幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第37話 ようやくはじまる物語

 幻想郷南部、迷いの竹林。

 成長する竹によって日々その姿を変えるせいで、普通の人間が対策も無しに入った場合、まず迷ってしまう事からその名がついている。もし迷わない人間がいるのなら、その人は余程運がいいか、勘がいいか、もしくはそこに住んでいて竹林のことを知り尽くしているかのどれかである。

 今竹林を歩いているのは三番目。竹林在住の不死人、藤原妹紅その人である。

 

「お、あったあった」

 

 妹紅は、竹の根元にしゃがみ込み、枯れ葉をどかしていく。するとそこには、生えたての筍が顔をのぞかせていた。

 それを掘り起こして背負っていた篭の中に放り込んでいく。篭の中は既に筍で一杯だった。

 

「大漁大漁、と。たまには雨も良いもんだな。そろそろ帰るか」

 

 これ以上は篭に入らないので、一旦家に戻ることにする。

 採った筍は数本だけ残して、後は人里で売ってしまおうと皮算用していると、突如突風が発生した。

 

「あー! 見つけましたよー!」

 

 妹紅が声のする方を見てみると、そこにいたのは黒い羽を生やした記者風の少女。

 それに加えて頭巾や高下駄、羽団扇などのパーツが、彼女が天狗だと主張している。

 鴉天狗の射命丸文、その人だ。

 

「おはようございます、妹紅さん」

 

「ブン屋か。生憎、新聞なら間に合ってるぞ」

 

「いえいえ、今日は勧誘に来たわけではないんですよ。ちょっと取材したい事がありまして」

 

「は? 何で私に? 神社に行った方がまだマシだぞ。さっさと帰れ」

 

 異変を起こすのも解決するのも一切関係の無い話だし、記事にするほどの生活もしていない。妹紅はそう言って追い払おうとしたのだが―

 

「ふっふっふ……、そんな事言って、もうネタは上がってるんですよ!」

 

「はあ?」

 

「何でも外の世界に行ってたらしいじゃないですか? その辺の話、聞かせてください」

 

「……ああ、アレか」

 

「って、何でそんなにどうでも良さげなんですか!?」

 

「とは言っても、もう結構前の話だし」

 

 そう。妹紅が幻想郷に帰ってから、既に二年以上が経過している。妹紅にとっては、既に過去の出来事なのだ。

 

「それにしても、遅すぎないか?」

 

「仕様がないじゃないですか、山は情報が遅いんです。それにあなた達の場合、帰ってきても竹林の中に篭っているので、見つけるのが大変なんですよ。私だって、河童が噂しているのを聞いて初めて知ったくらいなんですから。」

 

「ふーん……、って、何で河童が知ってるんだ?」

 

「永遠亭の兎がそう話してたそうです。最近ちょくちょく河童の所に顔を出しているみたいですよ」

 

「ふーん、まあどうでもいいけど」

 

「……そっちから聞いてきたのに酷いですね。まあそういう訳なので、旅行中の話とか色々聞かせてください」

 

「何が「そういう訳」だよ。……、少しだけだぞ」

 

「ありがとうございます! まずですね……」

 

 それから文の密着取材が始まった。

 少しだけ、と言っていたのに微に入り細に渡る部分まで聞いてくる文に対し、妹紅は辟易しながらそれに答えていった。何だかんだでしっかり答える辺り、妹紅も相当なお人よしである。

 結局取材は数時間に渡って続けられ、妹紅が開放される頃には既に太陽が高く昇っていた。

 

「ご協力ありがとうございました。 おかげで良い記事が書けそうです!」

 

「そうか。じゃあ、もう帰ってくれ」

 

「そうですね。今すぐこれを記事に纏めないといけないですからね。そうだ! 妹紅さんもこの機会に購読始めてみませんか? 今なら安くしておきますよ」

 

「今日は筍はやめて焼き鳥にするか」

 

「あやややや、仕方ないですね。では、さようならー」

 

 文の声と共に、来た時と同じような突風が巻き起こり、辺りには木の葉が舞い上がった。

 思わず目を瞑ってしまった妹紅が目を開けた時には、そこには誰もいなかった。

 

「……私も帰るか」

 

 そう言って、下ろしておいた篭を再び背負う。すでに時間は昼。人里に売りに行くのなら、急がないといけない。

 再び歩き出そうとした妹紅であったが、そこで背中に違和感を感じた。

 

(何か、妙に軽いような……!! まさか!?)

 

 違和感の正体を確かめるため、もう一度下ろして篭の中を覗き込む。篭一杯にあるはずの筍が目減りして七割程度になっているのを見て、妹紅の思考回路は一瞬で答えを弾き出した。

 

「あの天狗、筍盗っていきやがった……」

 

 おそらくは帰る瞬間、風を使って文字通り巻き上げていったのだろう。

 すでに天狗の姿は無く、今から追っても徒労に終わる可能性が高い。

 

「今度会ったら、絶対焼き鳥にしてやる」

 

 妹紅は決意を新たにして自宅へと歩いていく。鴉天狗の運命がどうなるのか、今は誰にも分からない。

 

(にしても、久しぶりにキャロの事思い出したな。あいつ、今どこで何やってるんだろ?)

 

 

 

 

 ―陸士108部隊―

 

「ひっ……、くし!!」

 

「キャロ、大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ。誰か噂でもしてるんですかねえ?」

 

「心当たりは?」

 

「割と一杯」

 

「……」

 

「何ですか! その哀れむような目は?」

 

「キャロ……頑張れ」

 

「ナニ想像したんですかギンガお姉ちゃああああん!!」

 

 最近ギンガさんが私のあしらい方を覚えてきました。純粋だった頃のギンガさんが懐かしいです。

 今日は二人とも非番なので、オフィスで仕事です。ただ、いつもと少し違うのは―

 

「これだけ騒いだのに、ゲンヤさん反応しませんね。あ、コレ美味しい」

 

「しょうがないよ。だって、今日はスバルのBランク認定試験の日だからね」

 

 そうなんです。私がこっちで生まれてから九年。ようやく記念すべき第一話が始まりました。とはいっても、別に私が試験を受ける訳ではないので、こうやって煎餅でも齧って茶でもすすりながら、合否の知らせを待っています。

 ゲンヤさんの様子はというと、一応通常通りに仕事をしてはいるものの、心ここにあらずといった感じで、時折通信デバイスに視線を送っているのが見えます。

 

「コレ録画して、後でスバルお姉ちゃんに見せてみましょうか?」

 

「私は止めないよ」

 

「……やっぱ止めときます」

 

「よろしい」

 

 はあ……本当にやりにくくなったなあ……。

 ギンガさんと漫才をしつつ待っていると、デバイスから発信音が鳴り―

 ちょ、ゲンヤさん。鳴ってから出るまでに0.5秒かかってないとか、どんだけ急いでるんですか!!

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 幸い、こういう時によくある間違い電話オチではなく、相手はスバルさんでした。

 

「というわけで、試験自体は不合格だけど、講習を受けて再試験できるようにしてくれるって」

 

「そうか。不合格なのは残念だが、良くやったな」

 

 スバルお姉ちゃんの相手をしているゲンヤさんは既に正常モード。切り替え早いです。

 にしても、やっぱりスバルお姉ちゃん不合格でしたか。知識として知っていたとはいえ、残念です。

 

 このまま行くとスバルお姉ちゃんは六課入り。六課メンバーは私の代わりにアギトがいて、さらにリミッター無しのシグナムがいる。私とギンガお姉ちゃんも、近いうちに捜査協力の名目で潜り込むことになるでしょう。

 

『ここからが正念場ですね』

 

『……そうだね。やる事はやってきたし、後は全力でぶつかるだけ。これが終わったら平和な暮らしが出来るはずだから、頑張ろうね』

 

『はい、マスター』 

 

 これからの事に思いを馳せつつ、私は決意を新たにします。全ては私自身の平穏のために!!

 

 

 

 

 にしても、この煎餅美味しいですね。もう一枚いきましょう。




時系列的にはSTS1話なのに半分以上幻想郷。
このSSは終始こんな感じです。
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