贅沢は言わない せめて普通の生活を    作:暁魔

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第一章
装填


目に映る景色を彩る花々、様々な思いを胸に忙しない日常を送る人々。それを暖かく包み込む春の陽気。これらのことから思い浮かべるのは今までの自分を変えてくれる素敵な出会いであったり。恩師や友人、一人暮らしを始めるなら家族とのちょっぴり寂しい別れなどであろう。

 

 

 

普通なら

 

 

この時、俺こと望月 雄斗は知らなかった。

この春を境に今までの自分どころかこれからの人生まで変えてしまう出会いに。今は懐かしい、いつまでも続くと思っていた『普通の生活』に別れを告げることを………

 

■■■

 

 

『春眠暁を覚えず』と言う言葉を知っているだろうか。

このことわざは『春の夜はまことに眠り心地がいいので、朝が来たことにも気付かず、つい寝過ごしてしまう。』と意味なのだがまさしくその通りである。

見事に寝坊し、最後のバスに乗り遅れた俺は急いで最低限の身だしなみを整えマンションの階段を駆け降りる。

「始業式からあいつらに目を付けられるなんて絶対にごめんだ」

思い浮かぶのは学科を選ぶ際噂に耳にした、片手で扱ってはいけない威力のハンドガンを生徒に乱射する強襲科の蘭豹。一度尋問を受けるとどんな犯罪者も名前を聞くだけで震えが止まらなくなるほどのトラウマを植え付ける拷問科の綴などの人外と呼ばれる教師だ。

 

「とにかく言い訳を考えないとな…」

無駄とはわかっていても言い訳になりそうなものを必死に頭から絞り出そうとするが、寝起きの頭で良い案が考えつくはずもなく途方に暮れていると裏路地から銃が光を反射するときに発する特有の黒光りが目に入り、警戒しながら近づいてみるとサブマシンガンとスピーカーが取り付けられるように改造された犯罪臭のするセグウェイが設置されていた。

 

「これは武偵としての義務だ!けして遅刻をごまかすためにじゃない!」

そう自分に言い聞かせると同時にマンションの自室に戻り装備科である自分の仕事道具の中でも一番切れ味の良い平賀印の電動カッターと暴発した時のための防護服を持ち出しセグウェイのあった場所まで急ぐ。

 

「さて、どうしたものか…」

防護服は一人で着るに難しく、着るというより被るの表現が正しいような気がするがそんな些細ことは問題ではない。それよりも目の前のセグウェイの解体の仕方がわからないのが一番の問題で、とりあえず動いた瞬間に鉄の雨を食らうことを避けるため電動カッターを使って銃器の切除から始めた。

そして2分後、何回か暴発させながら不格好ではあるがただの乗り物として扱える状態にはなり安堵のため息をこぼす。

 

「終わった…これは警察に引き渡すんだよな…やっぱり黙っておこうかな…」

 

天使『これは犯罪者のものです。だから証拠品を回収しただけです』

 

悪魔『お前、人外に殺されるぞ』

 

天使の囁きに毒されそうになったが、悪魔の言葉で目が覚め私物にするのは諦めた。ただ、滅多にふれる機会がないものに興味が湧き、カッターを手に持ったまま遊び半分でセグウェイに体を預けたことぐらいは許し……

 

「え……嘘だろ」

 

セグウェイのエンジンは静かに唸りをあげ、状況を把握仕切れていない俺に構うことなく走り出した。

それも右手に電動カッター、全身は防護服に包んだ不審者の状態で。

 

■■■

 

 

電動カッターを持ったまま飛び降りる度胸があるはずもなくセグウェイのなすがまま揺られていると、脇道から荒々しく武装セグウェイ現れ横腹に銃弾を二発程度ぶち込み右側に陣取り並列走行を始めた。

 

「…解体してもいいよな」

右腕をギリギリまで伸ばしてカッターを近づけるが、刃は虚しく空を切るばかりで一向に届く気配がない。

それを見て馬鹿にしたように武装セグウェイがサブマシンガンを左右に動かしたとき、絶対に真っ二つにしてやろうと心に誓った。

 

「ん、あれは武偵校の生徒!助かった…」

 

「その チャリには 爆弾が 仕掛けて ありやがります」

 

「お前もかぁぁぁぁあ!」

スピーカーから発せられる淡々とした喋りの人工音声が告げる犯行声明。

どうやら今日はとんだ厄日らしい。

 

「チャリを 降りやがったり 減速 させやがると チュイイイイイイン ガタン こうなり やがります」

 

「……………」

セグウェイを真っ二つにする目標は達成できたがこれではまるで犯人そのものである。

 

「なっ……何だ!何のイタズラだっ!」

爆弾がついた自転車に乗った武偵校の男子生徒が叫ぶが、それは俺自身も同意見で今すぐにでもどうにかしたい。

 

「ほらそこのバカ!さっさと頭下げなさいよ!」

突然目の前にパラグライダーを足に引っ掛けて滑空してくるピンクツインテールの少女が現れこっちに拳銃らしいものを向けてきた。

それも両手に一丁づつ。

 

「ち、ちょっと待て」

防護服のせいで叫んでも声がこもり、さらに右手に持っている物からの不協和音が邪魔をし俺の悲痛な叫びは届かず。無情にも二つの拳銃が火を噴き、俺の乗っているセグウェイの車輪に命中する。

 

「あの距離で更に足場が不安定の中当てるなんて凄い…じゃなくて!」

現実逃避しているうちにも車輪を壊されバランスを崩したセグウェイは道路に接触した部分から徐々に崩壊していき。絶対にやってはいけない止まり方をしたせいで空中に投げ出された俺はファーストキスを地面に奪われた。

 

「(俺がいったい何したって言うんだよ)」

その問に答える者はなく。カッターが道路を削る耳障りな音が断続的に続く中、近くでプラスチック爆弾の破裂音と共に意識を手放した。

 

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