アインズ様を射んと欲すれば先ずパンドラを射よ   作:こりぶりん

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 ちゃうねん。
 もっとこう、あっ……(察し)みたいな反応が来る筈だったんや。



後編:パンドラがんばる!

「……モモンガ様は、私に至高の御方々の外装を記憶させてからしばらくの間。一時期は頻繁に私に様々な姿を取らせて愛でられましたが、結局はその切なさを思い知ったのでしょう。答える言葉を持たぬ私に一方的に話しかける行為はやがてなくなり、愛でる回数も目に見えて減っていき……ごく希に、写真を懐かしむような程度の使い方しかお命じになられなくなりました」

 

 そう言ってパンドラは、大仰に悲しんでみせるポーズを取った。身振りこそ芝居がかっては居たが、彼の悲哀は本物である。創造主の無聊を慰めるために生み出された自分が、創造主の悲しみを癒すことは決して叶わない――設計された最初から、自分自身は出来損ないであったのだ。そもそもの目的が叶わざるものであったが故に。

 

「だがそれは、叶わぬ望みを叶えようとしたモモンガ様が愚かであったのでしょうか? 私はそうは思いません。……できないと分かっていても、やらずには居られなかった。そのように私は思います」

 

 ……同じ種族なればこそ、分かることもあるでしょう。そのように述べたアルベドの台詞は、ナーベラルにしてみれば見当違いもいいところであったのだが、こうして見ると、結局は的を射た内容であったと言えるかも知れない。他種族が見ればいつもと変わらぬ卵面にしか見えなかったであろうパンドラの表情は、ナザリック地下大墳墓でただ一人、ナーベラルだけがその顔に込められた感情を読み取ることができたのだから。

 

「なるほど……パンドラ様でさえそうなのですね。私はパンドラ様のことを耳にした時から、なんと羨ましい立場に居られる方なのだろうとばかり思っておりました。ご無礼お許しください」

 

 そう言って頭を下げたナーベラルの肩を、ぽんと叩いてパンドラは答えた。

 

「いえ、私がナザリックで最も恵まれた立場に居るということは否定はしません。いくら今は疎んじられてるとは言えども、アインズ様がご健在であられるのです。いつかはアインズ様のお役に立てる時が来るだろう、そのように夢見ていられるのはやはり、十分に幸せだと思いますよ」

 

 ところで、とパンドラはナーベラルを見据えて言った。

 

「私の方は腹を割ってお話させて頂きました。……せっかくですので、あなたの()()を見せて頂いても?」

 

「あ、はい……」

 

 返答と共にナーベラルの姿がぐにゃりと歪む。

 二重の影(ドッペルゲンガー)としての本性を現したナーベラルのひょろりとした姿を、パンドラは満足そうに眺めた。尺取虫の様に動く細長い指が、彼女のつるつるとした卵型の頬をつつーと撫でる。

 

「可愛らしい曲線ですね、お嬢さん」

 

 そう言って今度はナーベラルの節くれ立った四本指の手を取ると、片膝をついてその異形の手の甲に軽く口づけした。キスされたナーベラルの顔が朱に染まった――かどうかは、もともとピンク色だったのでよく分からない。

 

「……パンドラ様のお顔も、とても凛々しいと思います」

 

ありがとうございます(Danke schön)

 

 代わりにパンドラの顔立ちを褒め返すと、パンドラは大仰な身振りで一礼した。

 ……念のために言っておくと、この二人の顔は人類が見てもどっちも同じにしか見えない。同じ服装にしてシャッフルしたら間違いなく見分けがつかないであろう。だが、二重の影(ドッペルゲンガー)の目から見ると、お互いの顔の造形は全く違って見えるらしい。

 

「それで、アルベド殿の目論見の件ですが」

 

 パンドラが軍帽のつばをくいっと引いてポーズを決めながらそのようなことを言うと、再びメイド姿に戻ったナーベラルは居住まいをただした。

 

「は、はいっ」

 

「……可愛らしい同族が困っているのです、まあ悪いようにはしませんよ。守護者統括殿には私から話をしておきますから、任せておきなさい」

 

 その言葉を聞いて、ナーベラルの顔がぱあっと明るくなった。

 

「あ、ありがとうございます、助かります!」

 

 どうしたらいいのか途方に暮れていたのであろう、心配から解放された彼女は安堵の笑みを一杯に浮かべてぺこぺこと頭を下げると、来たときとは裏腹に軽くなった足取りで退室していった。その様子を微笑んで見送ったパンドラは、椅子に腰掛けて独りごちる。

 

「さて……可愛い同族に無茶ぶりをして困らせる統括殿に、お話をしに行くとしますか」

 

 パンドラの顔面に空いた三つの穴のうち、下側にある丸がにへら、と歪んだ。表現として分かりづらいが、要するに、はに丸君の表情になったと思えば間違いはない。

 

 

 前日ナーベラルと二人きりにして置いてきたパンドラズ・アクターから、会談を申し込まれ。アルベドは自室に彼を迎えていた。

 さて、どのような目的であるだろうか。アルベドはパンドラにお茶を淹れつつ、彼の様子をそっと窺う。ナーベラルに申しつけた命令は無論覚えているが、それは昨日の今日でいきなり実現するような話ではないだろう。どんなに頑張っても昨日一日では、パンドラとナーベラルが多少親交を深めるのが精々であるはずだ。

 

「まずはお茶でもどうぞ。それで、どのような用件かしら、パンドラズ・アクター?」

 

「お手ずから淹れて頂くとはご丁寧に、アルベド様。このパンドラズ・アクター、感涙に噎び泣く思いです!」

 

 大仰に礼を述べるパンドラを、やや胡乱な目つきでアルベドは眺める。アインズ様がお創りになられたのだからこのような思いを抱くのは不敬かもしれないが、どうにもこのオーバーアクションは好きになれない。その思いを誤魔化すように、アルベドは自分もお茶を口元に持っていき、カップでその口元を隠す。

 

「それでですね、アルベド様。あなたを我が主の妻へと売り込む作戦のことですが」

 

「ぶーーーーーーーーッ!?」

 

 そして、パンドラの発言に、口に含んだお茶を盛大に噴き出した。お茶の飛沫が対面に座るパンドラに浴びせかけられる。パンドラは顔色も変えず、胸元のハンカチーフを取り出すとそっと己の顔を拭った。そんな様子に構う余裕もなく、盛大に咽せたアルベドは激しく咳き込みながら、胸中の混乱を沈めるべく胸を押さえる。

 

(なんでいきなりそんな話になるのよ! あの子(ナーベラル)ったら、さりげなくって言っておいたのに、どんな風に話を持っていったの!?)

 

 パンドラズ・アクターは、自分やデミウルゴスにも匹敵する知恵者であるという話だ。ナーベラルの話術が下手くそで、狙いが容易くばれてしまったと言うことだろうか。内心で彼女へのお仕置き方法を考え始めたアルベドに、パンドラが落ち着いて欲しいと手を振った。

 

「まあまあ、落ち着いてくださいアルベド様。これはあなたの筋書きからは離れた事態かも知れませんが、悪い話ではないと思いますよ。この私、パンドラズ・アクターは、あなたの計画に全面的に協力させて頂きたいと思っています」

 

「えっ……マジで?」

 

 てっきりパンドラが己の企みを咎めに来たのかと早合点していたアルベドは、予想外の台詞にきょとんとし、弾みでナーベラルのことは頭から追い出した。

 

「……分かった上で、わたくしに協力してくれるというのかしら? 何故?」

 

「そうですねえ……まず私は、アインズ様が家族を得ることは、この上なく素晴らしい話だと思っています」

 

 ナーベラルに無茶を言いつけた守護者統括殿には困ったものだが。考えてみれば、これはチャンスというものかも知れない。至高の御方々の代わりを務めて創造主(アインズ様)の無聊を慰める……自分には決して叶わぬと思っていたその役目。アインズ様が結婚して御子を設けられれば、その存在はアインズ様の孤独を癒しうるのではないだろうか? 実現すれば、それはとても素晴らしいことだ。そして、それを実現させるのに、この紛い物に過ぎない自分が何ほどかの役割を果たすことが出来るのなら。

 ――創られた目的を果たせなかったこの身にとって、救いとなるのではないだろうか。そのような思いを胸に、パンドラは言葉を紡ぐ。

 

「そして、アルベド様。アインズ様の隣に似合うのは、あなたのように強く、比類無き美しさを兼ね備えた方こそが相応しいかと思っております!」

 

「まあ……」

 

 あけすけなおべっかだが、悪い気はしない。アルベドは心地よくその賛辞を受け入れた。ただ、それだけでは気になる点が残っているので、疑問を口にする。

 

「でも……あなたは、シャルティアのことはどう思っているのかしら? 強く、美しいと言うのならば、あの子もひけは取らないと思うけれど」

 

「おお、これは私としたことが! 確かに、先程の条件だけでは、シャルティア殿も当てはまってしまいますな!」

 

 パンドラズ・アクターはどのように回答すべきか素早く思案を巡らせ……(おつむの出来に触れるのはちょっと可哀想なので)自分がここに来た原因に駄目押しをしておくことを選んだ。

 

「ですが、前日お引き合わせ頂いたナーベラル嬢が、アルベド様を一生懸命に推しておりましたのでですね。私もつい絆されてしまったのですよ。そのおかげで、シャルティア殿をアインズ様の隣にイメージしても、なにかこうしっくり来ないのです」

 

「まあ、ナーベラルが……」

 

 アルベドは微笑んだ。ここまで言っておけば、パンドラの目論見通り、彼女が咎められるようなことは無いだろう。

 

「とりあえず、折を見て我が主にお話させて頂こうと思いますので、まずはお待ちください」

 

「わかったわ、パンドラズ・アクター。よろしくお願いね」

 

 上機嫌で頷くアルベドに、パンドラは優雅に一礼した。

 

お任せください(Überlass das mir)

 

 

「♪~♪~」

 

 アルベドはご機嫌だった。

 理由は勿論、パンドラズ・アクターが彼女に対する全面協力を約束したからである。確かにさりげなく物事を進めるという当初の計画からはずれてしまったが、それで断られるのでなければ何も問題はないどころかむしろ好都合であった。思わず鼻歌も出てこようというものである。

 

「フフフ……やはりあの子(ナーベラル)に任せて正解だったわね、流石はわたくし。今度何か褒美をあげるとしましょう」

 

 上機嫌にナーベラルへ報いる方法を思案するアルベドに、シャルティアが声を掛けて来た。

 

「なんだかとっても機嫌が良さそうでありんすね……何かいいことでもあったんですえ?」

 

 シャルティア・ブラッドフォールン。アインズの正妃の座を巡り、アルベドの最大のライバルと目される階層守護者。

 今の彼女の様子は、はっきり言って最悪である。無様にも洗脳された挙げ句、愛しの君に刃を向けて誅戮された。お優しき至高の御方は私が迂闊なせいだった、済まないなどと逆に詫びさえしたが、シャルティアの心はズタボロであった。ヤケ酒に走って飲んだくれ、目の下には隈を作った酷い顔である。

 

(わたくしがアインズ様の隣に収まった暁には、この子はどうするのかしら……いえ、シャルティアとてナザリック地下大墳墓を守護する、アインズ様の忠実なシモベにしてわたくし達の仲間。無碍に扱うのはよしましょう。アインズ様の御慈悲は広大無辺、またあれほど偉大な御方の后が一人きりなどということが許される道理はない。あくまでも正妃の座はわたくしがいただくけれど、この子を二番目に据えるくらいの便宜は図ってやってもいいわ)

 

 あくまでも上から目線で、シャルティアにも慈悲をかけてやろうと目論むアルベド。まだ何も始まっていないのに、既に勝った気でいるのだ。

 

「……シャルティア」

 

「……なんでありんす? さっきから様子がおかしいでありんすえ」

 

 アルベドの様子を不審そうに見つめるシャルティアに、(上から目線の)慈悲を込めてにっこりと笑いかける。

 

「一緒に頑張りましょうね」

 

「えぇ!?」

 

 予想外の台詞に表情筋を硬直させた後、シャルティアは口をパクパクと虚しく開閉させた。

 

「ちょ、ちょっと、何か悪いものでも食べたでありんすか?」

 

「……しっ、アインズ様がいらしたわ。無駄口は終わりよ」

 

 シャルティアがアルベドの様子を誰何しようとしたその時、守護者達の前にアインズが姿を現した為、追求は断念された。尚もちらちらとアルベドの様子を窺うシャルティアを尻目に、守護者会議が始まる。

 

「――皆、待たせたな。それでは報告を聞こうか」

 

 任務中の守護者からの報告から会議は始まり、淡々と議題が消化されていく。そのまま何事もなく終わるかと思えば、議題が一段落するのを見計らったかのようにその異変は起こった。

 

「――やあやあ皆様方、ご機嫌よう(Guten Tag)!」

 

「……パッ、パンドラズ・アクター!? 何故お前がここに!?」

 

 突然の闖入者を目にし、アインズが思わず椅子を蹴立てて立ち上がった。彼の台詞を耳にした守護者達の視線が、その殆どが未だ見知らぬ闖入者に集中する。ではこいつが話に聞いた、アインズ様が直接創造したシモベ、パンドラズ・アクターであるのか。

 興味を込めた視線に串刺しにされたパンドラは、大仰な身振りで一礼した。

 

「独断での行動、お詫び致しますアインズ様。ですがこれも、私なりにナザリックの今後を考えてのこと、お許しいただければ幸いです。……皆様方、初めましての方は初めまして。既に話には聞いている方も多いかと思いますが、私の名はパンドラズ・アクター。ナザリック地下大墳墓、宝物殿の領域守護者です。以後お見知りおきを」

 

 パンドラは語った。守護者であるシャルティアがワールドアイテムにより洗脳されるという非常事態を受け、自分も動くべき時に動ける態勢を整える必要があると。その手始めとして、まずは階層守護者の方々に面通しすべく、守護者会議に訪れたのだ。独断行動なのはともかく、ここまではまともな理由であった……ここまでは。

 

「しかし、それにしても相変わらずお美しいですな守護者統括殿は!」

 

 わりと唐突にそんな話を切り出したパンドラに、彼の独断を咎めるべきかどうしようか悩んでいたアインズはぎょっとした。同じく、ぎょっとして硬直したアルベドの手を取り、跪いてその甲に口付けをかわすのを目にし、存在しない心臓が口から飛び出るような錯覚を覚える。

 

「こうして麗しき我が創造主と並べると、実に絵になると思いませんかな皆様方!?」

 

 懐からにゅっと赤絨毯を取り出すと、アルベドの前にくるくると広げる。その光景を目にし、アインズは顎の骨をかくんと落として硬直した。それに構わず、パンドラはアルベドの手を取り立たせて、アインズの側まで導いていく。その後に彼の口から洪水の如く発せられた美辞麗句の奔流は、会した一同を唖然とさせるに十分なものだった。――美男美女、オシドリ夫婦、比翼の鳥、連理の枝、水魚の交わり、偕老同穴……パンドラが紙吹雪と決めポーズを振りまきながら似合いの二人だとその姿を褒め称えるにつれ、守護者達の間に理解が広がっていく。どうもこいつは、アルベドをアインズ様の正妻に推薦しに来たらしいと。

 シャルティアがその顔面を蒼白にし、そんな彼女の顔とアルベドを見比べたアウラがあわあわとし、マーレが不安げに姉の服の裾を掴み、デミウルゴスとコキュートスが興味深げに事態の推移を見守る中。アルベドは混乱していた。彼女の心情を端的に言い表すなら、おいおい、こんな強引な展開で大丈夫なのかよ、ということに尽きる。

 だが、パンドラズ・アクターの口から語られる(アルベドにとっては)バラ色の未来予想図――こぢんまりとした小さな家に二人で住み、子供は最低でも三人以上、スケルトン犬をかわいがって家族でつつましやかに過ごす云々かんぬん……言ってしまえば妄想に身を委ねている内、その顔がとろんと蕩けてきた。いつも自分で夢見る妄想が、他者の口から語られる。それだけでこれほどまでにも心地よい……

 昂ぶってきた感情の赴くまま、隣に並んだアインズの手をそっと握る。反応はない。アインズは呆然と立ち尽くしたまま微動だにしない。だがアルベドは気にしなかった。愛しの方は今は衝撃の大きさに呆然としているが、やがて機会は訪れるであろう。その機を逃さぬよう、アインズの様子に神経を尖らせて待つ。

 ……そして、隣のアインズがぴかりと緑色の光を放つにつけ、アルベドの興奮は最高潮に達した。愛しき至高の御方が発光するときは、精神の沈静化作用が働いたときである。すなわち、アインズ様のドキドキも、沈静化作用が必要なほどに高まってきたに違いない。今が千載一遇の好機である、くふー!

 

「ア、アインズ様ぁぁぁああああああああ!」

 

 感極まってアルベドはアインズに抱きついた。沈静化作用が働いてもその感情は余熱のように燻っているらしい。ここは一気に畳みかけて、今こそ愛しき方の愛をその身に受けるのだ。

 しかし――

 

「……ア、アインズ……様……?」

 

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 普段なら、アインズが無抵抗であればそれを幸い、衆人環視の中押し倒して本番行為に至ることも厭わぬ覚悟をもつ肉食系サキュバスのアルベドも、骨の材質がマシュマロに変わったのではないかとすら疑われるアインズのぐったりとした様子には流石にびびった。力なくアルベドの腕の中で崩れ落ちるその骸骨は……スケルトンと言うよりただの死体であった。

 

「アインズ様、どこかお悪いのですか!?」

 

 色気に狂うことも忘れて正気に返ったアルベドがアインズの体を揺さぶるに至り、事の成り行きを見守っていた守護者達も顔を青くしてその周囲に集まる。心配そうな皆の視線でその身を炙られたアインズが僅かに身じろぎした。

 

「アインズ様、ご無事で!?」

 

「……おうちかえる」

 

 だが、アルベドの腕の中から息も絶え絶えの様子で(いや、呼吸はしてないのだが)身を起こしたアインズの口から発せられたのは、そのような謎の言葉であった。周囲の守護者達が思わず顔を見合わせる。

 

「……は? 申し訳ありません、アインズ様。今なんと……」

 

「……独りにしてくれ」

 

「アッハイ」

 

 そして、アルベドの腕をゆっくりと振り払って立ち上がったアインズの口から零れたのは、か細い拒絶の台詞であった。衝撃で涙目のアルベドを一顧だにすることもなく、よろよろとした足取りで歩いて退室する。

 そのあまりに異様な様子に、後を追ってよいものか指示を求めてきた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達に、デミウルゴスがとりあえず待機の命令を下すのを見ながら。

 

「……これはいったいどういうことなの……?」

 

 顔面蒼白になったアルベドが呻くように呟いたが、その疑問に答えられる人物は階層守護者達の中には居なかった。お互いに顔を見合わせて、心当たりはないとばかりに首を振る。

 

「え、えっと、その、パンドラ……さん。あなたは何か御存知のこと、ないですか……?」

 

 そんな中、マーレが意を決して、初顔合わせのパンドラズ・アクターに問いかけた。守護者達の視線がパンドラに集まる。その視線を一身に浴びて反射的にポーズをとりながら、パンドラは考え込むそぶりを見せた。

 

「ふむ、そうですね。そう言えば、私は確かにアインズ様が直接創造されたシモベではありますが……最終的に、アインズ様は私のことを避けられていたように思います」

 

「なん……だと……」

 

 だから、私が何か言うのは逆効果だった、そういう可能性もありますね。アルベドの方を見て、てへっと舌を出して見せたパンドラの顔を、アルベドは引きつった表情で凝視した。

 

「ど……どうしてそれをもっと早く言わないのよぉおおおーッ!?」

 

 アルベドの絶叫が、広間に虚しく響き渡った。

 

 

 一方アインズは……やっとの思いで自分の部屋へ行き、無造作に服を脱ぎ捨てて布団にくるまると、断続的に発光しながら二時間じたばたした……

 そして……我に返ると黒歴史(パンドラ)が全守護者達にお披露目されてしまったことを思い起こし……泣いた……

 でも涙は出なかったので哭いた。

 何もかも忘れて眠りたいと思っても、眠れないので……そのうちアインズは考えるのをやめた。

 

 

 なお、立ち直るまでには三日三晩を要したという。

 

 どっとはらい。

 

 




 ……ひでぇオチだ、誰にも救いがないぞ( ´∀`)

 パンドラズ・アクターが救済される展開にはなりませんでしたが……彼にはまだ、創造主の役に立つ機会も、再び愛でて貰える可能性も残されているのでこれからですよ。


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