幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第1⑨話 バカと機人とすれ違い

「む、子供か?どうしたものか……」

 

 

 

 

 それはこっちの台詞ですチンクさん。

 

 まさかこんな所でエンカウントするなんて、夢にも思っていませんでした。

 夢幻珠はおろか、普通のデバイスすら持っていない今の私は、少しグレイズが上手いだけの幼女でしかありません。

 加えて相手はチンクさん。基本的にグレイズで攻撃を回避する私にとって、いつ爆発するか分からないナイフを使ってくるチンクさんは天敵ともいえる存在です。

 どうやってここから逃げようかと考えながらじりじりと後退していると、チンクさんは困ったような顔をして

 

「ああすまん。怖がらせてしまったか?ほら、そっちは危ないからこっちに来い」

 

 ……へ? ひょっとして、始末されないで済むんですか?

 そういえば、チンクさんってナンバーズの中では良識派でした。もしかすると、無益な殺生は避けてくれるかもしれません。

 いやいや、油断させておいて、っていうのも考えられます。どうしましょう……

 うーん……、決めた!

 

「わたし、ここがどこなのかもわからなくて、こわくて……グスッ」

 

「泣くな泣くな。ほら、ちゃんと外まで送ってやるから」

 

 どっちみち戦っても勝てないんですから、泣きついて利用しましょう。

 

 

 

 

「ほんとうにたすかりました。ありがとう、おねえちゃん」

 

「礼なんていいから、さっさと行くぞ。(おねえちゃん、か……)」

 

「わかりました、チンクおねえちゃん」

 

「……。(何か良い、な)」

 

 

 

 

 幼女分を演出するために舌っ足らず気味に喋っていたら、チンクさんが黙ってしまいました。どうしたんでしょうか?

 どうやら油断させて後から、っていうのは無かったみたいで、普通に案内してくれます。チンクさんマジいい人です。疑ってゴメンナサイ。

 今私は、チンクさんに手を引かれながら廊下を走っています。チンクさんは左手に何かのケース、右手は私の手を握って、私のペースに合わせて走ってくれています。

 

 ……というか、左手に持っているのって明らかにレリックですよね? ああ成る程、ここに居た目的は火事場泥棒ですか。

 追求したいのはやまやまですが、身の危険になりそうなのでスルーします。こんな状況でフラグ増やしたら本当に死んでしまいます。

 

「この区画を抜けたらもうすぐだ。まだ頑張れるか?」

 

「はい、だいじょうぶです」

 

 返事を返しながら、チンクさんと一緒に走っていきます。さっきまでは大丈夫だったこの辺りも、火の手が出てきて如々にヤバくなってきています。そんな時、それは起こりました。

 

 

 

 

 ドオオオオオオオンッ!!

 

 

 

 

「へ?」

 

「何!?」

 

 

 

 

 突如轟音が響いたかと思うと、天井の一部が崩れました。

 崩れた瓦礫はそのまま落下し、一部が私達の所にも―

 

 

 

 

「くっ!」

 

「へ? わわわわわ!?」

 

 落ちてくる瞬間、チンクさんに強く引っ張られた私は、そのまま遠くに投げ飛ばされました。

 その一瞬後、さっきまで私達のいた所に瓦礫の雨が降り注ぎました。

 

 

 

 

「痛たたたた……、お姉さんは大丈夫ですかー?」

 

 辺りを見回したのですが、チンクさんはどこにも「うううっ……」っ!?

 声がした方を見ると、そこには倒れて炎に包まれるチンクさんの姿が―

 

「チンクさん!!」

 

「……無事だったか?」

 

「私の心配してる場合じゃないでしょう! チンクさんこそ大丈夫なんですか!?」

 

「私のことなら大丈夫だから気にするな。ほら、もう出口はすぐだ。またさっきみたいな事になる前にさっさと行け」

 

 絶対嘘でしょ!? 大丈夫だと言いたいんでしょうけど、足がありえない方向に折れてますよ!生き埋めは免れたみたいですけど、そのままなら脱出なんて無理ですよ!

 

「ボサボサしてるとお前も火に巻き込まれる。私一人なら何とか出来るから、先に行っていてく……れ……」

 

 チンクさんの言葉に呼応するように、辺りの火の手が強くなります。

 そうです。私にとって、ここは逃げるのが最善です。

 チンクさんとは今日が初対面。いずれは敵対するだろう相手です。

 予想外のハプニングでレリック一個とナンバーズ一人をリタイア出来るんですから、むしろ儲けものです。

 

 

 

 

 なのに

 

 

 

 

「……ごめんなさい、それ、無理ですよ」

 

 思い出すのは、さっきまで繋いでいた手の温もり。

 戦闘機人といっても普通の人間と変わらないそれは、ギンガさん達とはぐれて不安になっていた心を慰めてくれました。あの温もりを知ってしまった以上、見捨てることなんて出来ません。

 それに、チンクさんがこうなったのは私のせいです。

 一人ならもっと早く脱出できただろうし、私を庇う必要も無かったはずです。

 これから自分が行う事へのリスクを覚悟しつつ、私はチンクさんに視線を向けます。

 

「絶対、助けてみせますから!!」

 

 チンクさんから返事はありません。どうやら気絶してるみたいです。

 なら、好都合!

 

「竜魂召喚……、来て、フリード!!」

 

 竜召喚を発動。召喚陣から、アルザスに待機させておいたフリードがその姿を現しました。

 私は即座にフリードの首に掛けておいた夢幻珠を取って、自身の腕に装着します。

 

『ま、マスター!?』

 

『藍、早速で悪いけど、モード「氷」、サブ「博麗」でお願い。』

 

『は、はい!』

 

 ユニゾンを完了した私は、氷翼を展開しながらこおりパワーをチャージします。

 

「チンクさんに当たらないようにして……凍符「パーフェクトフリーズ」!!」

 

 スペル宣言と同時に、大量の氷弾が辺りにばら撒かれ、氷弾は火の手に着弾し、辺りを消火していきました。約30秒の間、氷弾をばら撒いて消火した後、私は急いでチンクさんに駆け寄りました。

 

「あたい! 無敵!! 最強!!! ……っと危ない危ない。チンクさん、大丈夫ですか!?」

 

 思わず口から出てしまった言葉を遮り、チンクさんの所へ駆け寄っていきます。

 近くで見た様子はやっぱり酷い有様で、足の骨が数箇所折れてしまっています。

 命に別状はないみたいですけど……

 

「藍、モード「境」。このままスカさんの所に返すわけにもいかないし、管理局に引き渡しても厄介な事になりそうだから、しょうがないよね」

 

 スキマを開いて、フリードと一緒にチンクさんとレリックを放り込みます。チンクさんの目が覚めたら、今後の事について話し合いましょう。

 

「とりあえずはこんな所だね。藍、そろそろ脱出するよ」

 

「何がどうなっているのか分かりませんが……了解しました」

 

 

 

 

 ―その頃―

 

「くっ! あの子は、キャロはどこにいるの!?」

 

≪落ち着いてください、サー≫

 

 落ち着いてなんかいられない。

 さっき助けたギンガちゃんの話を思い出す。

 

「妹さん、名前は? どっちに行ったかとか、分かる?」

 

「あの、エントランスホールの方ではぐれてしまって。名前は、スバル・ナカジマ、11歳です」

 

≪こちら通信本部。スバル・ナカジマ、11歳の女の子、すでに救出されています。救出者は高町教導官です。怪我もありません。≫

 

「スバル……良かった」

 

「了解、こっちは今、お姉さんを保護。名前は?」

 

「ギンガ・ナカジマです。あの、キャロはどうなったか分かりませんか?」

 

 へ?

 

≪キャロ、ですか……救助者リストには載っていません≫

 

「そんな、キャロ……」

 

 聞き間違いじゃない! キャロがここに居る!?

 

「ねえ、そのキャロって子の特徴は?」

 

「桃色の髪をした、6歳の女の子です。大丈夫かなあ……」

 

 間違いない、あのキャロだ!

 言われてみればナカジマという姓にも思い当たることがある。キャロの保護観察官をしているゲンヤさんの姓だ。

 こうして言われるまでギンガちゃんが娘さんである事にすら気付かなかった私は、よっぽどキャロ以外目に入っていなかったんだなあと自嘲しながら、ギンガちゃんを送り届けてキャロの捜索へと飛び立った。

 

「ここにもいないね」

 

≪後は一番奥の区画のみです≫

 

「あのキャロなら滅多な事でも無い限り大丈夫だと思うけど……行くよ、バルディッシュ!」

 

≪イエス・サー≫

 

 バルディッシュの頼もしい返事を聞きながら、私は最深部へと飛翔していく。

 辺りはすでに火が燃え盛っており、瓦礫が崩れ、まさに地獄のような状態になっている。そのせいか通信機の感度もあまり良くなく、本部との連絡も上手く取れない。

 でも、だからといって立ち止まる訳には行かない。きっとあの子は私を待っている。だから絶対助けなきゃ!!

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 

「キャロ、大丈夫かなあ?」

 

「大丈夫やってギンガちゃん。今フェイトちゃんが探してる。きっと見つけてくれるって」

 

「そうなのです。だから安心して待ってるといいですよ」

 

 そう言ってはやてさんとリインさんが励ましてくれます。そうですよね、きっと大丈夫です。

 

「それにキャロちゃんって、殺しても死なへんようなエエ性格しとるやろ。案外一人で脱出するかもしれへんな」

 

「酷くないですかそれ? まあ、大体当たってますけど」

 

「日頃の行いや」

 

「あの、はやてさん?」

 

「ん、何や、ギンガちゃん?」

 

「私、今何も言ってなかったんですけど……」

 

「へ? じゃあ誰が?」

 

「いくら私の背が低いからって、無視は酷くないですか?」

 

 へ?

 驚いて声がした方を向いてみると、そこには数時間前に分かれた私の家族の姿が―

 

「きゃ、キャロ、無事だったの!?」

 

「うわ、ホンマに脱出しとった!」

 

「キャロちゃん、無事だったです!」

 

 はやてさん、さっきから色々酷いです。でも、本当に良かった!

 

「これでも元犯罪者ですからね。逃げたりするのは得意なんです。でも、いいんですか?」

 

「ん、何がや?」

 

 安心していた所に、そんな事を言われる。ん? キャロも無事だし、他に何かあったっけ?

 

「私はここにいるんだから、フェイトさんを呼び戻した方がいいんじゃないですか?」

 

 

 

 

 あ

 

 

 

 

「あああああああ、そやった! リイン、至急フェイトちゃんに連絡や!」

 

「駄目です! 奥の方に行ったせいか、通信が途絶えてしまってるです!」

 

「なら念話や念話! とにかく早う教えてあげんと、フェイトちゃんが物理的に燃え尽きてまう!」

 

 キャロの指摘を受けて、はやてさんとリインさんは大慌てです。

 そんな二人には悪いけど、キャロが無事でいることが私には嬉すぎて

 

「おかえり、キャロ」

 

「ただいまです。ギンガおねえちゃん」

 

 慌ててる二人をバックに思いっきり抱き合って、無事を確かめ合いました。

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