「そっか。駄目ってかあ」
『うん。ごめんね、はやて』
交渉をお願いした友人によると、キャロは新部隊への参加を断ったらしい。
交渉が失敗した責任を感じているのか、通信機の向こうのフェイトちゃんは申し訳無さそうに謝っている。
まあ、相手はあのキャロやし、一筋縄ではいかんやろなあ。
「ええよええよ、フェイトちゃんが悪い訳やないし。んで、何であかんかったん?」
『それがね、「今の話だけだと詳細が分からないので」だって』
「フェイトちゃんはどの辺まで話したん?」
『はやてが部隊メンバーを集めている事と、後は参加した際の待遇、かな』
「うーん……。フェイトちゃん、キャロは私に任せてくれへんか? 細かいことの説明とか私にしか出来へん事もあるし」
『助かるけど……、大丈夫?』
「ええてええて。人材集めは元々私の仕事で、それをフェイトちゃんに丸投げしてたようなもんやしな。むしろ感謝するのはこっちの方やで」
『ありがとう、はやて』
「私に任しとき。んじゃ、またなー」
フェイトちゃんとの通信が終わった私は、早速ゲンヤさんに連絡を入れる。
機動六課にはレリック事件に対応できるように、一部隊としては過剰ともいえる戦力を集める必要がある。
リミッターによる裏技、伸びしろのある新人の採用など、それこそあらゆる手を使ってでも。
あの年で豊富な実戦経験を持ち、アウトロー時代にはフェイトちゃんを何度も出し抜いた逸材であるキャロは、是非身内に入れておきたい。
もしゲンヤさんの賛成が貰えたら、目的の半分は達成できたようなものや。
フェイトちゃんは良くも悪くもまっすぐやし、性格上、こういう外堀から埋める真似は出来へんからなあ。
そういうのは、むしろ私の領分や。
「あ、ゲンヤさんですか? 私です、はやてです。実は……」
―翌日 陸士108部隊オフィスにて―
「という話が、昨日子狸からあった」
「断ったのは昨日なのに行動早いですねー。で、ゲンヤさんは何て?」
もしゲンヤさんに賛成されたら厳しいですからね。
それでも突っぱねるつもりですけど。
「「キャロの好きにさせる」と言っておいてやったよ。俺は強制しないからな」
「そうですか。ありがとうございます、お父さん」
「こんな時だけ調子のいい事言いやがって。で、何で断ったんだ? 聞いた感じだと、そんなに悪くない話だとは思ったんだが」
「それは……」
「俺達に遠慮して、とかなら、別に気にしなくてもいいんだぞ」
「そういう訳じゃないんですけど……」
ごめんなさい。言えない事が多すぎます。
「……まあいい。それで、あの子狸が直接話をしたいそうだ。そこでもう一度しっかり考えて返事をしろ」
「はい。分かりました」
「っと、話は以上だ。今日はコレ全部な」
そう言って渡されたのは紙の束。最近すっかりお馴染みとなった光景です。
「提出期限は今日中だ。がんばれよ」
「はーい……」
「……ああ、そうだ。最初渋っておいて待遇釣り上げようなんて考えてたら、問答無用でぶち込んでやるからな」
「あはははは、そんな訳ないじゃないですか~。(うわぁい、バレテーラ)」
―数日後―
はやてさんからの呼び出しで、もう一度話をすることになりました。
場所は前に使ったバーの一室。既に場所は教えてあるので、先に行って待つことにしました。
「マスター、おひさー」
「子鬼の嬢ちゃんか。この前は驚いたぜ、ゲンヤさん所の子だったんだな」
「私も驚きましたよ。まさかマスターがゲンヤさんと知り合いだとは思いませんでしたから」
「お互い様、ってか? で、今日はどうした? 家追い出されたのなら、仕事紹介してやるぞ」
「そんなんじゃないですよ。今日も一部屋お願いします。前に私が連れてきた人が来たら通してあげてください」
「おう、毎度。注文はどうする?」
「連れが来たら注文しますので、その時お願いします」
マスターに案内されて、この前話し合いに使った部屋へと移動しました。
そこで30分ほど適当に時間を潰していると、マスターがはやてさんを連れて入ってきました。
「こんにちはー、キャロちゃん。今日はわざわざありがとうなー」
「こんにちは、はやてさん」
一緒に来てくれたマスターに飲み物を注文し、それが運ばれてきた後、遮音結界と認識阻害結界を張って準備完了です。
それから本題に入るまでのしばらくの間、お互いの近況を話し合いました。
「……で、アギトちゃんの事やけどなあ、今はウチで仲良くやってるよ。まあリインとは喧嘩ばっかしやけど」
「喧嘩するほど仲が良いとも言いますからね。元気でやってるなら嬉しいです」
「っと、今日はその話をしに来たんとは違うんや。……キャロちゃん、ここに部隊の詳しい資料がある。これ見てもう一度考えてくれへんかな?」
そう言って渡された資料に目を通します。
発足目的と、メンバー表と……、これだけ材料があるなら、突っ込んでも不審に思われなさそうですね。
「はやてさん、いくつか質問いいですか?」
「ええで、どんと来いや」
「それでは……、このメンバー表だと、エース・オブ・エースにフェイトさんに、八神家の皆さん、フォワードメンバーは未定みたいですけど……。一部隊としてはかなりの戦力だと思うんですけど、大丈夫なんですか? 主に保有制限とか他部署からの反発とか」
私の発言に不意を突かれたのか、思わず息を呑むはやてさんがいました。
大方、待遇面の質問が飛んで来ると高をくくってたんでしょうね。
「キャロちゃん、保有制限とか良う知ってたな。そこは裏技使ってどうにかできるんや。他の部署との調整は、頼りになる推薦者もいるし大丈夫や」
(いきなりその質問来るかあ……)
「裏技、ですか? 具体的には?」
「隊長と副隊長にリミッターをかけて、枠内に収まるようにするんよ。苦肉の策やけどな」
ああ、やっぱりそうなんですね……。
「じゃあ、次の質問、いいですか?」
覚悟してくださいね、はやてさん。
「推薦者の欄ですけど、リンディ提督にレティ提督、聖王教会の騎士カリム、そうそうたるメンバーですね」
極めつけは、これに加えて三提督ですからね。
「そうやろ? 後ろ盾ならちゃんとしてるから安心しい」
「そうですね。正直言って、一部隊に対する後ろ盾とは思えない位に。あと、地上の人間が推薦人に入っていないのも気になります。……何か、裏があるんじゃないですか?」
「……」
「はやてさん、もし隠していることがあるのなら、正直に話してくれませんか? じゃないと、私も腹を割って話せませんから」
私が確信を持って問いかけると、はやてさんは考え込んでしまいました。恐らくは、話していいものか迷ってるんでしょうね。
「キャロちゃん、今から話す事、誰にも話さへんって約束できるか?」
「大丈夫ですよ。裏社会にいた事のある人間っていうのは、大抵口が堅いですから」
例外はいますけどね。
そう前置きして話してくれたのは、新部隊発足の真の目的。
騎士カリムの予言に出た地上本部壊滅と管理局崩壊のシナリオと、それに対応するための戦力の確保と育成。
「地上のお偉いさんに、この手のレアスキルがお嫌いな人がおってな。私ら海の人間でどうにかするしかないんや」
「私、今地上部隊所属なんですけど」
「それでも民間協力者やったら、組織に捕らわれず動けるやろ? だから、もう一回考えてくれへんか? キャロちゃんの力は、これから先絶対必要になる思うんや」
はやてさんが真剣な顔で頼んできます。私はそれに頷き―
「だが断る」
「へ? ……ちょおおおおおおおおおおお!!」
一瞬、鳩が豆鉄砲喰らったような顔になったはやてさん。
それでもすぐに突っ込んでくる辺り流石です。
「私めっちゃシリアスしてたやん! 今の明らかにOKしてくれる場面やん! 空気読んでえな!」
私の最も好きな事の一つは、明らかにOKしそうな場面でNOと言ってやることなんです。
「まあまあ、落ち着いてくださいはやてさん」
「これが落ち着いてられるかっちゅーねん! 冗談で言ったのなら怒るで!」
「別に冗談で言ったわけじゃないですから、落ち着いてください。はやてさんがそこまで話してくれた以上、私も正直に話しますから」
全部は言いませんけどね。嘘も混ぜますし。
「はやてさん、今から私が話す事、全部誰にも話さないって誓えますか?」
「ええで。二人だけの秘密や」
驚くでしょうね、はやてさん。
「実ははやてさんよりも先にその情報を掴んでた、って言ったらどうします?」
「へ? ちょ、それホンマか!?」
「話は最後まで聞いてくださいね。去年あった空港火災、覚えてます?」
「うん。私が部隊作るきっかけになった事件やからな」
「じゃあその原因が、ロストロギア「レリック」と、それを持ち出そうとした戦闘機人によるものっていうのは?」
「な!?」
「あの時、私は偶然その犯人と会ってしまったんですよ。幸い、こっちが子供だと油断してくれたので、不意をついて気絶させて記憶を覗きました。アシがつくといけないので、その人はそのまま記憶処理して帰しましたけどね」
本当は原作知識なんですけど、チンクさんを利用しましょう。
「んな事があったんか……」
「この件は本当に秘密にしてくださいね。「向こう側」に情報が漏れるのは嫌ですし、なにより、ゲンヤさんが心配しますから。……で、ここからが本題です。はやてさん、貴方の目的は、「レリック事件とそれに付随する予言に対応できる戦力を集める事」でいいんですよね?」
「うん、そうや」
「だったら、私の事は捜査協力っていう名目で、貸し出しとかで済ませれば保有制限的にお得なんじゃないですか?」
「あ」
そう一言だけ発して、はやてさんフリーズしてしまいました。
ひょっとして、その方法は気付いてなかったりしました?
「へ? そんな訳ないやろ。ちゃんと考えとったよ。わはははは……」
これは、絶対気付いてませんでしたね……。
要するに、私のポジションは原作におけるギンガさんと同じという事です。
「私の場合、既にある程度鍛えられてますから教導受ける意味は薄いですし、戦闘能力もどっちかというと個人戦向きですからね。チームに入るのには向きません」
さらに言うと、私がいることでティアナさんのコンプレックスを余計に刺激する事になりますからね。
和解イベントが起きるまでは、あまり関わらない方がいいでしょう。
「言われてみればそうやけど……、だとすると、空いた分はどうやって補うか……」
「そこで話は変わるんですけど、アギトちゃんって、もう魔導師登録済ませていますか?」
「へ? それは、まだやけど……、まさかキャロ!?」
「あくまでもアギトちゃんの意思優先ですけどね。あの子ああ見えて補助タイプの魔法得意ですし、役立つと思いますよ。私の代わりに考えてみたらどうですか?」
「そうやな。あの子が賛成してくれるんやったら早速魔導師登録して「ストップ!」へ?」
「魔導師登録はしないで良いです。その代わりデバイスとして登録して、空いた分の保有枠で、アギトちゃんと最もユニゾン相性が良い人をリミッター無しで動けるようにしてあげて下さい。自由に動けるSランク一人いるだけでも、かなり変わりますからね」
あの人原作だとニートなんていう不名誉なあだ名つけられましたからね。
持ち腐れは勿体無いです。
「キャロ……」
「ん? どうしました?」
はやてさんの様子がおかしいです。どうしたんでしょうか?
「アンタ……、天才や!!」
「へ? ちょ、はやてさん!? あああああああ!!」
いきなりはやてさんが肩を揺らしてきました。
興奮してるのか止めるように言っても聞いてもらえず、数分して落ち着いた頃にようやく開放されました。
「いやー、最初はどうやってキャロちゃん取り込もうか考えてたけど、言われてみると、そっちの方が戦力的には凄い事になりそうやなあー。ありがとな」
「やっぱりそうでしたか……。じゃあ、その線でお願いしますね」
「任しとき! 最初の目的とは全然違う結果になったけど、私的には大満足や!」
そう言い残して、はやてさんは意気揚々と帰っていきました。
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「とりあえずは、これで大丈夫かな」
『ですね。私達も帰りましょうか』
既に会計は済ませてあるので、そのまま帰ります。
「原作開始まであと二年。ワンマンアーミー宣言した以上、それまでにきっちり実力をつけないとね」
『そうですね。頑張りましょう』
さあ、まずは書類仕事だ!!
……はあ。
個人的に心残りのある回その2。
一話丸々使ってフラグ立てたのに、この後のシグナムさんの出番は……。