに見てるんだ?」
『ZHIEND』以外
「リジー・メルシエ・デクルーです」
「ポストロックなのか?」
当てずっぽうで訊いてみた。
当たったらしく、嬉しそうに
「ポストロックの中のポストロックです。聞いたことないんですか?」
「聞いたことないな」
ダメですねーと言って、
解説が終わって、CDの試し聞きコーナーに連れて行かれ、サラの音楽と違ってだいぶ時代を感じるピコピコとした音楽だったが悪くなかった。
しばらくして、「そう言えば」と
「今日、私に握手を求めてきましたけどあれは一体、何だったんですか?」
「それは――」
そして、
……どうしてかは、わからない。だけど、おそらく原因は能力に関係する何かだ。
「おまえの手が触りたかったんだよ」
「……うええ、なんかヘンタイチックな言い方ですね。やっぱり変な人なんですか」
「変でもいいさ。深い理由はないよ」
「…………そうですか」
「
意外な言葉だったので驚いた。
「……そうだな」
果たせない約束をしたあと、僕たちは
◆ ◆ ◆
僕は本棚を見渡す、デカルト、バークリー、ロック、バートランド・ラッセル、トマス・アクィナス、プーフェンドルフ。無駄な品ぞろえの良さだった。……こんなの読むやつが本当にいるのだろうか。
――いた。
さすが学年四位といったところだろうか。僕が若干引いていると、お隣の学年一位、
ハッと
「なに読んでたんだ?」
さっきの
「デカルトの関連本ですっ! この本は家にもあるんですけど、眼に入ったら読みたくなっちゃって……、我思う故に我ありってやつです」
聞いたことのあるフレーズだった。
――我思う故に我あり。
そうだった。
僕も昔、デカルトに
あの人も僕ではないのかと。
それで、僕は5秒間相手の身体に乗り移れるようになったのではなかったか。
だけど、その能力は
「――あれ、
「……
ばらしてやるなよ……。なんか、本当にすまん
少し、モヤモヤとしたが、僕たちはそのまま何事もなくショッピングセンターを出た。
◆ ◆ ◆
結局、
仕方がない。先延ばしにしたくはなかったが、不自然に
楽しい一日だったと思う。
今日一日を振り返って、そう思った。
生徒会のメンバーだと
自分にとって後悔が残らないくらい楽しい一日だった。
――ふいに携帯電話が鳴った。
電話? 僕に? 誰だ?
ポケットに手を入れて、ドクンッと心臓が跳ね上がる。
なんだ? どうしたんだ?
気持ちが悪い。
さっきまであんなに楽しい気分だったのに。
痛い。
痛い。
あの時と同じ嫌な予感がする。
みんなが殺された時と。
とても嫌な空気が身体にこびりついてくる。
突然、周囲の日が落ちたように黒ずんで、心の奥からなにか嫌なものがせり上がってくる。
僕は電話に出て、耳に当てた。
『
僕が、はいと返事すると、電話の人物は、落ち着いて聞いてくださいと言って、
『お兄さんと妹さんが、たった今亡くなりました』
電話を落として、膝から崩れ落ちた。
急いで、電話を拾い上げた。だけど、落ちた
冷静だった頭が壊れたように働かなくなる。
そんな。
そんなことって。
今度は
いくら何でも早すぎる。
また、失敗――? いやまだ、なにもできてないじゃないか……。
ふざけるな。
無我夢中で
多分、能力を使ったんだと思う。
普通の住宅街で、青い服を着た人がたくさんいた。
ブルーシートを跳ね除けると、血だらけの肢体があった。
誰かに鋭利なもので滅多刺しに刺されたらしい。
周りから無意識に情報を拾う。どうやら通り魔らしい。こんなタイミングで通り魔らしい。こんなタイミングで僕の大事な兄弟を殺す人間が科学者以外にもいるらしい。
「はは、ははははは」
ゴキリと、僕の中で何かが折れる音がした。
頭を
血が出てくるほど掻きむしった。
現実を直視したくない。もっと前の時間に戻ればいいのか? もっと前の時間に? そしてまた誰かが死ぬのか? なにも出来ずに? その時はもっと前にやり直す? いや……、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや嫌だ、もう分けがわからない。なんてことだ。誰か教えてくれ。僕はどうすればいい。誰か助けてください。
みんなが殺された時の映像がフラッシュバックされる。
冷静でなんかいられない。
頭から血がたれてくる。だけど、痛みに反して、刻んだ傷も
うざったい能力だった。
もう、何もかも嫌になって自分の眼に指を突っ込んで脳を
――その時だった。
少しだけ視力が落ちた眼で指先を見つめた。
手の細かいシワが見えない。
これまでの記憶が頭の中を駆け巡る。
また死体。
死体遺体遺体居たい痛い。
誰かの死。
誰かが世界に殺される。
そうか。
なんだ。
そういうことか。
まるで、悪魔が考えた仕組みだな。
はじめの世界では
一つ解が分かると、すべての歯車が噛み合った。
――どうして、星ノ海学園はなくなってしまったのか。
――どうして、
――どうして、この特殊能力は思春期を過ぎたら消えるのか。
――どうして、シャーロット彗星の周期は75年だったのか。
――サラシェーンは何者だったのか。
――夢で見た彼女は何者なのか。
「――ずっと、僕のことを見ていたんだ」