幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第68話 桃髪の毘沙門天

 ―聖王教会領地下にて―

 

 コツ、コツ、と二人分の靴音が、洞窟内に反響する。

 近くの壁を見ると等間隔で照明が設置されており、おそらくは奥に電力を供給しているのだろうパイプが数本見える。

 壊そうか、と思ったけど止めておく。仮にもここは“あの”スカリエッティの研究施設だ。

 用心深い彼がそんな事を想定していない訳が無い。予備の供給ラインや非常用の電源くらいは確保しているだろう。

 破壊して電力供給を止められる保障も無いし、電力供給が止まってもすぐにはシステムダウンしないかもしれない。それどころか、この事件の後で行われるであろう詳しい調査の際に、真っ暗な洞窟に入る羽目になる可能性だってある。

 照明は魔法でどうにかなるかもしれないけど、態々そんな苦労をする必要は無い。

 

 私とエリオ、それとエリオにユニゾンしているアギトは周囲を警戒しながら、洞窟内を慎重に進んでいく。

 

「あの、フェイトさん?」

 

「どうしたの? 何か見つかった?」

 

「いえ、そうじゃなくて……、変じゃないですか?」

 

「……そうだね」

 

 主語が抜けた言葉の意味を汲み取って肯定を返す。

 エリオの言わんとすることは、私もよく分かっている。

 それが何かと言うと―

 

「一機も来ないっていうのは確かに妙だね。私達の侵入に気付いていない筈は無いんだけど……」

 

 そう、スカリエッティのアジトと思わしきこの洞窟に侵入してから、今まで一回も襲撃を受けていないのだ。

 

「いくらなんでも、ガジェットの一機も出てこないのは絶対変です。ひょっとして、ここじゃないとか?」

 

「シャッハとロッサが直接調べたみたいだから、それは無いと思うけど……」

 

『なら、もう引き払ったんじゃねーのか?』

 

 確かに。今の状況を見ると、アギトの推測が一番しっくり来る。

 スカリエッティを始めとした主要人物が全員ここを放棄してゆりかごに移動している可能性は、十分に有り得る話だ。

 

 でも、まだそうと決まった訳でもない。

 誰かが残っているにしろ何も無いにせよ、行ってみないと分からない。

 その上で、残っているのなら確保。何も無いのなら、別ルートで侵入しているシャッハとアコース査察官に調査を任せて、私達は他の所の支援に回る。

 そのどちらになるにせよ、今出来るのは奥に進む事だけだ。

 

「だとしても、やる事は変らない。このまま奥に。行くよ、エリオ、アギト」

 

「了解です」

 

『おう』

 

 相変わらず何も出てこない洞窟内を、それでも警戒しながら進んでいく。

 物音に反応して構えてみれば、ただ石が落ちてきただけだったり水の流れる音だったり。

 その度に律儀に反応してしまう自分達に苦笑しつつも、警戒のレベルだけは下げないようにキープする。

 10分ほど歩いただろうか、終わりは唐突にやってきた。

 

 前方数メートル先に見えるのは金属製の扉。

 自然の洞窟を改造していた今までの様子と異なり、扉の周囲は機械の壁面で覆われており、ここから先のエリアが今までとは違う事を示している。

 分かりやすく言うと、今までの通路が洞窟50、機械50であったのに対し、ここから先は機械100である。

 

≪内部に複数の魔力反応アリ≫

 

「やっと本命……、かな?」

 

≪そのようですね≫

 

 さて、どうするかと一瞬だけ考える。とはいえ、やる事は決まってる。

 

「行くよ、エリオ」

 

「はい!」

 

≪Zamber form.≫

 

 バルディッシュが変形して柄と鍔になって手に収まり、そこから魔力刃が延びて大剣を形成する。

 バルディッシュのサードフォームであるザンバーフォームだ。

 私はそれを担ぐように構えて、目の前にある扉へと袈裟掛けに振り下ろす。

 キン、と乾いた音とともに切れ目が入る扉を魔力弾で吹き飛ばして、私達は中へと潜入する。

 

 中は開けた空間になっていた。

 部屋の端から端まで、目算で25~30メートル。

 天井までも高さもそれと同じくらいあり、ドーム状の構造をしている。

 その中で目を引くのは、部屋の奥にある一角。

 そこにあるのは巨大なスクリーンと、おそらくはこの施設のメインシステムであろうコンピュータ。それに加え、二人分の人影が見える。

 

「こちらは時空管理局! 騒乱罪の疑いで、貴方達を逮捕します!」

 

 その一角に向けて呼びかけながら接近する。

 向こうの様子はというと、二人のうち一人は椅子に座って背を向けており、もう一人はその傍に立ち、こちらに視線を向けている。

 

「ふむ、やっとお出ましか」

 

 椅子に座っていた方の人影が立ち上がり、こちらに振り返る。

 

「やあ。こうやって直接会うのは初めてだね、Fの遺産に古代ベルカの融合騎。キミ達の性能は、いつも見させてもらっていたよ」

 

 科学者や研究者の特徴である白衣を羽織った青年は私たちを視界に入れると、いかにも嬉しそうに言葉を続ける。

 でも、私達が律儀にそれを聞く理由なんて無い。

 

「ジェイル・スカリエッティ、お前を逮捕する」

 

 バルディッシュを腰溜めに構えていつでも飛び出せるようにし、隣にいるエリオとタイミングを図る。

 何故ガジェットが配置されてなかったのかという疑問は残るけど、今優先すべきはスカリエッティとその傍にいる戦闘機人の無力化だ。

 

 そんな時だった。

 

「ウーノ」

 

「はい」

 

 傍で控えていた戦闘機人がスカリエッティの指示に従い手元の端末のボタンを押す。

 一体何を―

 

 ガアアアアアアアアン!!

 

「「!?」」

 

 後ろから聞こえてきた轟音に反射的に振り向くと、入り口の部分にシャッターが落ちていた。

 周囲には落下の衝撃で埃が舞っているけど、今重要なのはそこじゃなくて―

 

(閉じ込められた!?)

 

 ロックされる可能性を考慮して扉を破壊したのだけど、その先を行かれてしまっていた。 

 こうなると、迅速にスカリエッティを逮捕したとしても、脱出にかかる時間がかかってしまう。

 そして、それだけでは終わらなかった。

 

『うううううう……』

 

「アギト!?」

 

『融合が……、あああっ!』

 

「くっ!」

 

 ぽん、という音とともにエリオのユニゾンが解除されてアギトが飛び出す。

 それだけじゃなく、バルディッシュが展開している魔力刃も弱々しくなっていき、その構成を霧散させてしまった。これは―

 

「AMF!」

 

「ご名答。この施設そのものを利用した高濃度AMFだ。気に入ってもらえたかな?」

 

 正直な所かなりきつい。

 AMF内では魔力結合が阻害される為、無理矢理行使しようとするとかなりの負担になる。

 しかも、バルディッシュの魔力刃が霧散された所から見るに、今回のAMFはかなりの高ランクである事が分かる。

 

『バルディッシュ』

 

≪AMF濃度推定A。Aランク以下の魔法は全て霧散すると考えてください≫

 

『アギトはエリオの後ろに』

 

『お、おう』

 

 バルディッシュの分析を聞きながらアギトを下がらせる。

 ユニゾンが弾かれる状況は、こちらの戦力ダウンと魔法無しのユニゾンデバイスを生み出す状況を生み出した。

 こうなった以上、私達はうかつに突撃できない。

 

「おや、攻めてこないのかね?」

 

「……ッ!」

 

 何を白々しい、この状況にしたのはお前じゃないかと逸る感情を押さえながら、今取れる手段とそのリスクをバルディッシュと念話で相談する。

 

「まあ、それでも構わないのだがね。丁度こちらも面白くなってきている所だし、こっちを見るのも悪くない」

 

「何を言って……」

 

 言い終わるよりも早く、答えが眼前に示される。

 ウーノと呼ばれた戦闘機人が端末を操作すると、今まで黒一色だったスクリーンが切り替わり、どこかの映像が大画面で表示される。

 そこに映っていたのは―

 

「――――嘘」

 

「フェイトさん! こんなの嘘です! 嘘に決まってます!」

 

「嘘じゃないさ。これは歴とした事実だよ。まあ、嘘であって欲しいという感情は理解できなくも無いけどね」

 

 何か言っているようだけど、頭に入ってこない。

 スカリエッティがいる事も忘れて、私は映像を見続ける。

 こんなの、何かの間違いだよね?

 

 

 

 

「キャ……ロ?」

 

 

 

 

 ―ゆりかご上空―

 

「宝塔「レイディアントトレジャー」」

 

 キャロのスペル宣言に従い手に持った建物のミニチュア―宝塔が輝き出し、そこから金色のレーザーが何条も伸びてはやて達に襲い掛かる。

 

「避けて!」

 

 自分に向かってきたレーザーを回避したはやての指示に従い、シャマルとスバルの二人も回避行動を取る。

 既に何度か見たせいかレーザーの発射タイミングが掴めてきた故の指示であり、妥当な判断である。

 しかし、今回のスペルは少し違っていた。

 

「バースト」

 

「「「!!」」」

 

 はやて達に向けて放たれたレーザー。それらが突如破裂して、辺りに弾幕を撒き散らす。

 ただの直射砲撃と思われていたそれは、実は凄まじい速度で途切れる事無く連射されていた弾の集まりであった。

 なので当然、途中で軌道を弄ってやればバラバラになって撒き散らされる。

 

「くっ……、でも、これ位なら!」

 

 ドン! ドン!

 

 一発一発の威力がそう高くない事に気付いたのか、シャマルは障壁を展開して弾幕を防ぐ。

 それが向こうの狙いだとは気付かずに―

 

「シャマル!」

 

「え? ……ッ!」

 

 シャマルが気付いた時には、目の前にレーザーが迫ってきていた。

 弾幕を防いだ際にシャマルは足を止めてしまい、更には着弾時の爆発で向こうの姿を見失っていた。

 これがこのスペルの狙い。

 ばら撒き弾で撹乱しつつ動きを鈍らせた所で、本命のレーザーを当てる。

 レーザーが回避されたとしても、それを破裂させて弾幕をばら撒く事が出来る。以下ループ。

 攻撃が次の攻撃への布石になる様、計算された弾幕であった。

 

 レーザーはそのままシャマルへと向かっていき―

 

「キャッ!?」

 

 命中するかと思われた刹那、そこに割り込んだ人影がシャマルを突き飛ばした。

 突き飛ばされたシャマルは大したダメージも無く、すぐに戦線へと復帰する。

 

「助かったわ。ありがとうね、スバルちゃん」

 

「いや! そん! なっ!」

 

 助けた方であるスバルはと言うと、ウィングロードを使って弾幕を避けていた。

 機動が見切られやすいという欠点から、ばら撒き弾に対しては素直に防御を、その代わりレーザーだけは喰らわないようにキャロの挙動に注意しつつ回避を続けていた。

 シャマルもそれに倣い、レーザーをメインに警戒して弾幕を凌ぎ続ける。

 残るはやてはというと―

 

 ダダダダダダダ!!

 

 キャロに右手を向け、直射型魔力弾「ブリューナク」をマシンガンの如き連射速度で打ち続ける。

 ユニゾンしていないために精度は落ちているが、それを数で補うかのように連射する。

 

 はやての回避能力はそこまで高くない。

 魔導師ランクを空戦ではなく総合で取得している事からも分かるように、前線で戦うタイプではない。

 人並みにはこなせるがあくまでそれだけ。キャロの弾幕を凌ぎ続けるには心許無い。

 だから、回避ではなく己の土俵で勝負する。

 

 ドン! ドン! ドン!

 

 ブリューナクがキャロの放った弾幕とぶつかり相殺する。

 SSランクという馬鹿げた魔力量、それがはやての武器である。

 いちいち障壁を張ったり避けたりする位なら、その分を攻撃に回して向こうの手を鈍らせる。

 攻撃は最大の防御、とは良く言ったものである。

 

「バルムンク!」

 

 弾幕を相殺して出来た僅かな余裕。その隙に、ブリューナクと並行してチャージしていた魔法を発動。するとはやての周囲に8本のダガーが出現し、それぞれ別々の軌道でキャロの方へと飛んでいく。

 

「よ……っと」

 

 それに対し、キャロは着弾の瞬間、体を一つ分だけ前に持って行く事でそれを回避する。

 キャロの正面では弾幕相殺による爆発が発生しており、それが一時的な安置を形成していた。

 砲撃魔法でなら爆発を突き抜けて攻撃を通すことも可能だろうが、3人の中で砲撃が撃てるのははやてのみ。そのはやてがバルムンクを撃ってきた以上、正面からの砲撃は無い。

 キャロの行動は、これらの思考を一瞬で済ませた結果であった。

 

「光符「アブソリュートジャスティス」」

 

 今のスペルでは仕留めきれないと判断したのか、キャロは新たなスペルを宣言する。

 再び宝塔が輝き、先程までとは違うパターンの弾幕がはやて達3人へと襲いかかる。

 それを凌ぎながら、スバルはキャロに呼びかけた。

 

「キャロ、何でこんな……!」

 

「こんな、っていうのは勝手にいなくなった事ですか? それとも、こっち側にいる事ですか?」

 

 宝塔から等間隔に放たれたレーザーが行動を制限し、その隙間からばら撒き型の弾幕が降り注ぐ。

 レーザーは一定感覚で発射されており、スバルはその切れ目にレーザーの射線に入ってばら撒き弾幕を避ける。

 ばら撒き弾幕を避けきったら即座に射線から退避。直後、ついさっきまでいた所をレーザーが通る。今のは少し危なかった。どうやら徐々にインターバルが短くなっているようだ。

 

「別に話す必要なんて無いです。話した所で、受け入れてはもらえないでしょうから」

 

「それでも……、話してくれなきゃ分からないよ!」

 

「……」

 

 レーザーのインターバルはかなり短くなってきており、今では1秒もかからないで次のレーザーが放たれるようになった。

 こうなってしまっては、今までのように切れ目を狙って回避する事はできない。

 かといって律儀に防御してしまっては、キャロの思う壷だ。

 

「マッハキャリバー!」

 

≪Cut back……≫

 

 前方にあるウィングロードの軌道が変化して、垂直方向に伸びていく。

 そのまま進んでいくと体が90度回転し、真上に向けて移動しながら弾幕を回避する。

 でも、それも長くは続かない。

 端から見れば壁を走っているようにしか見えない状態がいつまでも続く訳が無い。

 事実、マッハキャリバーとウィングロード間のグリップは無くなり、スバルは無重力状態のふわっとした感覚を味わう事になる。

 

≪Drop turn.≫

 

 とはいえ、それも想定内。

 スバルは慌てず、縦方向に180度、横方向に180度回転して落下軌道へと移る。

 その視線は、ほぼ真下にいるキャロを真っ直ぐ見据えている。

 

≪Load cartridge.≫

 

 ガショッ! ガショッ! と二発分がロードされ、リボルバーナックルに魔力が充填される。

 スバルはそのまま真っ直ぐに突進し、キャロに向けて拳を撃ち出す!

 

「うおおおおおおお!!」

 

「ッ! 封魔陣!」

 

 スバルの拳とキャロの障壁が拮抗して、ギギギギ、と構成に干渉し合う音が聞こえてくる。

 このまま障壁を抜くには、あと少しだけ威力が足りない。 

 

(行ける!)「マッハ―」

 

「霊撃!」

 

「ッ!!」

 

 カートリッジを追加して障壁を抜こうとしてきたスバルに対し、キャロは懐から取り出した霊撃札でスバルを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされただけなのでダメージの無いスバルは、きりもみ状態で飛んでいる己の体勢を立て直し、再びキャロに向き直った。

 

「今のはちょっとびっくりしましたねー。カットバックドロップターン、まさかマスターしてるとは思いませんでした」

 

「誰かさんに鍛えられたかやろ?」

 

「……」

 

 口を挟んできたはやての一言でキャロは黙り込む。

 実を言うと、あの技はキャロ発案だったりする。

 垂直方向への移動に難があるというウィングロードの欠点を解消する為、とか言いながら教えてくれた技術だ。

 その際片手に漫画本を持っていた事には突っ込まない方がいいだろう。

 

「最初は、キャロちゃんがスカリエッティのスパイやないかって思った」

 

「そんな!」

 

「でも、キャロちゃんが最初からそっち側やとするとスバル達を鍛える理由が分からへん」

 

 つまり、この数日の間で心変わりをするような何かがあったという事になる。それがはやての考えだった。

 

「教えてくれへんかな? 何があったのか」

 

 今現在、キャロがスバルによってスペルブレイクされたために、一時的にだが戦闘は休止している。とはいえ、いつ再開するかも分からない緊張感が辺りに張り詰めていた。

 

「……はあ、仕方無いですね」

 

 そしてキャロは指先に霊力弾幕を出しながら、その理由を語り出した。

 

 

 

 

「別に今に始まった事じゃないですよ、ずっと考えてた事です。はやてさん達なら分かるんじゃないですか? 管理局で「特別」な人間がどう扱われるのか?」

 

「それは―」

 

「レアスキル持ちは保護しろ、高ランクは囲い込め、そして皆の役に立て、貴方は特別なんだから、ってね。はやてさん達は自分のやりたい事の方向性とバッチリ合っているから構わないのかもしれないですけど、中にはそうじゃない人もいるんです」

 

「……」

 

「レアスキル持ちだって一人の人間です。中にはそんなの関係無しにサラリーマンになりたい人だっているだろうし、何もせずにぐーたらして過ごしたい人だっているんです。それに、もし管理局で働かないで良かったとしても、何らかの形で監視、あるいは研究されます。ですよね、スバルさん?」

 

「……」

 

 それに対し、スバルは言い返す事が出来ない。

 戦闘機人である自分はその体の維持のために、定期的に診断を受ける身である。もし管理局を辞めてもそれは続くだろう。

 それを不快に思った事は無いが、そういった側面がある事くらいは理解している。

 

「私はそんなの御免です。「特別」であるだけで自分の行動が制限されるなんて絶対嫌です。じゃあ、「特別」な事は悪い事なのか……違いますよね?」

 

「……せやな」

 

 それに関してははやても同意する。

 自分が夜天の書の主であるからこそ、守護騎士や多くの人に出会う事ができたし、やりたい事を見つけられた。その事が間違っているとは思えない。

 

「だったら悪いのは何なのか……、ここまで言えば後は分かりますよね?」

 

「そういう風になるルールを作ってる側、そう言いたいんか?」

 

「正解です。まあ、そこまで極端な思考は持ってないですけどね」

 

 良く出来ました、とキャロは説明を続ける。

 

「管理局の存在が治安維持に貢献してるのは事実ですし、それで助かる命が沢山あるのも理解しています。悲劇を減らすために日夜頑張る姿に、尊敬だってしてるんですよ?」

 

「なら―」

 

「ただ―」

 

 どうして、と言おうとしたシャマルを遮り、キャロは話を続ける。

 その口の端は僅かに吊り上がり、笑っている様にも見えた。

 

「私にとっては都合が悪かった。それだけの話なんですよ」

 

 そう言ってキャロは締めくくる。

 別に管理局が憎い訳では無い。ただ利害が衝突してしまっただけ。

 静かに暮らしたいキャロに対してその力を役立てたい管理局。

 お互いの目的が全くの逆方向である以上、決して両立する事は無い。

 

「だから、スカリエッティに協力して管理局を潰そうっていうんか?」

 

「まあ、そんな感じです。向こうも戦力不足だったみたいなので、二つ返事で了承してくれましたよ」

 

「それで良いって、キャロは本気でそう思ってるんか?」

 

「仕方無いじゃないですか、それ位しか方法が無いんですから」

 

「成る程な、良う分かったわ」

 

 ふう、と一つ深呼吸してはやてはキャロに向き直る。

 シュベルトクロイツと夜天の書を構え直して、再び戦闘モードへと移行した。

 

「私はそんなん認められへん。目的はどうであれ、キャロちゃんがやってる事は間違い無く犯罪や。だから、ここで絶対止める」

 

「正解です。理由が何であれ、今の私はテロリストですからね。だから言ったでしょ? 受け入れてもらえる訳が無い……って!」

 

 対するキャロも戦闘モードへと戻る。

 間合いを取りながら発射された弾幕がはやて達3人を襲うが、3人はそれぞれバラけてそれを凌ぐ。

 

『シャマル、スバル、話は聞いたな? 何としてもあの子止めるで! 取り返しのつかん事になる前に撃墜する!』

 

『ええ!』

 

『ッ! はい!』

 

 キャロの様子から説得は無理と判断したはやては、本格的に撃墜を決意する。

 このまま放置してしまえば、キャロは稀代のテロリストになってしまう。

 キャロの為にも、そんな事はあってはならない。

 

 それに、はやてには勝算があった。

 

(さっきの攻撃……、いくらキャロちゃんでも消耗はしてる筈)

 

 さっきまでの弾幕は凄まじい物であったが、裏を返せばそれだけの力を消費した事になる。

 魔力じゃない力を使っているから詳しくは分からないが、決して無尽蔵という訳では無いだろう。

 使えばその分減る、それが絶対的な法則である。

 そう考えると、さっきまでの会話は消耗した分を回復する為のものだったのかもしれないとも感じる。その真偽は置いておくとして、キャロが消耗しているのは事実であった。

 このまま消耗戦に持ち込めば―

 

「ふう、そろそろ一本目いきますか」

 

「アレは……ッ!!」

 

「はやてちゃん!?」

 

 キャロの取った行動に対し、その意味に唯一気付く事の出来たはやてがブリューナクを連射する。

 キャロはそれをグレイズしながら、今さっき懐から取り出した瓶の中身を一気に口に流し込んで―

 

「ご馳走様、っと」

 

 数秒もしない内に全部の中身を飲み終えて、空になった瓶をぽいっと投げ捨てる。

 くるくると回転しながら落下していく瓶のラベルには「国士無双の薬 完全版」と書いてあった。

 

 

 

 

「さあ、第二ラウンドといきましょうか?」

 

 薬の効果で全回復したキャロが戦闘続行を宣言する。

 戦いは、まだまだ始まったばかりであった。

 

 

 

 

 ゆりかご目標ポイント到達まで、あと2時間20分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ 今話で出てきた魔法解説

 

 ブリューナク、バルムンク(Brionac,Balmung)

 魔法少女リリカルなのはA’Sポータブル(以下なのポ)ではやてが使用する魔法であり、ブリューナクは小粒のシューターを連射する射撃魔法、バルムンクは魔力で生成した短剣を数本同時に扇状に撃ち出す魔法です。

 なのポにはチャージショットが存在し、溜ブリューナクでは大玉を一発、溜バルムンクは誘導付きの短剣を8発同時に撃ち出します。今話で使用したのは溜無しブリューナクと溜バルムンク。

 同ゲームではそれぞれのコマンドが別々のボタンに割り振られており、一つを連射しながら残りをチャージする事が可能になっています。

 

 カットバックドロップターン(Cut back drop turn)

 

 垂直方向への機動力に難があるというウィングロードの欠点を補うために編み出された、どっちかと言うと魔法というよりは技である。元ネタはサーフィンで空を飛ぶアレ。

 意表を突いた垂直移動で相手の視界外に移動しつつ、反転後相手の頭上に強襲する攻防一体の技。

 初見殺し要素が高すぎるが、キャロには知られていたので対応された。

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