幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第42話 天狗と河童

第42話 天狗と河童

 

 

 

 

「うーん……」

 

 幻想郷の北部、迷いの竹林から人里を挟んだ反対側に、妖怪の山と呼ばれる場所がある。

 その名の通り様々な妖怪がここで暮らしており、中でも天狗、河童といった種族は集団で一つの社会を形成している。数年前からはここに二柱の神様と一人の現人神も加わり、幻想郷のパワーバランスの一角を担っている。

 その山の一角にある家の中で天狗が一人、机に座ってうんうん唸っている。右手には筆を持っており、卓上に広げられた紙には、右上の方に文々。新聞と書かれていた。ここまで言えば分かるであろう。その天狗の名前は射命丸文、今は先日行った妹紅への取材内容を纏めている最中である。

 

「不死人帰還、じゃ少し弱いかな? 蓬莱人の異世界珍道中……駄目、これじゃ一発ネタ止まりね」

 

 いざ新聞に纏める段階で、文はその難しさにようやく思い至った。

 彼女は嘘は書かないが、本当であれば何でも書くという訳ではない。あくまで基本は面白さ優先である。

 その点からすると、妹紅がしてきた体験は十分に合格なのだが、いかんせんその内容が突飛すぎた。

 外の世界とは異なったさらに別の世界。その存在を知っているのは当事者の二人と、二人を送り出した妖怪の賢者、それと、その式くらいだろう。ひょっとすると月の頭脳も含まれるかもしれないが、それでも少数であり、文々。新聞の購読者の大半はその存在を眉唾ものとして受け取るだろう。誰も信じてくれない記事には意味が無いのだ。

 

「せめて永遠亭の姫にも取材出来たら良かったんだけど……。何が金閣寺よ、あんな弾幕避けられる訳無いじゃない」

 

 妹紅への取材が終わった後、文は永遠亭の方にも足を運んでいた。

 取材の旨を伝えるとアッサリと輝夜の部屋へと通されたが、

 

「取材ね……別に良いわよ」

 

「本当ですか? ありがとうございま「その代わり」す?」

 

「タダで教えるっていうのもねえ? 今少し暇なのよ。暇潰しに付き合ってくれない?」

 

 そう言って輝夜が取り出したのは「新難題「金閣寺の一枚天井」」と書かれたスペルカード。

 後は想像の通りである。鬼畜スペル、トラウマスペルと名高いそれにピチュってしまい、取材は失敗に終わった。いちおうは終わり際に

 

「またいらっしゃいな。挑戦はいつでも受け付けるわよ」

 

 とのお言葉を頂いた。いつでも通してくれはするものの、話を聞くにはあのスペルを攻略する必要がある。文も自分の記者魂にかけてその後数度に渡って挑戦を繰り返したが、未だに攻略はできていなかった。

 

「おーっす。文、いる?」

 

 このまま記事にしてしまうか、何とかしてあのスペルを攻略するか、文が悩み始めた時、玄関から声がした。声の主はそのままノック無しで、文の部屋に入ってきた。

 

「って、何だ、居るじゃん。居るのなら返事くらいしてよ」

 

「今忙しいのよ。で、にとり、今日は何の用?」

 

「いや、別に用って程の事は無いよ。暇だから遊びに来ただけ。文は新聞?」

 

 にとり、と呼ばれた少女は悪びれもせず、勝手に自分の分のお茶を酌んでいる。青い髪の毛を左右二つに縛り、髪の毛と同じ色のレインコート風の服を着ている彼女も立派な妖怪である。本人曰く河童であるらしいのだが、皿があるかは不明である。部屋の中でも決して脱ごうとしない帽子に隠された頭部を見たものは誰もいない。

 にとりは背負っていたリュックを下ろして文の対面に座り、ずず、とお茶を飲んでいる。こうやって家に遊びに来るは程度には二人の仲は良好である。そんな相手だからこそ、互いに形式ばった口調を止めて、本来の喋り方で相対している。

 

「そうよ。でも、最近良いネタが無くて困ってるのよ。何か良いネタ持ってない?」

 

「そうだねえ。うーん……」

 

 そうは言いつつも、文はそれ程期待はしてなかったりする。もしネタがあったりしたら、自分はこうやって二年前に帰ってきていた不死人の事など記事にしていないのだから。

 

「最近の話だと、いつも通りの事ばかりだよ。霊夢が妖精の悪戯に引っかかって、その妖精を追い回していたとか、魔理沙が紅魔館に泥棒に入ったとか、⑨が大ガマに飲み込まれたとか」

 

「いつも通りね。繰り返しは読者も飽きる」

 

「でしょ? あとは……命蓮寺にいる毘沙門天の代理がまた宝塔を無くしたっていう話もあったけど、これはとっくに記事になってるしねえ」

 

「へ?」

 

 にとりが何気なく言った内容を聞いた文は、一瞬呆気に取られてしまった。なぜなら―

 

「ちょ、それ何? 私そんなの知らないわよ!?」

 

「へ? 文、知らなかったの? 他の新聞には結構取り上げられてるくらい有名な事件だよ。」

 

 そういえば、文々。新聞には載ってなかったね、と言っているにとりを尻目に、文は読み終わった新聞―文以外の鴉天狗の書いた新聞―が積んである山へと向かう。昨日、一昨日と確認していき、三日前の新聞を開いた時、そこに写っていたのは、必死に土下座をして謝っている毘沙門天の代理、寅丸星と、土下座をされて苦笑している命蓮寺の僧侶、聖白蓮だった。

 

「し、しまったあああああああ!!」

 

 ネタ自体はすでにマンネリ化しつつあるものだから良い。問題は、それに全く気付けなかった事だ。

 なぜ見逃してしまったのかというと、それは今取材している不死人のうちの一人が原因だったりする。何とか取材をするために連日に渡って永遠亭を訪問、開いた時間をスペル攻略のための考察に費やした結果、他に対する注意が薄れて、仲間の新聞もロクに読まずに放置してしまったのである。

 これはよろしくない。外へのアンテナが無くなったら記者は終わりだ。

 

「にとり、私ちょっと用事が出来たから出かけてくるね。好きに寛いでて良いから、帰る時は戸締りしていってね。じゃ」

 

「ちょ、文!? ……行っちゃった」

 

 にとりが止める間も無く、文は大急ぎで家を出ていずこかへと飛んで行ってしまった。数秒もしない内に文の姿は完全に見えなくなり、部屋にはにとり一人が残された。

 

「全く、文ったら……。コレ飲み終わったら私も帰ろう」

 

 自分しかいなくなった部屋でちびちびとお茶を飲んでいるにとり。対面にいるはずのここの主は不在で、代わりに書きかけの記事が置いてあった。にとりは暇潰しに、と、それを自分の方に向けて読んでみる事にした。

 

「何々……ふーん、永遠亭のお姫様、帰って来てたんだ。鈴仙が来るようになったのもその関係かな?」

 

 にとりは輝夜と直接会った事は殆ど無い。霊夢や魔理沙の主催する宴会に顔を出した際、たまにちらっと見かける程度で、直接会話した事などは殆ど無い。

 それでもこうして気に留めるようになった原因は、最近ちょくちょく来るようになった兎である。

 最初は永遠亭からの使いとして、

 

「最近、核エネルギー以外で、新技術を手に入れたりしていませんか?」

 

 なんて馬鹿正直に聞いてきた。

 にとりにはその心当たりはあった。きっと先日もたらされた「あれ」の事だろう。今までの発明品がオモチャに見える程に高度で複雑な技術に、河童一同は大喜びで食いついた。

 しかし、提供者から条件として、この技術を河童以外に話さない事、提供者の情報についても同じである事が提示された。その位なら、と河童一同でこれを了承し、今、河童内では、核に続く技術革新に大いに沸き立っている。

 そういった理由から、その日は適当に誤魔化して帰って貰った。しかしそれからというもの、数日おきに来訪して来るようになり、今ではすっかり顔馴染みになっていた。

 まだ諦めていない意図は見え見えだけど、それはそれ、これはこれ。にとりは新しい知人が出来た事を喜んでいた。

 

「っと、いけない。つい長居しちゃったな。そろそろ帰ろう」

 

 にとりはいつの間にか空になっていた湯呑みを流しで洗ってから、下ろしていたリュックを背負って文の家を後にする。

 

 

 

 

「そういや、今日あたり鈴仙が来る日か。丁度宴会の予定もあるし、楽しみだね」

 

 そんな事を言いながら、自分の住んでいる集落へと飛行していった。

 

 

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