「ボス、こっちにも局員が!」
「焦るんじゃねえ! 戦力はこっちが上だ、持ちこたえろ!」
部下に檄を飛ばしながら指示を出す。
俺の名はボム。とあるマフィアの幹部だ。
デバイス関係の密輸でここまでノシ上がってきたんだが、今日に限ってケチがついちまった。
子分の一人がヘマをやらかしたせいで、取引現場に局員が待ち伏せ、現在絶賛戦闘中だ。
とは言っても、こんな時のための準備は欠かしていない。
D~Cランクとばらつきはあるものの、そこそこ使える部下が10人に、Aランクオーバーの腕利きの護衛が5人、管理局といえど、1部隊程度なら軽くあしらえる戦力だ。
だというのに
「駄目です、突破されます! ……ぬわーー!!」
蓋を空けてみればこの有様だ。すでに部下は全滅し、残すは護衛の5人だけ。
やたらと強い近代ベルカ式の使い手はもちろんの事、他の局員も、到底雑魚とは思えない実力だ。
そのタネはおそらくアイツ、後方に待機している桃髪のガキ。
局員の強化は、あいつがブーストしているからに違いない。
「お前らはあの青髪の局員を集中攻撃しろ!」
部下達に前衛の足止めを指示して、俺は一人、気付かれないよう遮蔽物に隠れながらあのガキへ接近する。
すでにあのガキは射程内。接近戦なら簡単に倒せるだろう。
「死ねよやああああああ!」
これで俺達の勝ち。後は弱体化した奴らをフルボッコにするだけだ。
「……霊撃!!」
「なああああ!?」
ガキが懐から何かを取り出した瞬間、俺は空中に放り出された。
吹き飛ばされたみたいだが、ダメージは無い。そんな一時しのぎ、通じるものか!
着地に備えて体勢を立て直していると、不意に落下が止まり
「な? バインドだと!?」
空中に固定されて動くことが出来ない。
必死にブレイクを試みていると、目の前のガキが話しかけてきた。
「ねえ、こんな言葉知ってます?(藍、モード「霧雨」)」
「な、なん、なん、だよ!?」
おおよそ戦場には似合わない子供の声、でも、そいつが取り出した箱状のデバイスにチャージされていく魔力を見ていると、歯の根が合わず、まともに喋れなくなる。
「弾幕は、パワーです。恋符「マスタースパーク」!!」
「あ、ああああああああああ!!」
桃色の砲撃魔法に意識を刈り取られながら、俺はこの世の理不尽について愚痴を零した。
(なんでガキがこんなに強いんだよ……ん、桃髪? ……ああ、コイツ、「桃髪の子鬼」! なんでセンセーが管理局にいやがるんだよ……)
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「うううううううう……」
「で、キャロ。何か言うことは?」
「私的には、なるべく沢山巻き込んだ方がいいかなって……」
「確かにそれは一理ある。でも、敵を巻き込むのはともかく、建造物壊すのはやりすぎだ」
「父さん、その辺にしてあげたら?」
ゲンヤさんに拳骨を喰らった頭を抑えながら、私は涙目で説教を聞いています。
旅行から暫く経って年が明け、ギンガさんは陸士108部隊へ、スバルさんは訓練校へと行くことになりました。
それを見て、私もいつまでもNEET生活してる場合じゃないと思い、ゲンヤさんの108部隊に民間協力者として参加することにしました。実戦経験積んでおきたいっていう邪な気持ちもあるんですけどね。
ゲンヤさんは反対しましたけど、働いて恩を返したいという思いと、アウトロー時代の経歴を持ち出して、必ず役に立つから、と押し切りました。その際「「基本的には」フルバックスで支援に徹すること」「危なくなったらすぐ逃げること」を約束させられちゃいましたけどね。
「ちょっと加減間違えただけじゃないですかあ……」
「まだ反省が足りないみたいだな。もう一発いくか?」
「スイマセンでしたー!」
あの拳骨はもう勘弁ですよ!
「なら良い、報告書は俺がやっておくから、お前は始末書提出だ」
「はいいいいいい……」
「キャロ、頑張って」
「あうぅぅぅ……」
始末書兼反省文を書きながら、さっきの事を思い出します。
正直言って、オーバーキルするつもりは全くありませんでした。
実は、民間協力者としてテロリストやらマフィアやらをボコり初めてから、微妙に力が上がってる感じがします。そのせいで手加減をミスることが出てきました。
特に今回の場合、予想より2割から3割増しくらい威力が上乗せされて発射されました。もう誤差の範囲を超えています。
霊力や魔力は変化してないはずなのに、どうしてなんだろ?
「おい、手が止まってるぞ。やっぱり反省が足りていないみたいだな」
「だ、大丈夫ですから」
ちょっと考え事をしていると即座にゲンヤさんが注意してきます。
公私をきっちり分けて、仕事は妥協しないっていうのは良いことだと思います。
けど、その矛先が自分に向かっていると話は別です。ゲンヤさんマジ厳しいです。
「大丈夫、キャロ? これでも飲んで頑張って」
ギンガさんがお茶を出してくれます。
自分にも仕事があるだろうに、本当にギンガさんの優しさは天井知らずです。
108部隊が上手く動いているのは、ゲンヤさんの鞭とギンガさんの飴のおかげなのかもしれませんね。
「おい、また手が止まってるぞ」
「だっ、大丈夫です! すぐ書きますから!」
だから、拳骨は嫌なのですよー!
「ゲンヤ隊長、始末書書き終わりました」
「おう、今忙しいからその辺に置いておいてくれ」
ようやく書き終わった始末書を持ってゲンヤさんのデスクに持っていくと、ゲンヤさんが画面と睨めっこしながらウンウン唸ってました。
「どうしたんですか?」
「キャロには関係無……ってこら、圧し掛かってくるな!」
ゲンヤさんの背中におんぶしてもらいながら画面を覗き込みます。これは―
「指名手配者のリスト、ですか?」
「……ああ」
「へえー、一杯いますね。あ、コレ兄貴さんにハート様だ。懐かしいなあ」
「知り合いか?」
「昔仕事で一緒だったり、闘技場でボコったりしただけですよ」
本当に懐かしいです。あの世紀末な世界も、今ではいい思い出です。
「なあ、いい加減どいてくれ。仕事ができん。」
「あの、もうちょっとだけ……っ!」
もう少し見てみたかったので次のページを開けてみると、そこにいたのは
「ん? お前、こいつらとも知り合いなのか」
「二人ともどうしたの? ……ってこの二人は、「フェニックス」と「プリンセス」だね」
「知っているんですかギンガさん?」
たまたま近くを通りかかったギンガさんが説明してくれました。
とりあえずゲンヤさんの背中から降りて話を聞いてみます。
「私もあまり詳しくはないんだけど……」
そう前置きしてギンガさんが話してくれました。
曰く、たまに街中で騒ぎを起こしては、駆けつけた局員を悉く返り討ちにして逃走するそうです。
凶悪犯罪を犯したという訳ではないものの、そうやって局員が撃退されていくうちに、「正体不明の危険人物」として、公務執行妨害等で手配されているそうです。
ギンガさんが知っていたのは、闘技場の件で私に関係する情報を集めている最中に、たまたま見つけたからだそうです。
……何やってるんですか蓬莱人。
「そうか、キャロは「あの」闘技場にいたんだったな。なら話は早いか」
へ? ひょっとして、さっきまでゲンヤさんが唸っていた原因ってコイツら?
「こいつらの逮捕だが、ウチの担当になった。」
……え、ちょ、それ新手のギャグ?
「え、えええええええ!」
「キャ、キャロ!?」
冗談じゃないですよ! 殺しても死なないような奴らとどう戦えと?
「後で言おうと思ってたんだが……奴らの発見場所のデータからシミュレーションした結果、そろそろ俺達の担当地域に来る可能性が高い。もし何か騒ぎがあったら、出動することになるだろうな。」
「応援を呼んだりとかは出来ないの?」
「本局に要請したけど無理だった。「重要度が低いから」だそうだ。だから悩んでる」
確かに困りました。
街中で騒ぎを起こされれば見逃す訳にはいかないだろうし、かといって出動すれば全員返り討ち。
……これ何て天災?
「えっと、騒ぎを起こさずに素通りしている地区も何箇所かあるんだよね。なら必ずしも戦闘するってわけじゃないでしょ?」
あ、ちょ、ギンガさん、それフラグ!そんな事言ってると
「隊長! C-4地区で魔導師2人による戦闘が発生、至急対応願うとの事です!」
ああああ、やっぱりきたああああああ!