第7管理世界アルザス山中にて―
「はあっ……ふっ!」
まだ日も昇っていない夜明け前、山中に人の声が聞こえる。
声を発しているのは桃髪の少女。
少女はゆったりとした動きで移動、拳打、蹴りの動作を繰り返し、動きを体に覚えこませていく。
同時に、効率よく気を錬るための呼吸法、気による身体強化を実行し、体の動きとすり合わせる。
「気を操る程度の能力」のおかげでスムーズに循環するのを感じながら鍛錬を続けていく。
「これで、ラスト!」
掛け声と共に中段突きを繰り出し、少女の鍛錬が終了した。
どーも。先日謎デバイスをゲットし、絶賛修行中のキャロ・ル・ルシエです。
「ふぅ。藍、ユニゾンアウト」
「了解です。モード「龍」、ユニゾン・アウト」
早朝訓練が終わり、私はユニゾンを解除します。
そこにはバリアジャケットを解除して元に戻った私がいました。
ちなみにバリアジャケットですが、袖の部分が破れたシャツに紫のスカート、要するに萃香の格好です。背格好が似ているせいか、これが一番動きやすかったんですよね。
あの後幻想縁起を読んだのですが、もう何処から突っ込めば良いのやらって感じでした。
デバイス夢幻珠は、その珠1つ1つに、リンカーコアを持ったユニゾン形態が格納されており、状況によって融合対象を変えられるデバイスです。
珠の数を見たところ、ざっと108つ。この時点で十分反則です。
珠の中に1つだけ大珠があり、それが藍の本体らしいです
藍の役目は、融合時に発生し得る様々なイレギュラーを防止するための安全装置で、外部から融合をサポートしてくれるみたいです。
どうしてそんな面倒臭い方法にしたのか聞いたのですが
「ユニゾン対象であるモジュールと、制御装置である私を切り離すことで、万一の時のリスクを軽減してるんです」
らしいです。要するに、私と実際にユニゾンしているリンカーコアには藍ほどの知能を持たせていないので、万一融合事故を起こしても、自我の混濁などは発生しないのだそうです。
その代わり、藍が外で手綱を握り、ユニゾンを安定させているという訳です。
それで、このユニゾンですけど、これもかなりのチートです。
まずはユニゾン形態に対応する基礎力の上昇。
今ユニゾンしていたのはモード「龍」。
紅の館の門番さんをモチーフにした形態で、恩恵は物理攻撃物理防御。門番だからでしょうか、防御の方がやや多く上がってる気がします。
次に、形態に応じたレアスキルの付加。
「〇〇程度の能力」を完全再現できるのですが、大規模な能力、例えば時間を操るとかは現時点では無理でした。
次に、ユニゾン元となった人妖の技術。
例を挙げると、門番さんの太極拳とか、メイドさんのナイフとか。
これは能力では無いので、ユニゾン時にしっかり体に覚えこませれば、非ユニゾン時でも使える可能性があります。
今朝やっていた訓練は中国拳法の套路で、空手の型にあたるものです。
一朝一夕で修めるなんて芸当は無理でも、ユニゾンの影響で、覚えるというよりかは馴染ませる感じで習得できます。
悪い癖が付かずに、効率よく学習できるのは有難いです。
そして、形態に応じたスペルの使用。
この辺は、普通のデバイスと変わらないですね。
ただ、能力頼りのスペルの中には、今は無理なのも有ります。
また、スペルは魔法に限らず、霊力や妖力を消費して撃たれるものもありました。妖力は扱えないので、霊力Verにして使用しています。
あ、そうそう。私が今まで何気なく撃っていたシューターですが、藍によると
「魔力と霊力が半々くらい混じってますね」
だそうで、今までどうやら、霊力と魔力をごっちゃにして使っていたそうです。霊力の概念を知らなかったから、どっちも魔力だと思ってました。
最後に、メインとして選択した形態以外に1つだけサブを選択できます。
サブに選ばれた形態は、基礎力上昇やスペルには影響しませんが、代わりに能力が付与されます。
ただし、メイン時よりも効果は低く、現状で一割程度、最高でも精々メイン時の50%が関の山です。
これは組み合わせ方が重要になってきそうですね……。
とまあ、ざっと説明したわけなんですが
「インチキ効果もいい加減にしろ!」
と思った方もいるでしょう。でも現実はそう甘くなかったのです。
今の私では、強力な、所謂大妖怪レベルのユニゾンは負担が大きいんです。
ユニゾンの維持に精一杯で、まともに能力の発動も出来ません。
唯一マシだったのがモード「境」(境界を操る程度の能力)だったのですが、これも、1分かけてスキマ1つ開くのが限界で、戦闘なんてとても無理でした。
藍曰く、「まだ運用効率が悪い」とのことなので、修行していつかリベンジしてやるです。
それ以下難度の能力の形態でも、運用には慣れが必要で、ユニゾン出来るからといってホイホイ使えるわけではないのです。結局は、己の努力次第というわけです。
アレコレと手を付けても器用貧乏になるのは目に見えているので、とりあえずモード「龍」とモード「博麗」の2形態に絞って修行中です。
両者ともに「気を操る程度の能力」と「霊力を操る程度の能力」を持っているので、運用効率の最適化を覚えるにはうってつけの形態だったりします。
近接と中~遠距離でバランスもいいですしね。
「さてと、それじゃ、ご飯取りに行くよ、フリード。藍、モード「橙」、サブは「龍」で」
「了解。モード「橙」セットアップ」
モード「橙」
下位ランクの形態ですけど、敏捷性がアップします。
加えて、妖獣が元になっているおかげか、五感と反応速度も上昇します。
他形態でも有用な技能は無いので、鍛錬する意味は薄いのですが、
「……シャッ!!」
動物ハントの時には大いに役立つ形態です。
「兎、とったどー!!」
私の手の中には兎の尻尾。これで朝食ゲットです。
「藍、もういいよ」
「そうか……モード「橙」、ユニゾンアウト」
いやなんでそんなに物惜しそうなんですか。他の形態ではそんな事無いんですが……
これは今回に限った事ではなく、事ある毎にさりげなく「橙」のユニゾンを勧めてきます。
藍の要望を聞いてあげたいとは思うんですが、「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」と襲い掛かられるのも嫌なので、用が終わったらすぐ解除します。
「かーごめーかーごめ~」
歌いながら兎を捌いていきます。サバイバル訓練しておいてよかったです。
捌いた切り身を火で焼いて、私と藍とフリードで分けて食べます。兎肉おいしいです。
「はむ、はむ……」
「マスター、塩をとってくれませんか?」
「ん。はむ、はむ……」
「ありがとうございます。あむ……」
「ガツガツガツガツ、キュクルー!!」
「「食事中は静かにしろ!!」」
ピチューン!!
さてと、食事が終わったわけですが……、コレ、どうしましょ?
そこにあるのは残った兎肉。捨てるのは勿体無いけど、このままだと腐るし……あ、そうだ。
「藍、モード「氷」、サブは「博麗」で」
「な!?」
「冷気を操る程度の能力」で冷凍保存して持っていきましょう。うん、我ながら名案です。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「へ? うん、大丈夫大丈夫」
藍の様子がおかしいですが、どうしたんでしょうか?
「わかりました。モード「氷」、セットアップ」
そして私は、この時の選択を死ぬほど後悔することになりました。
―2時間後―
「マスター!!早く隠れますよ!!」
「りょーかい!!」
藍の言葉に賛同して隠れる所を探しつつ、こうなった経緯を思い出していきます。
きっかけはあのユニゾンでした。
肉を凍らせることだけしか考えていなかった私は、幻想縁起の注意書きを完全に忘れていました。
曰く「ユニゾン中は融合対象の影響を受け、性格が若干変化する」
今まで試した形態では変化が体感出来ず、あまり気にしていなかったのですが、今回それが裏目に出ました。
ええ、なっちゃったんです。完全な⑨に!!
ユニゾン後、肉を凍らせること自体は済ませたんですが。
「ヒャッハー!!」
と何かみょんなテンションになり、周りのものを片っ端から凍らせていきました。
さらに、サブが「博麗」だったのも災いしました。
「空を飛ぶ程度の能力」のせいで縦横無尽に飛び回って被害を増やし、加えて「霊力を操る程度の能力」のせいでなかなか霊力が切れず、1時間以上にわたって自然破壊を繰り広げてしまいました。その結果が
「おい、そっちにいたか?」
「いねえ。そっちは?」
「こっちもだ。クソっ、あのチビどこに隠れやがった?」
遠くから男どもの野太い声が聞こえてきます。絶賛山狩り中です。
「どうしてこうなった……」
「自業自得では?」
藍のもっともな指摘にさらに落ち込みつつ、私達は洞窟に身を潜め、「宵闇」形態で入り口を隠しながら一夜を凌ぎました。
「これからは、2度と「氷」は使わないようにしよう」
「……」(凍ったままのフリード)