「超能力って便利だな」
ジャンヌは同じ能力者ではあったが能力は別格といっても過言ではなく、氷の能力を中心に簡易的な治療なども習得済みで、昨日アリアの刀を受けてヒビが入った左腕も綺麗に繋がり難なく動かせる。
『今だ望月。排水管を壊せ』
左耳の通信機からはジャンヌの指示を合図にバルブを全開にしポンプへの電源供給を絶つと制御不能になった水は逆流を始め、側溝から溢れだした海水は一瞬のうちに膝下にまで達した。
ここまでは作戦通りであとは鎖で縛られて動けなくなった星伽が溺れるのを待ち、回収するだけの簡単な仕事で非常用に常備されている酸素ボンベに繋がっているフルフェイスマスクを装着する。
「(今回は余裕だ…)…ん」
違和感に気がついたのは水位が腰まで迫ってきた時だ。
顔全体を覆うマスクに息苦しさを感じた、それはただ使い慣れない器具に馴れていないだけで息苦しいのも最初だけ
そんな淡い希望は全開のバルブから吹き出る酸素の泡の如く消えていった。
「嘘だろ!?」
ジャンヌは上の排水装置を破壊する頃でボンベを無くした今、星伽と同じ…いや、助けに来る仲間が居ない俺の方が窮地に立たされている。加害者なのに…
急いでマスクを脱ぎ捨て、浸水していない場所まで泳ぎ着き濡れた服を能力で乾かしながらコンクリートでできた中心にぽっかりと穴が開いたドーナツ状の螺旋階段を一段飛ばしで駆け上がる。
ズズン
あと少しで地下6階にまで辿り着けるといった所で地下全体に響く重低音と共に本来空気の通り道にするための空洞には大きな滝が現れ、新たに水源を得た水は全てを飲み込まんとする化け物へと変貌した。
幸い足元はまだ侵食されていないため動きが制限されることはないがそれももうほんの少ししか残されていな…
「最悪だ…」
予想していたよりも早く三段と階段を上がらないうちに水の化け物は怒号をあげながら気持ちの整理もできていない俺を飲み込み奈落へと落とした。
「この扉は…
落ちた先は地下7階の開けっぱなしにされた扉の前で、できれば武偵ランクのA以上が揃った人外魔境には踏み入れたくなかったが咄嗟に吸った空気の量で長期間行動ができるはずもなく、見つからないことを祈りながら扉を潜る。
「キンちゃん……もう行って」
「……バカを言うなっ」
残り少なくなった空気を吸うため僅にできた空気の溜まり場に顔をだし息継ぎをしていると、荒波に揉まれなからも話すターゲットの星伽とやたらと縁のある根暗先輩こと遠山の姿が目に留まり、視界に写らないよう警戒しながら距離を数メートル離れた物陰にまで摘める。
「いいの、私は……私が死んでも、きっと誰もなかない…」
「し……白雪!今にアリアが鍵を持ってくる!」
残念ながらジャンヌを仮に倒したとしても鍵は手に入らない。
何故なら鍵は俺の左ポケットにしか入っていないのだから。
「白雪……ああ、チクショウ……俺のせいで……こんなことに………!」
「キン……ちゃんは……悪く、ない……!」
「(頼む遠山。諦めてくれ!)」
もしも遠山が限界まで粘ってしまえば今左手に握っている鍵を使う機会は一生なく……ゴツン…
この時目に写る全てのものがスローモーションに見えた。
壁に反射して荒れる波
星伽と遠山の会話
左手に衝突した木箱
離れていくたったひとつの
「(おい!嘘だろ!?)」
急いで潜水するも一度手から放れた物をこんな荒れた環境で見つけれるはずもなく諦めてくれ浮上しようとした矢先、流されてきた別の木箱が頭部に直撃し再び水中に沈められる。
「(なんで俺こんなに頑張ってたんだろうな…
最初は映画みたいな仕事をするカッコいい武偵に憧れた
ただ先陣切って犯罪者に立ち向かう勇気はない
だから武偵を裏からサポートする装備科に入ったのに
気がつけば犯罪者
俺はどこで間違えたんだ。
どこで普通の生活から外れたんだ
ならいっそここで…)」
ゴン
走馬灯のようなものに身を任せていると気がつけば二人の横顔が見える位置まで流されてきたがどうでも良かった。
全てを諦め目を閉じようとしたが
頭の中をかき回すような痛みが瞼を塞ぐことを許さなかった。
突如抜け落ちていたピースが全て埋まり夾竹桃との一週間分の生活が戻ってきた。
「(なにがキーワード…なるほど)」
目の前には遠山が星伽に呼吸をさせるために唇と唇をあわせていた。
つまり最後のキーワードは《キス》。
これで『イ・ウー』にいる理由はなくなり、新たに…いや再び生きる理由ができた。
「(さて、俺もそろそろ帰る準備するか)」
明らかに雰囲気の変わった遠山に星伽は任せ、酸素を思い切り吸い込んだあとジャンヌからあらかじめ伝えられていた迂回ルートの抜け道を目指す。