―新暦75年9月12日 12:00 地上本部にて―
「スバル、そっちは何かあった?」
「ううん。特に異常は無し」
「エリオ達は?」
「異常ありません」
「こっちもだ」
「分かった。じゃあ、ヴィータ副隊長に伝えておくわね」
私達六課メンバーは今、地上本部で警備任務を行っている。
今から一時間後に開始される公開意見陳述会。
陸と海、双方の重要人物が一同に会する一大イベントであり、それを狙ったテロに対応するため、私を始めとしたフォワード4人にヴィータ副隊長、なのはさんの計6名は前日の夜から現場に入り、交代で警備を務めていた。
「あふ……」
「ん? エリオ、ひょっとして眠い?」
「少しだけ……。でも、まだまだ大丈夫です」
「徹夜だったからね。私やティアは平気だけど、二人はきついんじゃないかな?」
スバルに言われ、エリオの様子を見てみる。
表情は元気だし、気力は十分に感じられる。のだけど、目の下にあるクマがそれを台無しにしていた。
「そうね。……エリオ、アギト」
「ティアナさん?」
「何だ?」
「まだ始まるまで時間があるから、ちょっと仮眠取ってきなさい。何かあったら連絡するから」
「で、でも……」
「だってよ。行くぞ、エリオ!」
「ちょ、ちょっと、アギト!?」
「折角休んでも良いって言ってくれてんだ。言葉に甘えておけよ。肝心な時に動けなくなったら元も子も無いだろ?」
「わ、分かったから、放してってば!」
休んでも良い、という私の指示に、エリオは言葉を濁らせた。大方、迷惑をかけるんじゃないか、とか思ってるんでしょうけど。アギトがフォローしてくれて助かったわ……。
アギトはエリオの服を掴み、そのままエリオを引っ張っていく。そして後に残されたのは、私とスバルの二人だけになった。
「全く。まだ子供なんだから遠慮なんて似合わないっての」
「まあまあ、それがエリオの良い所じゃない」
「ま、そうなんだけどね。あんまり自由にし過ぎてキャロみたいになられてもこっちが困るし」
「あはははは……」
私がキャロの名前を出すと、スバルが乾いた笑みを浮かべた。姉貴分として否定しようとはするものの、否定できる材料が無くて困っている。そんな感じだ。
先日のサッカー事件に代表されるように、キャロはかなり好き放題振舞っている。しかもちゃんと成果を挙げていたり、大義名文を確保した上での行動だったりするのだから余計に質が悪い。
今日のこの警備任務だって、本来なら私達と一緒に行動する筈だったのだ。
でもあの子は民間協力者をしての立場を利用して、周辺での遊撃に当たる事になった。多分この辺りにいるとは思うんだけど、どこにいるのかは分からない。
「本当、あの子どこで何やってるのかしら? サボってたらタダじゃおかないわよ」
「ひっくしゅん!!」
「マスター?」
「ただの噂だよ、藍。……ティアナさん、後でシメる」
チリ紙を取り出して鼻を噛みながら、数キロ先にいるティアナさんを見てそう呟きました。
「それじゃ、続きを始めようか、藍」
「はい」
現在、私がいるのは地上本部周辺にあるビルのうちの一つ、その屋上です。
「狂気を操る程度の能力」で自分の魔力反応を隠しながら、「千里先を見通す程度の能力」と併用し、周辺のサーチを行っていきます。
「えーっと……、今の所、反応無し、と。そろそろゼストさん辺り、引っかかっても良さそうなモンなんですけどねえ……」
「……マスター」
「どうしたの、藍?」
「本当にいいんですか?」
「何の話?」
「とぼけないで下さい。今回の作戦についてです」
「……」
「この方法だとリスクが大きいです。私としては、今からでも安全策にシフトするべきだと思います」
藍の言わんとする事は分かる。今回起こる地上本部襲撃テロ、それに対する私の計画について、その危険性を心配してくれています。
確かに私の立てた計画はリスクが大きいです。でも―
「ごめん、藍。それは出来ないよ」
「……」
けど、その分メリットも大きい。
上手く行けばゆりかごを起動させる事なくJS事件を終了させられるし、私が抱える秘密だって全て守れる。全部を上手く行かせようとすれば、この作戦以外には残っていなかった。
「私の目的はJS事件を解決するだけじゃない。もし解決できたとしても、以前と同じような生活に戻れなかったら意味が無いんです」
「……」
「大丈夫だよ。きっと上手く行くから。だから、頼りにしてるよ、藍」
「……分かりました」
渋々、といった感じではあるものの、藍は了承してくれました。
実際問題、藍に拒否されると私は夢幻珠を使えないので、内心かなりホッとしています。
公開意見陳述会まであと二時間。おそらく襲撃はその4時間後。
私の人生を左右する大一番が、すぐそこへと迫ってきていました。
『……、あ、フェイトのとっつぁんじゃないですか。どうしました?』
―同時刻 地上本部内部にて―
『……、以上だ。今の所、外は特に異常無し。エリオとアギトは今休憩中で、ティアナとスバルが警備に当たってる』
「そっか。ありがと、ヴィータちゃん」
『どういたしまして、だ。じゃあ切るぞ』
うん、と私が返事をするより早く、ヴィータちゃんは念話の回線を切ってしまった。
「なのは、ヴィータは何て?」
「「異常無し」だって。今の所は大丈夫みたい。そっちはどうだった?」
私がヴィータちゃんと念話をしている間、フェイトちゃんはキャロちゃんと念話をしていた。聞いた話だと、この周辺で警備してくれてるらしいけど……。
「……、異常無し、だってさ」
「フェイトちゃん、またからかわれたの?」
「ううっ……」
顔を真っ赤にさせて唸るフェイトちゃんを見て、私は自分の予想が間違っていなかった事を理解する。
キャロちゃん、意地悪は良くないと思うの。
「と、とにかくこっちも異常は無いみたいだから」
「そっか。じゃあ、こっちの警備に集中しよっか」
「そうだね」
この状態のフェイトちゃんをもう少しだけ見てみたいと思ったけど、今はお仕事中。ちゃんと警備しないとね。
「……ねえ、なのは」
「なあに、フェイトちゃん?」
「みんな、大丈夫かな?」
と、フェイトちゃんはさっきまで赤面していたのが嘘のように、心配そうな顔で私に問いかけてきた。
「大丈夫だよ。信じてあげよう、みんなの事。あっちにはヴィータちゃんとキャロちゃんが居るんだし、大抵の事は何とかしてくれるよ」
「……うん、そうだよね。ごめん、なのは。ちょっと弱気出ちゃった」
「にゃははは……」
とはいえ、フェイトちゃんが心配する気持ちは私も分かる。
今回の任務、カリムさん達の予想が正しければ十中八九「預言」絡み。
はやてちゃん、フェイトちゃんと一緒に聖王教会に訪問した時に聞いた「預言」。
カリムさんのレアスキル「預言者の著書」によって出てきたのは、地上本部の崩壊と、そこから派生する管理局というシステム自体の崩壊。
「預言」は古代ベルカ文字で表記されており解釈が難しく、もしかすると唯の見当違いだっていう可能性もある。だけど、そんな風に楽観視するには、この「預言」は重過ぎる。
少なくともあんな風な文言から良い風に解釈するのは、私には無理。
えーっと、どんな文章だったっけ? 確か―
古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。
死者達が踊り、なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、幻想の欠片、法の守護者に牙を剥く。
かの翼天の頂に上りし時、天空に、地獄の焔が舞い踊る。