贅沢は言わない せめて普通の生活を    作:暁魔

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2弾

鼻を刺すような科学薬品。これが最初に感じた感覚。

次に少しずつ意識が覚醒していくにつれ強制シャットダウン時の痛みや痺れが軽い違和感として体にまとわりつく。

最後に視覚、科学薬品の臭いで目を覚ました時から期待はしていなかったが生活感を捨て、研究を第一とした部屋。

警戒するほどの相手とじゃないとらしく拘束の類いは一切なく、座らされて椅子から立ち上がり散策を始める。

 

「あら、ずいぶん遅い起床ね」

 

「…お前が『武偵殺し』か?」

 

「違うわ。私は夾竹桃よ」

大きな背もたれが付いた椅子が180度回転し、そこから現れたのはセーラー服を来た子供ガハ

 

「私は大人よ」

そう言って持っていた金属製の煙管で頬を殴った。

それもフルスイングで。

 

「シツレシシイシバシタ」(失礼しました)

見た目に反し年上らしく、煙管なんて古めかしいものを好む俗に言うロリババハ

 

「24。それ以上でもそれ以下でもないわ」

煙管に入っているまだ少し赤く光る目の荒い灰を右手の甲にのせられ、煙管の先端でグリグリと刷り込む昔ながらの根性焼きはとてつもなく痛い。

 

「それで何でここに『武偵殺し』がいない」

「忙しいからよ。だから私が代わり貴方を世話するのよ」

薬品や実験器具、資料の山で埋め尽くされたこの生活感の無い部屋を見せられては苦笑いで返すしかない。

 

「……なに」

 

「……いや……こんな堕ラグ!」

文脈から次に続く言葉を理解したらしく、吹き矢の針が首筋に命中し、立っていることすら苦痛に感じる激痛が全身に広がる。

 

「神経系の猛毒よ。それでしばらく黙ってなさい」

物に軽く触れる程度の刺激で雷に撃たれたかのような痛みが走る毒は、けして人を黙らせるために使うものではない。

 

「私は従順な飼い犬が欲しいの。だから今すぐ従順な飼い犬になるか、ここで苦しみながら息絶えるか選びなさい」

床で痛みに呻き苦しんでいる俺の腕を最低限の力で抑え、血管がある位置を見定めると医者も患者も真っ青なスピードで注射針を差し込み。中に入っていた液体を流し込んできた。

 

「解毒剤よ。ただし30秒後蓄積された痛みでショック死するわ」

解答に与えられた時間はとても短い時間ではあるがこの選択で全てが決まる。

 

「…………俺は武偵だ…」

 

「そう、残念……」

夾竹桃が寂しげな表情で顔を覗き込んできたような気がしたが、瞬きをした頃には最初と同じ澄まし顔に戻っていた。

期限の30秒が過ぎるのと同時に解毒剤で抑えていた激痛が息を吹き返し。再び毒に蝕まれ意識が遠退く。

 

■■■

天国にしては光は青く濁り薄暗く。地獄にしては凍てつくような気温が不自然で。そして何よりここは身動きがとれないほど狭い。

もしも、この光がブルーシートを透過して見せる色で、凍てつくような寒さがドライアイスで、身動きが取れない理由狭いところに押し込められてたとしたら……

 

 

 

 

………今の俺、遺棄される寸前?

 

 

「死んでたまるか!」

 

ビニールシートに包まれ蚕状になった体を一心不乱に動かすと、ペリとテープが剥がれる音と同時に拘束が緩くなり、繭を破るようにブルーシートから這い出る。

予想通り俺はドライアイス入りの一人用の浴槽に詰められていた。

 

「ッ!?……本当にあなた人間?」

見回りに来た夾竹桃は目が合った瞬間、顔を青くし目を反らし鏡を指差した。

……そこには目や血管は真っ黒に染まり、肌は生気を感じない青白の自分がいた。

これは目も反らしたくなる。

 

「次は確実に仕留めるわ…」

スモークを炊いたのは直視したくないからなのかも知れないが。まともに戦って勝てないこっちにとってはむしろ好都合で、夾竹桃を突き飛ばす勢いで唯一の出口に突進を始める。

 

 

 

だが、いくら前に進んでも白煙は消えず、壁にすら当たらない。

不審に思ったが、何故か自分の意に反して体は走り続け。白煙が晴れたころには、夾竹桃が円柱状の無針注射器を左胸に押し付けていた。

 

「最期の夢はどうだったかしら」

 

「趣味が悪い」

 

「…そう」

 

プシュ

 

空気が圧縮され、注射器の中身は左胸の奥、つまり心臓に直接注がれた。

 

「それは筋弛緩剤。直に心不全で死ぬわ」

人間は死を自覚すると走馬灯と呼ばれるものを見ると呼ばれるが、この数日で走馬灯は見飽きるほど沢山見てきた。

楽しかったこと。嬉しかったこと。悲しかったこと。

ただひとつ心残りがあるとしたら

 

 

 

 

 

 

彼女が欲しかった……

 

 

 

 

 

人間は死を自覚すると走馬灯と呼ばれるものを見ると呼ば………あれ?二週目突入したぞ…

 

 

「そんなはずは無いわ!」

同じ物を取り出し心臓のある左胸に無針注射を打った。

 

バタン

 

俺ではなく自分自身に。

 

「……………」

頭の中は真っ白である。

死ぬと思ったら一向に死なないゾンビ状態の俺。

同じ薬で瀕死状態の犯罪者。

この場を冷静に対処できる人がいるなら変わって欲しいぐらいだ。

 

「と、とにかく脈の確認…」

手首を触ると夾竹桃の全身に文字がびっしりと現れたが緊急時のため考えている暇はなく次の行動に移る。

 

「心臓マッサージと人工呼吸……これぐらいは許せよ」

眠っている見た目少女の唇を奪うのは犯罪臭しかしなく理性が赤信号を灯す。

 

「俺はロリコンじゃない!夾竹桃は年上!俺はロリコンじゃない!よし!大丈夫!」

本人に聞かれたら十中八九…これ以上は考えるのは止めよう…

暗示をかけ終え人口呼吸を開始すると、脈を確認した時に現れた文字が肌に吸い込まれるように溶けるように消える。

 

「頼むから帰って来いよ!」

必死の心臓マッサージのおかげで徐々に正常な音をたてて心臓が活動を再開させる。

 

「さて、夾竹桃。お前を逮ほ……「一人にしないで」…できるわけ無いだろ…」

寝言でもこんなことを言われてしまえば色々と考えさせられる。

それに成り行きはどうであれ脱獄した俺に変える場所が無いことを改めてこの先の宛が無いことに気がつく。

 

「……とにかく運ぶか…」

まずはスースーと寝息をたてている夾竹桃をベッドへと運ぶことにした。

 

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