幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第50話 放置プレイ

「シャマルさん、やっぱり駄目ですって。こんな太いの無理ですよ……」

 

「大丈夫よ。痛いのは最初だけだから」

 

「……優しくしてくださいね」

 

「はいはい。それじゃ、力を抜いてね」

 

「……、アッーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、採血終了」

 

「あううううううう……」

 

「それにしても注射が怖いなんて、キャロちゃんにそんな弱点があったなんて知らなかったわ」

 

「仕様がないじゃないですか。怖い物は怖いんですよ……」

 

 上のセリフでよからぬ想像をした人は焼き土下座で。

 

 私は半ば涙目になりながら、注射針を差された腕を見ます。血は殆ど止まっていますが、消毒のためにエタノールを染み込ませた脱脂綿が、テープで貼られています。

 今日は以前言われていた健康診断の日。身長、体重から始まり、視力、聴力、血圧等を測定していきました。

 そして最後に待っていたのが血液検査。実は注射嫌いな私でしたが拒否できる訳もなく、こうして一発抜かれてしまいました。

 

「とりあえずこれで全部終わりね。お疲れ様」

 

「ありがとうございました」

 

 私はシャマルさんに礼を言って、医務室から出ていきました。

 

 

 

 

「もうこんな時間かあ。結構長引きましたねー」

 

『ですね。そろそろお昼にしますか?』

 

「そうだね。今日は血を抜かれたから、肉でも食べようかな」

 

 廊下にかかっている時計を確認すると正午少し前。ちょっと速いですけど、この時間なら食堂も開いてるでしょう。

 藍と念話で雑談しながら歩いていると、あっという間に食堂に到着。入ると、そこには既に先客がいました。

 

「お、キャロちゃんこんちはー。もう健康診断終わったん?」

 

「こんにちはですはやてさん。健康診断ならついさっき終わりました。もう少ししたらシャマルさんも来ると思いますよ。にしても……」

 

 私ははやてさんの隣に座りながら、他のメンバーに視線を送ります。そこにははやてさん以外になのはさんとフェイトさん、ヴィータさん、シグナムさんがいました。あとザフィーラさんは床です。

 

「なのはさん達までどうしたんですか? 今の時間って、まだ訓練時間中の筈じゃ?」

 

「……そういえば、まだキャロには伝えてなかったね」

 

「へ?」

 

「今日は訓練はお休みだ」

 

 そうなんだ、ってことは―

 

「フォーワードのみんなは?」

 

「あいつらなら全員でクラナガンの方に出かけていったぞ。今日一日羽を伸ばすんだとよ」

 

 ああやっぱり、って!?

 

「何で私に言ってくれなかったんですか!?」

 

 知ってれば絶対参加してたのに!!

 

「いやー、ゴメンなー。ウチから口止めしてって皆に頼んだんよ」

 

「それ何て嫌がらせ!? 事と次第によっては怒りますよ?」

 

 ゴメンと言いながらもあまり申し訳なさそうに見えないはやてさん。これでふざけた理由なら許しません。

 

「いや、だってな、キャロちゃんがこの事知ったら、絶対付いていくやろ?」

 

「当たり前ですよ。そんな楽しそうな事、放っておける訳無いです」

 

「健康診断の予定あったけど、それもスッぽかすやろなあ?」

 

「当たり前です……あ」

 

 気付いた時には時すでに遅し。食堂にいるメンバー+遅れてやってきたシャマルさんがこっちを見ています。目は口ほどに物を言うって、こんな時に使うんですね。

 

「やっぱしな。思った通りだ」

 

「やろ? やっぱり言わんで正解やったわ」

 

「にゃはははは……」

 

「キャロ……」

 

「サボりはいけないと思うのです」

 

「……。(こればかりは庇いきれんな)」

 

「……。(堂々とサボり宣言されると結構クルわね……)」

 

 口に出すか黙っているかの違いはあれど、全員が全員、私を呆れた目で見てきます。と言うか、はやてさんとヴィータさんのドヤ顔がムカつきます。ザフィーラさんがガン無視でドッグフード頬張ってるのも、それはそれでムカつきます。

 

「嫌ですねえ、冗談ですよ。大体、本当に実行する訳無いじゃないですか」

 

「ま、そういう事にしておいたげるわ」

 

 このまま続けても不利なのはこっちなので、こっちから折れて話を終わらせます。

 と言うか、はやてさん意地悪です。私、何か恨みを買うような事しましたっけ?

 

 私はそのまま皆の席から一旦離れて、昼食を注文しに行きました。

 定食を注文し、それをトレイに載せて席に戻ると、皆は備え付けてあるテレビを見ていました。

 

『昨日、ミッドチルダ管理局地上中央本部において、来年度予算会議が行われました。……当日は、レジアス・ゲイズ中将による防衛思想に関しての表明も行われ―』

 

『魔法の技術の進歩と進化。素晴らしいものではあるが、しかし! それが故に我々を襲う危機や災害も、十年前とは比べ物にならないくらいに危険度を増している。兵器運用の強化は、進化する世界の平和を守るためである!』

 

 テレビを見てみると、そこに映っていたのはいかにも悪役っぽい顔をした中年のオッサン、レジアス・ゲイズ中将です。この人絶対、顔のせいで人生何割か損してますよね。

 

「このオッサンは、まだこんな事言ってるのな」

 

「レジアス中将は、古くから武闘派だからな」

 

 ヴィータさんは呆れてるように、シグナムさんは興味なさそうにしています。他の皆さんも大体同じ感じです。

 

「あ、キャロちゃんお帰り~。今ニュース見とったんよ」

 

「質量兵器、ですか……」

 

「そうなんよ。物騒な時代になったもんやで」

 

 そう言って、はやてさんはため息をつきました。まあ、はやてさんの気持ちも理解できます。

 

 ちなみに私個人の意見としては、質量兵器が採用されようと禁止されようと、どっちでも良かったりします。

 仮に採用されたとしても、戦力の維持は大変です。拳銃レベルならともかく、大砲とかの維持には多くの資金が必要ですし、それなら砲撃の撃てる高ランク魔導師一人雇った方が遥かに安上がりです。高ランク魔導師が優遇される現状は、そんなに変わらないでしょうね。

 となると、実際に採用されるのは低ランク局員用のちょっとした武器程度、護身用の拳銃くらいでしょう。高ランク魔導師の障壁を抜くのは難しくても、普通の犯罪者相手なら十分です。

 まあそれを実行するにしても、所持に関して厳しい規定を課す必要もありますし、ちゃんとした制度が整うまで何年かかるか分かりませんけどね。

 以上を纏めると、「別に採用するのは構わないけど、するならするでしっかりしてほしい」って事です。

 

「でも、こうして見ると、普通の老人会だ」

 

「駄目だよ、ヴィータ。偉大な方達だよ」

 

 私がそんな事を考えている間に、いつの間にか三提督の話へと話題が変わっていました。今更蒸し返すのもアレなので、態々言うのは止めておきましょう。

 

 それから私は軽い雑談を交えながら、メニューを平らげていきます。粗方食べ終わった所で、先に食べ終わっていたはやてさんが声をかけてきました。

 

「キャロちゃん、この後ちょっと付き合ってくれへん?」

 

「いいですけど……何ですか?」

 

「ええからええから。ほな、ソレ食べ終わったら部隊長室に来てな」

 

「???」

 

 一体何なんでしょうか?

 

 

 

 

 ―部隊長室にて―

 

 ぺたん、ぺらっ、ぺたん、ぺらっ、ぺたん……。

 

 私とはやてさん、そしてリインちゃんがいる室内に、紙のめくれる音と判子を押す音が響きます。

 

「あの、はやてさん?」

 

「ああ、その書類は全部目を通してあるから、後は判子押すだけで大丈夫やで」

 

「そうですか……じゃなくて、何で私がこんな事しなくちゃいけないんですか!」

 

 現在私は右手に判子、左手に決算書類を持って延々と判子を押し続けています。左手側には書類の山があり、はやてさんによって現在進行形で追加されていってます。

 

「仕様が無いやん。これだけ溜まってると誰かに手伝ってもらわなアカンし、なのはちゃん達は待機とはいえ自分の仕事があるさかいな」

 

「キャロちゃん、リインも一緒に頑張るのです。だから、ファイト、なのですよ」

 

 とは言われても、そうそう納得できない私はつい愚痴を零してしまいます。

 

「はあ……、というか、こんなに溜め込んでいる事自体が問題じゃないですか?」

 

「……ふふふふふふふふふふ。一体誰のせいなんやろなあ?」

 

「はやてさん?」

 

 何でか分からないけど、はやてさんの様子がおかしいです。アレ? ひょっとして地雷踏んだ?

 

「『誰かさん』が無茶苦茶した後始末に頑張ってたら、何故か『誰かさん』に貰った薬の効果で爆発して……、ようやく復帰したらこんなに仕事溜まってるし……」

 

 あー……、もしかしなくても、私のせい?

 

「あの、何と言うか……、ゴメンナサイ」

 

「ええてええて。これが私の仕事なんやし。……ただ、ちょっとでも悪い思とるのなら、手伝って欲しいなあ」

 

「……はい」

 

 はあ……、自業自得だった訳ですか。

 仕様がないです。「協力」してもらいましたし、その恩返しくらいはしましょう。それに―

 

「(ボソッ)どうせ、もうすぐヴィヴィオとレリック発見の報告が来ますからね」

 

「キャロちゃん、今何か言ったですか?」

 

「ううん。何でもないですよ」

 

 

 

 

 ―クラナガン郊外にて―

 

 昼間だというのにどこか薄暗く、人通りも無い路地裏に一人の少女が倒れていた。

 少女の服装はボロきれのような服が一枚。両足は鎖に繋がれ、その片方の先には大きなケースが繋がれていた。もう片方の鎖は途中で切れており、この先にケースが繋がれていたものだと推測できる。

 少女の名はヴィヴィオ。トラックによってどこか、恐らくはスカリエッティと関連した施設、に移送されている最中、彼女自身の力の暴走によってトラックは大破。それに乗じて脱出した彼女であったが、ここで力尽きて倒れてしまった。

 ヴィヴィオの状態は、多少衰弱しているものの命に別状は無い。本来の歴史なら、このタイミングでエリオとキャロに発見されるのだが

 

「スバルさん、ティアナさん、今日は誘ってくださってありがとうございます」

 

「そんな堅苦しくしなくてもいいわよ。別に嫌じゃないんだし」

 

「そうそう。今日はお姉ちゃん達が案内してあげるから、めいいっぱい楽しもう!」

 

「……はい!」

 

「キャロが来れなかったのは残念だけどな。健康診断なら仕方ないか」

 

「そうね。でもまあ、また今度休みがあったらその時誘えばいいわよ。別にこれが最後って訳じゃないんだし」

 

「そうだな。じゃ、私も思いっきり遊ぶぞー!」

 

「アギトは目立つから、程々にね……」

 

 当のエリオはスバル、ティアナ、アギトと一緒に行動。そして―

 

「これで……あと100枚です!」

 

「キャロちゃん、こいつら確認終わったから判子お願いな」

 

 ドサッ!!

 

「……マジですか?」

 

「マジや」

 

 キャロははやて、リインと共に、終わりが見えない書類と格闘中である。

 

 

 

 

 

「……。(誰か……)」

 

 ヴィヴィオが倒れてる現場には、まだ誰も来ない。

 果たしてヴィヴィオの運命やいかに?

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