―数分前―
「それじゃ、最後にもう一度だけ確認しておくね」
「はい、マスター」
地上本部周辺にあるビルのうちの一つ、その屋上で、私と藍は付近の地図を広げて最終確認を行っていました。
「最初、あのメガネが本局のシステムに侵入してくると思うけど、これはスルーね」
「こちらも全力で戦えるように、ですね?」
「うん。態々向こうがやってくれるんだから、利用させてもらうよ」
作戦その1、クアットロの完全無視。
このメガネを放置しておくと、地上本部のシステム掌握、AMFによる地上本部内部にいる魔導師の無力化、それに付随した隊長陣の参戦の遅れ、等様々なデメリットがありますが、今回はあえてそれをスルーします。
その第一の理由は、私、というか夢幻珠の事を出来るだけ秘密にしておきたいという事情です。
仮にシステム掌握の妨害に成功したとしましょう。その場合、隊長陣を始めとする強力な味方の参戦、指揮系統の早期復旧等様々なメリットがあります。
けれど、それは同時にミッドに張り巡らされている定点サーチャーの作動も意味します。
ナンバーズ達との決戦が予想される以上、私は手加減なんてするつもりはありません。今までだって要石とか色々やってました(はやてさんが必死に後始末してました)けど、それ以上の事だってやらざるを得ない状況になる事だって十分考えられます。
けれど、全力戦闘の様子が記録に残ってしまうのは色々と不味いです。
私の目的はJS事件を乗り切ってからテキトーに人生を楽しむ事。なので管理局やその他の組織に追い回されそうなフラグを立てるなんていう事は全力で避けるべきです。
まあ、定点サーチャーが機能していなくてもナンバーズ達やガジェットの記録に残る可能性はありますが、それはそれ。しなくても良い後始末まで増やしたくないのです。
「で、まずはノーヴェ&ウェンディのコンビをチンクさんに合流される前に撃破。次にチンクさんをギンガさんと二対一で。その次がトーレ&セッテの所。エリオ君やフェイトさんが居れば理想なんだけど、そこは状況次第ね。で、最後に六課のオットー、ディード、ルーテシアちゃん。ゼストさんは前に言った通りスルーで行くよ」
作戦その2、戦闘タイプのナンバーズの全員撃破。
今回の地上本部襲撃の真の狙いは、聖王のクローンであるヴィヴィオちゃんです。
当初、私は「ヴィヴィオちゃんだけスキマに放り込んでおけば解決するんじゃ?」と考えました。
けれど冷静に考えてみると、スカさんが一回や二回襲撃失敗した位で諦める訳が無いことに気付きました。
仮にスキマを使って今回の難を逃れられたとしてもヴィヴィオちゃんが向こうにとっての鍵である以上、必ず第二、第三の襲撃が起こります。
今回は原作知識という情報のおかげでこうやって事前に先回りできていますけど、流石にいつ来るか分からない襲撃者に対して毎日警戒し続けるというのは、そういう事に慣れていない自分にとっては、あまり有難くない事態です。あと、長引くと折角リタイアさせた(筈の)セインさんが復帰してくる可能性も出てきます。そうなると、ヴィヴィオちゃん防衛の難易度が更に跳ね上がってしまいます。
そう言った理由がある以上守りの戦略は不利。攻める必要があるのです。
そこで、話が冒頭に戻ります。
攻め、と言っても何をすれば良いか?
こちらの勝利条件としては、スカさん側がどうやってもヴィヴィオちゃんを誘拐できないような状態にしたい訳です。
となると一番手っ取り早いのが、その実行手段、つまり、主力となる戦闘機人の全滅。それが最善にして最良です。
その視点で考えてみると、今回の襲撃はチャンスともいえます。
何せ戦闘タイプの戦闘機人が全機出撃してくれる訳ですから。探す手間が省けるってものです。
この場を利用して全滅させてしまえばゆりかごの浮上を防げますし、その間にフェイトさんやロッサさん辺りがスカさんのアジトを見つけてくれれば、そこに居るのは非戦闘タイプの戦闘機人のみ。JS事件、アッサリ解決です。
で、それを確実にする為の最後の一押し、それが
作戦その3、ヴィヴィオ囮作戦
とまあ、仰々しく言いましたけど、実際は何もせずに六課に放置してるだけ、っていう話です。
向こうの作戦目的がヴィヴィオちゃんである以上、確実におびき寄せる為には、彼女の所在が向こうに割れていないといけないという事になります。
さっきも言いましたけど、もしスキマ等で隠してしまった場合、スカさんサイドにとっては作戦失敗を意味します。
となると当然、襲撃チームは撤退してしまい撃ち漏らしが発生します。
六課にいるナンバーズを最後に回しているのもそれが理由。
オットー&ディードのコンビを倒した辺りで、トーレさんのチームは撤退しそうですからね。
「でも、本当に良いんですか?」
「藍、それ30分前にも言ってなかったっけ?」
「ですが、やはりマスターの負担を考えると……」
こうやって藍が心配してくるのは、もう何度目になるか分からないです。
作戦を決めた時には了承してくれたものの、こうやって30分おき位に心配そうに訪ねてきます。
藍が心配しているのは、この作戦における私の負担。
「ナンバーズの全撃破」なんて目標である以上、当然、連戦する必要があります。
非ナンバーズであるルーテシアちゃんを含めると、その数、合計8人。ガリューを足すと9人? です(当初はゼストさんも相手にする予定でしたけど、放置していても大勢に影響が無く、むしろ相手にした場合、フルドライブで沈められる危険性まであるので、結局放置に決定しました)。チンクさんやトーレさんの時みたいに複数で当たれる局面もありますけど、それでも負担が大きいです。
「ま、仕方無いよ。こうやって色々知ってるのが私と藍だけなんだから、私達で何とかするしか無いんだし―」
それに、と言葉を続けながら、私は先日の事を思い出していきます。
「考えてみれば、一人の方が色々好都合だしね。ほら、この前の事とかもあるし」
「そうでしたね」
私の言葉で思い出した藍がため息をつきました。
この前、っていうのは、先日に行われた健康診断の事です。
あの一面真っ赤のカルテが原因で、私=半妖っていうのに気付くきっかけになった事件。
結局あの後藍と色々相談した所、藍の協力で「ちょっと不健康な子供」程度に見えるように、再検査の結果を誤魔化す事にしました。
検査自体はそれで通り、事無きを得た筈だったんですが……。
まあ半ば予想通り、その日を境にシャマルさん、あとはやてさんが、何かを聞きたそうな顔をしてチラチラとこっちを見てくるようになりました。
以前、私が霊力について話をした時も同じような事があったんですけど、今回のはその時よりも長いです。
シャマルさんなんかは「最近悩み事とかない?」って感じで聞いてくるんですよねえ。しかも口だけじゃなくて心から心配してくれているみたいで。多分、悩んでいる内容よりも悩んでいるっていう事自体を心配してくれてるんでしょうけど。
内容が内容である以上喋れないのは確定なんですが、そうやって善意100%で来られるとこっちの良心にズキズキ来る訳で。
結局適当に誤魔化したり、話をそらしたり、逃げたりしてその場を凌いでましたけど、色々疑われている状況は一切変化無し、という訳です。
「大丈夫だって。ちゃんとナンバーズ全員の対策も考えてあるんだから。……っと、そろそろ時間だね。行くよ、藍」
「……はい、マスター」
「んくっ、んくっ……。ぷはーっ!」
ウェンディさんとノーヴェさんの撃破に成功した私は、スキマ移動によって次の交戦地点の少し手前に降り立ちました。
手に持っているのは国士無双の薬。霊、魔、妖力を回復する効果のあるそれを、一気に喉に流し込んでいきます。
さっきの戦闘は比較的想定通りに事を運べました。
閉鎖空間で、いきなり何の前触れも無い状態からの飽和射撃。
熟練の魔導師でも不意を突かれるであろう攻撃に、ナンバーズの二人は足を止めてしまいました。
いきなり狩る側から狩られる側に回った動揺もあったんでしょうけど、後期型のナンバーズの弱点は実戦経験の不足、という仮説は大当たりでした。
まず不意をついてウェンディさんを襲撃。その戦闘力のキーであるライディングボードを真っ二つにして冷凍した後、本人に接近して拳一閃。ウェンディさんは何が起きたか分からないといった表情のまま倒れていきました。
それと同時に、ノーヴェさんが逃げていくのを確認。この時点でノーヴェさんに追撃を加えるのも可能でしたけど、あえてそれをスルー。その後挑発を混ぜながら、セインさんの情報を聞き出す事に成功しました(ちなみに最初の襲撃でノーヴェさんの方を残したのは、挑発に乗りやすそうな性格だから)。
「波と粒の境界」で結構霊力を喰いました(直後の天地魔闘で、防御の部分を霊撃とバインドにしたのはこれが理由)けど、それも想定内。ここまでは100点満点といえる出来です。
「よっし、回復!! んじゃ、次行きますか」
薬の効果はすぐに発揮され、先の戦闘で消費した分のエネルギーは回復。何だか色々漲ってくる感覚がしてきます。
まずはこれで一本目。
色々実験してはみたものの、一定量以上飲むと自爆する、という欠点はついに解消される事は無いまま、今日という日を迎えてしまいました。
自爆のボーダーラインともいえる容量、一瓶につき、その三分の一の量が詰めてあります。
つまり、回復できるのはあと二本分。そうそう無駄遣いは出来ません。
私は地下通路を走って、目標の所へと急ぎます。
すぐ近くにスキマを開いた事もあってか、その数秒後には、目標の地点へと到達しました。
そこでは既に戦闘が始まっており、所々から爆音が聞こえてきます。
「なら……。シュート!!」
私はギンガさんの姿を確認した後、相対している相手に向かって牽制用の弾幕を発射。その隙にギンガさんと合流しました。
「ギンガさん、大丈夫ですか?」
「キャロ!? どうして?」
「細かい事はとりあえず後で。今は―」
「む、新手か?」
「……あの人をどうにかしないとです」
弾幕を放った向こうから聞こえてきた声に、私とギンガさんは身構えます。
弾幕のせいで舞い上がった煙の向こうから歩いてきたのは、かつて私に優しくしてくれた人。
戦闘機人NO.5、チンクさんが、こちらを鋭い眼光で見つめてきました。
「はっ!!」
かけ声とともに放たれた8本のナイフ、それが飛んでくるのを切っ掛けに、戦闘が再開されました。
ギンガさんはそれに対して垂直に移動。
私はそれをグレイズ……なんていう事はせずに、ギンガさんの反対側にダッシュしました。
そして、ナイフが私達の居た地点を通過し、いきなり白熱化したかと思ったら、次の瞬間には爆発。それにより発生した爆風が、私の頬を撫でていきました。
これがチンクさんのIS「ランブルデトネーター」。
攻撃をグレイズで回避する事を基本戦術にしている私にとって、「ナイフを爆発させる」という、正に天敵ともいえる能力です。
色々と誤解されていそうですが、私の防御力はそんなに高くありません。
3種類の力を使える、というのが私の強みですけど、一つ一つを取ってみるとAA~AAAの間くらい。最高出力に関して言えば、魔力のみでSを超えている隊長クラスやヴォルケンズの皆さんには及びません。
それを補うために身に付けたのが、遠距離攻撃を凌ぐためのグレイズ、近距離戦を拒否して距離の出し入れをするための霊撃、大威力攻撃を一瞬だけ耐えてカウンターで潰す天地魔闘です。
要するに、グレイズ不可であるランブルデトネイターは、私とは相性最悪、という訳です。
『ギンガさん、まだ動けますか?』
『うん。大丈夫』
『じゃあ私が何とか隙を作りますので、合図したら突っ込んでくれますか?』
『分かった、了解』
迫り来るナイフの雨をモード「橙」で大きく回避しながら、ギンガさんと念話で簡単な打ち合わせをします。
確かに、現状では私は不利。けどそれをひっくり返すための手札は、既に私の手の中にあります。
『藍、モード「白沢」』
『了解です』
ナイフ爆弾を回避しつつモード変更。「歴史を食べる程度の能力」を持った形態に切り替えます。
私は以前の空港火災の時、チンクさんを逃がす代わりに、「私と会ってからの歴史」を食べる事によって、チンクさんから記憶を奪っています。
では、ここで問題。その歴史を戻せばどうなるのか?
失われた筈の歴史と、それに伴う記憶の復活。それはチンクさんの頭に、一種のフラッシュバックを発生させる事になります。
そして、それによって発生するであろう「思考の空白」は、戦闘中においては致命的な隙になり、そこを突けばアッサリ撃破可能、という寸法です。
……正直言うと、あの歴史をこんな目的に使うなんていうのは、私だって嫌です。
でもなるべく消費を抑えつつチンクさんを下そうと思うと、それ位しか方法が無いのも事実な訳で……。
……うん、JS事件が解決したら、チンクさんには思いっきり謝ろう。
『ギンガさん、そろそろ行きます』
『了解』
ギンガさんに念話をしながら、私達はナイフを凌ぎ続ける。そして―
「歴史還(がえ)し―」
その一言をきっかけに、私は失われた歴史を元に戻しました。
―じゃあ、桜、っていうのはどうかしら―
え?
―桜、ですか?―
なに、これ?
―そう、桜。この子の髪の毛って綺麗な桜色だから―
あれは……藍? それと……。
―私は〇〇、あなたは〇〇、あの子は〇〇。なら、この子も色にちなんだ名前の方が「らしい」と思わない?―
じゃあ、このひとは……。
―そうですね。それに、桃だと語呂が悪いですし―
ううん、ちょっとまって。
―やくも もも、ね。……それでも良いかも―
わたし、こんなのしらない。
―絶対後で恨まれますよ、それ―
いや、ほんとうにしらない?
―ふふ、冗談よ。じゃあ決まりね―
ううん、そうじゃない。
―いい? 貴方の名前は―
これは、あのときの―
―八雲 桜よ―
「キャロ、危ない!!」
「!?」
アレ? 今、何を……ッ!!
ギンガさんの声に、私は戦闘中であることを思い出す。
とにかく今やるべき現状把握、状況確認をしようとしたのですが―
「あ」
詰んだ。未だに戦闘モードになりきれていない頭の片隅で、どこか冷静な自分がそう呟いた。
目の前にあるのは無数のナイフ。それらが私の回避方向の全てを潰すかのように飛来してきています。
スキマを開いて回避?
無理。形態変更している間に被弾する。
グレイズ?
駄目。爆発に巻き込まれるだけ。
霊撃?
札を出すまでのタイムラグが致命的。間に合わない。
障壁張って耐える?
現状取りうる選択肢の中では最善。
けど、ナイフの量、爆発の規模から計算すると、まず耐え切れない。
(それでも何もしないよりは!!)
一瞬で思考を終えた私は、せめて生き残るだけでもという思いから障壁を展開する。その0コンマ数秒後―
ドォォォォォォォォォォォォォン!!
私のいる地点を中心に、大爆発が巻き起こりました。
「大丈夫、キャロ?」
「へ? ギンガ、さん?」
半ば死を覚悟した数瞬後、私の目の前にはギンガさんの顔がありました。
「大丈夫だよ。まだ生きてる」
その顔は笑顔で、私を安心させようという気持ちが読み取れます。
「でも、ちょっとごめん」
そう言って寄りかかってくるギンガさんを、私は受け止める。
でも、その腕を触った時に感じた感触。
金属を彷彿させるそれは、ギンガさんの骨格フレームが剥き出しになっている事を示していて。
「ちょっとだけ、休ませて」
その言葉を最後に、ギンガさんは目を閉じました。
「ギンガさん!?」
『マスター!! 大丈夫です、気絶しているだけです!!』
藍の声に我を取り戻した私は、急いでギンガさんの様子を見る。
気は失っているものの、呼吸はしっかりしている。藍の言った通り、命に別状は無さそうです。
それを見てようやく落ち着けた私は、現状の把握に入りました。
『藍、何があったの?』
『マスターが歴史を還した瞬間、確かに向こうの動きは停止しました。ですがそれと同じくして、マスターも動きを停止しました。そして、先に復帰したのが―』
『チンクさんの方、という訳ですか』
藍から説明を受けた私は、現状を完全に理解しました。
……私のせいだ。
私が隙を晒したせいで、ギンガさんが傷ついてしまった。
私がする筈だった合図が無いせいで、ギンガさんはチンクさんの隙を突けなかった。
それどころか、ただの的になっていた私を守るために、こうやって我が身を盾にしてくれた。
全部、私が招いた結果だ。
「キャロ、か?」
向こうからかけられた声に、私は顔を上げる。
そうだ、まだ戦いは終わってなんかいない。
「はい。お久し振りです。チンクさん」
「……全部思い出したよ。あの時は世話になったな」
「いえ、どういたしまして」
「だが、私にもやらねばならぬ事があるのでな。悪いとは思うが―」
「気にしないでください。今すっごい自己嫌悪中なんです。悪いですけど、八つ当たりに付き合ってくれますか?」
「仕方無いか……、行くぞ!」
その掛け声と共に、先程と同じようにナイフの雨が降り注ぐ。
「藍、モード「龍」」
私はそれに、身体強化と障壁をかけて真正面から突っ込んだ。
ドオォォォォォン!!
障壁に当たったナイフが片っ端から爆発する。
鼓膜が破れそうな爆音が耳元で聞こえるけど、それを無視。
障壁の強度のみに注意しつつ、私は突進を続ける。
「な!? くっ!!」
私の取った行動に驚愕するチンクさん。でもそれも一瞬の事。すぐさまナイフを取り出し、先程の倍の量を投擲してきました。
ドン!! ドン!! ドン!!
「かっ……、ああああああ!!」
それを始まりとして、連続して飛来してくるナイフ爆弾。
そのうちの一本が障壁を貫いて、私の懐で爆発する。
「気を操る程度の能力」の恩恵で防御力が上昇しているとはいえ、元々防御が不得手な私は、それだけで意識が飛びそうになります。
けど、それがどうしたっていうんですか?
ギンガさんが傷ついたのは、私が魔力節約のための作戦を実行したからだ。
我が身可愛さが招いたミス。
そんな事をやっておきながら平気でいられる程、私は強くない。
既に霊力障壁は半壊しており、ナイフ爆弾の数本が素通りしてくるのを身体強化で無理矢理耐える。
切れそうになる意識を必死に繋ぎとめながら、それでもその足を止める事なく―
無限に思えるような時間が過ぎて、私は―
「霊……、撃!!」
「ガッ……ッ!!」
チンクさんの懐に潜り込んだ私は、即座に霊撃札を取り出して発動させる。
チンクさんが着ているジャケットはある程度の防御効果があるんだけど、質量保存の法則には逆らえない。衝撃を叩きつけられた体はそのまま吹き飛んでいく。
零距離霊撃で吹き飛ばされたチンクさんは、そのまま壁に叩き付けられ―
「恋符「マスタースパーク」!!」
それを追うように放たれた桜色の砲撃が、その意識を刈り取りました。
「はあっ、はあっ……」
戦闘が終わり、私は肩で息をしながらギンガさんの方へと向かっていく。
「どれだけ効くか分からないけど……」
そして気絶しているギンガさんの口に、国士無双の薬、二本あるそのストックのうちの一本分を流し込んでいく。
さすがに一本全部は飲みきれなかったみたいで、瓶には半分程度残っています。
それでも回復効果はあったみたいで、顔色がさっきよりも良くなっています。
うん、これなら大丈夫そう。
私は残りの分(一瓶と半分)の薬を飲んで、ほぼ空になっている力を回復させる。
それと同時に、チンクさんをさっきノーヴェさん達にやったのと同じ方法で無力化させていきます。
「次、行かないと」
私はスキマを開いて、次の戦場へと移動する。
回復した私の力は、全快時の7割程度。
予定外のアクシデントのせいで、頼りにしていた国士無双の薬はもうそのストックが無い。
しかも、ここでの戦闘が長引いたせいで予定が押している。
全滅が当初の目標だったけど、修正する必要がありそう。
「でも、やらなきゃ」
そう呟いて、私は決意を新たにします。
全ては平穏のために。
ここさえ凌げば、それが手に入る筈だから……。