幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第43話 河童と月

第43話 河童と月

 

 

 

 ―幻想郷 人里にて―

 

「えーっと、包帯が一つに、後は……風邪薬と傷薬が少し減ってる、っと。他は大丈夫ね」

 

 とある民家の一角に、薬箱を開けてガサゴソと中身を確認している少女がいた。

 この幻想郷では珍しいブレザーに身を包み、頭部にある兎の耳は、彼女が妖怪であることを分かりやすく示している。

 「狂気の月の兎」鈴仙・優曇華院・イナバその人? である。

 

「今回のお代は……はい、はい。それでは、今後ともご贔屓に」

 

 箱に薬を補充した後、使われていた分の代金を貰って民家を後にする。時々人里に顔を出しては、置き薬のチェックをするのが彼女の仕事である。

 

「今の家で最後ね。後は……、山か。……遅くなりそうね」

 

 朝早くから永遠亭を出て仕事に取り掛かっていた鈴仙だが、たった一人で一軒一軒回っていたので、全て回るのに時間がかかってしまっていた。既に日は傾いており、すぐに帰らないと日が暮れてしまう。

 しかし、彼女にはまだ仕事が残っていた。姫様が帰ってきた時に言い渡された師匠からの指令「河童が手に入れた新技術を調査せよ」に、今日も赴く予定だからだ。

 

 最初、鈴仙はこれを聞いた時、簡単なお使いだと思っていた。

 

 基本的に、河童は自分達の発明品についてはオープンだ。何か開発した場合、それを秘密にするよりかは、人に見せて自慢したり、それで感心されて喜ぶような気質の者が多いのである。非想天則が良い例だ。

 

 しかし、鈴仙が河童の集落に置き薬を置きに行った際にさり気なく聞いてみた結果は、全員が全員

 

「無いよ、そんな物」

 

であった。

 

 鈴仙は、集団で口裏を合わせて嘘を付いている可能性、本当に無い可能性など、色々な憶測を考えたが、結局判断が付かなかったので、事実をそのまま永琳に報告した。極力自分の考えや憶測を混ぜずに話した結果、それを聞いた永琳の次の指令は「引き続き調査を続行せよ」であった。

 

 以来、鈴仙は人里に加えて妖怪の山へも定期的に顔を出すようになった。

 とはいうものの、妖怪は人間と違ってあまり薬を必要としないので、人里に比べると訪問する頻度はそんなに多くない。あくまで建前は「置き薬の販売」なのである。

 そして今日は不幸なことに、人里へ行く日と山へ行く日が被ってしまった。妖怪の山は永遠亭から人里を挟んで反対側にある。素早く用事を済ませたとしても、帰る頃には深夜になっているだろう。

 

「はあ……、てゐや他の兎達が、もう少し働いてくれたらなあ……」

 

 同僚の兎に愚痴を零しながら、鈴仙は妖怪の山へと飛んでいく。すでに太陽は赤く染まり、今の鈴仙の気持ちを代弁するかの如く、段々と沈んでいった。

 

 

 

 

「お、鈴仙じゃない。いい所に来たね」

 

「へ? 何?」

 

「何って、宴会だよ、宴会。鈴仙も混ざってくかい?」

 

 河童の集落に辿り着いた鈴仙が見たのは、酒や料理を持ち寄って宴会の準備をしている河童の集団であった。その中の一人であるにとりに声をかけられて、鈴仙は状況を理解した。

 

「悪いけど、今日は仕事で来てるの。手が開いてるのなら案内してくれる?」

 

「ちぇっ。 付き合い悪いなあ」

 

「仕様がないでしょ。仕事なんだか……、ちょっと待って」

 

「鈴仙?」 

 

 帰りが遅くなるので断ろうとした鈴仙だったが、ここで自分に与えられた指令を思い出した。

 

(宴会ね……、チャンスかも。酔っ払ってれば、ついぽろっと秘密を洩らすかもしれないわね。それを抜きにしても河童と仲良くなっておいて損は無い、か。)

 

「気が変わったわ。やっぱりお邪魔して良い?」

 

「お、本当かい?」

 

「本当よ。だから、早く案内してくれないかしら? 先に仕事を終わらせないと」

 

「そうだね。それに、仕事が終わる頃にはこっちの準備も出来てるだろうし、丁度いいや」

 

 そう言って、にとりは薬箱の置いてある所へと案内していく。

 人里と違い、河童の里では一軒一軒薬箱を置いていく、などということはしていない。妖怪は人間と違い丈夫である。ちょっとした傷なら勝手に治るので、置いてある薬は非常用の物が数点のみである。それも滅多に使われる事が無いので、薬箱が置いているのは河童の長の家に一つだけだったりする。

 にとりに案内されて長の家にお邪魔した鈴仙は、慣れた様子で薬を点検していく。今回は何も使用されていなかったので、古くなっていた薬品をいくつか交換しただけで仕事が終わった。

 

「お、終わった? それじゃあ行こっか」

 

「あ、ちょ! 分かったから、そんなに急がなくても!」

 

「何言ってんのさ? もうみんな始めてるんだよ。早く行かないと遅れちゃうって」

 

 鈴仙はにとりに引っ張られながら宴会へと向かっていく。前方には酒を酌み交わしている河童の集団があり、何人かは既にでき上がっていた。

 

(見ててくださいね師匠。ここで必ず手がかりを手に入れて帰りますから!!)

 

 こうして腹に一物を抱えながら、鈴仙は酒盛りに合流した。

 

 

 

 

 しかし、彼女は一つ失念していたことがある。

 

 

 

 

 

 河童は鬼や天狗と同じ位、酒に強い種族であることを。

 

 

 

 

 ―永遠亭にて―

 

「すいませーん。誰かいませんかー」

 

 草木も眠る深夜、永遠亭に、来客を告げる声が玄関から聞こえてきた。その時、たまたま外に出ていた永琳が玄関に出ると、そこにいたのは一匹の河童であった。

 

「河童がこんな時間に何の用かしら? 診療時間はとっくに過ぎてるのだけど」

 

「えっとですねえ……「ししょ~、たらいまもどりまひたあ~。」と、いうわけでして」

 

「あらあら、これがご丁寧に」

 

 河童―にとりが説明しようとすると同時に、その後ろから別の声がした。暗くて良く見えなかったが、にとりは何かを背負っているらしい。何かと思ってよく見てみると、そこに居たのは頬を上気させ、耳を真っ赤にしている鈴仙だった。

 

「私らの宴会に誘ったんですけど、この通りでね? 歩くのも危なっかしかったんで、竹林の案内だけお願いして、こうやって連れてきたんですよ」

 

「ウチの弟子が苦労をかけたわね」

 

「いやいや、コッチも私たちのペースに合わせて飲ませすぎましたから。おあいこですよ。それじゃ、私は帰りますね。鈴仙によろしく言っておいてください」

 

「ありがとうございました……てゐ」

 

 永琳の呼びかけからしばらくすると、廊下の向こう側から、てゐがお供の兎を引き連れてぴょこぴょこと跳ねて飛んできた。寝起きだったのか、その表情はやや不満そうである。

 

「ふあーあ……何ですか、お師匠様?」

 

「うどんげを部屋まで運んで頂戴。それと、お客様がちゃんと帰れるように、兎を一匹付けてあげて」

 

「しょーがないですねー……って、酒臭っ!!」

 

「あれ~? てゐがさんにんにみえる~。のうりょくつかってないのにらんれらろ~?」

 

「はあ、何で私がこんな事……」

 

 てゐはそのまま、完全に酩酊した状態の鈴仙を背負って廊下を歩いていき、にとりはお供に付けられた兎に案内されて、永遠亭を後にした。永琳は誰もいなくなった玄関を後にして、永遠亭の奥にある一室へと足を運んだ。

 

 

 

 

「姫様、うどんげが帰ってきました」

 

 永琳の呼びかけに振り向いたのはこの部屋の主、輝夜である。既に夜も更けていたが、彼女はまだ起きていた。

 

「そう。で、結果は?」

 

「河童に酔っ払わされてダウンしています」

 

「……やっぱり失敗しちゃったのねえ。大方、「酒に酔わせて聞き出そう」とか考えたんでしょうけど、河童に飲み比べで勝てる訳無いじゃない。」

 

 任務は失敗したというのに、輝夜は楽しそうにニヤニヤと笑う。そんな主の様子を見て、永琳も上機嫌である。 

 

「にしても、本当に失敗続きね。いっそのこと貴方が直接行った方がいいのかも」

 

「あら、いいんですか? 本当に私が行っても」

 

「冗談よ。貴方が行けばすぐに聞き出せるかもしれない。でも、それじゃあつまらないもの」

 

 輝夜にとって、この調査はそんなに急を要する類の物ではない。

 夢幻珠の作成と、それに伴う自分達の魂のサンプルの収集。それらは既に果たされてしまった過去の事であり、今すぐに何かする必要があるような緊急性は無い。

 故に、輝夜は態と回りくどい道を選ぶ事にした。

 その意図を察した永琳はあえて事情を理解していない鈴仙に役目を譲り、自分はその報告を待つのみに留まった。その結果、鈴仙は河童と交流を持つ事になり、今日のように宴会に誘われる程度には仲良くなっている。ひょっとすると、他人との交流が少ない弟子のことを考えて、というのも理由にあるのかもしれないが、その心は永琳本人にしか分からない。

 

「それで、どうします。まだ続けますか?」

 

「そうねえ……。鈴仙の報告は色々楽しめたし、そろそろいいかしら。……見てるんでしょ? 八雲紫」

 

 二人しかいないはずの空間に輝夜は呼びかけた。その数秒後

 

 

 

 

「あらあら、気付いてましたの?」

 

 何も無い所から声がしたかと思うと、そこの空間が縦に裂けた。裂けた空間の内部からは無数の目が見えて、こちら側をギョロリ、と見ている。キャロがいつも使っているスキマ、そのオリジナルである。

 スキマは更に広がっていき、やがて人一人分が通れる大きさになり、そこから金髪の女性が歩いて出てきた。「幻想の境界」「妖怪の賢者」八雲紫である。

 

「あ、やっぱり居たのね。いくつか聞きたいことがあるんだけど?」

 

「暇潰しはもう良いのかしら?」

 

「二年も潰せれば十分よ。それで、単刀直入に聞くけど、貴方、夢幻珠の作成に一枚噛んでるでしょ?」

 

「何ですか、それは?」

 

 輝夜の問いかけに、紫はいつもの胡散臭い笑みのまま答える。その表情から何を考えているかを読み取るのは不可能に近いだろう。

 

「しらばっくれないで良いわよ。ネタは上がってるんだから」

 

「さて、何の事やら」

 

「夢幻珠は私達幻想郷の住民の能力と、外の世界のテクノロジーが合わさって出来ている。そんな物を作れるような可能性なんて二つしかない。一つは幻想郷に住んでる河童が、自力で技術革新したケース。でも、鈴仙の調査で「少なくとも河童だけで作ったという事は無い」っていうのは分かってる。だとすると、残っているのはあと一つ」

 

「へえ。で?」

 

「幻想郷の事を知りつつ、こっちと外とを行き来できる存在が一枚噛んでいる場合。つまり、貴方のことよ、八雲紫。」

 

「……」

 

「そう考えると、私達があの世界に飛ばされたのも引っかかるのよねえ。夢幻珠を持っていたキャロっていう子。あの子についても何か知ってるんじゃない?」

 

 確信を持って問いかけてくる輝夜に対して、紫は未だに胡散臭い笑みを保ったままであった。しばらくして

 

「……どこから話して欲しいかしら?」

 

「どこからでも良いわよ。時間が足りないのなら、須臾を永遠にしても良いんだから」

 

 そして月明かりの元、輝夜と永琳、そして紫、三人だけの秘密の話が行われた。

 長い夜は、まだ始まったばかりである。

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