「エリオ、アギト、ちゃんと付いて来れている?」
「はい、大丈夫です」
『これくらいならまだ平気だ』
「そう。なら、もう少しペースを上げるよ。いい?」
「『了解』」
すでに日は落ち、夜中と言ってもいい時間帯。
すっかり暗くなったミッド沿岸部の上空で、私とエリオ、それにアギトの3人は、六課へ向かって飛行していた。エリオは既に、アギトとユニゾン済みだ。
こうなった経緯は30分ほど前まで遡る。
公開意見陳述会も終盤にさしかかった頃、突如として現れたガジェットの集団は瞬く間に地上本部の周りを取り囲み、AMFによって中にいる魔導師を無力化させた。
私となのはの二人は、エレベーターの昇降路を通って予め集合場所に決めておいたポイントに移動。そこでフォワードの皆と合流してデバイスを受け取った。
ここに着くまでの途中、フォワードの皆はガジェットとの戦闘があったらしいけど、特に危なげもなく撃破したらしい。魔力、体力ともにまだまだ余裕がありそうだ。
それよりも驚いたのは、スバルが背負っていた二人の事だった。
戦闘機人である事を分かりやすく表す、水着のようなボディースーツに身を包んだ女の子。それが気絶した状態で、鎖でぐるぐる巻きにされていた。
ティアナ達が言うには、自分達が到着した時には既にこの状態で通路に放置されていたらしい。
こんな事が出来るのは……。
「多分、ですけどキャロじゃないかと」
「かもね。そう言えば、キャロとの連絡は?」
「それが……!? ギン姉!?」
「スバル?」
「今、ギン姉から念話が……。今戦闘機人と交戦中。キャロも一緒だって!!」
「……なのは」
「うん」
スバルに届いた念話を受けて、私達は動き出す。
私達を追ってきたシスター・シャッハに、はやて達のデバイスと戦闘機人二名の身柄を預ける。
そして、そのやりとりの途中に届いた六課襲撃の報。それにも対応するため、私達は二手に別れることになった。
飛行手段を持たないスバルとティアナがいるので、スターズはギンガとキャロの援護に、エリオはアギトとストラーダのおかげで限定的にだけど飛行が可能なことから、ライトニングは六課へと急行する事になった。
『ったく、留守を襲うなんて汚え奴らだ。そんな奴ら、このアギト様がぎったんぎったんに……ッ!!』
「!!」
アギトの声が不自然に途切れた瞬間、私はエリオの前に出てディフェンサーを発動させる。その直後、ディフェンサーに魔力弾が当たり、ギギギギ、と障壁と競り合った。
幸い魔力弾はそれ一発のみだったので、私の防御力でも耐え切れた。
攻撃を凌いだ後、私の前にいたのは―
「戦闘……機人!!」
前の戦闘の時に見た長身の戦闘機人と大きな剣を腕に付けている戦闘機人の二人が、私達の前に立ち塞がった。
(どうする?)
ここで出てきた以上、目的は私達の足止め、それは間違い無い。
なら、私達のやるべき事は―
『エリ『フェイトさん!!』!?』
エリオに指示を出そうとした所に割り込むように、私に念話が届く。
この声は―
『キャロ?』
『はい! 今行きます!』
その声に応えるように、遠くの方から一筋の光が飛んでくる。
いつものように凄まじい速度で飛んできている。この調子だと数秒後には合流できるだろう。
当初は私一人でここを抑えてエリオ達を先行させるつもりだったけど、キャロがいるのならここで二人を撃破してから六課に向かうことも可能。
ここにきて、私は運が向いてきているのを感じた。
戦闘機人の二人も気付いたのか、こちらに向かってくる光に対して身構える。
その数秒後、キャロはその速度を全く落とさずこちらに接近し、
そのまま私達の所を通過していった。
『フェイトさん、そっちはお願いします!!』
「え、えええええええ!?」
あまりにも予想外な事に、私は思わず声を上げてしまった。
いや、理屈としては理解できる。
元々、足止め役と六課に向かう役とで分けるつもりだった。
その点で言えば、即断即決で迷わず六課に向かったキャロの行動は、間違いなくベストに近い。
なのに、何でだろう?
『何でこんなに泣きたくなってくるんだろうね?』
『フェイトさん!?』
『私達の事を信じてくれてるからだって!! ……多分』
『あーうん、そうだよね……』
アギトのフォローを聞いて、私はそう思う事にする。
と言うか、そう思わないとやってられない。
今の状況が、賞金首時代とか空港火災の時に似ているなんていう事は無いったら無い。
……無いんだってばぁ。
「はあ……、行くよ。エリオ、アギト」
「りょ、了解」
『お、おう!』
とりあえず気を取り直して、目の前の相手に向き直る。
キャロが向かった以上、きっと六課は大丈夫だろう。
なら、私達はここで頑張るだけだ。
「行くよ、バルディッシュ」
≪Yes sir.≫
「ザフィーラ、今!!」
「おおおおおおおおっ!!」
隊長陣不在の六課に突如として襲来したガジェットの大群。
それを食い止めているのは、シャマルとザフィーラであった。
シャマルが障壁でガジェットのレーザーを防ぎつつ、隙を見てバインドを放つ。
拘束されたガジェットはザフィーラの爪と牙によって、そのボディを破壊された。
時にはザフィーラも守備に回り、防衛メインでガジェットの群れをさばいていく。
戦闘開始からまだあまり時間が経過していないので、二人は体力、魔力ともにまだまだ余裕があった。
『今こっちに皆が向かってきてくれてる。それまで何とか耐えるわよ』
『……分かった』
そんな一人と一匹の様子を上空から見ている者がいた。
戦闘機人ナンバー8、オットー。ナンバー12、ディード。そして―
「……まだなの?」
「ガジェットに波状攻撃を仕掛けさせています。向こうの消耗を考えると、突破は時間の問題かと」
そう、とそっけなく返事をして少女、ルーテシアはしばらくの間、何かを考えるように黙り込んだ。やがて―
「私も手伝う」
「良いのですか?」
「……早く終わらせたいから」
オットーの返事を待たないうちに、ルーテシアはアスクレピオスを起動させる。
喚びだすのは、己の最も信頼する相棒であり、母親と同じくらい大切に思っている友達。
「ガリュー、全部、「貫いて」」
―数日前―
「何、義手を替えたい、だって?」
「うん」
六課襲撃より少し前、私はドクターに相談を持ちかけていた。
内容は、ガリューに取り付けられたドリルを、何とか他の義手と交換できないか? という話だ。
私から見て、この武器は欠陥品も良い所であった。
まず、音がうるさい。
回転の時の機械音のせいで、相手からはこちらの居場所がバレバレになってしまう。
この前の戦闘では、この音のせいで襲撃を察知され、奇襲に失敗してしまった。
いくら破壊力があっても、当たらなければ全く意味がない。
それともう一つは、この義手に備えつけられている機能。
義手のギミックによってドリルを射出できるんだけど、一旦射出してしまうと、それからは片手で戦闘しなくてはいけなくなる。
一応、私は義手のスペアをいくつか持ってるから、召喚を使って義手を持ってくることは出来る。
でも、取り付ける時には、ガリューは私の所まで戻ってくる必要がある。
戦闘中にそんな余裕があるとはとても思えない。
「成る程、確かにそうだね」
「うん」
「よし、分かった。今すぐ改良を始めるから、ちょっと待ってくれたまえ」
「え?」
でも、私のお願いはドクターにはちゃんと伝わらなかったらしい。
機械の前に立って改良を始めたドクターは、あくまでドリルに拘っているみたい。
「ドクター」
「何だい、ルーテシア?」
「何で、そこまでドリルに拘るの?」
「ふむ……。そうだね……。技術者の、いや、漢の浪漫、かな?」
「浪漫?」
「そう、浪漫だ。分からないのなら、これでも見てみると良い」
そう言うと、ドクターは自分のデスクから記録用デバイスを取り出した。
それを私に渡した後、ドクターは再び作業に戻っていった。
「何だろ、これ?」
そして特にする事の無くなった私は、近くにあったコンピュータにデバイスを差し込んだ。
なんて世間知らずだったんだろう。
数日前、ドリルは役立たずなんて考えていた私を思い出すと、そんな感想しか出てこない。
ドクターが渡してくれた映像は私にとって驚きの連続で、それはドリルという物の可能性を、これでもかという位私に見せてくれた。
あらゆる物を貫く貫通力! 二重螺旋に込められた可能性! 天も次元も突破するエネルギー!
それに比べれば、静音性やリスクなんていうデメリットは無いも同然。
あれを見て確信した。ガリューの武器はドリル以外に有り得ないって。
『……』
『うん。……もう少し奥。……うん、そこ。準備は良い? ……じゃあ、お願い』
私は自分の目で見た情報を元に、ガリューに指示を出す。
やがて、ガリューの位置がピッタリになった所で、私はガリューに作戦を実行させた。
キュイーーーーーン……。
「!?」
最初にその音に気付いたのは、狼型の使い魔の方だった。
耳を立てて警戒し、緊張した様子で周囲を警戒する。
どんどん大きくなっていく音に何か気付いたのか、ガジェットとの戦闘を中断して緑色の魔導師の所へと飛んでくる。でも、そんなの無駄。
『……行って』
ズガアーーーーーン!!
「!?」
緑色の魔導師の足元が爆発。そこから飛び出してきたガリューが右手のドリルを回転させて、緑色の魔導師へと遅いかかる。
ドリルはただの武器なんかじゃない。こうやって、地下を掘り進む事だって出来る。
いくら強固な障壁で隊舎を守ろうが、それは地表に限定した話。
こうやって地下から侵入すれば、簡単に抜ける。
下から上へ。天へと向けられたドリルが、緑色の魔導師へと襲い掛かる。
「シャマル!!」
「きゃっ!!」
ガリューが目標に到達する瞬間、間に割り込んできた狼型の使い魔が、緑色の魔導師を突き飛ばす。けど―
『そのままやっちゃって。』
別に、魔導師の方から先に落とさないといけない理由は無い。
この狼型の使い魔が庇ったのなら、こっちから先に片付けるだけの話だ。
……そう言えば、クアットロが言ってたっけ。「こういう風に庇いあうのが弱点」だって。
「……!!」
「おおおおおおおお!!」
キイイイイイイイイイイイイン!!
ガリューのドリルと向こうの障壁がぶつかり合って拮抗したまま、二人は真っ直ぐに上昇していく。
下から突き上げるガリューと、上から障壁で防御する向こう。どうやら防御には自信があるらしく、ガリューのドリルはその障壁を突破できないでいた。
けどそんなのは問題無い。
一つ回せば、少しだけ前に進む。
キイイイイイン……。
未だに拮抗を続けている二人。その間で回転しているドリルの速度が、ほんの少しだけ落ちた。
パワー切れ? ううん、そうじゃない。
良く見るとドリルの先端、数ミリにもならない僅かな長さだけど、それが向こうの障壁にめり込んでいる。そうなれば、後はこっちの物だ。
二つ回せばさらにその先。
キイイイイイン……!!
「何!?」
向こうは驚いているみたいだけど、もう遅い。
僅かにめり込んだ先端を起点に、激しい回転で障壁を突き進む。
やがてドリルの先端からピッ、と障壁に亀裂が走り、瞬く間に全体へと広がっていく。
この結果は必然。だって、ガリューのドリルは、天を突くドリルなんだから!
パリーーーーーン!!
「……!!」
「がああああああ!!」
障壁を突き破ったガリューのドリルに攻撃されて、狼型の使い魔は地面へと落下する。
直前で体を逸らしたせいかお腹に風穴が空く事は無かったけど、それでも重症には変わりない。これでもう、まともに戦う事は出来ないだろう。
「これで良いかな?」
「さすがです、お嬢様」
これで、向こうの戦力はあの緑色の魔導師一人だけ。
後は私達とガリューの4人でかかればあっという間。
中にまだいるかもしれないけど、それはその時に考えよう。
とりあえず―
「ガリュー、こっちに戻って―」
―行きますよ。「幻想風靡」―
え?
何、今の声?
なんで、あの子の声がするの?
なんで
ガリューがお手玉みたいに、空中をポンポン飛んでいるの?
空中に赤い線が通過する。その度、その線上にいるガリューが、車に撥ねられたように吹き飛ぶ。
それも一度や二度じゃない。
一秒あたり5回~6回。そんな馬鹿げたペースで撥ね続けられて、ガリューの体はあっという間にボロ雑巾みたいに変わっていく。
その時間は、たぶん数秒だったんだろうけど、私には永遠に近い時間に感じられた。
そして、終わりの時がやってくる。
赤い線がガリューの頭上へと引かれて点になり、その正体、桃色の髪をした子供の姿が現れる。
その手には扇のようなものが握られており―
「突符「天狗のマクロバースト」!!」
扇を振り下ろした瞬間、そこから巨大な嵐が巻き起こる。
既にボロ雑巾のようになっているガリューはそれに逆らえず、真っ逆さまに落下していき、さっきガリューがやっつけた狼型の使い魔と同じように地面に叩きつけられて。
「ガリューーーーー!?」
「ふー、ギリギリセーフ。危なかったあー……」
「!?」
ガリューの方へ行こうと思った瞬間、不意に聞こえてきた声に足を止める。
そこにいたのは桃色の髪をした子供。
ガリューを、地雷王を傷つけた。そして今日もまた、こうやってガリューをボロボロにした実行犯。
「こっちもあんまり余裕が無いので手短に言います。さっさとやられちゃってください」
キャロ・シエル。
大切な者を傷つける、最大の敵で恐怖の象徴である存在が、私の前に立っていた。
おまけ わかりやすいガリューさんの被害レポート
思いつきで幻想風靡のダメージを物理的に計算してみた。
まず、幻想風靡中の速度を音速である340m/s、キャロの体重を30kgとする。
(本当はもっと細かいんですけど、計算の簡略化のために大雑把にしています)
これに運動エネルギーの公式を当てはめると
E=1/2×MV^2=1/2×30×340^2=1734000(J)となります。(Jはジュール)
このままだとピンと来ないでしょうが、これを時速100km/hの物体で再現しようとした場合
M=2×E/V^2=2×1734000/(100×1000/3600)^2≒4500(kg)
となり
キャロの幻想風靡体当たり=100キロで爆走している4トントラック
という等式が成立します。計算した作者自身びっくりです。
しかもそれが何十ヒット。ガリューさんよく生きてましたね……。