Charlotte After   作:音無白野

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 これまでのあらすじ

 世界中の能力者から能力を奪って帰ってきた有宇(ゆう)
 入院当初に見られた記憶の混濁も無事解消し、退院祝いに生徒会のメンバーでバーベキューに行くことになったのだが、事態は一変する。
 有宇(ゆう)の特殊能力のひとつである『未来予知』が発動してしまい、生徒会メンバー全員が殺される未来を予知してしまった。
 有宇(ゆう)は未来予知を回避しようとするが失敗。友利(ともり)たちの死を回避できず絶望した有宇(ゆう)その場に泣き崩れ、友利(ともり)の手を握る。そこには友利(ともり)が大切にしていたビデオカメラがあった。(すが)るように映像を再生すると、友利(ともり)が『生徒会活動日誌』として撮っていたこれまで記録があった。
 友利(ともり)が最後に残した言葉を胸に、有宇(ゆう)はもう一度、運命に立ち向かうことを決意する。
 しかし、時間跳躍(タイムリープ)した先は星ノ海学園ではなく、有宇(ゆう)が、カンニングしてまで入学した陽野森高校だった。
 自分の知っている過去との食い違いに有宇(ゆう)は混乱するも、高城(たかじょう)に出会い、ここは乙坂(おとさか)(しゅん)(すけ)時間跳躍(タイムリープ)をする前の世界だと分かった。
 星ノ海学園が存在しないことに有宇(ゆう)は混乱するが、作戦通り、世界中の能力者から能力を奪うことを決意する。


第二十一話 カルマ

 なんで友利(ともり)の能力がなくなってるんだ。

 

 ――いや、それより、白柳(しらやなぎ)(ゆみ)が能力者……?

 

 

 ありえない。

 

 

 この特殊能力は、シャーロット彗星の粒子によるもののはずだ。

 白柳(しらやなぎ)(ゆみ)が特殊能力を?

 前の世界では、何の能力も持っていなかったはずだ。

 

「皆さんで集まって、なにしてるんですか?」

 

 白柳(しらやなぎ)が僕たちに言った。

 

「あっ白柳(しらやなぎ)さん。どうも」

 

 友利(ともり)が振り返って返事する。

 高城(たかじょう)も知り合いのようで会釈を交わした。

 僕を除いて、みんながこの状況を受け入れていた。

 

 僕は白柳(しらやなぎ)(ゆみ)の能力名を特定する能力を使った。

 

 

 

 能力は『占領』。

 

 

 

 僕は別の能力を使って、能力の内容を特定した。

 

 

 

『対象の相手に目を凝らすことで5秒間身体に乗り移ることができる』

 

 

 

「――――――」

 

 

 頭がまっしろになった。

 

 記憶がフラッシュバックする。

 

 前の世界で歩未(あゆみ)を失った僕は友利(ともり)に救われて、(しゅん)(すけ)兄さんにあった。僕は兄さんから時間跳躍(タイムリープ)を奪い時間を巻き戻した。

 

 その時略奪(りゃくだつ)で奪った時間跳躍(タイムリープ)は時間を巻き戻したにも関わらず消えていなかった。

 

 略奪(りゃくだつ)で奪った能力は、時間跳躍(タイムリープ)が視力を失うのと同様に、僕の意志とは別のなにかに記録されているているんだ。

 

 そして、今。

 

 白柳(しらやなぎ)(ゆみ)が『占領』の能力を持っている。

 

 僕の『略奪(りゃくだつ)』で奪った能力は消えない。

 

 

 だから、つまり――

 

 

 僕が知らない世界で僕は白柳(しらやなぎ)(ゆみ)から『占領』の能力を奪ったんだ。

 

 

 ずっと5秒間他人の乗り移る能力と、他人の能力を奪う、その二つが略奪(りゃくだつ)の能力だと思っていた。

 

 だけど、違ったんだ。

 

 思えば、友利(ともり)の生徒会活動日誌にも記録してあった。

 熊耳さんが僕の能力を特定した時、確かに『略奪(りゃくだつ)』と言っていたんだ。

 

 熊耳さんが柚咲(ゆさ)の能力を特定した時も『口寄せ』と言った。美砂の『発火』までは特定出来ていなかった。

 

 はじめから略奪(りゃくだつ)は一つの能力だった。

 

 発動条件が同じだっただけで、僕が勘違いしていたんだ。

 

 

乙坂(おとさか)くん。覚えていますか?」

 

 

 白柳(しらやなぎ)が僕に話しかけてきた。

 僕がなんのことだと唖然(あぜん)としていると、白柳(しらやなぎ)は頬をふくらませた。

 

 

「もう! 忘れたんですか? 今日は委員会の日ですよ」

 

 

 委員会?

 僕が高城(たかじょう)の方を見ると、高城(たかじょう)はポンっと手を叩いた。

 

 

「そう言えば、そうでした。今日は委員会の日で一年生の各クラスの学級委員長は放課後、学校の日用雑費を買いに行くんでしたね」

 

「は、はあ? なんだよそれ?」

 

「学校の決まりです。乙坂(おとさか)さんのクラスの委員会は乙坂(おとさか)さんと、白柳(しらやなぎ)さん。私のクラスは私と友利(ともり)さんです」

 

 

 僕は委員会なんて、面倒くさそうなことをやっていたのか……。

 高城(たかじょう)は説明口調で続ける。

 

 

「結構買うものあるんですよね。ああ、そうだ。四人で協力しましょう。それがいい。ですよね白柳(しらやなぎ)さんっ!」

 

 

 棒読みで、高城(たかじょう)白柳(しらやなぎ)に詰め寄った。気圧(けお)された白柳(しらやなぎ)は、

 

「は、はい。私は構わないですけど……」

 

 と、僕に不満気に目配せする。

 

 お、おい高城(たかじょう)、そんなことしてる場合じゃないんだって。

 僕が目線で促すと、高城(たかじょう)は少し笑って、友利(ともり)の方を見る。

 

 クソッ……高城(たかじょう)のやつ、余計な気使わせやがって。

 

 

「……僕も別に構わないよ。でも、友利(ともり)は、それでいいのか?」

 

「私もいいですよ。断る理由がありませんし」

 

 

 友利(ともり)は、いつも通り素っ気なく応えた。

 

 

「もちろん。男子が荷物持ちですけどね」

 

 

 いたずらっぽく指を立てて、友利(ともり)は笑った。

 

 

     ◆   ◆   ◆

 

 

 放課後、学校近くの駅前にある大型ショッピングセンターに僕たちは買い出しに出かけた。

 あいにく天候は雨だったが、生徒会の活動はともかくとして、制服の姿で(星ノ海学園の制服ではないが)みんなと買い物に出かけるのは、はじめての経験だった。

 学校の買い出しは案外手早く済んだ。高城(たかじょう)は量があると言っていたが小さなビニール袋二つで済むくらいだった。

 

 白柳(しらやなぎ)が本屋によりたいらしく、本屋によったのだが、さすが大型ショッピングセンターだけあって本屋もでかかった。

 と、言うのも本屋とCDショップとスタバが一緒のフロアにあって、ものすごく人が多かった。本屋を見かけると白柳(しらやなぎ)が一人で人の群れに突っ込んでいくので。僕たちはあっという間に白柳(しらやなぎ)を見失った。

 

 それで、高城(たかじょう)はと言うと。

 急に眼を光らせて、

 

「ううっ……急にお腹が……」

 

 と棒読みで言って、壁に持たれかけたと思ったら、貼ってあった明らかにカップル向けの恋愛映画の広告を見て、

 

「おおっと! 急に一人映画がしたくなりました! すみません、先に帰っててください!」

 

 と、言って友利(ともり)に「引くな!」と言われた後、劇場へと消えて言った。あいつらしい流れるような手際の悪さだった。不自然すぎる。

 

 

高城(たかじょう)……。あんなのに興味あるんすね……」

 

 友利(ともり)が恋愛映画のポスターを見てつぶやく。

 

「……ミーハーなんだよ。あいつは」

 

 なんかすまない。高城(たかじょう)。お前も柚咲(ゆさ)のCDとか見たかっただろうに。

 

 僕と友利(ともり)は、二人きりになった。

 

 

白柳(しらやなぎ)もいなくなっちまったし、せっかくだから、何か見るか」

 

「そうですね」

 

 

 友利(ともり)が先に歩いて行くので僕もついていくことにした。友利(ともり)は当然のように積まれてあった本や、コーヒーの香りを無視して、CDショップに足を運んだ。

 洋楽の棚で立ち止まって、CDの棚を見はじめる。

 

「なに見てるんだ?」

 

 『ZHIEND』以外友利(ともり)の好きなバンドをしらなかったので訊いてみた(バーベキューの時はビートルズがどうこう言ってたが。あと、もらった音楽プレイヤーにも『ZHIEND』以外入ってなかった)。

 

 

「リジー・メルシエ・デクルーです」

 

「ポストロックなのか?」

 

 

 当てずっぽうで訊いてみた。

 当たったらしく、嬉しそうに友利(ともり)が応える。

 

 

「ポストロックの中のポストロックです。聞いたことないんですか?」

 

「聞いたことないな」

 

 

 ダメですねーと言って、友利(ともり)はこのポストロックバンドがいかに優れているかを僕に説いた。ぶっちゃけ僕はポストロックが何なのかもよくわかっていなかったが、友利(ともり)が楽しそうに話すので、相槌(あいづち)をうちながらきいていた。

 

 解説が終わって、CDの試し聞きコーナーに連れて行かれ、サラの音楽と違ってだいぶ時代を感じるピコピコとした音楽だったが悪くなかった。

 しばらくして、「そう言えば」と友利(ともり)が口を開いた。

 

 

「今日、私に握手を求めてきましたけどあれは一体、何だったんですか?」

 

「それは――」

 

 

 友利(ともり)の特殊能力は完全になくなっていた。

 そして、白柳(しらやなぎ)が能力者になっていた。

 ……どうしてかは、わからない。だけど、おそらく原因は能力に関係する何かだ。

 

 

「おまえの手が触りたかったんだよ」

 

「……うええ、なんかヘンタイチックな言い方ですね。やっぱり変な人なんですか」

 

「変でもいいさ。深い理由はないよ」

 

「…………そうですか」

 

 

 友利(ともり)は声を落として返事したあと、僕に背を向けた。

 

 

乙坂(おとさか)さん。また、ここに来ましょう。今度は、また別のポストロックを紹介しますから」

 

 

 意外な言葉だったので驚いた。友利(ともり)には嫌われていると思っていたから、どう答えていいか返答に迷った。

 

 

「……そうだな」

 

 

 果たせない約束をしたあと、僕たちは白柳(しらやなぎ)を探した。

 

 

     ◆   ◆   ◆

 

 

 白柳(しらやなぎ)は本屋の哲学書のコーナーにいた。

 僕は本棚を見渡す、デカルト、バークリー、ロック、バートランド・ラッセル、トマス・アクィナス、プーフェンドルフ。無駄な品ぞろえの良さだった。……こんなの読むやつが本当にいるのだろうか。

 

 ――いた。

 

 白柳(しらやなぎ)は小難しいそうな本を手に持って立ち読みに(はげ)んでいた。

 さすが学年四位といったところだろうか。僕が若干引いていると、お隣の学年一位、友利(ともり)さんも引いていた。頭がいいのと読書家なのは比例しないらしい。

 

 ハッと白柳(しらやなぎ)が僕たちの冷たい視線に気づいた。すぐさま頭を下げて、「ごめんなさい」と連呼する。

 

 

「なに読んでたんだ?」

 

 

 白柳(しらやなぎ)が持っていた本を指差して、僕は訊いた。

 さっきの友利(ともり)と同じように、白柳(しらやなぎ)も眼を輝かせて解説をはじめる。

 

 

「デカルトの関連本ですっ! この本は家にもあるんですけど、眼に入ったら読みたくなっちゃって……、我思う故に我ありってやつです」

 

 

 聞いたことのあるフレーズだった。

 

 

 ――我思う故に我あり。

 

 

 そうだった。

 

 僕も昔、デカルトに(なら)って、そう考えたのだ。

 

 あの人も僕ではないのかと。

 

 それで、僕は5秒間相手の身体に乗り移れるようになったのではなかったか。

 

 だけど、その能力は略奪(りゃくだつ)で……。

 

 

「――あれ、高城(たかじょう)さんはどうしたんですか?」

 

「……高城(たかじょう)は一人恋愛映画です。……もう放って帰りましょう」

 

 

 ばらしてやるなよ……。なんか、本当にすまん高城(たかじょう)

 

 少し、モヤモヤとしたが、僕たちはそのまま何事もなくショッピングセンターを出た。

 

 

     ◆   ◆   ◆

 

 

 友利(ともり)たちと別れたあと、ぼくは素直に帰路についた。

 結局、白柳(しらやなぎ)の能力を奪いそこねたので(白柳(しらやなぎ)の能力はキャリアだったから触れる必要があった)。

 仕方がない。先延ばしにしたくはなかったが、不自然に白柳(しらやなぎ)を呼び止めるのもアレだったので、計画はまた明日に回すことにした。

 

 

 楽しい一日だったと思う。

 

 今日一日を振り返って、そう思った。

 

 友利(ともり)は相変わらず、そっけないけどポストロックファンで、高城(たかじょう)は楽しいいいやつで、白柳(しらやなぎ)の意外な一面も見れた。

 

 生徒会のメンバーだと柚咲(ゆさ)美砂(みさ)がいないのが寂しいけど仕方がない。もしここに残れるのなら今度高城(たかじょう)と一緒にサイン会にでも行きたいな、と思った。

 

 自分にとって後悔が残らないくらい楽しい一日だった。

 

 

 

 

 

 ――ふいに携帯電話が鳴った。

 

 電話? 僕に? 誰だ?

 

 ポケットに手を入れて、ドクンッと心臓が跳ね上がる。

 

 なんだ? どうしたんだ?

 

 気持ちが悪い。

 

 さっきまであんなに楽しい気分だったのに。

 

 痛い。

 

 痛い。

 

 あの時と同じ嫌な予感がする。

 

 歩未(あゆみ)が学校の瓦礫に呑まれた時と。

 

 みんなが殺された時と。

 

 とても嫌な空気が身体にこびりついてくる。

 

 突然、周囲の日が落ちたように黒ずんで、心の奥からなにか嫌なものがせり上がってくる。

 

 僕は電話に出て、耳に当てた。

 

 

乙坂(おとさか)有宇(ゆう)さんの携帯電話で間違いないですか?』

 

 

 僕が、はいと返事すると、電話の人物は、落ち着いて聞いてくださいと言って、

 

 

『お兄さんと妹さんが、たった今亡くなりました』

 

 

 電話を落として、膝から崩れ落ちた。

 

 急いで、電話を拾い上げた。だけど、落ちた拍子(ひょうし)に切れてしまっていた。

 

 冷静だった頭が壊れたように働かなくなる。

 

 そんな。

 

 そんなことって。

 

 今度は歩未(あゆみ)だけじゃなくて、(しゅん)(すけ)兄さんまで……。

 

 いくら何でも早すぎる。

 

 また、失敗――? いやまだ、なにもできてないじゃないか……。

 

 ふざけるな。

 

 無我夢中で歩未(あゆみ)と兄さんを探した。

 

 多分、能力を使ったんだと思う。

 

 普通の住宅街で、青い服を着た人がたくさんいた。

 

 ブルーシートを跳ね除けると、血だらけの肢体があった。

 

 誰かに鋭利なもので滅多刺しに刺されたらしい。

 

 周りから無意識に情報を拾う。どうやら通り魔らしい。こんなタイミングで通り魔らしい。こんなタイミングで僕の大事な兄弟を殺す人間が科学者以外にもいるらしい。

 

 

「はは、ははははは」

 

 

 ゴキリと、僕の中で何かが折れる音がした。

 

 頭を()きむしった。

 

 血が出てくるほど掻きむしった。

 

 現実を直視したくない。もっと前の時間に戻ればいいのか? もっと前の時間に? そしてまた誰かが死ぬのか? なにも出来ずに? その時はもっと前にやり直す? いや……、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや嫌だ、もう分けがわからない。なんてことだ。誰か教えてくれ。僕はどうすればいい。誰か助けてください。

 

 みんなが殺された時の映像がフラッシュバックされる。

 

 

 冷静でなんかいられない。

 

 頭から血がたれてくる。だけど、痛みに反して、刻んだ傷も()えて僕の頭は冴えていく。

 

 うざったい能力だった。

 

 もう、何もかも嫌になって自分の眼に指を突っ込んで脳を()きだしてやろうと思った。やめろやめろやめろやめろやめろやめろみんなを救うんだ。

 

 ――その時だった。

 

 少しだけ視力が落ちた眼で指先を見つめた。

 

 手の細かいシワが見えない。時間跳躍(タイムリープ)能力のデメリット。

 

 これまでの記憶が頭の中を駆け巡る。

 

 また死体。

 

 死体遺体遺体居たい痛い。

 

 誰かの死。

 

 誰かが世界に殺される。

 

 そうか。

 

 なんだ。

 

 そういうことか。

 

 まるで、悪魔が考えた仕組みだな。

 

 略奪(りゃくだつ)にはデメリットがあるんだ。

 

 はじめの世界では歩未(あゆみ)が死んだ。時間跳躍(タイムリープ)した世界では熊耳さんが死んだ。次にみんな殺された。そして、今、歩未(あゆみ)(しゅん)(すけ)兄さんが殺された。

 

 略奪(りゃくだつ)のデメリット、それは『大切な誰かの死』だ。

 

 

 一つ解が分かると、すべての歯車が噛み合った。

 

 

 ――どうして、星ノ海学園はなくなってしまったのか。

 

 ――どうして、友利(ともり)の能力が消えて、白柳(しらやなぎ)(ゆみ)の能力が復活したのか。

 

 ――どうして、この特殊能力は思春期を過ぎたら消えるのか。

 

 ――どうして、シャーロット彗星の周期は75年だったのか。

 

 ――サラシェーンは何者だったのか。

 

 ――夢で見た彼女は何者なのか。

 

 

「――ずっと、僕のことを見ていたんだ」

 

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