幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第58話 秘密

「再検査、ですか?」

 

「ええ。ちょっと、コレ見てくれる?」

 

 そう言って、シャマルさんは自分のデスクから一枚の紙を取り出しました。

 そこに書かれていたのは私の名前と、身長、体重などのデータ。早い話、先日行われた健康診断の結果が載っていました。

 

「えーっと……。は?」

 

 そこにあったのは……「赤」でした。

 赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤…………。

 身長、体重などのcmやkgが単位でない数値、つまり血中コレステロールや赤血球濃度といった項目が悉く赤字で表記されており、それらが基準値を大きく外れていることを示していました。

 

「ちょ、コレ何なんですか!? 私そんな不摂生した覚え無いですよ!?」

 

 確かに昔は色々荒れてましたけど、今はしっかり三食食べて運動もしてる、普通に健康的な生活の筈です。なのにこんな結果が出たら、さすがに焦ります。

 

「待てよ、最近肉食べ過ぎてたような……。体重変わらないから油断してたけど、まさか見えないところで……?」

 

「キャロちゃん、話聞いてくれる?」

 

「……ふえ?」

 

「いくら何でもこれだけの項目が外れるっていうのは考えにくいから、たぶん装置の故障だと思うのよ。だからもう一回検査して、それで判断するわ。いい?」

 

「あ、はい」

 

 ……ですよね。いくら何でもありえないですよね。 

 

 

 

 

 ―機動六課 部隊長室―

 

 

 カタッ、カタカタカタッ……。

 ぺらっ、ぽん、ぺらっ……。

 

 部隊長室には今日も変らわず、最近すっかりお馴染みになった音が上がっていた。

 カタカタという音を発しているのは一基の端末。

 それをタイピングしているのはこの部屋の主のはやてである。彼女は目の前のウィンドウに表示された報告書を完成させるべく、指を動かしてタイピングを続けていた。

 その合間に聞こえるぽん、ぽんという音の正体は、一つの判子。

 それを持っているのはリインフォースである。自分の体から見れば大きいそれを、物体操作の魔法を使用して書類へと押して行く。体を大きくして仕事をするという手もあったが、物体操作魔法とアウトフレーム維持にかかる魔力、その消費を比べた結果、こちらに落ち着いたのであった。

 それらの光景はいつまでも続くかと思われたが―

 

「以上、機動六課部隊長、八神はやて。……お、終わったーーーーー!」

 

「3、2、1……、0! はやてちゃん、リインも終わりましたーー!」

 

 そう言うやいなや、二人は大きく息を吐いてぐてーっと机に突っ伏してしまった。

 良く見ると二人の目にはクマが出来ており、せっかくの美少女顔が台無しになっている。というか、仕事が終わった嬉しさのせいか、生気を失った顔で口だけがヒクヒク動いているのを見るとちょっと引く。

 

「あの量の仕事が一気に来た時はどうなるもんか思たけど……」

 

「人間やれば出来るものですね~。リインはデバイスですけど~……」

 

「もう当分、書類は見たくないわ……」

 

 先日の事件から既に半月。はやてとリインは今日ようやく、溜まっていた仕事を全て消化することが出来た。

 事件に関しての報告自体は一週間程度で片付ける事が出来た。しかし、はやてはそれと並行して通常時の仕事、聖王教会との各種情報交換や調整といった事もこなしていた。

 到底一人でこなせる量ではなかったので、通常勤務はリインに、聖王教会関係はシグナムに、どうしても自分の判断が必要な案件以外は周りの手を借りて、はやては仕事をこなしていった。そして半月が経過した今、はやては全ての仕事を消化する事が出来たのであった。

 

「とはいえ、いつまでもこうしてる訳にもいかんし……、リイン」

 

「はいです」

 

「お茶とお菓子の用意お願いな。ちょっと休憩してから仕事に戻るで」

 

「分かりました。ちょっと待っててくださいです」

 

 はやての命令を受けたリインは給湯室へ向かうべく、部隊長室の出口へと向かって飛んでいき―

 

「わわわわっ!?」

 

 出て行こうとした矢先、目の前のドアが勝手に開き、中に入って来たシャマルとぶつかってしまった。悲しいほどの体格差のせいで、リインは呆気なく弾き飛ばされてしまった。 

 

「きゃっ!? 大丈夫、リインちゃん?」

 

「だ、大丈夫れすう~。じゃ、行ってくるです~」

 

 心配しなくても良いと伝えてから、リインはフラフラと部屋を出ていった。

 シャマルはリインの様子を心配そうに見ていたが、扉が閉まると自分が来た理由を思い出したのか、はやての方へと歩いていった。

 

「はやてちゃん、ちょっと良い?」

 

「仕事片付いた所やし、丁度良かったわ。で、どないしたん?」 

 

「コレなんだけど……」

 

 そう言って、シャマルは一枚の紙を取り出した。

 その紙には数字が羅列されており、その半分程が赤字で表記されていた。  

 

 

 

 

 ―スカリエッティ 新アジトにて―

 

 先日のディエチ捕獲の影響により、スカリエッティ達はその拠点を移動させていた。

 ナンバーズ内でも決して前線に出ないウーノにしか知らされていなかった非常用の拠点。その位置を全員に通達した後、引越しが開始された。

 メガーヌやセインの入った治療ポッドを始めとする必要な者だけを持ち去るようにし、ガジェットは地下道を利用して輸送した。残った設備は必要なデータを吸い出した後、チンクのランブルデトネイター(ナイフ爆弾)で物理的に破壊された。キャロのアーティフルサクリファイス(ゆっくり爆弾)によって既に脆くなっていた地盤はそれに耐え切れず、旧アジトは地中にその姿を隠してしまった。

 

 現在、新アジトはようやく旧アジトと同レベルの設備を取り戻し、活動再開の目処が立った所である。とはいえ、研究フロアはまだロクに整頓されていないので、雑多な機器が所狭しと並んでいる状態ではあるが。

 そんなフロアの片隅で、スカリエッティが端末を操作していた。

 ウィンドウに映っているのは先日の戦闘であり、彼は興味深そうにその映像を眺めていた。

 

「ドクター、よろしいでしょうか?」

 

「おや、ウーノか。どうしたんだい?」

 

「施設の復興状況について報告を。それと、先日依頼されていた「キャロ・シエル」についてのデータをお持ちしました」

 

「おお、待っていたよウーノ。早速、見せてくれるかね」

 

 どちらをかは言われなくても分かる。今やドクターの目は「無限の欲望」を体現するかのごとくギラギラと輝いている。ウーノは懐から情報ストレージを取り出すと、近くにあった端末へと差し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………以上です」

 

「成る程、生まれについての情報は不明。その名が初めて世に出たのは5歳の時。以来「桃髪の子鬼」の異名と共に、裏社会でその名を上げていく。そしてその一年後、管理局へ自ら出頭。以後は民間協力者として管理局に勤める……と」

 

「はい。5歳以前の足取りについても調査してみましたが、何も出てきませんでした」

 

 申し訳御座いません、とウーノは頭を下げた。

 

 調査を始めてすぐ、ウーノは割とあっさりと、キャロのデータを集める事が出来た。

 所詮は階級も持たない一般人の民間協力者。個人情報へのセキュリティも甘く、管理局のデータベースを調べるだけでデータが入手出来た。

 これに気を良くしたウーノは、彼女の前科に注目。裏社会での評判を聞き、その事実関係を確認する事にした。

 

 「相手を一睨みで昏倒させた」だの「拳のみで海を割った」だの「数十人がかりの弾幕を魔法無しで回避した」といった荒唐無稽な情報は削除して調査した結果、少なくとも5歳の時点で局員10名近くを倒した事は、疑い様の無い事実である事が分かった。

 5歳の時でコレなら、秘密はその以前にあると考えたウーノは、調査を続行した。

 しかし、そこで行き詰ってしまった。

 入局後と裏社会での事は簡単に調べられたウーノであったが、それ以前の事となると完全にお手上げ状態。管理局のデータベース、裏社会での情報網、そのどちらにも全くヒットが無かった。

 ガセの情報すら無い、まさに収穫ゼロであった。

 

「成る程成る程……。ありがとう、ウーノ。下がっていいよ」

 

「はい」

 

「……、フフフフフフ、面白いじゃあないか」

 

 だというのに、スカリエッティには少しも残念そうなそぶりが見られなかった。むしろ嬉しそうである。

 実際、スカリエッティは楽しんでいた。

 全部が全部分かってしまうのはつまらない。与えられたピース―おそらく数が足りておらず、そのままでは完成する事は無い―を見ながら完成形を予想する推理ゲーム。新しいおもちゃを与えられた子供のように、スカリエッティは問題へと取り組む事にした。

 まず手始めにと、スカリエッティは端末へと向き直る。そのウィンドウには先程からずっと、戦闘映像が流れ続けていた。

 

「キミの正体は一体何なのだろうね? 今の所第一位は「戦闘機人の失敗作」説なんだけど……」 

 

 スカリエッティは誰に聞かれるともなくそう呟いた。

 そう考える根拠は、キャロの使った戦闘技術。

 高速機動はトーレのIS「ライドインパルス」に、人形型爆弾はチンクのIS「ランブルデトネイター」に酷似していた。魔法無しでのあの格闘能力も、戦闘機人としてのスペックがあれば不可能ではない。「失敗作」というのは高速機動の後にリバースしたからである。自らのISに振り回されるような機体は、決して完成品とは言えない。

 

 とはいえ、この推測には大きな穴が二つある。

 ひとつはISの複数所持。将来的には可能になるのかもしれないが、今はIS自体研究段階。もしそんな事が出来る研究者がいるのなら、自分はとっくにお払い箱になっている。

 もうひとつは情報漏洩。戦闘機人の基礎理論以外、つまりISのデータは今の所門外不出。「振動破砕」等といった、管理局にサンプルのあるISならともかく、自分が厳重に管理している「ライドインパルス」や「ランブルデトネイター」のデータが流出したというのは考え辛かった。

 

「可能性は低いけど、まるきり有り得ない話でも無い。結局はそんなレベル……おや?」

 

 そんなふうに考え事をしながら映像を見ていたスカリエッティであったが、ふとある点が気になって、映像を一時停止させた。そのウィンドウには地雷王が映っており、丁度鎖で捕獲された所であった。

 

「今まで気にもしていなかったけど、これはこれは……」

 

 鎖は地面にある魔法陣から伸びていた。魔法陣は中心に一つの小さな円と、その四方を囲む四つの小さな円。そしてそれらを結んで出来た正方形で構成されていた。

 

「ミッド式魔法陣と混合されているようだけど……」

 

 この形はスカリエッティも良く知っている形だった。

 それもその筈、彼のサンプルの一つが、これを得意としていたのだから。

 

「そうか、まだ疑問は数多く残るが……、キミの正体のうちの一つ、それは―」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっくし!?」

 

「マスター!?」

 

「大丈夫だよ藍。にしても、最近こんなの多いなあ。また誰かが噂しているんでしょうか?」

 

「どうなんでしょう? それより、不味い事になりましたね」

 

「へ?」

 

「いや、へ? って……。健康診断の件ですよ。流石にマスターが半妖だっていうのはバレないと思いますけど、色々勘ぐられるのは面倒ですから」

 

 は? 今コイツ何て言った?

 

「ら、藍、今何て?」

 

「ですから、色々調べられるのは面倒だという話です」

 

「じゃなくて! その前その前!」

 

「噂の件ですか? 正直心当たりが有り過ぎて私には分かりません」

 

 戻りすぎ! そうじゃなくて……、ああもう!!

 

「じゃなくて、私が半妖ってどういう事なの!?」

 

「……あ」

 

 あ、って何ですかあ、って。というか、つまりそれは冗談じゃないという事で……。

 

「え? えええええええええええええ!!!!?」

 

「ちょ、マスター!?」

 

「どうしたもこうしたもないですよ!! いきなりそんな事聞かされたら、誰だって驚くでしょう!?」

 

「す、すいません!! ……というか、何でマスターが気付いてないんですか? 自分の事でしょう? 妖気使ってる時点でとっくに気付いてる物だと思ってましたよ!!」

 

「そんなの分かる訳無いじゃないですよ!! それに妖気っていうなら妹紅さんだって使ってたじゃないですか!?」

 

「あの人は特別です。普通の人間は妖力なんてこれっぽっちも持ってません。輝夜さんだって無かったでしょう?」

 

「あ」

 

「とにかく、気が動転しているのは分かりますけど、少し落ち着いてください」

 

「あー……、うん」

 

 藍の言葉で少しだけ冷静になった私は、これまでの事を思い出していきます。

 

 私だって妖力が使えると知った時、妖怪説はちょっとだけ考えた事があります。

 でもその時丁度、身近で妹紅さんが妖力を使っているのを見て、「人間でも妖力って使えるんだ」という結論に達しました。少しして自分でも使えるようになったので、その件はそれでお終い。ミッドの人が使えないのは訓練不足、輝夜さんが使えないのは「穢れ」が無いからだと結論付けて、以来この事は深く考えませんでした。

 

 ―たぶん、お前は妖力を使うのがいちばん向いてる。―

 

 というか、妹紅さんは知ってたんですね。言ってくれれば良かったのに。

 藍と同じで、自分で気付いてると思われてたんでしょうね。 

 にしても、半妖かあ……。

 

「マスター?」

 

「ごめん、ちょっとだけ一人にして」

 

「……はい」

 

 私の言葉を受けて、藍は夢幻珠とともにスキマに入っていきました。

 私はそれを見送った後、大きくため息をつきました。

 

「まあ、事実だとしても特に問題は無いんだし、何も変わらないっていうのは分かってるんだけど……」

 

 あと少しだけ落ち着いたら、今日はもう寝よう。きっと明日には、ケロっとなっている筈だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、さっきは失敗だったな」

 

 スキマに入り、コタツの上に乗っかった所で、私は一人ごちる。視線の先にはフリードが能天気に飛んでいる。今日も元気そうだ。

 

「にしても、マスター、いや、あの子が気付いていないのは以外だったな。てっきり自覚しているものだとばかり思っていたが」

 

 私にとっては知らない方が意外であった。

 現実逃避ではなく本気で気付いていなかった。妖力を使っているというのに、全く気付いてなかったのだ。

(キャロは妖怪を見た事が無いのでこれも仕方ないのだが、藍は気付いていない)

 

「この調子だと、能力についても気付いていなさそうだな。まあ知らないのなら知らないで、その方が良いのかも知れないが」

 

 というか、まず気付いていないだろう。

 もし気付いていたのなら積極的に使っているだろうし、私の負担も減っている。あの子が気付いていないのは明らかである。

 それに、その方が都合が良い。

 あの子の能力は非常にデリケートだ。もし下手に制御しようとして暴走させてしまった場合、あの子の命自体が危うくなってしまう。無意識の状態で安定している以上、下手に干渉するのは下策である。

 

「自覚させて制御訓練をするにしろ、今取り組んでいる事件が終わってからゆっくり取り組めば良い。今まで通り、戦闘中の能力行使は私がサポートする。それが、私が夢幻珠に宿っている理由だからな」

 

 それが私と主の間で交わされた命令。だけどそれを抜きにしても、私はこの子を守るつもりだ。

 

 

 

 

 ―この子が無事、一人前になりますように―

 

 

 

 

 ―そして願わくば、「真実」を知ってもあの方の事を嫌いになりませんように―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュ~キュ~キュ~♪」

 

「このバカ竜、人がマジメに考え事してるっていうのに……。式輝「狐狸妖怪レーザー」!!」

 

「……キュ!?」

 

 ピチューン!!

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