幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第51話 右腕

 ぺたん、ぺらっ、ぺたん、ぺらっ、ぺたん……。

 機動六課部隊長室で、三名の人物が書類と格闘している。

 はやてが最初に目を通し、許可できるものは纏めてからキャロに渡されて判子を押され、そうでないものはリインに渡され、修正、却下、処分のいずれかで処理される。

 キャロの仕事はこの中でも一番楽ではあるが、ずっと同じ事を繰り返すというのも精神的に辛いものがある。

 

「はあ……、まだですかねえ?」

 

 繰り返しに飽きたのか、キャロがぼやき始める。この言葉には二つの意味があったが、はやてはその片方のみを受け取って答えた。

 

「そうやねえ……、あと半分って所やな」

 

「そうですか……」

 

 しかし、はやてから返ってきたのは残酷な現実であった。こうなった以上、キャロはもう片方、つまり、ヴィヴィオとレリック発見の報によってこの状態から脱出することに賭けるしか無くなった。

 そんなキャロの思いが天に通じたのか

 

『はやて部隊長!』

 

「シャーリー? 何かあったんか?」

 

『沿岸部にガジェット出現です! 至急、作戦室へ!』

 

「了解や。私がそっち行くまでの間に、状況確認お願いな」

 

 シャーリーからの報告が入り、それまで疲れ気味だった三人の顔が引き締まる。頭は既に、書類モードから任務モードへと切り替わっていた。

 

「とりあえず、残りはお預けや。ほな、行くで」

 

「了解」

 

「了解です。(やっと開放されました。でも……)」

 

 キャロははやて、リインともに部隊長室を出て作戦室へと移動する。しかしその間ずっと、何か考えこんでいた。

 

 

 

 

「お待たせや。状況は?」

 

「海上沿岸部にガジェット12機編隊が5、さらに廃棄区画の地下に複数、少なくとも20機以上の反応があります。付近で演習に参加していたヴィータ副隊長も、こっちに急行するそうです」

 

 私とはやてさん、リインちゃんが作戦室に着いた時には、既に状況は始まっていました。

 ウィンドウには地下を進んでいるⅠ型に空中を飛行しているⅡ型、それと、スバルお姉ちゃん達フォワードメンバーの姿がありました。

 

「レリックのサーチは?」

 

「今やってます!」

 

 そして、今の所まだレリックは発見出来ていません。これはちょっと不味いです。

 レリックはともかく、それと一緒にいるだろう「あの子」は、絶対にキープしないといけません。

 ここは、ある程度手札を晒してでも取りにいかないといけないですね……。

 

「はやてさん、私も行きます」『藍、モード「境」』

 

「頼むで。シャーリー、飛行許可は?」

 

「隊長達の分を含め、既に取得済みです」

 

「よっしゃ。なら、キャロちゃんはなのはちゃん達と一緒に空の方に……、って!?」

 

 私の方に振り向いた途端に驚き出すはやてさん。まあ、気持ちは分かりますけどね。

 何も知らない状態で、「目の前の空間が裂けて、その中に無数の目がある」光景なんて見たら驚くに決まってます。

 

「な、何やコレ!?」

 

「転移魔法です。それじゃ、先に行ってますね」

 

「ちょ、待―」

 

 はやてさんが何か言っていますが、今は緊急事態なのであえて無視。スキマを使い、一瞬で現場近くの廃ビル、昔私が使っていた拠点、の屋上に移動しました。

 

「藍、モード「白狼」、サブは「八意」」

 

 それから「千里先を見通す程度の能力」を全開にして広域サーチ。路地裏を中心に、目当ての物を探し始めました。でも

 

「くっ……やっぱり、ちょっときつい……かも」

 

 「千里先を見通す程度の能力」によって距離と障害物関係無くサーチできるのは良いんですけど、その分処理する情報も非常に多く、脳に負担がかかります。「八意」でブーストしているのに、それでも頭が痛くなってきます。

 

「ここにはいない……ここでもない…………違う…………ハズレ……………………あ~、頭痛い………………いた!」

 

 いい加減頭の痛みがヤバくなってきた辺りで、ようやく倒れている女の子と、それに繋がれているレリックを発見出来ました。付近の様子を見るに、ガジェットはまだみたいです。

 

「藍、モード「境」」

 

 既に目標は目に見えているので、スキマ移動で一瞬で到着。倒れている女の子、ヴィヴィオと、ケースの中身を確認しながら、ロングアーチとの回線を繋ぎました。 

 

『はやて隊長、聞こえますか? こちら、エキストラ1。レリックを確保しました』

 

『キャロちゃん!? アンタどこに……って早!? マジかいな!?』

 

『マジです。それと、事件に関係ありそうな子が倒れていたので、レリックと一緒に送ります』

 

『分かっ(ドサッ!)ちょ、シャマル、大至急こっち来てー!!』

 

 ヴィヴィオちゃんの足元にスキマを開き、レリックと一緒に作戦室に送ります。向こうは何だかバタバタしてるみたいですけど、まあ大丈夫でしょう。

 

『私はこれから地下の方に向かいます。それじゃ、後はよろしくです』

 

『……地下の方はフォワード四人。それと、108部隊からギンガが向かってるから、撃破しつつ合流してな』

 

『なに部隊長が疲れた声出してるんですか。もっとちゃんとしてくれないと示しがつかないじゃないですか』

 

『誰のせいやと思てんねん!!』

 

 

 

 

 キャロが地下に進入するのと時を同じ頃、なのはとフェイト、そしてヴィータとリインはガジェット二型を相手に空戦を行っていた。既に二小隊の撃破に成功しており、戦果は上々である。

 

「おし、いい感じだ」

 

「リインも絶好量です!」

 

「ガンガン行くぞ。サッサと片付けて、他のフォローに回らねーと」

 

「はいです! ……あれは?」

 

「?」

 

 最初に異変に気付いたのはリインであった。水平線の向こう、遠方から、ガジェットの影が見えた。

 それなら、唯の増援として片付ければ良いだけの話だが―

 

「航空反応増大。 ……コレ、嘘でしょ!?」

 

 作戦室でオペレートをしていたアルトが思わず悲鳴を上げる。

 それもその筈だ。ガジェットの反応が、一瞬で三倍以上に増加したのだから。

 

「波形チェック! 誤認じゃないの?」

 

「問題、出ません。そのチェックも実機としか!」

 

「なのはさん達も、目視で確認できるって!」

 

「……」

 

「はやて部隊長?」

 

(いきなり増えるなんてありえへん以上、これは多分幻影。いくら幻影を増やしても実機の数はかわらへんから、結局は時間稼ぎにしかならん。となると、こっちは陽動で、本命は地下? なら……)

 

『部隊長より隊長達へ。スターズ2、ライトニング1はフォワード達の方に合流してください』

 

『はやて(ちゃん)!?』

 

『スターズ1はそっちに残って防衛を』

 

『はやて、それだとなのはが!』

 

『心配いらへん。私もそっちに向かって、なのはちゃんと一緒に撃破に向かうから』

 

『『『了解』』』

 

 フェイトはなのは一人に負担がかかるのを心配していたが、はやてと二人なら、と納得した。むしろ広域型のはやてが出てくるのなら、接近戦メインの自分やヴィータはかえって邪魔になる可能性が高い。ロングアーチのサポートがあるとはいえ、はやては細かく狙いをつけるタイプの魔導師ではないからだ。

 

「なのは、無理しないでね」

 

「絶対無理するんじゃねーぞ」

 

「分かってるよ。フェイトちゃんとヴィータちゃんも気をつけてね」

 

 フェイトとヴィータは、そう言い残して市街地の方へと飛んでいく。二人ともが釘を刺すあたり、なのはがどう思われているかがよく分かる。

 

「それじゃ、私も出てくるさかい。シャマル、その子の事お願いな」

 

「分かったわ。任せてちょうだい」

 

 

 

 

 私はヴィヴィオちゃんが出てきたマンホールの穴から地下へ進入。別方向から進入しているティアナさんに念話の回線を繋げました。

 

『ティアナさん、そちらの状況は?』

 

『私、スバル、エリオ、アギトと一緒に、レリック反応のあった所へ向かってる。あと、ギンガさんと合流予定。今からそっちに座標送るから』

 

『了解です』 

 

 クロスミラージュからペスカトーガへと、地下のスキャン図、合流座標が送られてきました。ここからだと、ちょっと回り道しないといけませんね……。

 そんな事を考えながら、地下道を走っていると

 

『マスター、前方にガジェットです』

 

 偶然か待ち伏せか、ガジェットⅠ型が六機、こちらへと向かってきます。

 レリックとは逆方向ですし、おそらく前者でしょう。

 室内戦、相手はAMF持ちのガジェット、なら―

 

『行くよ、藍。モード「半」サブは「龍」』

 

『了解です。モード「半」、セットアップ』

 

 ユニゾンと同時に日本刀が大小二本、私の腰に装着されます。

 短い方が白楼剣、長い方が楼観剣、そのレプリカです。

 

 こちらに気付いたガジェットは、ふわふわ浮きながら、レーザーを撃って来ましたが

 

「反射下界斬!」

 

 ドドドドドドドオンッ!!

 

 左手で白楼剣を抜いて前方に一振り。射撃を跳ね返す壁を生成します。

 私を狙ったレーザーは跳ね返され、運悪くそれに当たってしまったガジェットが一機、ジジッ……と音を立てて機能停止しました。

 

「今度は……こっちです!」

 

 射撃が止んだ所で、私は右手に楼観剣を抜刀。霊力を込めた二振りを前方にクロスさせ―

 

「結跏趺斬(けっかふざん)!」

 

 内側から外側へと薙ぎ払って剣気を射出しました。

 Xの形で打ち出された剣気はそのままガジェットの方へと向かっていき、回避が遅れた二機のボディを切り裂きました。

 私はそれを盾にしながら、白楼剣を納刀しつつダッシュで残りの三機に接近し―

 

「人符「現世斬」!!」

 

 突進しながら楼観権を横に一閃。直線上にいたガジェットはそのボディを上下真っ二つに切り裂かれ、その機能を停止しました。

 私はそれを態々確認せず、突進の勢いそのままに地下道を駆け抜け―

 

『マスター、新たに10機、こちらに向かってきています』

 

『人気者は辛いですね。行くよ、藍』

 

 そう簡単にはいかないみたいですね。はあ……。

 

 

 

 

「ティアナ、キャロから連絡は?」

 

「駄目ね。戦闘中なのか、念話に応じないわ」

 

 キャロが激戦を繰り広げている頃、ティアナ達は既に目標地点へと到達。ギンガとも合流していた。

 後はキャロだけなのだが、そのキャロと念話が繋がらない。

 

(キャロの事だから大丈夫だとは思うけど、これ以上は待ってられないわね……)

 

「……残念だけど、これ以上待つのは無理よ。今いるメンバーでレリックに向かうわ」

 

「「「「了解」」」」

 

 待つのを限界と判断したティアナ達は、キャロを置いて先に行くことに決定した。

 合流地点の変更をペスカトーガへと送信した後、ギンガを加えた5人はレリック反応のあった地点へと向かう。

 幸いにも道中ガジェットに出会う事も無く、一行は目標へと辿り着く事が出来た。

 5人はそれぞれ分担して、レリックを探す事に。それからしばらくして

 

「ティアナさん、目標のケース、発見しました!」

 

「でかした、エリオ!」

 

 エリオが地下水道に浮かんでいるケースを発見し、ティアナに報告する。

 エリオはそのままケースを脇に抱えてティアナ達の方へと向かう。その時だった。

 

 シュッ! シュッ! シュッ! ギュイーーーーーーン……!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

 誰もいない筈の地下道に響く風切り音と機械音に、5人は警戒を強める。

 音は次第に大きくなり―

 

「くっ……、うわああああああっ!!」

 

 エリオに向かって黒い影が襲いかかった。

 咄嗟に応戦しようとしたエリオであったが、レリックを抱えている状態ではストラーダを振るう事も出来ず、腹部に衝撃を感じたと思った瞬間には、体ごと吹き飛ばされて壁へと叩き付けられた。

 

 ドオオオオオンッ!!

 

「エリオ!?」

 

「大……丈夫……です。ケースは……、守りました……」

 

「馬鹿! それよりも、自分の心配をしなさい!」

 

「ギン姉、あれって……」

 

「人型の……虫? でも、あれは―」

 

 スバルとギンガの視線の先にいるのは、先程エリオを吹き飛ばした張本人、ガリューである。

 ガリューはフォワードメンバーの方に振り向くと、大きく羽を広げて威嚇する。

 突如現れた強敵に、ティアナを始めとしたメンバーは警戒を強める。そんな時だった。

 

「……魔力反応!?」

 

「あの魔法陣、この前の!?」

 

「あの時の、召喚師!?」

 

 ガリューの背後に紫色の召喚陣が現れて、そこから人影が出てくる。

 紫色の髪に感情の見えない瞳。ガリューの主、ルーテシアだ。

 ルーテシアはフォワードメンバーへと向き直り―

 

「そのレリックは、私が貰う。……ガリュー、邪魔な子達は、みんなやっつけていいから」

 

「……」

 

 ギュイーーーーーーン……!!

 

 ルーテシアの命令にガリューは頷き、地下道に再び機械音が響き渡る。

 音源はガリューの右手。かつてキャロによって失われたそこには今、機械製のドリルアームが付けられている。

 ルーテシアが桃髪の少女への復讐を誓い、ドクターに頼んで付けてもらった力。

 新たな獲物を求め、ドリルは再び高速回転を始めた。

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