―ナカジマ家にて―
「ただいま、父さん」
「遅い!ギンガ、てめえ今までどこほっつき歩いて……何かあったのか?」
何かあったか、ってレベルじゃない。
いつも一緒にトレーニングしているキャロ、その友人の信じられない実態を目の当たりにして、頭の中は混乱中で整理しきれてはいない。
私一人で背負うには大きすぎる悩みであった。
「父さん、えっとね……」
だから大人を頼る。
父さんは一見怖いところもあるけど優しい人だ。きっと何かいい考えが出てくるだろう。
私は父さんに、友人がホームレス同然の暮らしをしているのを偶然見つけてしまったこと、よく分からない所に入っていった、恐らくはそこの客、もしくは働いているんじゃないかということを伝えた。
「ギンガ、その建物があった場所、案内できるか?」
「できるけど……父さん?」
「あまり大きな声では言えないが、ひょっとするとその施設、今ウチで扱っている件に関係してるかもしれねえ」
「へ?」
「今まで噂程度の情報しかなかったんだが……その施設、ひょっとしたらひょっとするかもしれねえな」
「ちょ、ちょっと待って、父さん!」
自分の悩み相談がいつの間にか大事に発展しそうなのに気付いて慌てて止める。
父さんの仕事は管理局員、それに関係しているということは、あの施設は何らかの犯罪に関わっている。
だとすると、このまま事が進んでしまえばキャロは―
「心配すんな、可能性の話だ。万が一その施設がアタリだったとしても、オマエの友人、キャロ、だったな。その子は保護するように、コッチで通達しておいてやる」
だから大丈夫だ、と父さんはフォローしてくれた。
良かった、ちゃんとキャロのことを考えてくれている。
「ただな、万一このことが漏れるといけねえから、お前はこれから何日か、そのキャロって嬢ちゃんとは会わないでくれ。いいか?」
正直な所、キャロだけには伝えておきたい。
けど、事態はすでに私だけのものじゃなくなっている。
後のことは大人たちに任せるのが正しいと思えるほどには、今の私は落ち着いていた。
「キャロの事お願いね、父さん」
「おう、任せとけ」
▼▼▼▼▼▼▼▼
―数日後、クラナガン秘密地下闘技場―
『藍、今日の相手って誰だっけ?』
『えー、「ウイグル」です。鞭を使う大男らしいですよ』
『獄長やん……』
この地下闘技場、もう完全に世紀末です。
最近は蓬莱人みたいな事もなく、ひたすらネタ系闘士ばっかりです。リリカルマジカル(ヒャッハー!!)です。
「じゃあ、そろそろ準備……アレ?」
『何か騒がしいですね』
入り口の方が何か騒がしいです。何だかイヤな予感がマッハで上昇していきます。まさか
「管理局だ!! 全員、非常口から避難しろ!」
「うわぁ、やっぱり……」
ガサ入れ来ちゃいました。まあ、こんな裏の世界ですし、いつ来てもおかしく無いですからね。
ここで稼ぐのも潮時ってことですか。逃げろと言ってくれているので、さっさと逃げましょう。
「ダメだ、裏口の方にも局員が詰めてやがる。逃げられねえ!」
「腕利きを集めろ!全員で突破するぞ!」
おおぅ、これはちょっとヤバいですねえ。
さて、どうしましょうか?
▼▼▼▼▼▼▼▼
報告書 陸士108部隊部隊長 ゲンヤ・ナカジマ
我々陸士108部隊は、〇月〇日19:00、情報リークのあった施設へと強制捜査を実行した。
捜査の結果、当施設はストライクアーツの賭け試合の会場であり、オーナー初め経営に関わった者15名を書類送検、従業員、客、合わせて151名を賭博容疑の現行犯及び事情徴収のため確保した。
確保の際、抵抗により局員が十数名負傷したが、怪我はいずれも軽傷で命に別状は無い。
また、容疑者のうち何名かの逃走を許してしまった。逃走した人数は現在のところ不明である。
押収した証拠物件については、別紙を参照されたし。
「こんなところか」
打ち終わった報告書をチェックしながら昨日の事を思い出す。
昨日の一斉摘発の際、ギンガの言っていた少女が発見されたという報告は無かった。
念のため現場の局員一人一人に聞いてはみたものの、該当する少女はいなかったらしい。
聞き込みの際、一部の局員が
「ハート様こええよおおおおぉぉ!!」
「獄長コワイ」
「たわらばっ!!」
等のよくわからないことを口走っていたが、これは関係無いだろう。
「ただいま、父さん」
「お、ギンガか。どうだった?」
「住んでるはずの所に行ってみたけどいなかったよ。キャロ、どこに行ったんだろう……」
友人の心配をしている優しい娘を見ながら、押収した資料の一つに目を通す。
コレはこの娘に言わないでおいた方が良いだろう。
『登録ID 0763 キャロ・シエル 闘士ランク C』
―同時刻、地下秘密闘技場にて―
昨日の大捕り物から一夜明け、今現場には数名の局員を残すのみになっていた。その数名も、簡単な確認を終えて、徹夜空けの体を休めるべく家路についた。
そして誰もいなくなった施設の片隅、選手控え室だった場所の空間に裂け目が走る。
5秒ほどで裂け目は完全に開き、中から一人の少女が顔を出した。
「やっと出られましたねー」
『間一髪でしたね』
本当に危なかったです。局員が来る前にこの部屋に入り、何とか踏み込まれる直前でスキマに潜り込むことができました。
まだスキマ移動が出来るレベルではないので、入った所からしか出られません。
なので仕方なく、局員が全員いなくなる今の今まで、スキマ内でフリードと遊びながら時間を潰していました。
「うーん、これからどうしよっかな?」
「念のため、今まで住んでいた拠点は放棄した方がいいですね。それと、ギンガさんに迷惑をかけるわけにもいきませんから、ほとぼりが冷めるまではスポーツセンターも無しですね」
「だね。また別の拠点探して仕事見つけよっか。じゃあね、フリード」
フリードを残してスキマから出ます。幸い、ファイトマネーは結構残っているので、暫くの間は大丈夫です。
次の仕事はどうなるのかなー。
▼▼▼▼▼▼▼▼
―おまけ 陸士108部隊にて―
「ゲンヤ隊長ー、頼まれていた書類、終わりましたー。」
「おう、見せてみろ……コレとコレ、あとコレもやり直し。あと追加でコレもやってくれ」
「ひどっ! ゲンヤ隊長、いくら何でも人遣い荒すぎひんか?」
「これも勉強だ。つべこべ言わずにさっさとやりやがれ」
「……了解ですー。ん、この書類って?」
「ああ、ちょっと前にウチの部隊で一斉検挙した時あったろ? あの関係だ」
「へー……え、これホンマに!?」
「俺もそれ見た時は驚いた」
「キャロ・シエル、推定年齢5歳、闘士ランクC、色んな意味でデタラメやなあ……」
▼▼▼▼▼▼▼▼
―おまけその2 少し後、某所にて―
「久しぶりだねはやて。今日はどうしたの?」
「久しぶりやなフェイトちゃん。早速やけどコレ見てくれへんか?」
「何……コレは!?」
「ホントは捜査資料横流ししたらアカンのやけど、フェイトちゃん執務官やろ? 執務官権限でフェイトちゃんの方から取り寄せたってことにしといてえな」
「いいけど……、この資料、本当に?」
「正直私も半信半疑なんやわ。フェイトちゃんやったらその辺調べることも出来るやろ?」
「うん。ありがとう、はやて」
「ええてええて。私とフェイトちゃんの仲やろ?」
「キャロ・シエルか……。もし昔の私みたいに苦しんでいるのなら、助けてあげなくちゃ!!」
―おまけその3 その頃2人―
「あーもう、鬱陶しい!!あいつらどこまで追ってくるのよ!!」
「私が知るか!! ったく、とにかく逃げるぞ!!」
「そうね。それじゃ、あそこで二手に分かれるわよ」
「テメー、そう言って私の方に全部押し付けるつもりだろう!」
「……チッ」
「舌打ちしてんじゃねえ! やっぱりお前は信用ならねえ! 今すぐ消し炭にしてやるから覚悟しろ!」
「そこまでだ! こちらは時空管理局だ! もう逃げられんぞ。大人しく―」
「「うっさい!!」」
「ちにゃ!!」
「……何か逃げるのも面倒になってきたわ。こいつらまとめて吹っ飛ばした方が楽じゃない?」
「お前の言う事聞くのなんて非常に嫌なんだけど……それには同感だ」
「ぜ、全員でコイツらを取り囲め! 数で押して無力化させるぞ!」
「遅ぇ!! 時効「月のいはかさの呪い」!」
「これも喰らいなさい。難題「仏の御石の鉢 ―砕けぬ意思―」!」
「「「「「う、うわああああああああ!!」」」」」
ピチューン!!
この事件をきっかけに、賭博容疑、障害容疑、公務執行妨害etcで通称「フェニックス」と「プリンセス」が指名手配されたのだが、それはまた別の話である。