「くっ!!」
強い。
それが、目の前にいる二人に抱いた正直な感想だ。
セッテと名乗った戦闘機人はその行動に無駄が無い。
機械であるが故の長所である正確性。常にローリスクハイリターンの選択を続ける立ち回りで、アギトとユニゾンしたエリオと渡り合っている。
でも、対処法が無い訳では無い。
その正確さは脅威だけど、逆に言えばワンパターン。なら、そこを突けば良い。即ち、向こうの行動を一点読みした上でのカウンター。
エリオもそれには気付いていてタイミングを読んでいるんだけど、今一歩踏み込めないでいた。
一点読みというのは、外した時のリスクが大きい。
確かに、うまく決まれば勝利は間違いない。けどもし外した場合はカウンターをカウンターされる事になってしまう。
エリオもそれを理解しているので、ワンチャンスを伺いながら低リスクな立ち回りを心がけ、戦いは膠着状態になっていた。
そしてもう一人、トーレと名乗った戦闘機人は純粋に強い。
高速機動からの格闘戦という、どこか私と似ている戦闘スタイルの彼女は、その身体的スペックもさる事ながら、細かな駆け引きにおいても戦闘慣れしている事を伺わせる。
例えばそれは何気ない視線だったり、仕草だったり、そういったさりげない動作で、こっちの動きを牽制してくる。
拮抗を崩すため、隙をついてエリオの援護をしようとした事も何度かあったけど、その度に妨害に遭い、未だに攻略の糸口を見つけられないでいた。
通信妨害のせいではやてやクロノ、カリムと連絡をとれないのが痛い。
リミッター解除さえできれば……。
『ううん、無い物ねだりしてる場合じゃない。今できる事をやらないと。そうだよね?』
≪Yes sir.≫
エリオとセッテ、それにトーレ。
3者を視界に入れながら、私はバルディッシュを握り直す。
そんな時だった。
ドオォォォォォォン!!
「「「「!?」」」」
突如鳴り響いた轟音の直後、大気全体が振動している感覚が伝わってくる。
何事か、と足を止めたのは、向こうの二人も同じだった。
続いて感じたのは何者かの魔力。それが六課の方から感知できた。
でも、こんなに離れた所まで影響を及ぼすなんて普通じゃない!
「……ッ!!」
最初に動いたのはセッテだった。
今まで戦闘していたエリオに背を向け、六課の方へと一直線に飛んでいく。
当然、私がそんな事を許す訳が無く、移動先に割り込んで妨害しようと思ったんだけど―
「させるか!!」
「くっ!!」『エリオ、今すぐあの戦闘機人を追いかけて!!』
それを読んだトーレに妨害される。
私はエリオに追いかけるように指示しつつ、目の前にいる敵の相手に専念する事にした。
それにしても、さっきの魔力……。
恐らく発生源は六課だろう。付近で大規模な戦闘をしているのは、そこしかない。
でも、こんな離れた所まではっきりと伝わるなんて絶対異常だ。
一体、六課で何が起きてるって言うの!?
こんなものですか。
それが、目の前にいる二人に対して私が抱いた感想でした。
まずオットーさんですけど、この人は脅威でも何でもありません。
彼女のIS「レイストーム」は手から光線を発射するスキルで、まあ早い話がビームです。
拡散や誘導が可能で威力も高い、となかなかに強力なISなんですが―
「……!? 何で当たらない!?」
私のいる位置から数十センチ横を光線が過ぎていきます。
BJの端がかすってチッ、チッ、と音を立てているけど、当たらない事を確信している私は、そんな事を気にせずにグレイズを続けます。
拡散性能と誘導性能を持つこの光線は、一見回避困難に見えます。
けど、それを撃っているのはあくまで一人。
視線と手の動きからレーザーの軌道を予測。そのデータを元に安全地帯を割り出して、そこに体を移動させる。
数センチ先でどんな威力の攻撃が通り過ぎようと気にしない。1歳の時から弾幕を避け続けていた私にとって、この程度ならまだEasyモードです。
そもそも、指揮官兼遠距離支援役のオットーさんがこうやって前線にいる事自体が間違いなんですよ。
そのまま私はグレイズを続け―
ガキィィィィィィン!!
「ちいっ!!」
「バレバレですよ」
後ろから双剣をクロスさせて切りかかってきたディードさんに対し、手元を蹴り飛ばしながらその勢いを利用して離脱。直後、私のいた地点を光線が通り過ぎました。
ディードさんのISはツインブレイズ。
瞬間加速によって背後を取り、双剣一撃で叩き落とす戦闘スタイルの総称です。
……、言っては何ですけど、このISを設計したスカさんは何考えてるんでしょうね?
と思うのもこのIS、技能と武器がかみ合っていないんです。
双剣という武器の利点はその手数と柔軟性にあります。
一撃の威力こそ他の武器に劣るものの、片手毎に攻撃、防御を割り振る事が出来、小回りを生かして常にアドバンテージを取っていけるのがその特徴です。
なのに、このISの基本思想は奇襲からの一撃必殺。……解せぬ。
さっきだって双剣をクロスさせて攻撃してきましたけど、それは二刀であるメリットを自ら放棄する行為。
確かに威力は上がるかもしれないですけど、それなら最初から両手持ちの武器を使えって話です。奇襲失敗の保険として双剣にしたのかもしれませんけど、それでもそこで態々双剣をチョイスした理由が分かりません。
『藍、モード「半」』
そこで私もモード変更。白楼剣と楼観剣を抜いて、ディードさんへと突進します。
「ふっ!!」
ギィン! ギィン!
肩口目がけて楼観剣を振り下ろす。それに対し、向こうは片方の剣でそれをガードしながらもう片方の剣で胴を狙ってきます。
私は白楼剣でそれを受け止め、鍔迫り合いになる前に離脱……、と見せかけて、フェイントをかけて再接近。接近戦の状態を維持します。
この状態ならお得意の高速機動も無効化でき、なおかつオットーさんの横槍を気にしなくて良いです。
でも、それも少しの間。
二合、三合と打ち合っているうちに戦闘パターンが分かってきます。
機械故のワンパターン戦法というのが戦闘機人の弱点ですけど、ディードさんは訓練期間が短いせいか、それが最も顕著です。
こう来ればこう、という決められた行動を、愚直なまでに繰り返してきます。
……そろそろ終わらせますか。
既に4度目になるディードさんへの突撃。
振り下ろされた剣に対して、ディードさんは先程までと寸分違わない防御行動を見せます。
……かかりましたね?
『藍、モードリリース!!』
「!?」
剣同士がぶつかり合う刹那、突如として楼観剣が消える。
これを予定調和として知っている私は、即座に右手を腰溜めに握り直す。そして―
「華符「破山砲」!!」
驚愕で目を見開いているディードさんのお腹目がけて妖力全開の拳を叩き込んだ。
「ディード!? くっ!!」
それを遠くから見ていたオットーさんがこちらに手を向ける。
ディードさんが倒れた事で邪魔が入らずに打ち抜けると考えたからでしょうか?
でも―
「そおおおおおおいっ!!」『藍、モード「博麗」』
既に気絶しているディードさんの体を掴んで、オットーさんの方へブン投げる。
このままだと味方を撃ってしまう事になるオットーさんは、射撃をキャンセルしてディードさんを受け止める。そこに―
「霊符「夢想封印」!!」
サッカーボール大の大威力誘導弾を7発、容赦無く撃ち込んだ。
『ふう……。シャマルさん、そっちはどうなりましたか?』
『こっちも何とか。今はザフィーラを治療中。でも本当に助かったわ、ありがとう』
私がナンバーズ二人と戦闘している最中、シャマルさんはザフィーラさんを守りながらガジェットを食い止めていました。
撃墜数こそさほど多くないものの、未だに一体も六課に通していないというのは流石です。
『いえいえ。じゃあ、私もあと一仕事終わらせてからそっちに……ッ!!』
シャマルさんとの念話の最中、唐突に感じた強大な魔力。
私が振り向いた先にいたのは、先程の戦闘には参加していなかったルーテシアちゃんでした。
近くには私が墜としたガリューが倒れており、さっきの戦闘が始まった時からずっと、ガリューの傍に駆け寄ってうずくまっていました。戦闘に参加する素振りも無かったので、今まで後回しにして放置してたんだけど……。
「……んで」
「?」
「なんで……、あなたは、私の大事なものを傷つけるの?」
「え?」
「おかあさんも、ガリューも、地雷王も。私の大切な家族はみんな、傷つけられてボロボロになっちゃった」
そう話すルーテシアちゃんの顔は相変わらずの無表情。
でも、その目からは大粒の涙がボロボロ流れていて、その悲しみがこっちまで伝わってきます。
その原因の一端になったのは間違いなく私。
本当はそんな話に耳を貸さずに無力化させるべきなんだろうけど、私の足はピクリとも動かない。
「なんで、私ばっかりこんな目に遭うの?」
「私はおかあさんやガリュー達といっしょに暮らせればそれだけで良かったのに。本当に、それだけなのに。何で、それだけの事が叶わないの?」
その問いに、私は答える事が出来ない。
だって、私の願いも同じだから。
ただ平穏に生きたいだけ。そんなささやかな願いだけど、痛い位に理解出来るから。
今まで私は、自分のために動いていた。そのせいで傷ついていく人たちの事を無視したまま。
それに気付いてなお、自分の願いを通すために平気で他人を蹴落とす事が出来る程、私は強くなんかない。
「あなたがいるから、ガリューは大怪我をした! あなたがいるから、地雷王も死にかけた! あなたなんか……、いなくなっちゃえ!!」
「!?」
ルーテシアちゃんの悲鳴にも近い絶叫。それを聞いて、私はようやく体の自由を取り戻す。
泣きながら絶叫するルーテシアちゃんの後方、そこにあったは直径十数メートルもの召喚魔法陣。
「ッ!!」
それが何を意味するのか、瞬時に悟った私は全速力でルーテシアちゃんへと突進する。
一秒も経たないうちに懐に潜り込んだ私は右拳一閃。ルーテシアちゃんの意識を刈り取った。
でも―
「白……天……王……」
「あ、あああああああ……」
ルーテシアちゃんの最後の呟きに呼応するかのように魔法陣から出てきたのは10メートルを超える巨大な甲虫。
二足歩行の人型甲虫。硬質な外骨格と強靭な筋肉さらには腹部に魔力砲を持った超希少種。
「GYAAAAAAAAAA!!」
白天王は悲鳴のような咆哮を上げる。その目には狂気が宿っていて、暴走状態にあることを分かりやすく示している。
生物兵器と言っても過言ではない超生物が、気絶した主の制御を離れて暴走状態に陥ってしまう。
考えるまでも無い、最悪の事態。
「……!!」
「……不味い!!」
白天王の腹部の水晶が輝いて、そこに魔力が集まっていく。
私は気絶したルーテシアちゃんを抱えて飛翔し、発射を妨害しようと弾幕を浴びせる。
魔力砲を受け止めるなんていう馬鹿げた真似ができない以上、こうやって発動前に潰すしかない。
でも、私の放った弾幕は白天皇に次々と着弾するものの、これといったダメージを与えられない。
私の火力は精々が対人レベル。最大火力に難のある私では、白天王にダメージを与える事すら出来ない。もし連戦による消耗が無かったとしても、それは同じ。
やがて、その時が来る。
魔力チャージを終えた白天王は、理性を失ったままめちゃくちゃに狙いをつける。
私の妨害なんて全くの意味を為さず、魔力砲は発射される。
射線上にいたガジェットを巻き込みながら、魔力砲は進んでいく。
そして、その先にあった訓練スペースに直撃して、跡形も無く消し去った。
「あ、ああ……」
目の前の現実に、頭が追いつかない。
今すぐ現実逃避してこれを無かった事にしてしまいたい。
でも―
―行くわよ、キャロ。今日こそ一本取ってみせる!―
―威勢は認めますけどね。やれるもんならやってみろです。―
―まだまだ……ッ!!―
―ストラーダ!!―
―行っけーーーーー!!―
―甘い!! 天地魔闘!!―
―恋符「マスタースパーク」!!―
―へ? うわあああああ!?―
日常の訓練やこの前やったサッカー。その記憶を次々と思い出す。
機動六課での沢山の思い出。それを生んでくれた場所が失われてしまった事を、嫌でも理解させられる。
何で……、どうしてこんな事になってしまったんだろう?
ううん、そんなのもう分かってる。
私のせいだ。
だって、そうでしょう?
ルーテシアちゃんをここまで追い詰めたのは私。
召喚師にとって召喚獣や召喚虫がどれほど大切なものなのか知っているくせに、ルーテシアちゃんの痛みを考えず、ガリューや地雷王を傷つけた。
ルーテシアちゃんの支えになっていただろうアギトを横から掠め取って、自分達の方に付けた。
私のエゴが、ルーテシアちゃんを追い詰めてしまったんだ。
「ごめんなさい……、でも」
白天王は未だに暴走している。その腹部には再び魔力がチャージされており、それが機動六課の隊舎へと向けられています。
このまま行くと数秒後には、魔力砲によって隊舎とその中にいる人は、みんな消し飛んでしまう。
「それだけは、駄目だから……」
私は白天王を正面から見据えてユニゾンを解除。同時に残りの魔力を総動員して詠唱を開始する。
それはかって学んだ、けれども一度しか唱える事の無かった(しかも間違えていた)術式。
私がル・ルシエの村を追放されるきっかけにもなったもの。
「天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手……」
私の中の冷静な部分が、それで良いのかと聞いてくる。
「我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者……」
でも、そんな意見は一蹴して詠唱を続ける。
こうなった原因は、私が自分の事しか考えなかったから。
なのに、今なお我が身可愛さ優先で動くなんて事出来る訳が無い。
こうなったけじめは、私自身がつけないといけないんだ。
「竜騎招来、天地轟鳴、来よ……」
だから……、後悔なんて、絶対しない!!
「ヴォルテーーーーーーーール!」
召喚陣から出てくるのは、あの日にも見た大きな姿。
巨大ロボにも似たその姿が未だ暴走を続ける白天王の前に立ち塞がる。
「ヴォルテール、その子を止めて。皆を……守って!!」
魔力切れを霊力と妖力で補いつつ、朦朧とした頭でヴォルテールを制御する。
ここで私が倒れてしまってヴォルテールが暴走したら元も子もない。
白天王が無力化されて送還されるまで、気を失う訳にはいかないから。
「行って、ヴォルテール!!」
エリオが到着した時には全てが終わっていた。
六課の隊舎こそ無事なものの、周囲はひどい有様であった。
瓦礫やガジェットの残骸がそこら中に転がっており、中には真っ黒に炭化しているものもあった。
エリオはその臭いに顔をしかめながらも周囲の確認を続ける。そんな時だった。
「あれは……、キャロ?」
視線の先にいたのはキャロだった。しかし、その足取りはフラフラしており、いつ倒れてもおかしく無い状態であった。
それをみたエリオは周囲の探索をとりあえず中段して、キャロの元へと向かう。
「キャロ!!」
「エリオ……くん?」
「キャロ、一体何が―」
「……い」
「へ?」
―ごめんなさい―
そう呟いたように聞こえた次の瞬間、キャロはエリオの方へと倒れ込み、エリオがそれを受け止める。
突然のことに困惑するエリオと、その腕の中で眠るキャロ。その目元には、うっすらと涙が浮かんでいた。
白天王とヴォルテールの戦闘の際、ドサクサに紛れて六課に侵入したセッテがヴィヴィオを誘拐した事をキャロが知るのは、それから少し後の話である。
おまけ
61~64話まとめ 両陣営の被害報告
機動六課サイド
キャロ 健在
なのは 健在
フェイト 健在
はやて 健在
シグナム 健在
ヴィータ 健在
シャマル 軽症
ザフィーラ 重症
リイン 健在
スバル 健在
ティアナ 健在
エリオ 健在
アギト 健在
ギンガ リタイア
シャッハ 健在
ロッサ 健在
備考
ヴィータとリインは原作通りにゼストと戦闘。
アギトの暴走が無かったので、何合か打ち合った後、時間切れでゼスト撤退。
フルドライブは使用されなかったので、リインとゼストは双方被害無しでした。
大きな被害を受けたのはザフィーラとギンガの二名で、他はほぼ無傷。
六課襲撃は物的被害こそ大きかったものの、人的被害はそう多くないという結果に。
ヴィヴィオ誘拐がどう響くか……。
スカリエッティサイド
スカリエッティ 健在
ウーノ 健在
ドゥーエ 健在
トーレ 健在
クアットロ 健在
チンク リタイア
セイン リタイア
セッテ 健在
オットー リタイア
ノーヴェ リタイア
ディエチ リタイア
ウェンディ リタイア
ディード リタイア
ルーテシア リタイア
ゼスト 健在
備考
ナンバーズの半分以上がリタイアする事態に。
ここから非戦闘員とドゥーエを除くと動けるのはトーレとセッテの二人だけ。
どう見ても虫の息状態。
何とかヴィヴィオこそゲットできたもののゼストは最終局面では使えないし……、これ詰んでね?
キャロは思いっきり後悔しているけど、泣きたいのはスカさんの方だと思う。