幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第⑨話 バカの恐怖

 第7管理世界アルザス山中にて―

 

「はあっ……ふっ!」

 

 まだ日も昇っていない夜明け前、山中に人の声が聞こえる。

 声を発しているのは桃髪の少女。

 少女はゆったりとした動きで移動、拳打、蹴りの動作を繰り返し、動きを体に覚えこませていく。

 同時に、効率よく気を錬るための呼吸法、気による身体強化を実行し、体の動きとすり合わせる。

「気を操る程度の能力」のおかげでスムーズに循環するのを感じながら鍛錬を続けていく。

 

「これで、ラスト!」

 

 掛け声と共に中段突きを繰り出し、少女の鍛錬が終了した。

 

 

 

 

 どーも。先日謎デバイスをゲットし、絶賛修行中のキャロ・ル・ルシエです。

 

「ふぅ。藍、ユニゾンアウト」

 

「了解です。モード「龍」、ユニゾン・アウト」

 

 早朝訓練が終わり、私はユニゾンを解除します。

 そこにはバリアジャケットを解除して元に戻った私がいました。

 ちなみにバリアジャケットですが、袖の部分が破れたシャツに紫のスカート、要するに萃香の格好です。背格好が似ているせいか、これが一番動きやすかったんですよね。

 

 あの後幻想縁起を読んだのですが、もう何処から突っ込めば良いのやらって感じでした。

 デバイス夢幻珠は、その珠1つ1つに、リンカーコアを持ったユニゾン形態が格納されており、状況によって融合対象を変えられるデバイスです。

 珠の数を見たところ、ざっと108つ。この時点で十分反則です。

 珠の中に1つだけ大珠があり、それが藍の本体らしいです

 藍の役目は、融合時に発生し得る様々なイレギュラーを防止するための安全装置で、外部から融合をサポートしてくれるみたいです。

 どうしてそんな面倒臭い方法にしたのか聞いたのですが

 

「ユニゾン対象であるモジュールと、制御装置である私を切り離すことで、万一の時のリスクを軽減してるんです」

 

 らしいです。要するに、私と実際にユニゾンしているリンカーコアには藍ほどの知能を持たせていないので、万一融合事故を起こしても、自我の混濁などは発生しないのだそうです。

 その代わり、藍が外で手綱を握り、ユニゾンを安定させているという訳です。

 

 それで、このユニゾンですけど、これもかなりのチートです。

 まずはユニゾン形態に対応する基礎力の上昇。

 今ユニゾンしていたのはモード「龍」。

 紅の館の門番さんをモチーフにした形態で、恩恵は物理攻撃物理防御。門番だからでしょうか、防御の方がやや多く上がってる気がします。

 

 次に、形態に応じたレアスキルの付加。

「〇〇程度の能力」を完全再現できるのですが、大規模な能力、例えば時間を操るとかは現時点では無理でした。

 

 次に、ユニゾン元となった人妖の技術。

 例を挙げると、門番さんの太極拳とか、メイドさんのナイフとか。

 これは能力では無いので、ユニゾン時にしっかり体に覚えこませれば、非ユニゾン時でも使える可能性があります。

 今朝やっていた訓練は中国拳法の套路で、空手の型にあたるものです。

 一朝一夕で修めるなんて芸当は無理でも、ユニゾンの影響で、覚えるというよりかは馴染ませる感じで習得できます。

 悪い癖が付かずに、効率よく学習できるのは有難いです。

 

 そして、形態に応じたスペルの使用。

 この辺は、普通のデバイスと変わらないですね。

 ただ、能力頼りのスペルの中には、今は無理なのも有ります。

 また、スペルは魔法に限らず、霊力や妖力を消費して撃たれるものもありました。妖力は扱えないので、霊力Verにして使用しています。

 

 あ、そうそう。私が今まで何気なく撃っていたシューターですが、藍によると

 

「魔力と霊力が半々くらい混じってますね」

 

 だそうで、今までどうやら、霊力と魔力をごっちゃにして使っていたそうです。霊力の概念を知らなかったから、どっちも魔力だと思ってました。

 

 最後に、メインとして選択した形態以外に1つだけサブを選択できます。

 サブに選ばれた形態は、基礎力上昇やスペルには影響しませんが、代わりに能力が付与されます。

 ただし、メイン時よりも効果は低く、現状で一割程度、最高でも精々メイン時の50%が関の山です。

 これは組み合わせ方が重要になってきそうですね……。

 

 とまあ、ざっと説明したわけなんですが

 

「インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

 と思った方もいるでしょう。でも現実はそう甘くなかったのです。

 今の私では、強力な、所謂大妖怪レベルのユニゾンは負担が大きいんです。

 ユニゾンの維持に精一杯で、まともに能力の発動も出来ません。

 唯一マシだったのがモード「境」(境界を操る程度の能力)だったのですが、これも、1分かけてスキマ1つ開くのが限界で、戦闘なんてとても無理でした。

 藍曰く、「まだ運用効率が悪い」とのことなので、修行していつかリベンジしてやるです。

 

 それ以下難度の能力の形態でも、運用には慣れが必要で、ユニゾン出来るからといってホイホイ使えるわけではないのです。結局は、己の努力次第というわけです。

 アレコレと手を付けても器用貧乏になるのは目に見えているので、とりあえずモード「龍」とモード「博麗」の2形態に絞って修行中です。

 両者ともに「気を操る程度の能力」と「霊力を操る程度の能力」を持っているので、運用効率の最適化を覚えるにはうってつけの形態だったりします。

 近接と中~遠距離でバランスもいいですしね。

 

「さてと、それじゃ、ご飯取りに行くよ、フリード。藍、モード「橙」、サブは「龍」で」

 

「了解。モード「橙」セットアップ」

 

 モード「橙」

 下位ランクの形態ですけど、敏捷性がアップします。

 加えて、妖獣が元になっているおかげか、五感と反応速度も上昇します。

 他形態でも有用な技能は無いので、鍛錬する意味は薄いのですが、

 

 

 

 

「……シャッ!!」

 

 動物ハントの時には大いに役立つ形態です。

 

「兎、とったどー!!」

 

 私の手の中には兎の尻尾。これで朝食ゲットです。

 

「藍、もういいよ」

 

「そうか……モード「橙」、ユニゾンアウト」

 

 いやなんでそんなに物惜しそうなんですか。他の形態ではそんな事無いんですが……

 これは今回に限った事ではなく、事ある毎にさりげなく「橙」のユニゾンを勧めてきます。

 藍の要望を聞いてあげたいとは思うんですが、「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」と襲い掛かられるのも嫌なので、用が終わったらすぐ解除します。

 

「かーごめーかーごめ~」

 

 歌いながら兎を捌いていきます。サバイバル訓練しておいてよかったです。

 捌いた切り身を火で焼いて、私と藍とフリードで分けて食べます。兎肉おいしいです。

 

「はむ、はむ……」

 

「マスター、塩をとってくれませんか?」

 

「ん。はむ、はむ……」

 

「ありがとうございます。あむ……」

 

「ガツガツガツガツ、キュクルー!!」

 

「「食事中は静かにしろ!!」」

 

 ピチューン!!

 

 さてと、食事が終わったわけですが……、コレ、どうしましょ?

 そこにあるのは残った兎肉。捨てるのは勿体無いけど、このままだと腐るし……あ、そうだ。

 

「藍、モード「氷」、サブは「博麗」で」

 

「な!?」

 

 「冷気を操る程度の能力」で冷凍保存して持っていきましょう。うん、我ながら名案です。

 

「あの、本当に大丈夫ですか?」

 

「へ? うん、大丈夫大丈夫」

 

 藍の様子がおかしいですが、どうしたんでしょうか?

 

「わかりました。モード「氷」、セットアップ」

 

 そして私は、この時の選択を死ぬほど後悔することになりました。

 

 ―2時間後―

 

「マスター!!早く隠れますよ!!」

 

「りょーかい!!」

 

 藍の言葉に賛同して隠れる所を探しつつ、こうなった経緯を思い出していきます。

 

 きっかけはあのユニゾンでした。

 肉を凍らせることだけしか考えていなかった私は、幻想縁起の注意書きを完全に忘れていました。

 曰く「ユニゾン中は融合対象の影響を受け、性格が若干変化する」

 今まで試した形態では変化が体感出来ず、あまり気にしていなかったのですが、今回それが裏目に出ました。

 ええ、なっちゃったんです。完全な⑨に!!

 

 ユニゾン後、肉を凍らせること自体は済ませたんですが。

 

「ヒャッハー!!」

 

 と何かみょんなテンションになり、周りのものを片っ端から凍らせていきました。

 さらに、サブが「博麗」だったのも災いしました。

 「空を飛ぶ程度の能力」のせいで縦横無尽に飛び回って被害を増やし、加えて「霊力を操る程度の能力」のせいでなかなか霊力が切れず、1時間以上にわたって自然破壊を繰り広げてしまいました。その結果が

 

「おい、そっちにいたか?」

 

「いねえ。そっちは?」

 

「こっちもだ。クソっ、あのチビどこに隠れやがった?」

 

 遠くから男どもの野太い声が聞こえてきます。絶賛山狩り中です。

 

「どうしてこうなった……」

 

「自業自得では?」

 

 藍のもっともな指摘にさらに落ち込みつつ、私達は洞窟に身を潜め、「宵闇」形態で入り口を隠しながら一夜を凌ぎました。

 

「これからは、2度と「氷」は使わないようにしよう」

 

「……」(凍ったままのフリード)

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