「地雷王ーーー!!!!!!!!!」
天地開闢プレスにより、地盤が轟音を立てて崩壊していきます。
それ以上に大きな絶叫が木霊した所で、私はようやく頭が冷えてきました。
あー、これ、やっちゃった、なあ……。
『マスター』
『……何かな、藍?』
『いくら何でもやりすぎでは?』
『うっ……』
ルーテシアちゃんの絶叫で少なからず罪悪感を刺激されている所に藍の追い討ち。ジト目でこっちを見る藍の姿が幻視できます。
『いや、でも見た目ほど酷い事にはなってないよ!? あの虫も上手い事地下に落ちたから潰れてないし! それに、もし本気で潰すつもりなら追撃で天狗のマクロバースト撃ってるから!』
『それでも、です。あんな子にトラウマ作ってどうするんですか!』
『ゴメンナサイ』
『全くです。余計な恨みを買って損するのはマスターなんですから、その辺自重してください』
『って、そっち!?』
『当たり前です』
『わぁい、嬉しいけどどこか複雑』
さすが藍、私最優先の良い子です。
けど、どこか間違ってると思うのは気のせいでしょうか?
『じゃあ、そろそろ皆と合流しよっか?』
『ですね。……、マスター!!』
『分かってる! 藍、モード「鴉天狗」!!』
藍の叫ぶような念話とほぼ同時に感じたのは魔力反応。
視線の先はビルの屋上。そこにいる二人のうちの一人、ディエチさんが大砲を構え、フォワードメンバーに狙いを付けていました。
キャロの天地開闢プレスにより衝撃を受けたのは、何もルーテシアのみではなかった。
いきなり目の前で起きた事態に対し、空いた口が塞がらない者、驚愕を表す者、ルーテシアに同情することで現実逃避をする者。
誰しもが程度の差はあれ驚愕し、しばしの間思考停止状態に陥った。
そんな中いち早く復帰したのは……、以外にもクアットロであった。
戦闘慣れしていないクアットロが真っ先に動けるようになったのには、いくつか理由がある。
一つ、遠目で見ていたので余り現実味が沸かなかった事。
一つ、地雷王の事などどうでも良いと考えている事。
一つ、ルーテシアに対して一切同情の念が沸かなかった事。
「くだらないもの」にとらわれない彼女はこれを好機と見て、待機していたセインに指示を出した。
『セインちゃん!』
『へ? ……わ、分かった!』
「なっ!? しまった!」
クアットロの指示を受け、ようやく現実に復帰してきたセインがルーテシア救出へと動き出す。
ルーテシアの真下に移動したセインは手だけを地面から出してルーテシアの足を掴み、そのまま地面へ引きずりこんでいく。
すぐ隣にいたヴィータが阻止すべく手を伸ばすも、その手はむなしく空を切った。そして
「ディエチちゃん、やっちゃって!」
「分かった。ファイアリングロック解除。「ヘヴィバレル」、発動」
クアットロはルーテシアとセインの離脱を確認した後、かねての予定通りディエチに砲撃を指示した。
いくらシルバーカーテンの効果があってもSランク砲撃相当の魔力を隠す事は出来ないので、ディエチは指示を受けてから大急ぎでチャージする。
砲身の先にはフォワードメンバー+ヴィータ。一連の出来事のせいで良い感じに混乱している。このまま撃ちこめば、文字通り一網打尽に出来るだろう。
「3……、2……、1……」
カウントが進むに従い、イノーメスカノンに魔力が充填されていく。
ディエチはチャージが完了し、臨界にまで達した事を確認した事を確認してから、引き金に手をかけた。
「0。ヘヴィバレル、シュート」
無表情のままに引き金を引こうとするディエチの後ろで、それを見ているクアットロ。
多少の誤算はあったが、それすらも自らの作戦に取り込んで利用出来た。
すでに勝利は約束されたも同然。数秒先の未来を思い、クアットロは笑みを浮かべた。
そんな彼女に誤算があったとするのなら、それは―
≪Jet Zamber.≫
ドオォォォォォォォォォォォン!!
ヘヴィバレルが発射されるまでのコンマ数秒の時間、そこに割り込んできたのは金の閃光。
クアットロはそれに気付いた時には、その体は衝撃波で大きく吹き飛ばされていた。
「くっ! 一体何が……」
不幸中の幸いか負傷は無かったので、クアットロは吹き飛ばされながらも、何とか空中で体勢を立て直す事に成功した。
何があったのかとつい先程まで自分のいた所に視線を戻すが、爆煙のせいで各種センサーが上手く利かない。
周囲を警戒しながら現状把握に努めること数秒。ようやく煙が晴れて、向こう側が見えるようになった。
最初に目についたのは、ビルを横断するかのようにつけられた斬撃の跡。そして―
「ありがとう、バルディッシュ」
≪どういたしまして≫
「とりあえず一人目、っと。メガネは仕留め損ねましたか」
『すぐ近くにいる筈です。さっさとやっちゃいましょう』
真っ二つに切断されたイノーメスカノンの隣にいるのは、大剣を手にした管理局最速の金の閃光。
うつ伏せに倒れ付したディエチの横に立っているのは、葉団扇を手にしたもう一人の管理局最速。
二人の手によって、ディエチは完全に無力化されてしまった。
(冗談じゃない! 「シルバーカーテン」!)
目の前の現実に対しクアットロは即座に行動、即ち、ディエチを切り捨てて逃走する選択肢を選んだ。
ディエチが無力化された今、クアットロに許されたのは逃走のみ。
今や彼女の頭の中は、自分の安全で一杯になっている。それに比べれば、任務の事や数秒前に見捨てた姉妹なんかはどうでもいい事だ。
幸いにも、彼女のISは逃走にも役に立つ。視覚とレーダーを誤魔化せれば、直接戦闘せずとも離脱可能なのである。
(とにかくここから……ッ!?)
「逃げられると思ってるんですか?」
そう、彼女さえいなければ。
ふう……。にしても、さっきのは少し危なかったです。
魔力反応を確認してからすぐに飛んだものの、その先にいたのは既に引き金に手をかけたディエチさん。私はタッチの差で間に合いませんでした。
それでもこの結果になったのは、空中で待機していたフェイトさんが割り込んでくれたおかげ。
間一髪の所でフェイトさんが砲身を切断し、その隙に私がディエチさんの懐に潜り込んで鳩尾に掌底一閃。問答無用で気絶させました。
本当なら警告のち捕縛っていう手順を踏まないといけないんですけど……。まあ、緊急事態だったという事で。
「逃げられると思ってるんですか?」
そして今、私の前にいるのは残りの一人、クアットロ。ISを発動しているみたいで目には見えないんですけど、「狂気を操る程度の能力」がその存在の波長を捕らえています。
「嘘!? まさか、こっちの事が見えて!?」
「さあ、どうでしょうねえ? どっちにしても、見破られたからといって声を上げたりするのはどうかと思いますよ」
「う、うるさい!! 余計なお世話よ!!」
「そうですね。今はそんな話してる時じゃないですよね。……覚悟は良いですか?」
「ヒッ!?」
「罪状云々は全部挙げるとキリが無いので省略で。さっさと捕まってください」
「じょ、冗談じゃないですわ!!」
そう言うやいなや、クアットロは180度転進。こちらに背を向けて逃走していきます。
どうして背を向けているのが分かるのかと言えば、彼女がISを解除したからだったりします。
無駄だと悟ったから?
いや、違う。さっき指摘したばっかりなのにそんな凡ミスをするなんて事はあり得ないです。だとすると、おそらくこれは―
思考を纏めている間にも、私とクアットロの距離は詰まっていきます。「狂気を操る程度の能力」を使う必要が無くなったので再び「鴉天狗」に戻し、そのスピードで一気に接近して葉団扇を一閃。スペルを発動させました。
「風符「天狗道の開風」!!」
ドオォォォォォォォォン!!
圧縮された風弾が目標の先にあったビルに衝突。周囲が爆煙に包まれて、一時的に視界が塞がれてしまいました。
『やった!』
『ビンゴ!』
その様子はサーチャーを通して作戦室にも伝わっており、ロングアーチスタッフからは歓声が聞こえました。でも―
「ごめんなさい。逃げられたみたいです」
『『へ?』』
煙が晴れた先に本来倒れている筈の人影は無く、所々に瓦礫が散乱している道路があるだけでした。
「どうやら、まだ仲間がいたみたいです。それと―」
『『それと?』』
「ケース、奪われちゃいました。てへっ」
『『え、ええええええええっ!!!!?』』
そう言った私の左手にはさっきまで持っていたケースが無く、代わりに手の甲が赤く腫れていました。
スペルを発動してからコンマ数秒後の、風弾がビルに着弾したとほぼ同時。突如やってきた襲撃者に対し、技後硬直によってまともな対応をする事が出来なかった私に出来たのは自らの身を守る事だけ。
結果、私自身は軽い打撲で済んだんですけど、その代償としてケースを持っていかれました。
『じゃあ、そろそろ戻ろうか、藍』
『ですね。皆さんに事情を話さないといけませんし』
けど、私は別に後悔していなかったりします。何故なら―
『私は「レリックを持っていかれた」とは一言も言ってませんからね』
―スカリエッティアジト、地下通路にて―
「はあ、やっと戻ってこれましたわ~。トーレ姉さま、ありがとうございます~」
「お前達だけでは頼りないと思って付いてきてみれば……。今度あのような体たらくを晒したらその時は容赦無く見捨てるからな」
「は、はい……」
敬愛するトーレからの叱責に肩を落とすクアットロ。それに加えてセインとルーテシアの合計4名が基地の廊下を歩いている。
あの時、クアットロの危機に対して動いたのはトーレであった。
逃走するクアットロに対してISの解除と逃走ルートを指示し、自分が待機している場所へと誘導した。
後は向こうの攻撃に紛れ、自身のIS「ライドインパルス」を発動。機械の体だからこそ可能な超高速移動によってクアットロを救出した。それだけに留まらず、技後硬直の一瞬を突いてキャロからケースを奪取したのは流石だといえる。
「ディエチがやられてしまった事が痛いな。この事、ドクターにどう報告した物か……」
「あうううう……」
あの場における指揮官はクアットロであり、当然、ディエチの事も彼女の責任になる。
トーレからの更なる追撃で、クアットロのライフはガリガリ削れていった。
「でもでも、ほら、レリックは無事確保できましたよ」
そんな二人を見かねて間に入ってきたのはセインである。
現在ケースはセインが預かっており、それをトーレに見せながら二人の仲裁に入った。
「そういえば、中身の確認がまだだったな。セイン」
「はいよ~」
『ふう、助かったわ、セインちゃん』
『どういたしまして』
何とか話題を逸らす事に成功したセインは、その足で近くにあった台にケースを置いた。
魔力を込めて特定の部分をなぞるとガコッという音とともにロックが解除され、蓋が浮き上がる。
セインは両手で蓋を持つと、何の迷いも無くその蓋を持ち上げた。
「じゃじゃーーーーん!! ……お?」
そこにあったのはレリックではなく……生首であった。
「ゆっくりしていってね!!」
「うわ、何コレ!?」
「どういう事だ、クアットロ!?」
「わ、私にも何が何だか……」
「……。(ケースに書かれている刻印は6番……。11番じゃないならどうでも良いか)」
予想外の物体に驚くセイン、クアットロに追求するトーレ、さっきの事をまだ引きずっており、涙目混じりで言い訳を始めるクアットロと、場は一気に混乱し出した。冷静に刻印を確認したルーテシアが、この中では一番の大物かもしれない。
しかし、この生首が見せる本当の恐怖は、生憎とそんな生易しい物ではなかった。
「ゆ……」
「「「「……?」」」」
「ゆっくりしね!!」
「「「「……!!!?」」」」
―魔符「アーティフルサクリファイス」―
ウーノからスカリエッティへの報告書より抜粋
ナンバーズ3、トーレ
爆発の瞬間にISを発動。一番近くにいたクアットロと共に離脱に成功。
ナンバーズ4、クアットロ
トーレに抱えられ離脱に成功。
ナンバーズ6、セイン
至近距離で爆発に飲み込まれ、重症。命の危険は無いが、治療に多大な時間が必要に。
彼女のISは突然変異タイプなので、メモリだけ抜き出して別ボディに移植するという方法は断念。治療ポッドで回復に専念とする。実質的リタイア。
ルーテシア
爆発に巻き込まれたが、セインが盾になったおかげで吹き飛ばされるだけで済んだ。
打ち身、切り傷等の全治2~3日程度の軽症。治療魔法によって当日中に回復。