「ねえキャロ、最近様子がおかしいみたいだけど、何かあった?」
「え? いえ、何でも無いですよ。気にしないでください、ギンガさん。」
ごめんなさい、思いっきり嘘です。
あれから私は、藍に知っている限りのことを教えてもらいました。
「夢幻珠に格納されているユニゾン形態は、それぞれ「分霊体」という、魂のコピーをベースに、リンカーコアを付与して加工したものです」
「コピー、ですか?」
「はい。不思議に思いませんでしたか? いかにユニゾンデバイスとはいえ、ユニゾンするだけでレアスキルが使用できることを」
「いや、正直突っ込みどころが多すぎてスルーしてた」
「……本来、能力というのは固有のものです。一人で複数の能力を持っていたり、後天的に習得したり変化することもありますが、それでもその人だけのものです。また、転生してもなお「一度見た物を忘れない程度の能力」を持ち続けた阿礼乙女の例を見るに、魂に由来するものだと考えられます。そこで、能力持ちの人妖の魂をベースにし、能力持ちのユニゾン形態を作り上げた。それがこの夢幻珠の正体です」
だから、私もコピーなんですよ。
最後にそう付け足して、藍の説明は終わりました。
「どうして最初の時にそこまで説明してくれなかったの?」
「それは……」
「別に責めている訳じゃないから、ね?」
「……もしこの事実が公になった時に起こりうる事態を考えると、一人でも知っている者が少ないほうが良いと思い、今まで内緒にしていました」
まあ、確かに。
もし管理局の手にこれが渡って幻想郷の存在が明るみに出てしまったら、下手すれば管理局と幻想郷の間で戦争が起こるかもしれないです。
そんな事になったら責任取り切れませんよ私。
「私のデータにある情報はここまでです。製作者についての情報も探してみたのですが、残念ながら存在しませんでした。どうしますか、マスター?」
藍の言葉には何となく、捨てるのなら今のうちだ、というニュアンスが含まれている気がしました。だから私は
「藍、私前に言ったよね。「運命からは逃げることなんて出来ない」、「待ち伏せされているのが分かってるなら、正面から叩き折ってやります」って。その思いは今も変わらないよ。」
今まで管理局の目に付かないようにしていたのは、竜召喚師であることがバレて、最高評議会やスカさんに目を付けられるのを避けるっていうのがメインでした。
今回のことは、そこに夢幻珠の秘密が加わった、ってだけの話です。リスクは増えましたけど基本方針自体は今まで通りなので、今まで通りにやっていけばいいんです。
とまあ、そういう結論に至ったものの
「はあ……」
「キャロ、本当に大丈夫?」
「大丈夫ですから心配しないでください。じゃあ、ちょっと早いけど、今日はこの辺で上がります。また相手してくださいね」
「あ、うん。さよなら、キャロ」
管理局と幻想郷の戦争フラグが自分の手に有るとなるとプレッシャーがかかります。
本当の意味で消化できるまでには、もう少しかかりそうです。
「とりあえず、今日は試合の日だからそっちに集中しないと」
そんな風に余裕が無かったからでしょうか。
いつもなら気付けたはずのものを見逃してしまったのは。
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「キャロ、大丈夫かなあ?」
いつもやっているシューティングアーツの訓練を終えて家路につく途中、私は、ふとしたきっかけから出合った年下の友人のことを考えていた。
どう見ても悩み事がありそうなのに、それを隠そうとしている。出来ることなら力になってあげたいけど―
「ん? あれ……キャロ?」
そんな事を考えていると、目の前にその本人が歩いているのを見かけ、驚きのあまり思わず隠れてしまった。
彼女はこちらに気付かなかったみたいで、そのまま町外れの方へと歩いていった。
(そういえば、キャロってどこに住んでるんだったっけ? よく考えると、キャロの事何も知らないんだよね)
そんなことを考えている間にも、キャロはどんどん町外れの方へと歩いていく。
一瞬どうするか迷ったけど、私もまだ13歳の若造に過ぎない訳で。
湧き上がる好奇心を抑えることが出来ず、キャロの後を尾けていくことにしたのだった。
歩き続けること数十分、付かず離れず追い続けて着いた先はクラナガン郊外第2廃棄区画にある廃屋。
布団や家具が置いてあることから、ここでキャロが寝泊りしているのは、確定的に明らかであった。
「まさか、こんな所で暮らして!?」
そういえば、キャロからは学校に通っているといった様子は無かった。
どうしてなのかは不思議に思っていたけど、まさかこんな所でホームレス同然の暮らしをしているのは予想外だった。
(ど、どうしよう……)
図らずも知ってしまった友人の秘密に頭を悩ませていると、キャロが再びどこかへ歩き出した。
とりあえずはこの思考を隅に追いやり、尾行を再開する事にした。
先程の衝撃映像のせいで、尾行への罪悪感は一時的に消えていた。
さらに尾行を続けること1時間、再びクラナガンに戻ってきたキャロは大通りを外れ、路地裏へと入っていった。
(もう日が落ちる時間なのに、どこに行くんだろう?)
明らかに子供の出歩く時間ではなくなっている。
それは自分にも当てはまっており、帰ったら父親からの説教確定なのだが、ここまで来て最後まで見ないわけにはいかない、と、何だかみょんな使命感に駆られていた。
やがてキャロは裏路地の一角で止まり、そこにある階段を下りていった。
それを追うため、自分も中に入ろうとしたのだが
「ん、誰だ嬢ちゃん? ここは嬢ちゃんみたいな子が入るような所じゃねえぞ。ガキはさっさと家に帰りな。ハハッ!!」
扉の前に立っているチンピラっぽい人に止められてしまった。
まさかキャロを追っていただけでこんな目に遭うなんて予想してなかったので思わず逃げ出したくなる。
でも、キャロのことを聞き出すまでは何としても帰るわけにはいかなかった。
「あの、人を探してるんですが、ここに桃色の髪の子が入ってきませんでしたか?」
「あのガキの知り合いか? だとしても、客じゃねえ奴を勝手に入れる訳にはいかねえなあ。ホラ、商売の邪魔だから帰った帰った」
「え? きゃっ!?」
どん! と突き飛ばされて追い出されてしまった。どうやら今日はこれ以上調べるのは無理そうだ。
とりあえず今日知りえたことを整理してみると
・キャロは廃棄都市に住んでいるらしい
・クラナガンの裏路地にある、怪しい所と関わりがあるらしい
どちらも驚くべき事実だけど、今気にするべきは後者だ。
商売、って言ってたから、何かの店であり、普通に考えると、キャロはそこの客か、もしくは働いているものだと考えられる。
だけど、わざわざ扉の前に見張りを置いていたり、その見張りがどう見てもヤの付く自由業の人にしかみえなかったので、まともな店ではないであろう。
友人だと思っていた子のあまりの境遇に、私は思わず途方に暮れてしまっていた。
「ねえキャロ。私はどうしたらいいんだろう……」
余計な台詞消したり意味もなく3人称になっていた所修正したり。
改訂作業とは黒歴史と向き合う事だと悟った今日この頃。