―第7管理世界アルザスにて―
「ふ、ふ、ふ……」
管理世界同士の行き来というのは通常、ゲートポートと呼ばれる転送施設で行われている。
それは辺境であるアルザスも例外ではなく、別の次元世界に向かう際には必ず通る道になっている。。
そこで桃髪の幼女が一人、不気味な笑い声を発している。正直ちょっと、いや、かなり引く。
近くを通る人はさり気なく遠回りして回避していたが、そんなことは、当人には些細なことであった。
「里を出て1ヶ月、やっと、やっと着きました!」
『おめでとうございます』
お久しぶりです。先日の山狩りから無事生還できたキャロ・ル・ルシエです。
あの時は本当大変でした。日が昇り始めてから逃走再開したんですが、たまに聞こえてくる声が怖いのなんの。
「悪い子はいねえがあー!」とか
「ヒャッハー! 山ごと消毒だー!」とか
「ちゃんとOHANASHIさせてもらうの!」とか
見つかったらどんな目に遭うか考えたくもないので、とにかく必死に逃げました。
特に最後の人、どう考えても白い魔王ですありがとうございました。
何でこんな所にまで出張ってきてるんですか! そんなんだからワーカーホリックとか言われるんですよ!
飛行すると見つかるので、メインを「玉兎」、サブを「白狼」にして「狂気を操る程度の能力」と「千里先を見通す程度の能力」で、相手の配置を確認しながら脱兎のごとく逃げました。
どっちも練習不足の能力だったので、隠れてはサーチ、移動、また隠れてサーチの繰り返しでかなり疲れました。
その過程で背後の森が次々と焦土に変わっていくのを見ていると(私がチルノで振り撒いた被害より大きいんじゃね?)と、何だか理不尽な気持ちになりました。この砲撃魔!
「あの時は死ぬかと思ったよ」
『いつまぐれ当たりしてもおかしくなかったですからね』
さて、気を取り直して転送ゲートに出発です。とりあえずはアルザスを出てクラナガンにでも行ってみようかと思っています。
あそこの郊外には廃棄区画という捨てられた街がいくつかあるので、治安にさえ目をつむれば、この年の子が一人で生きていくにはうってつけです。
幼女移動&転送中……
何だかあっという間でした。
クラナガンのゲートに降り立ったところで、私は近くにあったトイレに入ります。
「藍、もういいよ」
「やっと出られました」
夢幻珠から藍が出てきます。流石にこんな所にまでサーチャーあるとは思えないので、藍が出ても問題ありません。
「モード「境」サブは「博麗」フリードも出ておいでー」
続いてスキマを開き、中に放り込んでおいたフリードを取り出します。
スキマを開くのも多少は慣れたんですが、今の所サブを「博麗」にしてようやく5秒で1つ。実戦で使えるのはまだまだです。
「フリードー、あれ?」
呼びかけても返事がありません。どうしたんでしょうか?
「フリード? あ……」
不審に思ってスキマの中を覗き込んでみると、そこには無数の目、目、目……。
そして、目を回しているフリードの姿が―
「おそらくですが、目に驚いて気絶したのでは?」
「あーそうかも。じゃあフリードの分のご飯はいいか。2人で食べよ」
「そうですね」
最近、フリードの扱いが主人に似てきた藍であった。
「腹ごしらえも済んだし、そろそろ行こっか」
「早めに住むところを見つけないと、日が暮れてしまいますからね」
「そうなんだけど、ちょっと寄りたい所があるんだ。そっちが先でいいかな?」
「どうぞ、ご自由に」
そう言って、藍は夢幻珠の中に戻っていきます。私は近くにあった案内板を見て、目当ての所に向かいます。
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「ヤッ、ハアッ!」
「シッ!」
「オラオラオラオラオラアッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄アッ!!」
「おー、やってますね」
というわけで、クラナガンにあるスポーツセンターにやってきました。
ここでは、ストライクアーツの練習場が、比較的安価で提供されています。
ストライクアーツっていうのはミッドチルダで普及している総合格闘技のことで、射撃、シールド、バインド、フィニッシュブロウ等の魔法を織り交ぜたド派手な戦いがウリです。
魔法戦を覚えるにはうってつけですし、練習相手がいるのも嬉しいです。
実戦でしか分からないこともありますしね。一人だと套路と脳内訓練くらいしかできません。
ひとまず初心者コースで登録し、入会金を払って簡単な手続きをします。
(名前は、えーと……)
少し迷ってから「キャロ・シエル」と申し込み用紙に記入しました。
ルシエ出身なんて情報、残しておいてもいい事ないですからね。
適当に決めた名前ですけど、今後はコレで通しましょう。偽名いくつも作っても混乱するだけですし。
ちなみに保護者はラン・シエルです。男親の名前の方がいいかな、と族長様の名前を使おうかなとも思ったんですけど、迷惑かける訳にはいかないですからね。
登録を済ませたので、早速トレーニング開始です。といっても、まだここの勝手が分からないので、適当に優しそうな人を捕まえて色々聞くことにしました。
既にペアを組んでいる人は除外して周りを探していきます。
途中、まだオラ無駄ラッシュを繰り広げている2人がいましたがこれも無視しました。こんなフラグ踏んでたまるか。
適当に見回っていると、明らかに周囲とはレベルの違う人を見つけました。
見た感じまだ小学校高学年から中学校くらいなのに、技の一つ一つが鋭く、拳や蹴りを繰り出す度に揺れる青い長髪が綺麗で―
チョットマテ、この人ギンガ・ナカジマさんじゃね?
その姿を見ていると、何故か先日の魔王襲来が脳内再生されます。
マズい。理由は分からないけど、このまま関わると何かのフラグが立つ予感がビンビンします。
逃げるんだ、キャロ・シエル。今ならまだ間に合―
「あれ? ねえ、きみ1人? 親はどうしたの?」
向こうから来た、だと!?
「何だか迷ってるみたいだけど、もしかしてここ初めてだったりする? ホラ、色々教えてあげるからコッチにおいで」
ギンガさんは、まるで子供をあやすような声で自分の方へと手招きしてきます。まあ実際4歳児ですけどね!!
うわあい、これからどうなるんだろう……。