幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第77話 十年目の東方裁判 ~Fate of ten years~

 気付いた時には、私はキャロ・ル・ルシエになっていました。

 

 

 

 

 平凡な人生を送っていた私がどうしてそんな事になったのか、今になっても分かりません。

 けど、それは間違いなく現実で。だからこそ、私は運命に立ち向かうって決めました。全ては私自身の為。厄介事を乗り越えて、平穏な暮らしを手に入れる為に。

 

 手段を選んでなんて居られませんでした。

 故郷を離れ、身寄りがいない四歳の子供が真っ当な職業に就ける訳が無い。

 どうしても仕方が無くなって、盗みを働いた事もありました。

 「借りただけ」なんてあの時はうそぶいてたけど、そうでもして自分を誤魔化さなければ、罪悪感に苛まれてたのは間違い無かったと思う。

 

 それからずっと、そんな事を続けてきました。

 お金の為に黒い仕事を受けて、間接的にとはいえ悪事に加担した事もありました。

 私を逮捕しにフェイトさんが追いかけてきた時は、心のどこかで「やっぱりなあ」なんて思ったり。

 もし色々背負っているものが無かったら、あの時に保護される未来もあったかもしれないです。

 

 自首、のちに保護観察処分になった後、ゲンヤさんの所にお邪魔する事になった時は嬉しかった。

 犯罪者生活なんて続けてると、何だかんだでストレスが溜まりますから。

 あんな仕事をしてたのはあくまで手段だし、やらないで済むならそれに越した事はありません。

 それに、それだけじゃない。

 ゲンヤさんとギンガさん、それとスバルさん。

 仲良さそうにしている三人の家族の姿は、かつて私がル・ルシエで見ていたものと同じもので。

 それを見ているだけで、私は何か大切なものをを取り戻せた気になれました。

 今思えば、この時に気付くべきだったのかもしれないです。

 

 そこで終わってれば万々歳だったんでしょうけど、現実はそうはいかない訳で。

 やがて来るであるだろう未来の為に、自分を鍛える日々。

 その過程で、私は色んなものを踏み台にしてきました。

 ゲンヤさんの手伝いをしようと思ったのは、恩返しでも何でもない、実践経験の為。

 アギトちゃんを助けたのは戦力強化の為。つまりは戦力目当て。

 よくよく考えると、私とあそこの研究所の職員の間に、大した差は無いですよね。

 輝夜さんと妹紅さんの時だってそう。

 あの時私がやった事といえば、帰還手段を盾にした要求。つまりは遠回しな脅迫。

 向こうの事情を聞いた上で、それすらも利用した「お願い」。輝夜さん達に選択権なんかありませんでした。

 機動六課設立にあたっての事は、もはや完全に弁解不能。

 厄介事を避けたい、それだけの理由で私は六課入りを拒みました。

 確かにそれは事実でした。けど、私だけ特別という訳ではありませんでした。

 プロジェクトFにより生み出されたフェイトさんとエリオ君に、戦闘機人のギンガさんとスバルさん。

 皆が皆、色んな事情も持ちながら、それでも戦い続ける事を決めた。

 そんな中私ひとりだけ、いつでも逃げられるように仕組みました。

 それでいて、アギトは六課に関わらせるように誘導して。

 本当、外道ですよね。今振り返ってみてそう思います。

 

 JS事件に入ってからも、それは全く変わりませんでした。

 任務においても、何より優先したのは自分の都合。

 ある程度の顛末を知っているアドバンテージと六課の皆さん。それらを利用しながら、私は好き放題にやりました。

 想定外の事は起これどそれでも自分の思惑通りに物事が進んでいく様子に、今思えば、あの時の私は浮わついていたと思います。

 

 全ては自分の為、平穏の為に。

 状況に合わせて柔軟に、けれどその根本は変える事無く生きてきました。

 ル・ルシエを出た私が頼れるのは自分自身だけ。周りは全て敵、とまではいかないまでも線の外側。そういう考えが染み付いてしまってました。

 だから、あんな結果になったんでしょうね。

 

 私がそれを自覚できたのは、六課襲撃事件の時でした。

 白天王の攻撃によって崩れ落ちていく訓練場。

 その光景を見た私の脳裏に浮かんだのは、様々な思い出でした。

 

 いつも返り討ちに遭いながらも、それでもまっすぐ私にぶつかってくるスバルさんとエリオ君。

 頭を回転させ、お互いの裏をかこうと頭脳戦を展開したティアナさん。

 そんな三人の間を埋めるように臨機応変に対応していたアギト。

 そうやって私達が訓練している様子を、苦笑しながら見ていたなのはさん、フェイトさん、ヴィータさん、シグナムさん。

 色んな思い出が、そこには詰まっていて。それが壊されて初めて、私は気付けました。

 

 私の世界は、とっくの昔に広がっていた。

 召喚師の事や夢幻珠の秘密。それらは確かに、明かしては不味い事です。

 だけどその事と、私がみんなの事をどう思うのかっていう話は全くの別問題。

 そんな事当たり前だっていうのに、私は気付きもしませんでした。

 私自身の為、それは昔からずっと変わらない。

 けど、いつのまにか「私自身」の中に内包するものが増えていた。

 つまりはそういう事だったんです。

 

 それが切っ掛け。決定的になったのは、スカさんがル・ルシエを人質にした時でした。

 私はそれに逆らえなかった。追放されたとはいえ、ル・ルシエの皆の事は今でも大切に思っているから。

 この事をル・ルシエの皆に打ち明けようとも思いました。けど、そんな事は出来なかった。

 可能不可能の問題じゃなく、迷惑をかけたくない、その一心で。

 私がスカさんに協力して丸く収まるのなら、それでも良いかなって思ったから。

 

 

 

 

「だからこうなるって分かった時、正直ホッとしたんです」

 

 私は目の前にいる映姫様を見ながら、自分の罪を告白していく。

 口がスラスラと動くのを感じ、内心誰かに聞いて欲しかったんだな、と他人事のように感じています。

 

「これ以上六課の皆に、ル・ルシエの皆に迷惑かけないで済むって」

 

 小町さんの説教が済んだ後、映姫様は「この子は私が対応する」と言って小町さんを仕事に戻らせました。

 そして状況に耐えかねた私は、いつの間にか自分から話し始めていまいた。

 

「それに、良く考えるとスカさんだけじゃない。私がキャロ・ル・ルシエとして生きている限り、厄介事は起きるんです。そしてその度、誰かに迷惑を掛ける事になるんです。自分の事だけが大切ならそれでも良いのかもしれないですけど、今さらそんな風には考える事が出来ませんから」

 

 だというのに、それに気付かないで進み続けた。それが私の失敗。

 私という存在は、皆にとっては重石にしかならない。

 昔ならともかく、今の私にはそんなの耐えられない。

 

「だから、もう良いんです」

 

 そう締め括って、私は告白を終えました。

 実際に口に出して、言葉にしてみて改めて分かった、私の我侭がどれだけの人に迷惑を掛けてきたか。

 元々拾ったような命。だったら、この辺で幕引きにするべきなんですから。

 

「本当にそれで良いのですか?」

 

「はい。これ以上生きたって、迷惑にしかなりませんから」

 

 だからもう、私なんて……

 

 

 

 

 

「いえ、少し違いますね。『それで良いと、貴女は本当に思っているのですか?』」

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

「私に嘘は通じません。自覚があるにしろ無いにしろ、自分を偽るというのは感心しませんね」

 

「そんな事!」

 

「無い、とは言わせませんよ? 私は知っていますから。貴女が嘘つきさんだっていう事くらい」

 

「違……」

 

「貴女が生きているだけで周りに影響が出る、確かにそれは事実でしょう。けれど、それは言わば当然の事。そもそも、私達は生きているだけで罪なのですから。お互いに関わりあい、迷惑をかけ合って、皆そうやって生きています。貴女だけが特別ではないのです」

 

「むぅ……」

 

「人に迷惑を掛けるのは確かに悪行です。けど、中にはその人を頼った結果というものもある。それらを混同しては困ります。困った時、信頼できる人に頼るというのは、決して悪い事ではないのですから」

 

「それは……」

 

 否定出来ない。

 映姫様が言ってる事はどこまでも正しい。否定なんて出来やしない。

 例えその内容が私を批判するものであったとしても、反論なんて出来ない。

 

「『皆の事が好き、だから迷惑を掛けたくない』、その思いは尊ぶべきものです。けれど、だからこそ、貴女は打ち明けるべきだった、周りに助けを求めるべきであった。事は既に、貴女一人の問題では無くなっているのですから。自分一人で何とかしようというのは、結局の所一人よがりの自己満足でしかないのですよ」

 

「ッ!!」

 

 言い返したい。けど、言い返せない。

 だって― 

 

「図星、という顔になっていますね。賢い貴女の事です。本当はこんな事、私に言われるまでもなく気付いていたのではないですか?」

 

「……」

 

「沈黙は肯定と見なしますよ?」

 

 耳に痛いっていうのは、まさに今の事を言うんだと思う。

 映姫さんの言葉は私の行いを痛烈に批判していて、それでいて、とっても分かりやすく頭に入ってくる。

 だって、本当は気付いていたから。気付いていない振りをしていただけで、私の中にあったものだから。

 だからでしょう。この先に言われるべき言葉も、何となく予想できてしまうのは。

 

「では何故、貴女は一人でやる事を選択したのでしょうね? 一人でも十分だと思った? 直前の六課襲撃において、それで失敗しているのに?」

 

「……めて」

 

「一人で出来る事の限界を貴女は知った。そんな貴女が、『迷惑を掛けたくない』なんて理由で周囲の助けを借りなくなる程愚かには見えない。だとすると、原因は他にある」

 

「……めて。……もう止めて!!」

 

 私は耳を押さえてその場にうずくまる。

 この先の事を聞きたくない、その一心で。

 けど、そんな努力は無駄でしかない。

 慌てて耳を塞いだところで、聞こえてくる音を閉め切るなんて出来やしない。

 映姫様の声はしっかり届いてしまうから。

 

 

 

 

「貴女は恐れている。人を頼ること、人を信じる事に。何でも自分一人でやろうとするのはその裏返し。一見親しげに接していても、その裏ではいつも裏切られる事に怯えている。そう、貴女は少々、他人を信じなさ過ぎる」

 

 

 

 

「仕方ないじゃ、ないですか……」

 

 もう駄目だ、おしまいだ。

 感情に引っ張られて、悲鳴混じりの言葉が出てくる。

 今まで我慢してたのが押さえられない。

 

「私だってそれ位分かってるんですよ! でも、仕方ないじゃないですか!?」

 

「……」

 

「怖いか、って? ええそうですよ、怖いですよ!!」

 

 だって、そうでしょう?

 

「いくら好きでも、いくら大切に思っていても、裏切られる時は裏切られるんです!! 好意と信頼はイコールじゃないんです!!」

 

 いつの間にか、私の目には涙が浮かんでいた。

 自分で言ってて悲しくなってくる。けど、ここまで言ってしまったら最後まで止まらない。

 

「だって……、じゃなかったら、そうじゃなかったら……」

 

 

 

 

「ル・ルシエの皆もスキマ妖怪も、私の事を捨てない訳無いじゃないですか!!」

 

 ついに言ってしまった本音、出来る事なら、ずっと隠しておきたかった私の本心。

 ル・ルシエを追放された時、私はそれを受け入れた。皆の事が大好きだったから。

 けど、だからこそ。大好きな皆と一緒にいたいという思う私は確かに存在していて。

 その私はずっと泣いていた。「何で私だけそんな目に遭うの」って。

 ル・ルシエにおける私の危険性。それをいくら理性で納得していても、どうしても消えることの無い私がいた。

 

「幻想郷から追い出されて、ル・ルシエからも追放されて……。もうそんなの嫌なんですよ!!」

 

 ル・ルシエに来る前、幻想郷にいた頃の事は今でも良く分からない。

 けど、たぶん似たような事があったんだと思う。

 私の存在は幻想郷に受け入れられる事は無かった。それが真実なんだから。

 そうして私は一人ぼっちになった。だから、ずっと一人で生きてきた。

 今になって分かる。ゲンヤさんに引き取られた時、何でキャロ・ナカジマにならなかったのか。

 きっと怖かったんだ、そうやって距離を詰めるのが。

 ある程度の距離を保っていないと、裏切られた時に怖いから。

 

「だから、もう良いんです! これ以上生きていても、苦しいだけなんですから!」

 

 今まで我慢していたもの、その全てを私は映姫様にぶつけました。

 お願いです、もう終わらせて欲しい。

 人は一人じゃ生きていけない。けど、私はそれが怖くて仕方が無い。

 こんなのは、もう……。

 

 

 

 

「……。(それが原因ですか。全く、この借りは高くつきますよ)」

 

「……ふぇ?」

 

「いえ、何でも。……キャロ・ル・ルシエ、いえ、八雲桜」

 

「!? ……はい」

 

「貴女の言いたい事は分かりました。今まで苦労してきましたね」

 

「そんな事……」

 

「貴女の境遇には同情の余地があります。そのような経験があるのなら、そう考えてしまうのも仕方のない事なのかもしれません。しかし、あえて言います。『貴女は知るべきだ』と」

 

「何を……」

 

 そう言うと、映姫様は何かを取り出して、私の方へと向けました。

 向けられたのは直径15センチ~20センチ程度の手鏡。

 映姫様が持ってる鏡、つまり―

 

「浄玻璃の鏡……」

 

「おや、知っていましたか。なら話が早いです」

 

 罪人の過去を覗き、罪を暴く手鏡、それが私に向けられる。

 浄玻璃の鏡は一瞬だけ光り、やがて、映像を映し出す。

 

「これは……?」

 

「これを見てどう思うか、それは貴女の自由です。けど、無かった事にする事だけは許しません。それは、今もなお貴女に向けられている思いを否定する事に他ならないのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷の南西部、再思の道を抜けた先に、無縁塚という場所が存在する。

 その名前から分かるように、ここには外の世界で忘れ去られた、つまり、無縁となったものが漂流してくる事がある。

 そして、この場所はその特性上、外との境界が曖昧になりやすい。つまり、結界にほころびが発生しやすい。それ故、結界の管理を役目とする者は定期的にここを見回るようにしている。

 

 だからこそ、この出会いはある意味必然だったといえるのかもしれない。

 今から10年前のある日。全てはここから始まった。

 無縁塚に見回りに来ていた八雲藍が、赤子を拾ったその時から。

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