幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第82話 砕けぬものなど、何も無い

 -ゆりかご外部-

 

『ねえ、はやて』

 

『フェイトちゃん? どないした?』

 

『私、ひょっとしてキャロに嫌われてる?』

 

『いや、それは無いと思うよ。……多分』

 

『ううっ、何でこんな事に……』

 

『まあまあ、そんな気にせんでもええと思うよ。キャロかて別に、フェイトちゃんが嫌いであんな提案した訳やないやろうし。魔力切れなんやししょうがないって』

 

『はやて……』

 

『フェイトちゃんはもう十分に頑張ってくれたやん。後は皆に任せようや』

 

『そうだね。……でも、キャロと一緒に戦いたかったなあ』

 

『そうやねー。それについては私もや。まあコレが片付いたらいくらでも機会あるって』

 

『……うん!』

 

 

 

 

 ―ゆりかご内部 動力炉―

 

 ガン!!! ガン!!!

 

 動力炉のある空間に、衝突音が響き渡る。

 その中心部で、ヴィータは諦める事無く鉄槌を振り続けていた。

 

 ガン!! ガン!!

 

 アイゼンを両手で握りしめ、全力で動力炉に鉄槌を振り下ろす。

 振り下ろした鉄槌は障壁に弾かれるが気にも留めず、再び前以上の力で振り下ろす。

 これでは足りない。まだだ、もっと、もっと強く―

 

「ッ!! おおおおおおおおお!!」

 

 ガン! ガン! ガン! ガン!

 

 連続で叩き込んでみるものの、それも全部弾かれる。

 何度叩き込んでみようとも、障壁が弱まる様子は一切見られない。

 たとえ僅かな損傷が出来たとしても、瞬く間にその綻びは消えてしまっていた。

 

 巨大戦艦を丸々ひとつ動かすのに使う動力炉に、それをエネルギー源として動いている障壁。

 いくらAAAランクといえど魔道師一人対戦艦一隻。蓄積されている魔力の容量は比べるまでもない。スタミナ勝負になった場合、ヴィータの負けは確定している。

 そんな物を相手にするなら方法は一つ。即ち最大の一撃による一撃必殺。

 いくらバケツに汲んでいる水の量が多くても、蛇口から出てくる水の量は決まっている。

 それを上回り蛇口を壊す事ができれば、これ以上水が流れる事はない。

 そんな事はヴィータも重々承知していた。そして、自分ではどうやっても不可能である事も。

 

 ガン! ガン! ガン! ……。

 

 不意に、ずっと障壁を叩き続けていたヴィータの手が止まる。

 ヴィータはアイゼンのサイズを元に戻し、ゆっくりと動力炉から離れていく。

 

「帰るぞ、もう時間が無え」

 

《……》

 

 もうこれ以上ここにいても意味が無い、そう判断したヴィータはゆりかごからの脱出へと方針を変更する。

 外の様子や、途中で別れたなのはの事も気になる。動力炉の破壊が不可能である以上、いつまでも無駄な事をしている暇なんか無い。

 そういった判断を下せる程度には、ヴィータは己の感情を制御出来ていた。

 だが、だからといって今の状況に平気な訳では決して無い。

 自分を信頼して任せてくれた事を遂行できず、おめおめと逃げ帰ってくる。そんな情け無い事、納得出来る訳が無い。

 

「……ちくしょう」

 

 機動六課の副隊長としての自分。ヴォルケンリッターの一員としての自分。

 そのどちらもが今の自分を非難している。

 出来るなら、ずっと動力炉を叩き続けていたい。それが無理なら、生き恥を晒す位なら自害してしまいたいとすら思えてくる。

 けど、そうなると悲しむ人達がいる事をヴィータは承知していた。

 そんな事をしてもはやては決して喜ばない。それどころか悲しませるだけの結果になる。

 だからヴィータは退く事を選んだ。……己のプライドと引き換えに。

 

《……》

 

「……すまねえ。もう大丈夫だ」

 

 未だ自分の中に燻っている感情を整理しながら、ヴィータは来た道を引き返す。

 何も出来なかった不甲斐なさをその胸に抱きながらも、それを表に出すまいというという意地からヴィータは己を律する。

 何も言ってこない相棒が、今だけはありがたかった。

 

「じゃあ行くぞ。……どうした?」

 

《遠方にガジェットと思われる複数の熱源反応あり。こちらに接近中です》

 

 そうアイゼンがアナウンスした数秒後、通路からガジェットが飛び出して来る。

 編成はⅠ型が3機、Ⅲ型が1機の計4機。この程度の数なら、今のヴィータでも敵にはならない。

 もっと言うなら、脱出するだけなら無視してやり過ごしても良い位の数でしかない。

 けど、今のヴィータは少し、いや、かなり気が立っていた。

 

「全部ぶっ潰して突破する。良いな、アイゼン?」

 

《Ja.》

 

 ヴィータはアイゼンを構え、一気に突撃する。

 普段なら牽制用に弾幕でも放つ所だが、今はその程度の魔力も勿体無い。

 それに何よりも、ヴィータ自らガジェットを叩き潰したかった。

 この感情が八つ当たりに過ぎない事はヴィータも理解しているが、それでも今は眼前の敵を叩き潰す事に集中したかった。

 

 最初の突撃で、先頭のⅠ型に風穴を空ける。これでまず1機。

 突撃の反動を利用しながらたまたま一番近くにいた奴めがけて横殴りに叩き込む、これで2機。

 残り2機が距離を取ってレーザを撃ってきたので、障壁を張って受け流しながら再接近して3機目をスクラップに変える。

 これであとⅢ型が1機だけ。そんな時だった。

 

「これで、ラスト……ッ!!」

 

 最後の1機に突進する直前、ヴィータは自分の直感に従い、突撃を止めてアイゼンが警告するよりも先にその場を離脱する。

 その直後、最後のガジェットを中心に爆発が起きた。

 

「自爆、したのか?」

 

《いえ、今の反応は―》 

 

 突然の事に最初は自爆を疑ったヴィータだったが、それにしては爆発の規模が小さい。

 こちらを巻き込むつもりならもっと規模が大きい筈だし、どちらかと言うと撃墜されたようにも見えた。

 

 爆発が収まり、周囲を覆っていた煙が晴れて段々と向こう側が見えるくる。

 向こうに……誰かいる?

 新手? いや、多分違う。それならガジェットを撃墜なんてしない。

 そういえば、さっき離脱する直前に魔力を感じた気がする。

 あの魔力の感じ、あれは―

 

「……む、ヴィータか?」

 

 

 

 

「シグ……ナム? 何でここに?」

 

「お前達の帰りがあまりに遅いんでな」

 

『リインもいるですよー』

 

 そう言って、シグナムは一足飛びにこちらに向けて飛んで来る。

 髪や騎士甲冑の色や魔力を見る感じ、リインもユニゾンして来ているみたいだ。

 シグナムはガジェットの残骸を軽く飛び越えて、私の隣に降り立った。

 

「シグナムがここに居るって事は……なあシグナム、外はどうなったんだ!?」

 

「粗方片付いた。今はテスタロッサ達も合流して、主はやてを中心に残敵を掃討している所だ」

 

「そっか……良かった」

 

「分かったらさっさと帰るぞ。いつまでもこんな所に長いしていても仕方が無い」

 

「分かった……ちょっと待った、シグナム!!」

 

「どうした、高町の事か? だったら心配はいらない。そっちにも別の奴が―」

 

「違げーよ! いや、確かにそっちも心配だったけど、そっちじゃなくて―」

 

 外の様子を聞けて少しだけ安心できたけど、シグナムが脱出すると言った辺りで意識がそっちに向いた。

 シグナムが来たって事は―

 

「頼みがあるんだ。……私の代わりに、動力炉をぶっ壊して欲しい」

 

「……内部の様子からもしやとは思っていたが……。やはりそうだったか」

 

「情けねー事言ってるのは百も承知だ。それでも……頼む」

 

『ヴィータちゃん……』

 

 私じゃ無理だった。

 本当ならこんなシグナムに押し付けるような真似はしたくないけど、そんな事を言っている場合じゃない。

 私のプライドとどっちが大切かって言われたら、そんなの決まっている。

 

 それを聞いたシグナムは、私を見て少しだけ考える素振りを見せて―

 

「だが断る」

 

「……は?」

 

 え? 今こいつ何て言った?

 私、耳がおかしくなったのか?

 

「シグナム、もう一度聞くぞ。頼まれてくれねーか?」

 

「断ると言っただろ? 聞こえなかったか?」

 

 うん、どうやら幻聴じゃなかったみてーだ。

 

「本気で言ってるのか? 動力炉そのまんまにしておいたらやべーって事くらい、シグナムだって分かってるだろ?」

 

「だったらどうした?」

 

「ちょ、お前!!」

 

「私はお前を迎えに来ただけだ。後の事は知らん」

 

「ふざけ―」

 

「大体、それはお前の任務だろ?」

 

「ッ!!」

 

「お前の事だ、自分で何とかするんだな。私は手伝わんぞ」

 

「私じゃ無理なんだよ!! だからこうして頼んでるんじゃねーか!!」

 

 あまりにも物分りの悪いシグナムに、思わず声を荒げて答えてしまう。

 でも口から出てきたのは、自分で言ってて情けなくなるような言葉だった。

 

「私じゃアレは壊せなかった! そりゃ私だって、お前の言う通り出来ればどれだけ良いか! でも無理なんだよ! 足りないんだよ! 力が!」

 

 私自身、これで良いなんてこれっぽっちも思っちゃいない。

 でも、そうするしか―

 

「……やれやれ、人の話はちゃんと聞くんだな」

 

「お前に言われたくねーよ、この分からず屋!」

 

「もう一度言うぞ。『やるんなら自分でやれ、私は手伝わん』」

 

「だから! ……ッ!」

 

 同じ返答を繰り返すシグナムに喰ってかかろうとした所で、何かが引っかかった気がして途中で止める。

 ……そうだ、シグナムだって今の状況は分かっている筈。

 なのにこんな事を言うのはどう考えたって不自然だ。

 だとしたら、シグナムは一体何を言いたい?

 

 ―やるんなら自分でやれ、私は手伝わん―

 

 ―自分でやれ、私は手伝わん―

 

 ―私は手伝わん―

 

 ―「私は」手伝わん―

 

 ……そういう事か!!

 

「シグナム」

 

「どうした?」

 

「ちょっと待っててくれ。ひとっ走りしてきて動力炉ぶっ潰してくる」

 

「……ほう。だがどうやってだ? お前じゃ無理じゃなかったのか?」

 

 シグナムの顔を見ると、うっすらと笑顔を浮かべている。

 ……やっぱりそういう事かよ。ったく、回りくどいっての!

 

「ああ、そうだな。確かに私だけじゃ無理だ。だから―」

 

 なら、今から私がする事も想定内って事だよな?

 だったら、遠慮無く―

 

「シグナム、お前カートリッジいくつ持ってる?」

 

「あと20発といった所だな。ほら、遠慮無く持っていけ」

 

 ぽん、と投げ渡されたそれを受け取って、私はアイゼンにそれを可能な限り詰めていく。

 これでカートリッジは良し! なら、後は―

 

「おい、リイン」

 

『はい、何ですか?』

 

「お前はどうする? 「シグナムは」ここで待つって言ってるけど」

 

『え? えーっと……! はいはい! リインはヴィータちゃんに付いて行くです!!』

 

 私の言葉に、最初は話に付いてこれてなかったリインもようやく理解が追いついたのか、シグナムとのユニゾンを解除して私の方へ飛んで来る。

 ……というか、リインも分かってなかったんだな。

 似たり寄ったりの私が言う事じゃねーけど。

 

「じゃあ、ちょっと行って来る」

 

「ああ、早く済ませて来い」

 

「……シグナム」

 

「何だ?」

 

「見せ場譲りすごいですね」

 

「……それほどでもない」

 

 

 

 

「さて、と。じゃあ、始めるか」

 

 私の目の前にあるのは、今もなお動き続けているゆりかごの動力炉。

 何度叩いても叩いても決して揺るがなかった強固な障壁。

 さっきまでの私には、それは決して越えられない壁に見えていた。

 けど、今は違う!!

 

「リイン、ユニゾン行くぞ!!」

 

「はいです!!」

 

「「ユニゾン・イン!!」」

 

 リインとユニゾンした事で、私の騎士甲冑が赤から白に、髪の毛も白っぽい色に変化する。

 それと一緒に、リインの魔力が私の魔力に上乗せされた事が、感覚で伝わって来る。

 でも、これだけじゃまだ足りない!

 

「アイゼン、カートリッジ全弾ロード! 限界ギリギリまでつぎ込め!」

 

《Jahowl.》

 

 シグナムから貰ったカートリッジを一気にロードする。

 カートリッジから開放された魔力が込められ、アイゼンの形態が変化する。

 ギガントフォルムのさらにその先。

 サイズはギガントフォルムのままで、先端に突起、後ろには噴射口が付き、より攻撃的な形態に変化する。

 これが正真正銘の私の切り札、ツェアシュテーレングスフォルム!!

 

「まだだ。まだ足りねえ!! アイゼン、もう1ダースだ!!」

 

『ちょ、ヴィータちゃん、魔力込めすぎです! このままじゃアイゼンが保たないですよー!!』

 

「泣き言言ってんじゃねえ! その辺の調整何とかすんのがお前の仕事だろ!」

 

『無理ですー!! アイゼンからも何とか言ってやってください!』

 

《倍プッシュで》

 

『うわーん!!』

 

 負担を掛けてるのは分かってる。

 けど、だからと言って変に力をセーブしてしまって、それで出来ませんでした、じゃ話にならねえ。

 アイゼンもそれが分かっているからこそ、自らの事を省みずに危ない橋を渡ってくれている。

 恥ずかしいから口にはしないけど、本当、私には過ぎた相棒だ。

 リインが泣き言を言ってるけどあえて無視する。

 こんな事言ってても、リインはやる時はやるって信じてるからな。

 

 ガショッ! とデバイスの機構が作動する度、カートリッジから魔力が足される。

 まだだ、あと少し、もう少し!

 

「3……、2……、1……0!」

 

『もう本当に、正真正銘の限界ですー!! これ以上はアイゼンが自壊しちゃいますー!!』

 

「分かってる!! ……っしゃ、行くぞ、リイン、アイゼン!!」

 

『は、はい!』

 

《Jahowl.》

 

 私の何倍も大きくなったアイゼンを構えて、私は動力炉を睨みつける。

 さっきまではどうやっても破壊する事ができなかった、全力を出す事すら許されなかった絶対的な壁。

 でも、今の私にはカートリッジがある。

 それに何より、リインとアイゼンがいてくれている。

 だったら、恐れる事は無い!!

 

「これが私の……いや―」

 

「「私達の全力全開!! ツェアシュテーレングス・ハンマー!!」」

 

 かけ声とともに、私達はアイゼンを振り下ろす。

 動力炉に到達する直前、障壁が出現してそれを受け止める。

 けど―

 

「紅の鉄騎ヴィータと、鉄の伯爵、グラーフアイゼンに!」

 

『祝福の風、リインフォースⅡ!!』

 

「「私達の全力で―」」

 

「「砕けぬものなど、何もねえ(ないです)!!」」

 

 アイゼンの後部の噴射口が、私とリインの分の魔力を受けて更に加速する。

 少しでも間違えればアイゼンが自壊してしまうような状況で、でもそうならなかったのはリインが細かい魔力を制御してくれているから。

 その事に感謝しつつ、私はアイゼンを持つ手に更に力を込める。

 

「おおおおおおおお!! ぶち抜けえええええええええ!!」

 

 魔力制御はリインに任せ、私は全力で力を込める。

 時間にして、それは一秒も無かったと思う。

 けど、ひたすら集中していた私には、とても長い時間だった。

 でも、永遠なんて物は無い。どんな物にも終わりは来る。

 

 

 

 

 ぱきっ、という音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 それが障壁に皹が入った音だと気付いたのは、全部終わってからだった。

 

 

 

 

 ふと気付いた時には、私はアイゼンを戻して浮いていた。

 

「―です!! やったですよ、ヴィータちゃん!!」

 

 隣では、リインがはしゃぎながら飛び回っている。

 いつの間にかユニゾンを解除したみたいだ。

 けど、悪いけど今の私はそっちに構っている余裕が無い。

 だって、今の私はリイン以上に、内心嬉しさで一杯だから。

 ああ、そっか。私、出来たんだ。

 

「……うふふふふ」 

 

「……ヴィータちゃん?」

 

「いよっしゃあああああああああ!! 見たか、これが私達、機動六課の力だ!!」

 

「ヴィ、ヴィータちゃんが壊れたー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 人が喜んでいる所に水を差したリインは、後でおやつ抜きにしてやる。

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