ある日突然、お母さんがいなくなった。
いつもの時間になっても帰って来なくて、その日、私は一人でベッドに入った。
次の日も、その次の日も、お母さんは帰って来なかった。
どうして帰って来ないの? という疑問に答えてくれる人は誰もいなくて。今よりももっと小さな子供だった私には、どうしたら良いのかなんて全然分からなかった。
さらに次の日、コン、コンと、玄関をノックする音が聞こえた。
お母さんが帰ってきたと思った私は、相手の確認もしないでドアを開ける。そこにいたのは、私の知らない大人だった。
その人は私を迎えに来たと言う。お母さんもそこにいるから、と。
これ以上一人ぼっちでいるのが嫌だった私は、その人に言われるがまま付いていくことにした。
その人に連れられ、私はお母さんと再会した。
だけど、お母さんは液体の詰まった筒の中に入っていて、ずっと眠ったままだった。
ドクターっていう人によると、死んではいないんだけど、目を覚ますにはレリックっていうものが必要で、それも、11番のじゃないといけないらしい。
この日から、私の長い旅は始まった。
ゼストと一緒に、レリックを求めて色んな世界を歩いた。
その途中でドクターのお願いを聞いてあげたり、ゼストが戦う時にお手伝いした事もあったけど、結局、レリックは見つからなかった。
もしお母さんが目覚めなかったら、私は一人ぼっち。そんなの嫌だから、私はレリックを探し続けた。
そんな時、それは起こった。
いつものように旅をしていたある日、ドクターから通信が入った。
近くで開かれているオークションの為に運び込まれた物の中に、ドクターの欲しがっている物があるらしい。
それくらいなら簡単だと思った私は、ガリューにお願いして取ってきてもらう事にした。
その途中、ガリューが私と同い年位の魔導師を見つけたらしいけど、その程度の相手にガリューが負ける筈が無い。
私はガリューに、その子をやっつけるように命令した。
なんで? どうして?
送還術式によってこちらへと戻したガリューを見た時、私はそれ以外考えられなかった。
戦闘の結果、全身を痛めつけられ、危うく死ぬ所だったガリュー。
爪で切り裂かれたような傷が全身に出来ていて、そこから血が流れていっている。その数は10や20じゃ済まない。50、いや、ひょっとすると100以上あるかもしれない。
そして、一番酷かったのは右腕。肘から先が完全に無くなっていた。
「今すぐスカリエッティの所に行くぞ。」と言ってガリューを背負ってくれたゼストと一緒に、私はドクターの所へと急いで向かうことにした。
ドクターの所に着くと、すぐに治療が始まった。
ガリューはお母さんと同じ治療ポッドに入れられ、お母さんの隣で眠りながら、その体を治している。ドクターによると、あと数日で目を覚ますみたい。
私の目の前には、私の大切な家族が二人。
右側にお母さん。左側にガリュー。
お母さんが眠って、私はずっと一人だと思っていた。
ガリューはずっといてくれたけど、それはガリューが私の召喚蟲だからで、当たり前の事だと思っていた。
だけど、それは唯の勘違いだった。
絶対なんて無い。当たり前だなんて事無い。現にガリューは、こうやって死にかけた。
いなくなるかもって思った時、私は初めて、この当たり前がどれだけ大切なのか分かった。それと一緒に、今までずっと一人ぼっちなんかじゃなかった事にようやく気付けた。
ゼスト、ガリュー、インゼクト、地雷王、白天王。
ゼスト以外は人間じゃないんだけど、そんなのは些細な事なんだと思う。皆、私の大事な友達。
そんな事を考えながら、私はもう一度ガリューの方へと向き直る。
そこには、肘の先に何も無いガリューの右腕があって。
二度とこんな事が起きませんように、と思いながら、私は部屋を後にした。
「ミ ツ ケ タ」
その子を見た時、私は思わずそう言ってしまった。
モニターに映っているのは、空を飛び回り、ドクターのおもちゃを叩き落としている女の子。
私と同じ位の背丈に桃色の髪の毛。間違い無い、ガリューをあんな目に遭わせた奴だ。
ドクターにその子の事を聞いてみると、どうやら機動六課っていう所にいるらしい。
そこも私のようにレリックを追っていて、ドクターと敵対している。
私がレリックを探している以上、戦う事になるのは間違い無い、というか、既に何度か交戦している相手がそこらしい。
レリック以外に興味が無かったから、そんな事は全然覚えていなかった。
私はドクターにお願いして、ガリューの腕を強化してもらう事にした。
再生治療は時間がかかるので義手を付ける事になり、ドクターが持っていた義手の中で最も戦いに向いたものが、ガリュー用に調整されて付けられた。
これでガリューは大丈夫。もう、あの時みたいな事は嫌だから。
もし今度アイツに会っても、私の大事な物は傷つけさせない。逆にこっちがやっつけてやる。
そして今日、ドクターから連絡があった。
レリックが見つかって、機動六課が向かっている、と。
それを聞いた私は早速行動する。
お母さんの為に、レリックを手に入れる。
そして、ガリューの為に、私はアイツをやっつける。
レリックの所に向かった時、そこには既に先客がいた。
私はガリューと一緒に、レリックを奪う為に戦い始める。
アイツはいないみたいで、前衛の二人をガリューが、後衛の二人を私が相手する。ガリューの奇襲で一人リタイアさせられたのは運が良かった。
そして始まった戦いだけど、これが長引いてしまった。
一人一人の実力はとにかく、数が多いのでなかなか手こずる。
どうしようかと考えていると、クアットロから連絡が来て、私はクアットロの言うとおり、ガリューに指示を出した。
その結果、向こうのうち一人が足を掴まれて動けなくなって、そこにガリューの腕が飛んでいく。
これであの人はおしまい。そう思った時だった。
桃色の暴力が、ガリューの腕を薙ぎ払った。
壁を貫通して飛んできた砲撃が、ガリューの腕を飲み込んでいく。
桃色の光? ガリューの腕? ……まさか!?
それは勘で、根拠なんか全然無いんだけど。
私の頭に浮かぶのは、あの日の記憶。
ガリューを通して見た少女の姿と、ボロボロになったガリューが再生され、私の心はあの日に戻ってしまった。
また、私は大切な物を失うの?
今度こそ、本当に一人ぼっちになってしまうの?
そこまで考えて怖くなってしまい、そして私は―
「逃げた、ですか?」
「ええ。砲撃が止んだ瞬間に、召喚蟲もろとも転移魔法で逃げていったわ」
「そうですか……。転移の足跡は?」
「今ロングアーチに調べてもらってる。そう遠くには行ってない筈だけど……。あ、そうそう。さっきは助かったわ。ありがとね」
ミシッ……。
いえいえ、とティアナさんとの会話を打ち切って、私はエリオ君の方へと歩いていきます。
にしても、逃げられちゃいましたか。
出来るなら、ここで仕留めておきたかったんですけど。残念です。
気を取り直してエリオ君の様子を見てみると、ケースを抱えたまま気絶しています。
奇襲に対応できなかったのはNGですけど、ケースを放さなかったのは立派です。
「アギト、エリオ君の様子は?」
「まだ起きねえ。怪我は無いんだけど「ううっ……」お、起きたか」
「えっと、アギトに……、キャロ?」
「そうですよ~。お寝坊さんのエリオ君。寝ていた間の事は、アギトにでも聞いてください」
「ううっ……」
ミシッ……。
エリオ君が悔しさ半分、情けなさ半分といった表情でこっちを見てきます。
私は褒める事なんてありません。エリオ君は踏まれて伸びるタイプだと思うので、こうやってからかい半分に厳しく接するのが本人の為です。
まあそれは建前で、実際はエリオ君いじりが楽しいからなんですが。
アギトに説明を任せた私は、そのままレリックのケースの所へ。
ケースを開けると、そこには赤色の宝石型のロストロギア、レリックが入っていました。
さて、“仕込む”としましょうか。
ミシッ、ミシッ……。
「はあ、はあ、はあ……」
別に走った訳でもないのに、私の息は荒い。さっきから、心臓の音がうるさくてたまらない。
あの光を見た瞬間、私は逃げる事しか考えられなくなった。
咄嗟にガリューを送還し、私も転移魔法でここまで逃げてきた。
それがほんの数秒前の出来事で、まだドキドキが止まらない。
『お嬢様~、ご無事ですか?』
「クアッ……トロ?」
通信してきたのはクアットロ。近くで皆の様子を見ているらしいんだけど……。
『お嬢様、無事だったんですね。良かったです~。……でもお、困った事になりましたねえ~』
「???」
『レリックですよ。このままだと、取られちゃいますよ? お嬢様は、それで良いんですか?』
「それ、は……」
良い訳が無い。
私が欲しいのは11番のレリックで他はどうでも良いんだけど、アレが何番か分からない。分からない以上、何としても手に入れたい。
でもあれを奪うということは、あの人達と戦う必要がある訳で。となると当然、アイツとも戦わないといけないという訳で。
……怖い。
今度は右手じゃ済まないかもしれない。最悪、ガリューが殺されるかもしれない。
やっつける、なんて考えはあの砲撃で文字通り吹き飛んでしまい、私にとって、アイツの存在は恐怖そのものになった。
「クアットロ。私、戦いたくない。……怖い」
『……』
「これ以上、ガリューが傷つくのは嫌。これ以上、大事なものが傷つくのは嫌だから」
だから、もう―
『……はあ。お嬢様、それじゃあ駄目ですよ』
へ?
『お嬢様は、お母様を目覚めさせたいんでしょう? そのために、今までずっと頑張ってきたんでしょう?』
「う、うん」
『でも、そうなると間違いなく機動六課とぶつかる事になる。今日逃げたとしても、いつか必ず当たる事になりますの』
「うん……」
『いつか絶対に逃げられない時が来ます。でもこのままだと、お嬢様は「また」守れない』
「!?」
……嫌だ。もうガリューを失うのは、もう一人になるのは嫌だ。だけど
「だったら、どうすればいいの?」
分からない。私には何も―
『そんなの、簡単ですわよ』
え?
『お嬢様の邪魔をする人達なんて、みーんな“潰しちゃえばいいんですよ”』
……。
『お嬢様の大切なものに手を出す奴なんて“潰しちゃえばいいんです”。お嬢様にはそれだけの力があるんですから』
……ああ、そっか。それなら簡単だ。
「……ありがとう、クアットロ」
『いえいえ~。どういたしまして』
クアットロとの通信を切って、私は早速行動に移す。
本当、何でもっと早くに思いつかなかったんだろう。
「……召喚。来て、「地雷王」」
ドシィィィィィィィィンッ!
召喚に応じて私の召喚蟲のうちの一体、地雷王が呼び出される。
呼び出した場所は廃棄都市の一角。丁度アイツ達がいる所の真上。
地雷王の能力は生体電流による放電。それと
「地雷王、あなたの下にあるもの、……全部潰して」
「……!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
私の命令を受けて、地雷王のもう一つの能力―魔力による振動波が発動される。
振動を受けた大地は大きく揺れて、そして
ドオォォォォォォォォォンッ!!
地雷王のいた地盤が、振動に耐え切れずに崩れ去った。