フェイト・Tハラオウンは困惑していた。
昨晩ゲンヤから寄せられた「キャロ誘拐」の報。それを聞くなりバルディッシュを片手に持って、探索へと飛び立った。
予測に基づくサーチは予想範囲が曖昧だったので、フェイトは夜通し飛び回って対象エリアをしらみつぶしに探し回った。
そして太陽が昇るころ、その努力は身を結ぶ。サーチャーから魔力反応が検出されたのだ。
すぐにでも現場に急行したいのだが、夜通しの飛行は彼女から体力と魔力を奪っており、その状態でSランク相当の相手とやり合うのは無謀である。かといって放置していればみすみす逃がすことになるので、これも選ぶことができなかった。そして結局、彼女は行くことにした。
(正面から挑むのは無謀だけど、隙を見てキャロだけでも救出すれば……)
決死の覚悟を胸に、彼女は反応のあった地点へと向かう。そこで彼女が見たものは―
「ふうん、イナバの肉って食べたこと無かったけど、結構いけるのね」
「おい輝夜、それ私の肉だ。勝手に取ってるんじゃねーよ」
「いちいち細かいわねえ。そんなに嫌なら、名前でも書いておきなさいな」
「子供ですか輝夜さん。ほら妹紅さん、こっち焼けましたよ」
「お、ありがとキャロ。あむ……」
「子供に食べさせてもらって、恥ずかしいと思わない?」
「あんたが言うな」
「ふぁんははひふな(あんたが言うな)」
「あ、フェイトさん、おはようございます。フェイトさんも食べますか?」
野生の兎で焼肉をしている、すっかり馴染んだ感じの三人の姿であった。
みなさんおはようございます。キャロ・シエルです。三人で朝ご飯を食べていたら、フェイトさんがやってきました。
「うん、やっぱりこうなるよね……いいんだ、分かってたから」
≪元気出してください≫
こっちを見るなりその場にへたり込んでブツブツ言い出しました。正直怖いです。
「おいキャロ、こいつ知り合いか?」
「はい。一応友人……かな? とにかく、悪い人じゃないですよ。で、フェイトさん、こんな朝っぱらからどうしたんですか?」
私の言葉に反応したのか、ようやく起き上がってくれたフェイトさん。何だかプルプル震えて……アレ?フェイトさん怒ってる?
「どうしたもこうしたも無いよ! キャロが誘拐されたって聞いて、ずっと探してたんだから!」
「あ」
そういえば私誘拐されてたんでしたね。すっかり忘れていました。
「ゲンヤさんとギンガも心配してたよ。酷い目に遭ってなければいいのにって。さあ帰ろう」
それを言われると心が痛みます。でも
「すみませんフェイトさん。ちょっとやらなきゃいけない事が出来たので帰れなくなりました」
「へ?」
そして私はフェイトさんに事情を話しました。あの二人は次元漂流者で、今までの犯罪は生きるために仕方無かったこと、そして私が帰る手段を用意してあげる代わりに修行をつけてもらうこと。もちろん幻想郷のことはぼかして話しました。
それを聞いたフェイトさんの反応は
「って、そんな事許せる訳ないでしょう!」
「駄目ですか?」
「当たり前だよ! 次元漂流者ならちゃんと事情を説明して管理局に出頭させないと。帰る手段を見つけるのは私達の仕事。キャロがする事じゃないんだよ!」
「確かにそうですけど……。」
管理局に幻想郷の存在がバレるのは不味いですし、保護の際に二人の体を調べられたらこれも不味いです。
でもフェイトさんにこの事を説明する訳にはいきません。こうなったら―
「フェイトさん、駄目ですか?」『藍、モード「境」』
フェイトさんにしがみつきながら、上目遣いでお願いしてみます。と同時に、フェイトさんに見えないように、フェイトさんの背後にスキマを開きます。
「これが執務官の仕事だから。強くなりたいのなら私が訓練をつけてあげる。だから帰ろう」
「そうですか。……ゴメンナサイ!」
「へ? きゃあああああ!」
私に突き飛ばされたフェイトさんは、そのままスキマ内に落ちていきました。
移動先は昔暮らしていた廃棄都市の拠点。誰にも見られないのは確認済みです。
「さってと、フェイトさんが戻ってくる前に移動しましょうか。……どうしました?」
後ろを見てみると、妹紅さんと輝夜さんが驚いた顔で見てきます。どうしたんでしょうか?
「今のってスキマだよな?」
「あなた、スキマ妖怪だったのね」
あ、そういえば、まだ説明してませんでした。
「藍」
「私に丸投げですか? まあいいですけど」
「八雲の式!? それにしては」
「ちっこいわね」
藍に説明を任せている間に、私はいつも書き置きに使っていたメモ帳を取り出しました。えーっと
ゲンヤさん、ギンガお姉ちゃん、スバルお姉ちゃんへ
私は無事なので心配しないでください。
しばらく旅に出てきます。週に一回は連絡を入れるようにするので安心してください。
適当にふらついて飽きたら帰るつもりです。それでは、また。
キャロ・シエル
「こんな所でいいかな」
書き終わったそれを、フェイトさんが落ちていったスキマに放り込みました。藍の方はそろそろ説明終了したかな?
「マジックアイテムねえ……こっちの科学は進んでるんだな」
「とりあえずは、それで納得してあげるわ」
終わったみたいですね。それじゃ、そろそろ移動しますか。いつまでもここにいると、またフェイトさんが戻ってくるかもしれないですし。
「とりあえず、移動しますよー」
フェイトさんの所に繋がっているスキマを閉じて、新たに一つ開きます。
行き先はアルザス山中。自然豊かで隠れるにはうってつけの場所です。
開いたスキマに私が入ります。次に妹紅さん、最後に輝夜さんが入り、スキマは完全に閉じました。
「ここは?」
「私の故郷です。ここなら管理局も追ってこないと思いますよ。騒ぎさえ起こさなければ」
「妖怪の山に似てるわね」
「殆ど手付かずのまま放置されてますからねえ」
そう言ってから、私は二人の前に立って頭を下げます。こういったことは最初が肝心ですからね。
「これから宜しくお願いします。お師匠様」
あと、出来ればお手柔らかに。