「おいギンガ、こっちの書類も処理しておいてくれ」
「はい、ゲンヤ部隊長。」
陸士部隊所属といっても、戦ってばかりじゃない。
出動が無い日の方が圧倒的に多いし、非番の日も訓練だけしていれば良いというものでもない。
今日は書類仕事の日。報告書、始末書、経費清算等を、事務担当の局員に混じって片付けていく。仕事を始めてから一時間ほど経過して、そろそろ集中力が切れかけていた時に、通信用デバイスからピロリンッ、という電子音が鳴った。
「メール? ……キャロからだ」
最近お馴染みになったキャロからのメールだ。
あの時、私の目の前で浚われた時、私は後悔が止まらなかった。
自分のせいだって何度も漏らして、まともに仕事も出来ず、フェイトさんが手紙を持ってくるまでそれは続いた。
初めはあの二人に無理矢理書かされたんじゃないかって疑っていたけど、フェイトさんの話によると、三人で仲良くやっていたらしい。きっと今頃、気ままに旅行しているんだろう。
今日の文面は―
ナカジマ家の皆さんへ
元気にしてますか? 私は元気にやっています。
そろそろ旅行も終わらせて、近いうちにそちらに帰ろうと思います。
帰る時にはまた連絡しますね。
キャロ・シエル
P.S
ゲンヤさん怒ってますよね……。
ギンガお姉ちゃん、お願いですからゲンヤさんを止めてください。切実にお願いします。
「おいギンガ、頼んでた書類、終わったか?」
「へ? と、父さん!?」
「勤務中は隊長と呼べって言ってるだろうが。随分集中してたみたいだが、仕事中にそれは感心しないぞ。で、どうした?」
「ごめんなさい。えっと、キャロからメールが来てて」
キャロ、の言葉を聞いた瞬間、父さんの顔がぴくっと反応した。
「そうか。で、何て?」
「元気にやってるらしいよ。それと、近いうちに帰るんだって」
「……全く、アイツは人に心配ばっかりかけやがって。帰ってきたら、どれだけ俺達に迷惑かけたかきっちり教えてやらんとな」
そう言って拳を鳴らす父さん。今父さんの頭は、キャロにどうお仕置きするかで一杯なんだろう。
ごめん、キャロ。私には、これは止められないよ。でも、悪いのはキャロだからね。
それに、私だって一応少しは怒ってるんだから、ちょっとくらいお仕置きされないと気が済まない。
こんな時だけお姉ちゃん呼ばわりしても、無駄なんだから。
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「今、何か悪寒が……」
「大方、ゲンヤさん辺りがお仕置きプランを考えてるんじゃないですか?」
藍、たぶんそれ当たりだろうけど言わないで。
「で、マスター、今日はどうするつもりで?」
「いつも通りだよ」
いつも通りっていうのは、特に目的地を決めないで、ランダム転送で適当に移動することを言います。
「目的が無いなら、そろそろ帰ったらどうですか? 修行が終わってから、もう一月以上経ちましたよ」
「分かってます、分かってます。けど、もう少しだけ……」
「……分かりました。でも、早く帰らないと、辛くなるのはマスターですよ。モード「境」セットアップ」
モード「境」で適当にスキマを開いた後、潜り込んで移動します。今日は何があるかなー?
生まれた時のことなんて覚えてはいない。
人間でいう親―マイスターが誰かという事も私は知らない。
ただ静かに、随分の間眠ってただけ。
気が付けば、白い部屋で実験動物。
自分が何のために生まれたのかが分かっていただけに、辛かった。
生まれた意味を何一つ果たせないまま、死ぬ自由すら無く、苦しいまま。
ずっとそんな日常が続いて、いつか、心と体が壊れて終わるんだって思ってた。
思っていたけど―
「えーっと、大丈夫?」
炎に包まれた建物。研究員は逃げ出して周囲は無人。なのに私は拘束されて動けない。
そうか、今日で終わりなんだと諦めた時に現れたのは、年端もいかない桃髪の少女だった。
「えーっと、大丈夫?」
拘束されたまま放置されていたアギトちゃん(仮)を解放しながら、私はこうなった経緯を思い出す。
いつものようにスキマ移動をした直後、私の目に入ったのは真っ赤に燃える建物でした。
「千里先を見通す程度の能力」と「狂気を操る程度の能力」でサーチした結果見たのは、血まみれで倒れた白衣の研究者達、そして、槍を振るって研究員を殺害し、機械を破壊し回っている壮年の男性と、その傍にちょこんと立っている紫の髪の、私と同い年くらいの女の子でした。
「あれって、ゼストさんとルーテシアちゃん!?てことは……やっぱり!」
集中して再度サーチすると、奥の区画に拘束台があり、そこに体長30センチ程度の赤い髪の少女が、服も着せられずに捕らえられていました。
「まさか、適当に移動してこの場面に居合わせる事になるとはねー。どうしよ?」
いつものように脳内会議の時間です。
ゼストやルーテシアと一緒に行動→スカさんに目を付けられるのでNG。エンカウントするだけでも危険。
ルーテシアとアギトだけでもこっち側に引き込む→目的があるので厳しい。しかも、ルーテシアは既にレリックを埋められてる可能性アリ。
このままアギト(仮)が連れて行かれて向こうに強化フラグが立つのは不味い。
逆にこの時点でこっちに引き入れれば、シグナム強化フラグ成立するので何とか確保したい。
以上から導き出される結論は―
「藍、モード「玉兎」サブは「日」で。あの二人に気付かれないうちにアギトちゃんを確保して脱出するよ」
「分かりました。モード「玉兎」セットアップ」
ユニゾンを終えた私は、すぐに施設へと侵入。「狂気を操る程度の能力」で周囲をサーチしながら自分の魔力反応を隠し、「光の屈折を操る程度の能力」で姿を消して進入しました。
施設を破壊しながら進んでいくゼストさん達と、目標目がけて最短距離で突っ込んだ私。結果的に、私の方が先にアギトちゃん(仮)に会うことが出来ました。
「……誰? それに、それは?」
「聞きたいこととか色々あると思うけど、とりあえずここから脱出するよ。藍、お願い」
一旦ユニゾンを解除、モード「境」に変更してスキマを開きます。
藍とスキマを見られるのは少し不味いですけど、すぐそこまであの二人が来ていますから、それしか方法がありません。
どっちみち次元移動する時にバレるんだし、後でしっかり口止めしておきましょう。
研究材料として扱われていた経験上、こういう事には口が堅いでしょうし。
「早くこっちに。じゃないと、もうすぐここを襲った人たちが来ちゃうよ」
「あ、ああ」
スキマを通ってさっきまでいた世界に戻った私は、ようやくそこで一息つきました。
アギトちゃん(仮)は大分疲れていたみたいで、その後すぐに気絶。一晩経って夜が明けた頃、ようやく目を覚ましました。
「……ん?」
「あ、起きた?」
「えっと……。ここは?」
「覚えてない? 私が研究所から連れ出してここに移動した後、気絶しちゃったんだよ」
「へ? ……ッ!!」
研究所、という言葉に反応したのか、アギトちゃん(仮)は、体を震わせながらこっちを警戒し出しました。
「大丈夫だよ。ここにはあなたを苛める人はいないから。……出てきて、藍」
「……融合騎?」
「はい。マスターは融合騎に酷い扱いをする人ではありません。だから、安心していいですよ」
藍、グッジョブです。後で油揚げ買ってあげます。
しばらくして落ち着いたのを見計らって、私はアギトちゃん(仮)に話しかけます。
「じゃあ、改めて自己紹介するね。私の名前はキャロ・シエル。こっちは相棒の藍です」
「藍と言います。マスター、古代ベルカではロードでしたね、の融合騎です」
「私は……」
そう言いかけて口をつぐんでしまいました。まだ名前が無いのは知っているので、意地悪はしないでおきましょう。
「名前が無いなら私がつけてあげるね。……アギトっていうのはどうかな? ロードの敵を砕く牙って意味だよ。」
「アギ……ト?」
「そう、アギト。駄目かな? 嫌なら別のを考えるけど」
「……それで良い。うん。私はアギト。烈火の剣精アギトだ!」
めでたく(仮)が取れたアギトちゃんが、自分の名前を何度も呼んでいます。うん、いい事した。
……レヴァンティン繋がりでフランって名付るのを自重した自分を褒めてやりたいです。
「じゃあ、これから宜しくね、アギト」
「うん。宜しく、キャロ」
「なあ、キャロ」
「なーに、アギト?」
「キャロは何で旅なんかしてるんだ?」
「それはですね「家に帰ってお仕置きされるのが怖くて逃げてるんです」ってちょっと藍!!」
「事実でしょう?」
「それでも言っていい事と悪い事があるよ! ほら、アギトが呆然としてるじゃない!」
「……キャロ」
「……何かな、アギト?」
「私も帰った方がいいと思う」
「うわーーーーーん!!」
アギトの裏切りものーーーー!!
個人的に色々反省の多い回。
展開の強引さもそうだけど、折角引き入れたアギトが、この後あんまし目立ってないっていう。
見せ場は有限、思いつきで引き抜いても見せ場作ってやれないんですよねえ。……アギトごめんマジごめん。
プロットはちゃんと組むべきだというお話でした、まる。