「………」
目を開けると先ほど見えていた街の景色とは打って変わり、壁や床が鏡張りの正五角形状の部屋の中心で横になっていた。
『よぉ、ようやくお目覚めか』
音を吸収するものが無いこの部屋では声が木霊のように反響し脳内に直接語りかけられる感覚がする。
『あたしは尋問科の綴や。覚えときぃ[武偵殺し]さんやぁ』
「………は?」
今いるが尋問室なのはまだ良い、尋問官が綴なのは認めたくないが認めるしかないとして。
犯罪者として世間を騒がせ捕まったはずの[武偵殺し]として取り調べを受けている現状に開いた口が塞がらない。
「……ちょっと待って下さいよ!俺は…『遠山の話だとセグウェイと連動して動いていたそうだなぁ』……それは…まぐれですよ」
確かに真っ二つにしよう思った時期はあったが、それはあくまでも過去形であのタイミングには自分の意志はなかった……よな。
「第一俺のセグウェイは遠隔操作されてま『何を白々しいこと言ってんだぁ。あのセグウェイは全自動。そして、お前のだけは手動』
あの挑発的な首振りが人口知能な訳がない、いや認めない!
もしあれが人口知能なら俺は機械に馬鹿にされたことになる。
「だ、だいたい俺がセグウェイを改造した証拠は『お前の部屋から部品が沢山出てきた』………嘘だぁ!」
武偵殺し!用意周到過ぎるだろこんちくしょう!
完全に俺を犯人に仕立てあげてるだろ!
『時間はたっぷりとあるんだ、ゆっくり話を聞かせてもらうよぉ』
ブツン
何だろう、獲物を見つけたようなあの生き生きとした声は。そしてこの生きた心地がしない感じは!
~時は流れて~
「尋問って意外に暇なんだな……」
鏡に写る自分のみの変化がないこの部屋はとにかくやることがなく、寝るにしても異様に明るいこの部屋ではなかな寝付けず。
ただただ時間が消費されていく。
「…………暇だ…」
~さらに時は流れて~
「すいません、尋問の時間まだですか?」
『………………』
とにかくしゃべる以外に気を紛らわす手段がないことを悟り、尋問官の綴に話しかけるが返ってくるのはノイズのみ。
忘れられているのでは無いかと不安になるが、そんなはずはないと自分に言い聞かせる。
「すいません!!尋問の時間まだですか!」
~さらに(以下略)~
「お願いします……話を……話を聞いてください……」
『ようやく話す気になったかぁ』
恐怖の対象だった綴の声も今では心地よく感じる。
「本当に何も知ら… ブツン …露骨に会話をやめるな!」
~略~
「”></[{「=≅=>±×+⇦⇄[}}[├┬┘┐┬」
『チッ、なかなか吐かないねぇ』
『…大切なものを色々吐き出してる気もしますけど…とりあえず今日の尋問は終了です』
■■■
「ヒツジガイッピキ、ヒツジガニヒキ、ヒツジガサンビキ…」
尋問部屋から学校内の仮設の牢屋へと移動はさせられたが、未だにあの部屋の恐怖から抜け出せず。
ベッドの上で眠るのに最適な呪文を唱える姿は怪談そのものである。
「早く出てきなぁ」
呻くような金属音をだしながら鉄格子の扉はゆっくりと開いていき、檻に入ってきた死神が死刑宣告が言い渡す。
「お、俺は何も知らない!」
「安心しろ。あれはただの声マネだ」
綴じゃないとわかった今することはただひとつ。
この数時間で溜まったストレスをのせた拳でお礼参りをすることだ。
スカ(全力の空振り
↓
ドス(投げ技のカウンター
「尋問はもう受けたくないだろ。俺が逃がしてやるよ」
「ここから出れるのか!?」
「着いてこい」
仰向けの俺に手を貸す来訪者をちょうど部屋に差差し込んできた月明かりが照らし出し、曖昧にしかみえなかった来訪者をはっきり写し出す。
鏡からでてきたのかと錯覚するほど自身と瓜二つの姿を、そして声のトーンやしゃべり方ですら同じだと気付く。
「早くしろ」
「…あ、はい」
自分に急かされるという分身芸みたいな貴重な体験に理解が追い付くはずもなく、力ない空返事が今の精一杯だった。
「でも武偵になったばっかなのに俺も不幸だよな」
いくら武偵が突然事件に巻き込まれやすくても一年の始業式から冤罪で捕まり、尋問され、さらに脱獄するはめに……脱獄…
「今犯罪者じゃん!」
「おめでとう!初犯が脱獄なんて珍しい犯罪歴だよ!」
「嬉しくねぇよ!だいたいお前も共犯だろ」
「だって俺は元々犯罪者だし。今頃こんな些細な犯罪なんて気にしない!」
鍵なしで鉄格子が開けれたり、逃走ルートの確保がやけに手慣れているわけだ。
「おっと自己紹介がまだだったな。俺が『武偵殺し』だ」
「…元凶は…お前かぁぁぁあ!」
「大丈夫だよ…責任とって匿ってやるから」
鳩尾に拳をねじ込まれ、法外な威力のスタンガンを必要以上に浴びせられた。
そして、この行為が[匿う]より[誘拐]の方が正しい表現だと思ったのは俺だけじゃないと信じたい。