アインズ様を射んと欲すれば先ずパンドラを射よ   作:こりぶりん

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 メインテーマはドッペルゲンガー同士の絡みです。
 ドッペルゲンガー同士の問答がまずあって、残りはそうなるに至る理由から逆算して全体の形を整えたおまけみたいなもんです。
 ナーベとパンドラの悩みは当然ながら独自解釈に基づいた捏造です。



前編:ドッペルゲンガー達の憂鬱

「――アルベド様。ナーベラル・ガンマ、お召しに従い参上しました」

 

 自室の前で直立不動の姿勢で待機していたらしいナーベラルは、部屋の主であるアルベドが歩いてくるのを見るとそのまま深く頭を下げた。アルベドは軽く頷くと、扉を開け、後に続くように促した。

 ナザリック地下大墳墓第九階層に用意された守護者統括の私室である。冒険者モモンとその仲間ナーベは、現在共にナザリック地下大墳墓に帰還している。アインズはアルベドによる熱烈な挨拶と報告を済ませた後、次にデミウルゴスからの報告を受けている最中である。

 一方、ナーベラルは帰還したらまずは何を置いても自分の元に来い、そのような命令を与えた結果こうしてアルベドの部屋の前で待っていたらしい。だが、アルベドには待たせておいたことに引け目はなく、またナーベラルにも不満はない。ナザリックの偉大なる支配者への対応を優先するのが当然であることは、シモベ達の共通認識であるのだから。

 

「ご苦労様、ナーベラル・ガンマ。まずは楽にしなさい」

 

「はっ」

 

 ナーベラルを部屋に招き入れた後、アルベドは執務机の椅子に腰掛けると、正面に立ち止まったナーベラルに声をかけた。それに従って、ナーベラルが気をつけから休めの姿勢に変わる。

 

「では、まずは報告を聞こうかしら」

 

「かしこまりました。まずは……」

 

 アルベドの言葉に従い、ナーベラルは報告を始めた。その内容は、「アルベド様をアインズ様の嫁に売り込む大作戦」の進捗についてである。どうせ毎日<伝言>(メッセージ)で報告させているのだが、それはそれ、これはこれだ。ナザリックに帰還したのであれば、直接報告を聞きたい。ナーベラルが呼びつけられた理由など、その程度のものであった。

 

 

「ところでナーベラル……あなたはパンドラズ・アクターというシモベについて聞いたことがあるかしら?」

 

 アルベドイチ押し活動についての報告が一段落した時点で、アルベドがそのような事を言い出した。ナーベラルはその名前について脳裏を探るが、思い当たるところは特になかったため首を振った。

 

「いえ、そのお名前は初めて耳にしました。……どのような方なのでしょうか?」

 

「そうね、彼は宝物殿の領域守護者……まあ、階層守護者と同格の存在ね」

 

「階層守護者の方々と……宝物殿ですか、それで聞いたことがないのですね」

 

「ええ、そうね。そしてここからが重要なのだけど。彼は、アインズ様が直接創造なさったシモベなのよ」

 

「まあ、アインズ様が!?」

 

 その言葉を聞いたナーベラルは目を見張った。敬愛する至高の御方が創造したシモベ、そう聞けば嫌が応にも興味が増すというものである。ナーベラルが十分に食いついてきたことを確認すると、アルベドは満足そうに頷いた。

 

「気になる? 気になるわよね、そうでしょうとも。……アインズ様が直接創造なさったシモベは、このナザリック地下大墳墓にパンドラズ・アクターただ一人。それはつまり、彼こそはアインズ様にとって最も特別なシモベだということだ、そう言えるかもしれないわね」

 

「そうですか……」

 

 至高の御方が最も大事にするシモベ。羨ましそうにそう言ったアルベドの声を聞き、ナーベラルの胸がきゅんと痛んだ。勿論、至高の御方々にとって自分が直接創造したシモベが大切なのは当然である。彼女も、創造主の弐式炎雷にとっては最も大切なシモベである筈なのだ。してみると、この気持ちは直接の創造主が未だ健在であるということに対する羨望なのかも知れない。

 

「……そんな息子にも等しいシモベが、わたくしを后に推せば。来たる正妻戦争において、シャルティアより優位に立てる――そうは思わないかしら、ナーベラル?」

 

「は? ……ああ、まあ、その、そう言われればそうかもしれないですね?」

 

 唐突な話題の転換に頭がついていかず、生返事をしたナーベラルを、アルベドはまじまじと見つめた。

 

「ちょっと、しっかりしてちょうだい。それに関連して、あなたに頼みたいことがあるのよ」

 

「はっ、なんなりと」

 

 反射的にそう答えて膝をついたナーベラルを、今度は満足そうに頷いてアルベドは言った。

 

「あなたにはそのパンドラズ・アクターを、籠絡して欲しいの」

 

「……はい?」

 

 ナーベラルの顔が固まり、思わずアルベドの顔を見上げる。

 

「だから、あなたに。パンドラと仲良くなって、わたくしをアインズ様に売り込む手伝いをしてくれるよう、話を持って行ってちょうだい。無論、さりげなくね」

 

 アルベドの言葉の意味が頭に染みこんでくるにつれ。ナーベラルの顔に焦りが現れた。

 

「あ、ええっと……」

 

「何かしら?」

 

 可愛らしく首を傾げてみせるアルベドに、ナーベラルは疑問の声を呈する。

 

「いえ、あの、いくら何でも迂遠に過ぎるというか……ご自分でパンドラ様と仲良くしようとはなさらないのですか?」

 

 パンドラズ・アクターがアルベドのことをよく知らないとすれば……ナーベラルが近づいて、仲良くなって、アルベドをヨイショして、それがアインズの耳に入るまで。どれほどかかるやら見当もつかない。

 

「そうね……あなたの言うことも一理あるわ、ナーベラル。でもね」

 

 そう言って、アルベドは悩ましげにため息をついた。

 

「パンドラズ・アクターは、わたくしも最近まで名前しか知らなかった存在であり、その人格から趣味嗜好に至るまで、そういったものは未だ把握しているとは言えないわ。……正直、とっかかりがないのよ。その点、あなたは同じ種族でしょう?」

 

 多種多様の異形種が混在するナザリック地下大墳墓では、別個に創造されたシモベの種族が被ることはなかなか珍しい。無論、ホムンクルスのメイド達や、同じ主に創造された闇妖精(ダークエルフ)の姉弟など、ひとくくりに創られたシモベは別である。だが、自動沸きの雑魚や階層守護者の眷属という立場でもなく、創造主が異なるシモベでありながら同じ二重の影(ドッペルゲンガー)であるパンドラとナーベラルは、そのかなり珍しい事例であった。種族が同じなら、そこから共通の話題を探すこともできるだろう。そのような主張をするアルベドに、ナーベラルの焦りが深まった。

 

「いえ、でも、アルベド様。私は……」

 

 もごもごと口の中で何事か言いかけるナーベラルに対し、アルベドは彼女の肩をぽんと叩くと、にっこりと微笑んだ。

 

「やって、くれるわね?」

 

 ……ナザリック地下大墳墓に所属するシモベ達は、みな立場を同じくして至高の御方々にお仕えする同胞(はらから)である。

 同胞(はらから)ではあるが……序列はあるのだ。圧倒的に……!

 

「……かしこまりました、微力を尽くします……」

 

 ここでやる気のない返事をすれば、たちどころのうちに守護者統括の無慈悲な制裁がくだるであろうことは想像に難くない。ナーベラルは内心の不安を押し殺すと、了承の意を込めて頷いた。

 

 

「ナーベラル、アルベド様のご用は済んだの……って、どうしたの!?」

 

 アルベドの部屋を辞してとぼとぼと歩きだしたナーベラルを見かけるなり、姉のユリが血相を変えて駆け寄って来た。

 

「あ……ユリ姉様ぁ……」

 

 無表情で死んだ魚のように虚ろな目を向けてくる(ナーベラル)の、明らかにおかしい様子にユリは焦って叫ぶ。

 

「……もしや、とうとうアインズ様の前で致命的な失態をやらかしてしまったとか!?」

 

 普段ユリが(ナーベラル)のことをどう思っているかが窺い知れる台詞であった。平常の精神状態ならむくれて見せたであろうナーベラルは、だがしかし、その唇から弱々しい声を上げて姉の胸に縋り付く。

 

「うう~、ユリ姉様ぁ~……」

 

「ちょっと、落ち着いてナーベラル。とりあえず、ボク、いや私の部屋に行こう、ね?」

 

 ナザリックのシモベに休息という言葉はない。……アインズが無理矢理休憩時間を作るように命令したので最近はそうでもないが。ともかく、だとしても。部下のケアも上司の役割の内、ましてやその相手が妹なら尚更である。ユリは己の業務を放り出してでもナーベラルの様子を確認することが先決であると判断し、彼女を自室に連れ込んだ。

 ベッドの縁に腰掛けて己の膝をぽんぽんと叩いてみせると、ナーベラルはその意をすぐに了解して、自分もベッドの上に乗って寝転がり、姉の膝枕に顔を埋めた。そのまま甘えるように顔を擦りつけて来た(ナーベラル)の頭を優しく撫でつつ、ユリはそっと彼女に囁きかけた。

 

「何があったの? お姉ちゃんに話してごらん」

 

 その言葉を受け、ぽつぽつと事情を語り出したナーベラルの話に耳を傾ける。やがて、十全に状況を把握したユリは、まずは安堵のため息をついた。ナーベラルが何か失敗をしでかしたという話ではなかったからだ。

 

「なるほど、大体事情は分かったわ。……でも、私には分からないのだけど。アルベド様の命令が無茶だとあなたが考えていることは分かったけど、実際何が問題なのかしら?」

 

 ユリは首を傾げて言った。アルベドの命令はなるほど、かなり身勝手な話ではある。自分が自信のないことを部下に無理矢理やらせようという時点でご無体な話だ。だが、同じ二重の影(ドッペルゲンガー)として、雑談などして仲良くなるだけなら……ナーベラルがそこまで絶望的な顔をする理由もまたないのではないだろうか。かつてアインズが宝物殿に向かった際にはユリも同行し、パンドラズ・アクターを実際に見ている。気障ったらしいポーズで演技過剰な性格はともかくとして、そこまで取っつきの悪い人物には見えなかったが。

 すると、姉の膝に顔を埋めてその表情が見えないナーベラルが、ぼそりと呟いた。

 

「でもね、ユリ姉様。……私は、自分が二重の影(ドッペルゲンガー)であるという自覚に乏しいの。姉様も私の性能は知っているでしょう?」

 

 成る程。ユリは膝を打つ思いで頷いた。膝の上にはナーベラルの頭が鎮座しているので、実際には叩かなかったが。

 ナーベラル・ガンマは確かに二重の影(ドッペルゲンガー)ではあるが、その種族レベルは僅か1。残りは全て職業レベルに振られた生粋の魔法詠唱者(マジック・キャスター)である。彼女の種族レベルで行使できる能力はただ一つ、姿形を記憶した外装に変更することだけである。記憶できる数も一つきりであるため、その枠は普段の人間メイドの姿を取ることに使われている。当然それを書き換えることも出来ないため、異形種としての特性を奮う機会はないに等しい。人間の姿に変身することがそうだと見なせば常時奮っているとも言えるのだが、こればかりは本人の自覚の問題である。

 

「つまり、あなたは二重の影(ドッペルゲンガー)としての能力が殆ど無いから、それをきっかけにパンドラ様と話を合わせろと言われても困る、そういうことでいいかしら」

 

「うん……」

 

「そうねえ……」

 

 ユリはナーベラルの頭をゆっくりと撫でながら考え込んだ。

 

「とりあえず、当たって砕けてもいいんじゃないかしら、ナーベラル。あなたもアルベド様も難しく考えているようだけど、同じ種族じゃないと仲良くできないなんてことはないのだから」

 

 私達(プレアデス)が全員異種族であるようにね。言外にそういう姉の言葉に、ナーベラルは首を回して、ユリの顔を見上げた。

 

「……そうかもしれないですね、姉様」

 

「私はお会いしたことがあるけれど……そこまで気難しい方には見えなかったわよ、パンドラ様。まずは話してみて、駄目だったらその時はその時よ。それでアルベド様があなたを怒るようなら、ボ……私にも考えがあるわ」

 

 その時はお姉ちゃんに任せなさい。事の次第によってはアインズ様に密告(チク)ってやろうと思いながら、そのように宣ったユリの顔はまことに頼もしく、ナーベラルは弱々しい笑みを浮かべて頷いた。

 

「うん……ありがとう、ユリ姉様」

 

 

「……それで、ぶっちゃけてしまったわけですか。それもまた極端なお話ですねえ」

 

 対面に座り、ため息をついて俯いたナーベラルの姿に、パンドラズ・アクターはしみじみと述懐した。己の被る軍帽の角度を調整し、手鏡を出して位置を確認する。

 ナーベラルが渋々ながらも頷いて以後、アルベドの処置は速かった。いかなる手段を用いてか、あれよあれよという間にパンドラとナーベラルの会談を実現させたのは、守護者統括の面目躍如と言ったところである。

 その当人はこの場には居ない。ナーベラルとパンドラズ・アクターを引き合わせた後、「さ、後は若いお二人で」などと、何処で覚えたのか見合いのおばちゃんのような台詞を言いながら退散した。自分が居ては話しづらいこともあるだろうとの彼女の配慮は、ある意味では正しかったが、ある意味では間違っていた。

 初めて顔を合わせた宝物殿の守護者を前に、緊張を隠せないナーベラルは、沈黙に耐えかねて、アルベドが居ては話しづらいこと――彼女が自分をパンドラと引き合わせた真の目的を、洗いざらいぶちまけたのである。それを聞いたパンドラは、急に自分が呼び出されたのはそう言う話なのかと苦笑しながらも納得したのだが。

 

「だって、その……私は二重の影(ドッペルゲンガー)としてはポンコツもいいところです。パンドラ様とどのように話していいかなど、わかりません……」

 

 聞く者が聞けば、二重の影(ドッペルゲンガー)として()()? などと茶化したくなるような台詞を吐いて俯いたナーベラルは、だが彼女としてはまことに深刻であった。もっとも、パンドラは初対面の彼女が普段どのような人物であるかなどと知る由もない。彼女が吐露した心情に神妙に耳を傾けている。

 

「私は、二重の影(ドッペルゲンガー)としては最低限の性能しか持たずに生み出されました。そちらの方面の能力を、創造主はお求めにはなられなかったからです。その代わりに魔法職としての能力を頂きましたが……ともかく、私は二重の影(ドッペルゲンガー)としては不完全もいいところなのです」

 

 ナーベラルの告白を聞いて、パンドラは芝居がかった動作でかぶりを振った。席を立つと、対面に座るナーベラルの側に歩み寄って、彼女の顔を覗き込む。

 

「……私が思うに、二重の影(ドッペルゲンガー)とはそもそも不完全な種族です。かくいう私だってそうですよ?」

 

 その言葉を聞いて、ナーベラルは顔を上げてパンドラズ・アクターの顔を見上げた。

 

「……そうなのでしょうか? 私は、パンドラ様が二重の影(ドッペルゲンガー)としては完璧であられるとお聞きしました。二重の影(ドッペルゲンガー)が行使しうる能力を完全に使いこなせるとか……一方、私には、そもそも他者に化ける、ということがピンとこないのですが」

 

 二重の影(ドッペルゲンガー)としての種族レベルを極めたパンドラズ・アクターは、ユグドラシルのゲーム仕様が定める最大の範囲で他者の姿と能力を模倣することができる。一方、ナーベラルができるただ一つのことは、普段から取っている人間の姿を取ることだけである。彼女が自身とパンドラを同一視できないのは無理もなかった。

 だがパンドラは、その卵型の顔に空いた下の穴……口元に笑みを浮かべて言った。

 

「まあ、お見せした方が早いでしょうね。……お嬢さん、貴女の創造主はどなたでしたか?」

 

「私ですか? 弐式炎雷様ですが……まさか!?」

 

 唐突に投げられた質問に、訝しげに答えながらもナーベラルははっとした。パンドラは彼女にひとつ頷いて見せると、三歩下がって距離を取り、その姿をぐにゃりと歪ませた。

 

「弐式炎雷様のお姿……」

 

 一拍の間を置いてその場に現れた、アカラサマにニンジャなハーフ・ゴーレムの姿を見て、ナーベラルの顔が歓喜に溢れた。

 しかし、懐かしさが零れんばかりの笑顔は、直後の違和感によりその美しい眉根が寄せられ……歓喜は困惑に取って代わり、最終的に彼女は切なげなため息をついた。それら全ての挙動を、弐式炎雷の姿を取ったパンドラは黙って見守った。

 

「……もう、結構です。どうか、元の姿にお戻りください……」

 

 やがて、泣き出しそうな顔でその台詞を絞り出したナーベラルの声を受け、弐式炎雷の姿がぐにゃりと歪むと、軍服姿の二重の影(ドッペルゲンガー)が再びその場に現れた。

 

「――分かりましたか?」

 

「お姿は間違いようもなく弐式炎雷様そのものなのに、全くあの御方の気配が感じられません……そのような紛い物を見せられては、返って切なくなります……」

 

 苦しそうに胸元を押さえてぽつぽつと語るナーベラルに、パンドラは頷いた。

 

「そうでしょうとも。結局、そこが我々二重の影(ドッペルゲンガー)にできる限界なのです。モモンガ様――あえてここはアインズ様ではなくモモンガ様と呼ばせて頂きますが――モモンガ様は、気配の有無を問題にしたことはありませんでしたが。例えこの身に御方々の気配を再現することが出来、能力の模倣が完全なものになったと仮定してさえも。結局はこの身に御方々の魂が入ることはないのです」

 

 そう言って、パンドラズ・アクターは天を仰いだ。脳裏をよぎるのはかつての記憶。

 

 

 ――ああ、こいつはパンドラズ・アクターですよ、ほら、俺が作ったNPCで、二重の影(ドッペルゲンガー)の。ヘロヘロさんの外装だって登録させて貰ったでしょ、覚えてません? え、突然でびっくりしましたか。宝物殿に訪問者が来たときにランダムで変身するように設定してあるんです。ああ、そうですね、懐かしいですね。たっちさんが引退しちゃって結構経ちますからね。

 ……はい、確かに。一応受け取りましたけど、預かっておくだけですから。もしリアルの都合が好転したら、いつでも戻ってきてくださいね。え、他のみんなの装備ですか。勿論、全部ここにしまってあります。別に、いつか戻ってきてくれるとか思ってるわけじゃないんですけどね。キャラ削除しちゃった人も少なくないですし。……ただ、結局ユグドラシルの装備ってカスタマイズ性が強すぎて全部オーダーメイドみたいなものじゃないですか。他人がつける値って、いまいち作成時の苦労に見合うと思えることがないんですよね実際。だったら、記念にとっておいて、時々思い出を確認するのもいいかなあ、なんて。未練がましいでしょ? ……ありがとうございます。

 では、お疲れ様でした、ヘロヘロさん。くれぐれも健康には注意して、体を壊さないように気をつけてくださいね。既に結構、健診データもやばいんですよね? はい、こちらこそお世話になりました。それでは、またいつか。

 さてと。

 ……たっちさん、聞いてくださいよ。とうとう、ヘロヘロさんまで実質引退状態になっちゃいました。一応、垢は残しておくそうなんで、リアルの事情が好転すればまた来てくれるかも知れないですけどね。たっちさんは元気にしてますか? 俺は……正直、寂しいです。アインズ・ウール・ゴウンも、今やアクティブユーザーは俺一人です。でも、このままギルドを潰したくはないです。どれだけ可能性が低くても、みんながもう一度ユグドラシルをプレイしようと思ったときに、この場所が残っていて欲しいんです。だから、俺、一人でも頑張ろうと思います。こんなこと言うのはなんですけど、ウチだけじゃなくて、ユグドラシル全体が過疎って来てるわけだし。目立たないようにギルドの維持費を稼ぐくらいなら、なんとか一人でもやれるんじゃないかなあ。見ててください。そしていつか、戻ってきて欲しいなあ……

 

 たっち・みー(パンドラ)は黙ってモモンガの言葉に耳を傾ける。ユグドラシルというゲームにおいて、NPCは発声する機能を持たない。だが、この世界において自我を得たパンドラズ・アクターの中では、その記憶は己がたっち・みーとして答えるべき内容を把握して居らぬが故、答えたくとも出来なかった、そのような認識になっていた。

 

 

 

 ――ペロロンさん、今日は植物系モンスター中心に狩って来たんですけど。ペロロンさんが良く言ってた、植物系モンスターには造形がなんかエロい奴がたまに居るってやつ。今日はなんだか強烈な奴が居たんですよ、見て貰いたかったなあ。ああいう形状って自動生成なんですかね? 手動だったらデザイン担当が運営に怒られるレベルでしたよ。え、そいつは是非見たかったって? 残念、偶然が生んだ奇跡ですからね。精々悔しがってください、あはは。

 

 動かぬ表情ながらも声だけは楽しそうに笑う主を、ペロロンチーノ(パンドラ)は黙して眺める。彼には認識できていない表情アイコンに頼らずとも、パンドラは主の顔を楽しそうだと思った。我が身は主を慰めるために生み出されたもの、あなたが喜んでくださることが私の唯一無二の幸せです。

 

 

 

 ――ぷにっとさん、今日はNPC雇って金策してきたんですけどね。最近、指示出すのも慣れてきた気はするんですよ。だいぶん上手くなったと思います、自分でも。ま、こんなのに慣れなきゃいけない状況は不本意なんですけどね……でも、未だにぷにっとさんに勝てる気が全くしないんです。ほんと、ぷにっとさんがどうやって三人も管理できてたのか教えて欲しいです。え……何が、ね、簡単でしょなんですか。それで済まされたら誰も苦労はしませんよ。

 そうそう、今日は珍しく、と言うか久しぶりにPK仕掛けられたんですよ、ぷにっとさん。正直、びっくりしたというか、感動しちゃったくらいです。ああ、まだそんなことやってくれるプレイヤーが居るんだって。……すいません、湿っぽいこと言っちゃって。結果? 無論、返り討ちにしてやりました。全力で迎え撃つのが礼儀ってものでしょう、ぷにっとさんの教えは骨の髄まで染みこんでますからね。常に余力を残して置くことを心がけろ、いかなる場所でも退路の確認はしておけ……ぷにっとさんの楽々PK術対抗編、こんな時期でも守っててよかったなあ。限界まで狩った方が効率的じゃないか、とか思ったりもしてたんですけどね。

 

 そのように語りかけるモモンガの声音は幾らか寂しそうで、ぷにっと萌え(パンドラ)は身を震わせた。我が主よ、あなたの無聊を慰めるのが我が使命。精一杯務めますので、どうかそのようなお顔をなさらないでください。

 

 

 

 ――茶釜さん、元気にしてますか? リアルじゃ相変わらずのご活躍……なんですかね? すいません、茶釜さんの声優名、ど忘れしちゃって。ペロロンさんが嫌がるから触れないようにしてたし、リアル活動をあまり追っかけるのもマナー違反かなあって感じで。

 ……ああ、糞。ダメか。

 

 ある日、ぶくぶく茶釜(パンドラ)に話しかけていた時。そう言って突如俯いたモモンガの姿に、パンドラは困惑した。如何為されたのでしょう、我が主よ。この身が何か無礼を致しましたでしょうか……口に出されなかったその問いは当然のようにモモンガには伝わらず、モモンガは肩を落として宝物殿を立ち去った。

 

 その時だったのだろう、決定的な綻びが生じたのは。

 

 

 

 ――源次郎さん……いや、なんでもない。大人しくしていろ、パンドラズ・アクター。……ああ、もう。糞が。

 

 我が主よ、どうなされましたか。前回の訪問から大きく間が空いて、暫くぶりに宝物殿を訪れたモモンガは、内心歓喜に身を震わせるパンドラを見て、しかし、かぶりを振って待機を命じた。黙って彼の前に佇むモモンガは、しばしの沈黙の後、ドカッと壁を殴りつけた。戸惑いながらも黙して動かぬパンドラを睨め付けると、踵を返して立ち去った。

 

 

 

 ……訪れなくなったモモンガを、パンドラは黙って待ち続ける。

 

 

 

 ……彼が記録した四十人の仲間達の姿を取りながら待ち続ける。

 

 

 

 ――糞、今週は思うように時間がとれなかった。宝物殿から一時的に借りておくしかないな……パンドラズ・アクター、元の姿に戻れ。そのまま待機せよ。

 

 久方ぶりに訪れた主が、るし★ふぁー(パンドラ)の姿を見るなり目を背けてそのように命じても。黙ってその命令に従いながら、待ち続ける。主の寂寥を癒すため、彼に許されているのは主の仲間達の姿を取ることだけだから。

 

 

 

 ――パンドラズ・アクター。獣王メコン川さんの姿をとれ。

 

 パンドラズ・アクターは歓喜する。主がもはや彼に語りかけることはせず、黙ってその姿を眺めるだけでも。

 

 

 

 ――パンドラズ・アクター。死獣天朱雀さんの姿をとれ。

 

 パンドラズ・アクターは願う。もはや自分では主の心の隙間を埋めることが叶わぬ事が明らかでも……ほんの僅かでも自分の姿が主の心を癒して欲しいと。

 

 

 

 ――パンドラズ・アクター……

 

 

 




 後編に続く。
 ギャグの筈なのに書いてたら妙に湿っぽい話が混じっちゃったので、仕切り直します。
 でもみんな、どうせオチはもう分かってるんでしょ( ´∀`)?

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