幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第61話 その日、機動六課(1)-魔王降臨-

 ―新暦75年9月12日 18:10 地上本部地下―

 

『さあ、始めよう!!』

 

 ドクターの宣言、それがこの作戦の始まりの合図だった。

 手始めに、クア姉のIS「シルバーカーテン」による、地上本部のシステム掌握。

 本来ならそのタイミングでセイン姉が管制室に侵入して局員を無力化させる筈だったんだけど、そのセイン姉はあの事件で受けたダメージが回復しておらず、作戦に参加できなくなってしまった。

 なので、クア姉が隔壁を操作して閉じ込める。この場合、クア姉がシステムを監視し続ける必要があるけど、どの道クア姉は戦闘に参加しないので、作戦全体に影響は無い。

 

「ノーヴェ。そろそろ私達も行くっすよ」

 

「ああ」

 

 パートナーであるウェンディに返事をしてから私も動き出す。

 今回の作戦目的はタイプゼロ、タイプゼロ・セカンド、そして聖王の確保。

 私達の担当は、その内のタイプゼロとタイプゼロ・セカンドだ。

 

「ウェンディ、反応は?」

 

「セカンドがこっちに接近中。ファーストの所にはチンク姉が向かってるっす」

 

「了解。ならさっさと片付けて、チンク姉の所に―」

 

 

 

 

 ―その必要はありませんよ。境符「波と粒の境界」―

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 いきなり背後からかけられた声に振り向くと、そこにあったのは無数の弾、弾、弾……。

 視界を埋め尽くす程の馬鹿げた数のシューターがこっちに向かって殺到してきた。

 それに対し、私は咄嗟に障壁を展開させる。

 

「くそっ、何なんだよ!?」

 

 さっきまで、自分達の周囲には何の反応も無かった。

 生体反応、魔力反応共にゼロだったし、転移魔法の形跡だって無かった。

 油断していたのは事実だけど、不意を突かれるような要素は無かった筈。

 なのに、こうやって攻撃に晒されている。

 

 ……いや、今はこんな事を考えている場合じゃない。

 

 未だパニックになっている頭を戦闘用にシフトさせる。

 事実として、今自分達は襲撃を受けている。

 なら、やるべきは原因究明ではなく……、対処!!

 

「おおおおっ!!」

 

 障壁を維持しながらローラーブレードを加速させ、弾幕に対して直角に動いて物陰へと移動する。

 

「くっ!!」

 

 障壁は前面に集中して張っているので側面は脆い。

 そのせいで移動の際何発かもらってしまったけど、あの場に留まっているよりはよっぽどマシ!

 私が物陰に隠れて数秒後、通路に降り注いでいた弾幕は止み、辺りは再び静寂に包まれた。

 

「……ウェンディは!?」

 

「あれ? 一人仕留め損ねました?」

 

「!?」

 

 冷静になった所で、私はようやくパートナーの事に気が回るようになれた。

 ウェンディの安否を確かめようとした矢先、聞こえてきたのは子供の声。

 

「まあ良いです。どうせ直ぐに片付きますから。……そこにいましたか」

 

 声の方を見てみれば、そこにいたのは声のイメージにぴったり合致した子供。

 そして、真っ二つにされた上で氷付けになっているライディングボードと、全身を鎖で拘束されて気を失っているウェンディがいた。

 見た所酷い外傷は見当たらないけど、固有武装が完全にイカれている以上、戦線復帰は絶望的だ。

 

「ウェンディをやったのはお前か……」

 

「全く、余計な手間取らせないでくださいよ。こっちはさっさと片付けたいんですから」

 

「誰だてめえ……」 

 

 そう言いつつも、私はドクターや皆に与えられた情報から、その答えを想像できていた。

 なのにこうやって聞いたのは認めたくなかったから。

 10歳程度の幼い容姿、桃色の髪の毛、頭のリボンと袖の破れたシャツという特徴的なバリアジャケット。

 それらから導き出される答えは―

 

 

 

 

「民間協力者のキャロ・シエルです。とりあえず……、やられちゃってください♪」

 

 

 

 

 ドクターが「最大の不確定要素かつ障害」と評した少女が、私の前に立ちはだかった。

 

 

 

 

 ―数日前―

 

「以上が当日のプランよ。分かった」

 

「あ、ウーノ姉、ちょっと質問いいっすか?」

 

「何?」

 

「このキャロってガキなんですけど、何で「最大の不確定要素にして最大の障害」なんすか? はっきり言って、こんなCランクのガキよりも、隊長陣の方がやっかいじゃ?」

 

「……ウェンディ、お前、ちゃんと話聞いてなかったろ?」

 

「見かけこそ子供だが、この前の戦闘記録を見るに実際の実力はAAA~Sはある。書類上ではCランクだが、アテにはできない。クアットロ、お前はどう思う?」

 

「そうねえ~、私のシルバーカーテンを見破った辺り、普通じゃないと思うわよ~」

 

「……マジっすか」

 

「加えて、コイツは正規の局員じゃなくて民間協力者。作戦ではガジェットのAMF展開で隊長クラスを無力化する予定だが、コイツは自分の判断で勝手に動くから動きが読めない」

 

「だから「最大の不確定要素」って事っすか。じゃあ、もしコイツと会ってしまったら、どうすれば良いっすか?」

 

「それもさっき説明したんだけど……。もう一回だけ言ってあげるから、今度は忘れないように。他の皆も念のため、もう一回聞いておきなさい。いい? 出会った場合、相手をせずにやり過ごす、ないしは複数で足止めして時間稼ぎするように。私達の中で最強のトーレはともかく、それ以外の皆は間違っても一人で倒そうなんて考えないで」

 

 

 

 

(くそっ! よりにもよって私の所かよ!)

 

 ウーノ姉からの忠告を思い出し、私は内心でそう毒づく。

 決して楽な任務とは思っていなかった。

 だけどそれ以上に、私は戦闘機人としての自分の性能を信じている。タイプゼロにだって負けるつもりは無い。

 チーム戦になっても、こっちにはウェンディやチンク姉がいる。だから、何があっても大丈夫の筈だった。

 

 筈だったのに、たった一人のイレギュラーが、それをめちゃくちゃにしてしまった。

 既にウェンディは無力化されている以上、私が取るべき行動は一つ。

 「一旦離脱してチンク姉と合流」、それしか無い。

 

 私は目の前にいる子供の様子を見ながら、同時に周囲をサーチして逃走経路を模索する。

 後は、一瞬でも隙が出来れば―

 

「アレ? 逃げるつもりなんですか?」

 

「!?」

 

 見透かされてる?

 いや、例えそうだとしても、するべき事は変わらない。

 向こうが暢気に会話してくるのなら好都合だ。何とか隙を見つけて―

 

「この子置いてっちゃうんですか? あのメガネといい、戦闘機人って、薄情なんですねえ」

 

「てめえ……、ッ!!」

 

 その物言いに頭が沸騰しそうになるのを、理性を総動員して必死に抑える。

 ……ああ、そうだ。今までできるだけ考えないようにしていたけど、仲間がやられてそのまま逃げる、なんてとてもじゃないけど許せない。出来ることなら今すぐテメエをぶん殴りたい。

 けど、今は作戦中。私一人のミスが全体に影響する。

 だからこそ、この衝動は抑えないといけない。

 冷静に、指示の通りに動かないと―

 

「「ディープダイバー」が使えない以上、ここで放置したらまず管理局に捕まりますよ? それでも良いんですか?」

 

 ……今コイツ何て言った?

 

「テメエ、何で……」

 

「あ、やっとまともに会話してくれましたね。それで、何でっていうのは何に対してですか? 私がISの事を知っている事? それとも―」

 

 そこで目の前にいる子供は一旦言葉を切る。

 そして、いかにも楽しそうに笑いながら、続きの言葉を発した。

 

「何でセインさんが爆破された事を知っているか、ですか?」

 

 それを聞いた瞬間、私は理解する。ああ、やったのはコイツなんだと。

 レリックのケースに爆弾を入れるなんていう外道の所業をしておきながら、コイツは笑っているのだ。

 

 

 

 

「出会った場合、相手をせずにやり過ごす、ないしは複数で足止めして時間稼ぎするように。戦闘機人最強のトーレはともかく、それ以外の皆は間違っても一人で倒そうなんて考えないで」

 

 

 

 

 ウーノ姉の忠告が再び頭をよぎる。でも―

 

「そんな事、出来る訳無えだろ!! ジェットエッジ!!」

 

≪Air liner.≫

 

 堪忍袋の緒が切れる、っていうのは、きっと今の私の事を言うんだろう。

 自分の姉や妹を傷つけた張本人が目の前にいる。そんな事―

 

「許せねえに決まってるだろうが!!」

 

 そうだ、私は何を恐れていたんだ?

 目の前にいるのはたかが子供。魔力だってそんなに多くない。

 この足で蹴り飛ばしてやれば、それで終わりなんだから。

 エアライナーで目標までのレールを引き、それに乗って一気に接近。

 同時にカートリッジをロード。

 ジェットエッジに魔力が充填され、開放の時を今かと待っていた。

 

「リボルバー・スパイク!!」

 

 そして、私は目標のこめかみへ向かって回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念でした。魔王「天地魔闘 極」」

 

 

 

 

 ―地は防御―

 

「霊撃!!」

 

「なっ!?」

 

 蹴りが当たると思われた寸前、奴は懐から何かを取り出すと、私の体に全身を何かに殴られたような衝撃が走る。

 そのまま吹き飛んでいくかと思ったけど―

 

「アルケミックチェーン」

 

 その動きは途中で止まる。足元を見てみれば、地面から鎖が生えてきており、それが私に巻きついて拘束する。

 

 

 

 

 ―天は攻撃―

 

「華符「破山砲」!!」

 

「が、あっ……」

 

 がら空きになっていた腹部に、奴の拳が突き刺さる。

 魔力も篭っていない筈のそれは、ミシミシという嫌な音を立てながら、私のボディを蹂躙して―

 

 

 

 

 ―そして魔は魔力の使用―

 

「鳳翼天翔!!」

 

「あ、あ、……」

 

 腹部に負ったダメージのせいでまともに喋れない所に飛んできたのは、炎を纏った巨大な鳳凰。

 それが自分に向かって飛んでくる光景を最後に、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、取りあえず、これで片付いたかな」

 

 私の足元に倒れているのはノーヴェさんにウェンディさん。

 ウェンディさんは開幕奇襲で瞬殺。ノーヴェさんは挑発してから天地魔闘で返り討ちです。

 

「あとは……。藍、モード「萃」」

 

『了解です』

 

「酔符「鬼縛りの術」」

 

 気絶している二人を鎖で拘束。同時に「密と疎を操る程度の能力」を発動させて、二人の魔力と体力、あと念のために霊力を片っ端から霧散させていく。

 これで万一意識を取り戻したとしても、まともに体を動かす事すら出来なくなり、完全に無力化できます。後は縛ってその辺に放置しておけば、ここを通るスバルさん達が確保してくれるという寸法です。

 

「よし、これで終わりっと。藍、次行こうか」

 

「はい、マスター」

 

 私はスバルさん達の魔力反応を確認しながらも、あえてそれとは合流せず、スキマを開いて次の目的地に向かいます。

 時間は有限。こんな所でのんびりしていられないです。だって―

 

「ナンバーズを全滅させるには、悠長なことしてられませんしね。さ、次行きますか」

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